22話 帝国茶会
「申し訳なかった」
裁判の継続は困難と判断され、俺は留置所に戻されたのだが、俺は今留置所の入口でジャンヌに頭を下げて謝罪されていた。
「まさか、あれ程度の映像に騙されるとわな…我々もまだまだという訳だ……」
帽子を被り直しながら、自分達の未熟さに溜息を吐いている。
「…しかし、我々に喧嘩を売るような真似をするとは…いい度胸だ…」
先程まで自分達の未熟さに落ち込んでいたジャンヌだったが、今度は俺を嵌めた上に皇帝直属軍団に喧嘩を売った相手に対し、怒りが湧いてきたようだ。
帝国は敵に回したくないな…
ジャンヌの恐ろしい顔を見て、俺は帝国を敵に回さないよう心に誓った。
「まぁ何がともあれ、我々は貴殿への訴訟を取り下げ、そして損害賠償を支払おう」
申し訳なさそうにジャンヌはそう言い、それを聞いた俺はある提案をした。
「賠償金はいらないからさ、俺の帝国での地位を保証して欲しいんだけど…」
当分は帝国を中心に活動するため、ある程度の地位が欲しい俺は、ジャンヌに賠償金の代わりに地位を保証して欲しいと頼んだ。
ジャンヌは少し考えたあとパチンっと指を鳴らし、
「よかろう、では帝国が運営している冒険者組合での地位を約束しよう!」
俺の提案を承諾してくれた。
そしてジャンヌの部下が何かの書類を持ってきて、俺に渡してきた。
「それを受付に見せるがいい、そうすれば冒険者組合で冒険者証明券が貰えるはずだ。冒険者証明券があれば、ランクによっては高ランク、高報酬の依頼を受けることが出来る他、店などで優先されやすいというメリットがあるぞ!」
「なるほど」
ジャンヌの説明を聞く限り、帝国に居る間は冒険者証明券を持っておくほうが良さそうだ。
「さてと、そろそろ行くとするか」
返してもらった大鎌を背負い直し、留置所を後にしようとした。
「また何かあったら我々を頼ってくれ!」
「そうさせてもらうよ」
軽い別れの挨拶をジャンヌと済ませ、俺は坂口さんが待っている宿へと向かった。
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ラムトを見送った後、ジャンヌは少数の部下を連れ、小走りでセントウルの中央に聳え立つ摩天楼、 天穹城へと向かう。
「待たせたな!」
天穹城につくなり、城内を走ってジャンヌが向かった先は城内にある中庭。
本日、その中庭にて月1に開かれる茶会があるのだ。
茶会に参加するのは帝国の最高幹部である三軍団長、そして帝国を治める皇帝の4 名のみ。
茶会の目的は情報交換というのもあるのだが、1番の目的は全員の息抜きである。そのため茶会が始まってからは緊急時以外は連絡を入れてはいけない、という規則が決められているほどだ。
「遅い、5分も遅刻だよ?そんなんで皇帝直属軍団の軍団長務まると思ってるの?」
遅れてやってきたジャンヌに、軍服を来た低身長の美少女がねちねちと愚痴を言う。
少女は帝国重機軍団の軍団長クララ・バムラートン。三軍団長の紅一点と呼ばれており、身長の際で甘く見られがちだが、軍団長としての実力は本物で、指揮官が不可欠な帝国重機軍団にとって、クララは必要不可欠な存在となっている。
「前回の茶会で"10分"も遅刻してきたチビは何処の誰だったか…」
「誰がチビよ!デカブツ!!」
クララからの煽りに、ジャンヌは負けじと煽り返す。この2人の喧嘩はもう茶会の名物の1つとなってしまっている。
「まーた始まった…」
紅茶を飲みながら、2人の喧嘩に呆れ返っている大柄な男は、帝国魔導軍団の軍団長杉坂 天満。その名の通り別世界から突如としてやってきた異世界人で、皇帝と1番付き合いが長い者の1人である。
「むっ?陛下はまだ来ていらっしゃないのか?」
「ああ、急用が入ったんだってよ…もう少しでくるんじゃないか?」
「そうか…」
「いひゃい、離して!!」
クララの頬を引っ張っていたジャンヌは、皇帝が来ていないことに気づき、天満からまだ来ていないことを聞くと、少し寂しそうな表情を浮かべた。
「ごめ〜ん!思ったより長引いちゃった…」
そう言いながら3人の元にやってきたのは、天満同様異世界人で軍事帝国ラーテスを治める皇帝でもある神河 昴だった。
「ようやく来たか……」
「陛下ーー!ジャンヌが私を虐めるーーー!!」
昴がやってきたのを見て、天満はため息を吐きながら紅茶が入ったカップを置き、ジャンヌに虐められていたクララは昴に泣きついた。
「ジャンヌ、程々にね?」
「……はっ」
泣きついてきたクララを引き剥がしながら、昴はジャンヌに軽く注意した。
昴に注意され、ジャンヌは悔しそうな表情を浮かべ、一方のクララはドヤ顔をジャンヌに見せつけていた。
「……んで、今回重要な報告があるんじゃねぇか?ジャンヌ」
「あ、ああ…そうだった」
2人がまた喧嘩すると察した天満は、2人が喧嘩を始める前にジャンヌに聞いた。
「…最近、王都セントウルを中心に不穏な噂が流れていてな……そんな中、誤認逮捕事件が起きた…」
「プ〜クスクス、軍団長が誤認逮捕したとか〜…ありえなくなっ…グフッ!」
「少し黙っとけ」
ジャンヌを嘲笑おうとしたクララだったが、天満からゲンコツをくらった上に怒られたため、ジャンヌを嘲笑うことを辞めた。
「…天満」
「ああ」
昴は少し考え事をしながら、天満の名前を呼び、昴が何をして欲しいか察した天満は、自分達の会話が他の者達に聴こえないようにする魔法、完全妨害区域という空間魔法の1つを発動した。
「ジャンヌが言う噂は報告書で僕も確認したよ…確か、帝国が戦争の準備を始めているという内容だったよね?」
「ええ、その通りです。そして私が諜報部に調べさせた結果、どうやら旧貴族達がその噂を流し、傭兵を集めているようです」
調査結果を伝えながら、ジャンヌは旧貴族達の行動に呆れたように溜息を付いた。
数十年前、軍事帝国ラーテスは独裁国家ディエンターという名だった。独裁国家ディエンターは異世界の科学力と魔法により栄えていたが、ディエンターの皇帝は絶対王政を行っており、それにより市民は勿論、皇帝に気に入らなければ貴族でも皇帝の庇護を受けることができなかった。その結果、独裁国家ディエンターの上層部は腐りに腐っていた。
そんな中、この世界にやってきた昴はディエンターの上層部の横暴に激怒し、帝国への反旗を翻した。のちに帝国革命と呼ばれるようになる、軍事帝国ラーテスが最初に行った偉業だった。
革命は成功し、独裁国家ディエンターの王族は全て追放。貴族は昴達を支援した者達を除き、権利を全て剥奪した。そうした経緯があり、軍事帝国ラーテスでは、政治に関する権利を全て剥奪し、武力を無効化させた貴族のことを旧貴族と呼んでいるのだ。
「だからよ、旧貴族もさっさと追放する方がよかったんじゃねぇか?」
天満は旧貴族も前王族同様追放する方が良いのでは?っと思っていたため、昴に質問した。
「追放もよかったかとしれないけど…追放した際雲隠れでもされたら、僕達は報復をずっと警戒しなければならないようになる可能性があったんだよ…だから参政権の剥奪と武力の無効化をする代わり、旧貴族の領地はそのままにするのが1番良かったんだ」
茶菓子に手を伸ばしながら昴は天満の疑問に答えた。
昴が皇帝の座に着いた当時、魔王軍が各地で脅威を奮っており、もし王族と共に旧貴族の者達を追放し報復として武力を集められた場合、帝国は魔王軍と前王族軍との二面戦争になる可能性があったのだ。
それを避けるために、昴は王族だけを追放し、旧貴族達には参政権の剥奪と武力の無効化だけにしたのだ。
「…………それじゃあ、ジャンヌは治安の維持と調査を引き続きお願い、天満とクララは旧貴族達が軍事行動を起こした時、いつでも対処できるように軍団の再編成をお願い」
「「「はっ!!!」」」
旧貴族達の不穏な動きに対処するための命令を出し、3人からの返事を聞いた昴は
「さてさて、報告事もなさそうだし…久々の茶会と行こうか!」
と言って肩の力を抜いた。
重要な報告が終わった昴は、帝国革命を起こす前から支えてくれている仲間達との茶会を楽しんだ。
途中、ジャンヌとクララが喧嘩を始めたが、いつも通り天満による鉄拳制裁が下ったため、事なきを得た。




