金色 VS 日輪
遅くなって申し訳ありません。
黒い大地の上、恥じる老人に、《堕星覇王》を纏うクロアは冷めた眼差しを向けた。
それを近くで観ていた半透明な白夜は肌がヒリつくのを感じた。
殺気立つクロアに恐怖を覚えつつも、「この後どうなるんだろう」と僕は二人の成り行きを注視する。
「……若い連中を止めれなかった愚かな老兵のう……白々しいジジイじゃ。貴様、初めから平原に居たじゃろう」
「カッカッカッ、流石は魔王さんじゃ! 怒り狂っても良く周りを見とる。顔だけじゃなく頭まで切れるとはとんでもない坊主じゃ!」
感心する老人の褒め言葉に、ピキッとクロアの額に青筋を浮かぶ。
老人はクロアに対して盛大な勘違いをしている。
確かに、彼女の中性的な美貌と凹凸がほとんどないぺったんこな鎧姿を見れば誰だって勘違いするだろう。
しかし、時と場合を選ぶべきだ。
今のクロアにとってその発言は挑発以外の何者でもない。現に、
ぷるぷると震えて俯くクロアは怒気のこもった声で――
「……ようわ貴様もペインの仲間という訳でじゃのう……うん? どうした《傲慢》――」
すると、そこに《堕星覇王》の胸甲に填まる黒い宝石がクロアに訴えるようにピカピカと輝く。
どう説明すれば良いか、と老人は困った表情で、
「別に儂個人はあの男の仲間ではないんじゃが………」
頬をポリポリと掻いて老人が否定する前に、クロアが「……そうか」と重く低い声で呟く。するとクロアの足元が凍りつき、両腕の籠手から紅い焔が吹き出る。
そしてクロアは顔を上げ、目を丸くする老人が持つ白い宝石が付いた長槍に射貫くような視線を送った。
「……貴様が持つその槍が鍵か……つまり、お前があの御方かぁぁぁぁぁ!!」
「なっ!? まっ――」
タンッとクロアは踏み込み、老人に灼熱を纏った右フックが襲う。
老人はそれを長槍で受け流しつつ、飛び退く。
そこにクロアは左斜めから鋭い蹴りを放つ。同時に脚甲が高速で振動し始め――
「逃がさんのじゃッ!」
「待ったんかい坊主!? 誤解じゃ儂はあの御方という奴じゃないぞッ!」
ギギギギギギギギッ! と蹴りを受け止めた槍柄から、金属を削るような音を鳴らし火花を散らす。
せり合う老人はそんなクロアを強引に押し返して、後ろに飛び距離を保とうとする。しかし、それをクロアが許すはずもなく追撃する。
《堕星覇王》で飛翔する彼女はその優位性を利用し、赤熱の左正拳から右鉤突き、超振動の回し蹴りからの踵落とし。その後もアクロバティックな攻撃を繰り出す。
「コラっ攻撃をやめぃ!? まずは話を! 最後まできっ――かんか……!!」
対して、老人は柳の如くひょいひょいとかわし、または手に持つ長槍で受け流し続けた。
激しく繰り広げられる二人の攻防。徐々に速度を増し目で捉えるのも困難になる。まさに達人級の攻防だ。
「ええい! このままでは埒が明かんのじゃ!」
「だったら坊主! 儂の話を聞かんかっ!」
「……このジジイ、また我を坊主と……!」
そんな攻防戦の中、クロアの禁句を繰り返し破る老人に僕は戦慄を覚える。
絶対に許さん、と目をつり上げるクロアは《堕星覇王》の黒い光の翼がバサッと羽ばたき、距離を取った。
そして、クロアは右腕の籠手を空に向かって掲げる。すると、両籠手から灼熱の焔が消え、その代わりに手のひらに燃え盛る巨大な炎の玉を作り出した。
「……ご託はあの世で言えジジイ。そ・れ・と我は女子じゃぁぁぁ!!」
そう叫ぶクロアは真っ赤な炎の玉を振りかぶって投げた。
迫り来る炎の剛球を老人は、「こりゃいかん!」と長槍を風車のように回し受け止め、そのまま炎は回転する槍に吸収されながら消えていく。
「チッ、これも防いだか、ならば《第一天翼》! 覇者の威光に平伏せろ」
舌打ちをするクロアは《堕星覇王》の十二枚の黒い光の翼を広げた。
次の瞬間――
「『北天の玉座から見下ろす天球』!」
クロアを中心に闇色の半球が広がる。内部では凄絶な圧力が掛かり、押し潰すように地面を陥没させていく。
それは、先程まで兵士達を這い蹲らせた現象の何十倍もの威力を秘めていた。
「こりゃたまらんわい! 月夢の女王よ、我に不死の加護を貸し与えたまえ! ――『不死の衣を羽織りし夢魔の女王』」
押し寄せる闇色の壁に対し、老人はそう唱えると月光色の着物から美しい紋様が浮かび。老人を包むように月の光に似たベールを出現させる。
どうやら、あの老人が着ていた着物は魔導具だったらしい。
使用した障壁系の魔導技を見て僕はそう推測した。
そして、その月光のベールが迫りくる闇色の壁から老人を守り、沈んだ地面からそこだけ突きだしていた。
「ふぅ~やれやれじゃ。お~い魔王のぼ、じゃなく娘さんやい、人の話しを――」
安堵する老人が視線を向ける。だが、その先にクロアは居なく、代わりに空から、
「トウガ流魔闘術奥義――」
クロアの猛々しい声が聞こえ、僕と老人が顔を上げた。
いつの間にか、天高く飛び上がるクロア。そこから膝を曲げて飛び蹴りを放つと同時に脚甲の装甲がジャキンとスライドし、業炎の翼を噴き出す。
直後。《傲慢》の宝石が煌めき、その炎翼は紅蓮から金色の焔に変化し、彼女の全身を覆い――
飛翔一閃
「『迦楼羅天凰脚』!」
太陽の如く燃える金色を纏いし大鳳へと変貌を遂げる。
轟々と大気を焼き尽くし、灼熱の金翅鳥は、宙を駆けて老人に襲い掛かる。
もはや、誰がどう見ても絶望的な状況、老人の命は風前の灯火だった。
だがしかし、老人は白い宝石を付いた長槍を振りかぶるように構えて――
日輪列光
「希望よ、偽りの日輪を解放せよ――『擬似・日輪を蓄えし忠義の聖剣』!」
白い宝石が燦々と輝き、槍の穂から今まで溜めていた熱エネルギーが解放され、白金に煌めく百メートルを越える光の刃を作りだす。
そして老人は黒い大地を眩く照らす極光の大剣を振り下ろす。
金色の大鳳と日輪の大剣。
食らおうとする極炎と切り裂こうとする極光。
互いに発する圧倒的な威力を秘めた一撃が――激突した。
ドオオオオオオオオオオオオオオンッ!
瞬間、轟音を響かせる金色の焔と日輪の極光。
対抗する魔闘術と魔導技。
互いを削り合うように凄まじい衝撃と業火の嵐を撒き散らし、空を黄昏に染めながらせめぎ合う。
「す、凄い!?」
全て吹き飛ばし、焼き尽くす。その幻想的な光景に僕は心を震わせた。
やがて金色の大鳳と日輪の大剣の拮抗が崩れ始める。
徐々に勢い消えていき、押し込まれ始めた。
そして、ついに……勝ったのは――
――日輪の大剣のほうだった。




