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色彩のファンタジア ~ 白と黒の英雄讃歌 ~  作者: 小塚 正大
第一章  最弱の白と最強の黒
23/32

傲慢の魔王と証

遅くれてしまい、すみません。

 

 満天の星空の下、広場にできたクレーターの近くで、白夜とクロアは焚き火をしながら、向かい合うように地面に座っていた。


 焚き火が夜の暗闇を明るく照らす最中(さなか)、アイテムポーチの中にあった塩を豪快に切り取ったミドガルズオルムの肉にふり、それを細長い木の枝を串焼きように刺して、焚き火の傍に突き立て炙っていた。


 そんな最中、僕は先程の出来事を推測していた。

 突然、地面に輝く魔法陣とともに彼女は現れた。アレはまるで漫画(まんが)でよくある封印みたいだった。

 そこまで思考すると、焼いている肉から独特の香ばしい匂いが自分の鼻をくすぶる。


「まだかのう。早く焼けるのじゃ」

「……………………」


 僕の目の前で、串焼きができるのを楽しみしているクロアを改めて眺める。


 服装は、ところどころ破れてボロボロの武術(カンフー)服ような灰色の長袖とズボン、その片腕に赤と黒のバンダナを巻いて、白銀色の髪に牡牛みたいな角。そしてアンテナようなアホ毛が頭上で、ブンブンと犬の尻尾のように揺れていた。


 一見すると美少年に見える顔から視線を下げて、武術(カンフー)服の上から微かに膨む――彼女の胸をじっと注視する。


 ……やっぱり女の子だよね。顔が中性的だからイケメンにも見えるけど。


 そんなボーイッシュな彼女、クロアからイラついた声が僕の耳に聞こえてきた。


「………おい小僧。さっきから何故、貴様は我の胸をずっと見ているんじゃ?」

「え!? そ、その、あの……そうだ!」


 向けていた視線に気づかれた僕は慌てて誤魔化そうとする。


「どうしてその身体で魔闘術を使えるのかな? と見ていたんですっ!?」

「ほ~う?」


 そんな僕を、ジト目で見つめるクロア。やがて胸の前で腕を組んで、


「………ふむ、まあいい。何故、我が魔闘術が使えるのかは………」


 鼻を鳴らし、クロアは僕の質問に答えてくれる。


 ……なんとか誤魔化すことが出来た。


魔闘術(まとうじゅつ)の開祖、トウガ師父に教わったからじゃ」

「魔闘術にトウガ師父……それってもしかして〈拳神〉!? クロアさんって〈拳神〉の弟子だったの!?」


 四百年前に魔闘術を極める旅に出たと聞いたけど。

 まさかバルク大陸まで行っていたとは。


「弟子と言うよりは孤児となった我の育ての親じゃな」

「孤児となった? その………〈拳神〉とは、どんな出会いだったんですか?」


 焚き火で炙っている串焼きを裏返しながら、戸惑う僕は尋ねた。


「別に珍しくない。魔獣に故郷を襲われ、幼い我一人を残して村のみんなが全滅した。そこを師父に助けられたのじゃ」


 そう言うと、遠い目をするクロア。

 〈拳神〉と出会った過去の思い出に浸っているのだろう。


「助けてくれた師父は魔闘術を極める武者修行をしておってのう。同時に後継者を探しておった。どうやら我は師父がずっと探し求めていた逸材だったそうじゃ」


 焚き火に照らされた両手を見つめ、


「ただ一人生き残った幼い我は……あの地で生きていくために強くならなければならなかった。それ故に自然と師父との利害が一致して師弟関係になったのじゃ」


 クロアの話を聞いて僕はうつむいてしまう。

 気軽に聞いていい話ではないと心の中で後悔したからだ

 後悔の念に駆られながら僕は、クロアに訊いてみた。


「………それってバルク大陸じゃよくあることですか?」

「〝弱いものが死に、強いものが生きる〟それがバルク大陸に住む者の掟じゃ。だからのう、小僧。同情せんでもよい。我は気にしておらんし、もう過去の話なのじゃ」


 と、僕の心情を見抜いたクロアはそう言う。

 どうやら自分の迂闊(うかつ)さに()やんでいた事を見抜かれていたようだ。

 クロアの優しい一言で、僕の心中にあったわだかまりが消えていくのを感じた。


 ……そうだね。本人が納得しているのに当事者じゃない僕が悔やんでも仕方ない。


 微苦笑をする白夜が顔を上げると、フッと笑みをこぼすクロア。


「それで先程、どの様なつもりで我の胸を見ておったのじゃ?」


 と、不機嫌そうに問い掛けられた。

 どうやら誤魔化されてはくれないようだ。


「………そ、その顔がイケメンだったからてっきりおと――」


 冷や汗をかきながら僕がそう言いかけた瞬間――

 ドーンッ! と空気が弾けたような轟音。僕の耳の側に空気の固まりが通り抜け、後ろから岩が砕け散った音が聞こえた。

 そして目の前、額に青筋を浮かべて笑うクロアから、ジューッと蒸気が上がる左拳をぶらぶらと揺らしていた。


「……次、我を男と呼んだら――――ブチのめすぞ小僧!」


 凍えるような声でクロアは睨んでくる。

 顔を青ざめながら僕はブンブンと激しく頷く。

 一瞬だったがジャブを放ったように見えた。多分、今は――


 ……漫画(まんが)とかに出ってくる遠当てというやつだろうか?


「……まあ、今回は許してやる。我に感謝するのじゃな小僧。フッハハハ!」

「はい!? ありがとうございます!」


 上から目線のクロアにお礼を言った。そして、高笑いする彼女に恐る恐る僕は指摘した。


「……ところでクロアさん。性別を気にしてるなら〝フッハハハ〟とは笑わない方がいいよ。……普通、女の子はそんな笑いかたしないよ」

「うにゅ! こ、これは仕方ないのじゃ!? 生前の師父の影響で口癖がうつってしまって、なかなか直せないんじゃ!」


 高笑いをやめて、恥ずかしそう頬を染めてもじもじするクロア。

 か、かわいい! と僕はその可愛らしい仕草に思わず見とれてしまった。

 それにクロアの態度からして、〈拳神〉の口癖がうつるぐらい慕っていたみたいだ。


「そうなんだクロアさん……じゃなく女の子だから、クロアちゃんの方がいいのかな?」

「待てぃ小僧! 我にちゃん付けなどするな! 年下に子供扱いされているみたいでムカつくのじゃ!」


 見た目は小柄だけど、自分と同い年に見えるけど?

 そう思いながら僕は呟いた。


「そうなんですか!? それじゃクロア……さんで?」

「クロアで()い。それと敬語もいらんぞ。塩を提供した礼に名前で呼ぶことを特別に許してやるのじゃ」


 ふふーんと腕を組み得意がるクロア。


「それに我は心が広いから細かい事は気にしないのじゃぁ」


 でも男や子供扱いすると怒り出すけど?

 本当、偉そうだな、と苦笑い浮かべ僕は冗談半分で尋ねてみた。


「そうなんだ? それじゃクロア、いま何歳なの?」


 ……僕の事を年下って言っていたし。


「ん、我の歳か? 結構若いぞ。確か……217ぐらいな筈じゃ」   

「全然、若くないじゃんっ!」


 キョトンするクロアに、僕はツッコんでしまう。

 すると、クロアはムキーッと腕をブンブンと振って怒鳴り出す。


「何を言うっ! 寿命の長い魔族では二百歳など十分に若い部類に入るんじゃぞ! 

 それに二千年以上も生きておる〈強欲〉の爺と〈嫉妬〉のババアに比べれば十分若いのじゃ!」

「そんなこと知らないよ! ――って、ちょっと待って! 今、さらりととんでもないことを言わなかった!?」


 ……二千年以上も生きた〈強欲〉と〈嫉妬〉って、まさか………終幕大戦(フィナーレ)に出てくる魔王のこと! 


 てっきり終幕大戦で七罪魔王は全員死んだのかと思っていた。

 そんな疑問を浮かべながら僕は問い掛ける。


「ねぇ、クロア。〈強欲〉と〈嫉妬〉の魔王って、もしかして終幕大戦(フィナーレ)からずっと生きているの?」

「ふん! 知らんのじゃ! れでぃの年齢を聞くような無礼者に答える義理はないのじゃぁ!」


 ぷんすかと頬を膨らませながらそっぽを向くクロア。

 レディってあんた、自分的に二百歳はレディじゃなくグランマなんだけど。


 ……まあ、たしかに女性に年齢を聞く僕が悪いけど。


 どうしたものか、と僕が悩んでいるとクロアは鼻をくんくんと鳴らした。


「お! 肉が焼けてたのじゃ」


 焼けたミドガルズオルムの串焼きを両手に持ち、その一つ食べ始める。

 あっさりと機嫌を直し、がつがつと串焼きを食べるクロア。

 それを眺めながら、笑みを引きつる僕はため息をつく。

 もう話をするような空気では無かった。


 聞くのを諦めた僕も串焼きの一つを掴み、口に運ぶ前に気付いた事を口にする。


「そう言えばクロア。どうして百年前、クロアはこの場所で人族と戦いを仕掛けたの?」


 串焼きをリスのように頬を膨らませて食べるクロアの姿に、とても人族と敵対するような人物に見えなかったからだ。


「ふぐ? モグモグ、百年前? 戦いを仕掛けた? なんの話じゃ(はんのばなしじゃ)?」

「……食べるか話すか、どっちかにしてよ……」


 ゴックン、とクロアは口の中にあるモノを呑み込むと、


「さっきから何故、我が人族に戦いを仕掛けたという話になるじゃ?」

「……はあ? 違うの?」

「当然じゃ。そもそも我がこの地に来たのは……我を裏切った()(もの)に呼び出されたからじゃ」


 クロアはなんてことも無いように、突拍子のない事を言い放った。


「はあぁぁぁあ!? 裏切った! 誰がですか?!」


 驚いた僕は思わず大声を上げてしまった。

 次にクロアから出た言葉にさらに仰天する。


「……配下だった先代魔王の息子じゃ」

「はあ!? 先代の息子ってことは……まさか初代傲慢の魔王の子供!?」


 二千年以上も生きる魔王がいるなら、初代魔王の子供だって生きている可能性がある。だが、クロアは首を横に振り否定した。


「いや、違うぞ。あやつは三代目の息子じゃ。初代には娘しかいないと〈強欲〉の爺が言ってたのじゃ」

「じゃあ初代の孫ってこと?」

「生憎と娘のマリアは大崩壊(シャットダウン)の時に死んだらしいぞ。だから、赤の他人じゃな」


 と、クロアは焚き火から次々(つぎつぎ)と新たな串焼きを手に取り食べていた。

 早く食べないと自分の分が、全部クロアに食べられてしまう勢いだった。


「そもそも、もぐもぐ……〈七罪魔王〉とは、魔王具(レガリア)に選ばれた者が名乗る称号のようなものなのじゃ。だから魔王具(レガリア)が血縁者を選ばん限り、血の繋がりは関係ないのじゃ」


 そうなんだ、と僕は頷くとともに思い出す。

 そういえば聖王具(アーク)に選ばれ、受け継ぐ〈七徳大聖〉の称号も、親から子へと代々受け継いでいくようなものじゃないって話だっけ。


「じゃあ、その人なんで裏切ったんだろう? 何か恨まれることでもしたのクロア?」

「知らん。我が《傲慢(スペルビア)》に選ばれた時から恨んでおったからのう」


 迷惑そうにそう言うと、クロアは何かに気が付いたように、


「おう、そうじゃ小僧!」


 いきなりにクロアは服の襟を外し、胸元を見せてきた。


「わあぁああ!?」


 顔を真っ赤にして僕は、胸元を見ないように顔を逸らす。

 それでも見えちゃたよ! 粉雪ような白くて美しい肌に、微かに膨らんだ胸、それに……。


「なな、なんでブ、ブラが着けてないんだ!」

「なかなかウブな反応じゃのう小僧、くくくっ」


 クロアの意地の悪そうな声でからかってきた。


「それよりもなんでノーブラなんですか!?」


 真っ赤な顔しながら僕はそう叫ぶと、


「――必要ないからじゃ……」


 クロアの感情のこもっていない声で返された。

 あ、ヤバイと本能が囁く。咄嗟に別の話題をふった。


「そ、そんな事よりなんで脱いでいるの!? 早く隠してよ!」

「………安心せい、用が済めばとっとと着るのじゃ。それよりも我の背中に紋章があるか、確かめてくれぬか? 我の方だと見えんのじゃ」

「え、背中? 紋章?」


 そう言われ、僕はゆっくりと顔を戻して背を向ける半裸のクロアを覗く。

 すると背中の上部に逆十字と六対十二枚の翼のような黒い紋章があった。


「確かに背中の上(あた)りに紋章があったよ」

「……ふむ。では、まだ我は傲慢の魔王らしいのう」


 と、一人納得するクロア。


 ……ああ、そう言えば(キー)にはこんな話をあったっけ。


 鍵の所持者(七徳大聖)の証である紋章は身体に浮かぶけど、何故か【ステータス】には称号が表示されないらしい。

 そのせいで(キー)の偽物や、本物を騙る偽者が現れるそうだ。


 一応、本物を確かめる方法はある。

 聖王具(アーク)魔王具(レガリア)に付いた宝石と同じ色と形の紋章を見せる。ただし、この方法は紋章を知っていれば真似される可能性があるため立証(りっしょう)が難しい。

 次に、封印された旧文明の魔導遺産の機能を回復させる〝祝別(しゅくべつ)〟を見せて証明する。この方法は本物の(キー)にしかできない為。今現在、ほぼ確実とされる証明方法らしい。

 この二つ以外でも確かめる方法が存在するが、バチ当たりに分類してる為。滅多にやらないそうだ。


「我はてっきり魔王具(レガリア)が現れないのは………我を見棄ててあの疵れ者共の誰かに持っていかれたと思ったんじゃが」


 ……ん? なんだろう。途中、小声で聞こえなかったけど。


 と、僕は首を傾げる中、クロアは服の襟の戻し、チャイナボタンようなもので留めようとする。だが、すぐ外れしまう。

 うにゅ? と声を洩らし、再びボタンを留めるが外れ――悪戦苦闘しながら無理に留めた。


「……うむ。これはもう新しい服に買い替えた方が()いのう」

「その服がボロボロなのは魔王の息子との戦いで?」

「いや、知らん。というか何故、我はボロボロなのじゃ?」


 首を傾げるクロアから逆に問いかけられ、「え?」と僕は呆気に取られる。


「えっと……よく分かんないけど人族の軍隊と戦って出来たんじゃ?」

「人族の軍隊? ……おお! そう言えばあの平原で疵れ者と一緒になんか居ったのう」


 そう言われて、ようやく思い出したかようにクロアはポンと手を叩く。


 ……そんなついでみたいに言われても。


 と思い、同情心を抱く僕であった。


「う~む……記憶が曖昧じゃが連中は……多分違うぞ。奴らは我が放った大技で全滅した筈じゃ」

「大技って百年前にカムラン渓谷を作り出したやつ?」


 僕がそう訊くと、クロアは顔をしかめる。自分との会話(やりとり)にいい加減飽きてきた様子だった。


「………おい! さっきからなんじゃお前! 我にばかり質問しおって、そのカムラン渓谷や百年前とは一体なんのことじゃ? ここはカムラン平原の筈じゃろう!」


 キレたクロアがそう言って、夜の暗闇に包まれた周囲を見回す。


 ……今の言葉、もしかしてクロア、その戦いから百年も過ぎていることに分かっていないの?


 今まで発言でその考えに至り僕はクロアを見つめる。


「……そうだよね。クロアばかり質問するのは悪いし、次は僕が話す番だね。だけど最後に、クロアはどうしてその人の呼び出しに応じ――!?」


 そう尋ねようとした途端、ゾッとするほどの濃密な殺気が僕に絡みつく。

 先程までの(なご)やかな雰囲気が一変し、呼吸が困難になる程の重苦しい空気がこの場に満ち溢れる。そんな中、赤色の瞳が怒りの色に染まるクロアは口を開き、


「………何故、我が今日会ったばかりの小僧に、そこまで話さねばならんのじゃ?」


 冷や汗を垂らす僕をゴミを見るような目で眺める。そして、


「人には話したくもない事もあるのじゃ小僧……それでも礼儀をわきまえずに()く言うなら」


 その瞬間、クロアから尋常ならざる威圧感が(ほとばし)る。


「――――くびり殺すぞ」


 絶対強者、いま僕の目の前にいる魔王(クロア)はそう呼ばれるに相応しい人物だった。


 ………忘れていた訳じゃなかった。


 彼女は僕達が逃げる選択しか出来なかった魔獣(ミドガルズオルム)をたった一人で倒す程の強さを持っていることに。

 クロアがその気なら僕なんて抵抗もできず一瞬で殺されるだろう。

 からからに乾いた口の中で、何度も唾を飲み、僕は言葉を絞り出す。


「……そ、そのすみません」

「……ふむ、では話すのじゃ。小僧が知る限りのことを」


 スーと自分に纏まりつく殺気をおさめると、クロアは片腕に巻いた赤と黒のバンダナの一つ――赤いバンダナを(いと)おしそうに撫でていた。


「……はい、実は――――」


 と、クロアに僕自身が知りうる限り事を話した。

 異世界に召喚された経緯、僕が経験した事、カムラン渓谷に来て今の現状になった経緯。



 そして―――その戦いから、約百年の月日が経っていることを。



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