稲妻と黒き拳の魔王
尻餅をつき、血で汚れぼろぼろの姿で白夜は物思いにふけていた。
そんな白夜をすぐ側で赤色の瞳がじっーと観察していた。
(……また、我の前でこの小僧は! 確か名はアマシ…………まあ、小僧で良いか)
しかしのう、と白夜の名前をポロッと忘れたクロアは心の中で嘆息し、再び周囲をキョロキョロと見回す。
「本当に此処は何処なんじゃ? 我は確か……平原であの痴れ者に………あやつを殺され…………う~~~ん?」
腕を組んで目をギュッと閉じたクロアは、眠る前の記憶をたどる。しかし、途中から記憶が欠落していて、思い出せなかった。
「…………何故じゃ、そこから記憶が曖昧になっておるのじゃ!? 我はあの時……そう、魔王具の真名解――っ!?」
ようやく思い出せそうな時だ。クロアの耳に風切り音が聞こえ、自分達目掛けて巨大な鞭のようなものが迫り来る。
咄嗟にクロアは白夜の襟首を掴み、膝を曲げ地面を蹴って、空高く跳躍。
「ぐえ!?」と掴まれた白夜は潰れたカエルみたいな声を漏らすと同時に、眼下では橙色の鱗で出来た太い鞭が通り過ぎていく。
奇襲に失敗したことを悟った橙色の鱗の持ち主が、空中にいる自分達を警戒して口を開け威嚇してきた。
「シャアアアアアァァァァァ!」
「お! なんじゃあのヘビめ、生意気も我に喧嘩を売っておるのじゃ!」
ミドガルズオルムの威嚇を挑発と解釈し、落下中のクロアは獰猛な笑みを浮かべる。
「わああああああああああぁぁぁぁーーッ!?!?」
襟首を掴まれ共に落下する白夜は、肌から伝わる落ちていく感覚に恐怖し、悲鳴が空にこだまする。
「……うるさいのう。ほれ、もうすぐ地面じゃぞ、小僧。大人しくしておれ」
地面に着く直前、クロアはクラスのスキルを使い――
フワッと一瞬、空中に停滞。落下の勢いを殺し、無事に白夜と共にミドガルズオルムから離れた場所に着地した。
地面に足を着いたクロアは、
「ほれ小僧、お主はそこで待っておれ、後で話を聞かせてもらうからのう」
ポイッと軽く白夜を地面に放り捨て、ミドガルズオルムに向き合う。
「ぐうっ!? ち、ちょっと待ってくださいクロアさん!」
「――ん?」
◇ ◆ ◇
なんじゃ、とクロアは振り向き、呼び止めた小僧を覗く。
「アイツはとんでもない再生能力を持ってて。だから、一人で倒すなんて無理です!」
………ふむ、どうやら小僧は、我に忠言を申しておるようじゃ。
成程、と頷き肩を回しながら、小僧に己の冴え渡る知略を持ってして導いた答えを伝えた。
「ふむ。つまり、いくらでも殴れるという事じゃな? ふは、寝起きの相手としては丁度良いのじゃ!」
「えええ~~! なんでそうなるの!?」
何故か、小僧がアホ面を晒し、ツッコんできた。
やはり人族はよく分からん。どうしてこう簡単な事を理解できんのじゃ?
首をかしげる我は、唖然とする小僧をスルーしてミドガルズオルムへ、地面を蹴り駆け出す。
◇ ◆ ◇
一歩一歩、地面を蹴りながら加速――
ドン、と音の壁を越えたあたりからクロアの姿が消えた。
警戒し睨んでいたミドガルズオルムはキョロキョロと周りを見回し、見失った自分を探し始める。
「シャアァァ?」
「何処を見ておる?」
顎の下に辿り着いたクロアは加速した勢いまま飛び上がり、ミドガルズオルムの顎を蹴り上げる。
「ほれ!」
「シャアアアア!?」
ズドン! と腹に響く衝撃音を轟き、強烈な蹴りの一撃を食らい、ミドガルズオルムの頭部がボールように上に吹き飛んでいく。
「腹ががら空きじゃぞ?」
空中で一回転しながら挑発的な笑みを見せるクロアは、ミドガルズオルムのがら空きなった胴体に高速で―――
ドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!
握りしめた拳を連続で叩き込み、そして最後にスキルを用いた強烈な右ストレートをぶち込んだ。
「シャアァアァァァーーー!?」
ドォーン! と轟音を響かせ、ミドガルズオルムの橙色の鱗を砕け散り、その巨体は木々を薙ぎ倒し森の奥まで吹っ飛んだ。
地面に着地したクロアは腕を組んで、殴り飛ばしたミドガルズオルムによって薙ぎ倒された木々を眺めつつ、
「なんじゃこの程度か? これなら〈強欲〉の爺のところの羽へビの方がまだマシじゃぞ」
眉をひそめ、物足りなさを感じながら呟く。
その時、腕を組んだクロアの頭上に影が差す。同時に風を切るが音が迫ってきた。
「むぅ?」
「シャアアアァァァッ!」
瞬間、薄暗い森から勢いをつけたミドガルズオルムの長い尻尾をムチのようにして、クロアを地面に叩きつけた。そこから尻尾を持ち上げ、クロアを潰した場所に――
「シャシャシャシャァァァァァァッ!!!」
ドンドンドンドン! と轟音を響せながらモグラ叩きのように何度も繰り返し、尻尾を叩きつづけた。
◇ ◆ ◇
「そ、そんな……」
と、白夜の口から漏れる。
先程まで圧倒的な強さで魔獣を叩きのめしていたクロアを潰した場所を、やり過ぎなくらい攻撃を叩きつけるミドガルズオルム。
遠く離れた場所で白夜はただ黙ってその光景を眺めていた。
「シャァァ………シャァァ………」
やがて、息を切らせたミドガルズオルムは叩きつけるのをやめた。そして潰れたクロアを確認するために陥没した地面を覗き込んだ。
そこには地面が凹み、仰向け倒れるクロアの姿があった。
ミドガルズオルムは嬉しそうに笑みを浮かべた――次の瞬間。
「………………」
むくりと身を起こすクロア。そして何事も無かったかのように立ち上がり、服に付いた土を手で払い落としていた。
「シャア!?」
「うそぉ!?」
これにはミドガルズオルムや白夜も、目が飛び出るほど驚きを隠せなかった。
「むぅ、結構汚れしまったのじゃ。我は着替えを持っておらんとゆうのに!」
一際のダメージを受けていないのか、眉を寄せたクロアは不愉快そうに場違いの愚痴を溢していると、
「シャアアアァァアア!」
驚きから立ち直ったミドガルズオルムは再び、尻尾を叩き込んだ。
だが、叩き込まれた尻尾をクロアは地面に沈みながらも片手で受け止める。
「………おいヘビ! 貴様、さっきから鬱陶しいぞ!!」
クロアがそう言うと、白銀の髪の一部がピコンッとアホ毛のように立つ。するとそこからパチパチと静電気が音を鳴らし、全身から青い雷が発生させ、受け止めたミドガルズオルムの尻尾に電撃を放った。
「ジャババババババババ!?」
尻尾から電撃を食らい、感電するミドガルズオルム。その身体から香ばしい匂いが辺りに漂うと――ぐきゅるるるとクロアのお腹から音が響き、電撃を放つのを止めた。
「ぬにゅ、やはり異能を使うとお腹が空いてしまうのじゃ」
その瞬間、全身から煙を漂わせたミドガルズオルムはノロノロと尻尾をクロアから退かした。その後、必死に森へ向かって逃走する。
そして逃げるミドガルズオルムを見てクロアは不機嫌そうな表情で、
「む、ヘビ! 貴様、我から逃げるつもりかッ!!」
遠ざかっていくミドガルズオルムに向かってそう怒鳴った。しかし、一向に止まる気配がないミドガルズオルムにクロアは舌打ちして赤い瞳をギラッと輝かせる。
「チッ、しかないのう。折角の獲物を逃がす訳にはいかんのじゃ!」
クロアは空に手をかざし、自信満々な顔で笑った。
何かトンデモない事をするつもりらしい。
「フハハハッ、遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 貴様には勿体ないが見せてやるのじゃ、七罪魔王の証たる我の魔王具《傲慢》ぉ! ――魔王武装!」
「シャアァァァァ!?」
クロアの放つ雰囲気に飲まれ、ミドガルズオルムは動きが停まり振り返る。
「魔王具!?」と白夜が驚いた声を漏らし、クロアをまじまじと見つめた。しかし――
シィーーーーーーーン。
手をかざしたクロアから何かが出てくる気配が無かった。
「………………………………」
「………………………………」
無言になる白夜とミドガルズオルム。
ピシッとドヤ顔のまま固まるクロア。その額に冷や汗を垂らしながら、
「……魔王武装! ………魔王武装! …………デ~モ~ン~ア~ク~セ~スっ!!」
そう何度も唱えた。だが、一向に魔王具が出現する気配がないと分かるとクロアは両手を頭を抱え、
「な、な、なぜじゃぁぁぁぁー?! 何故、《傲慢》が出てこぬ! 繋がりは感じ取るとゆうのに何故出てこぬのじゃ!?」
そう叫び、慌てふためくクロアに、ミドガルズオルムは喉を膨らせる。
(――アレって和馬君を窮地に追いこんだ猛毒の!?)
その事に気付いた白夜は大声でクロアに叫んだ。
「危ないぃぃぃーっ! 避けてぇぇぇ!」
「うにゅ? どうした小僧?」
白夜の叫びに、クロアが振り向き、不思議そうな表情で首を傾げる。
「シャアアァァアァァァ!」
それと同時にミドガルズオルムは紫色の息――猛毒をクロアに吹きかけた。
辺り一面に紫色をした猛毒の霧に包まれ、彼女の姿が見えなくなった。
「あああ、そんなまた僕は……」
「シャアァァ♪」
また同じ過ちを、と下向く白夜に、ミドガルズオルムはまるで脱皮するかように焦げた全身の皮を脱ぎ捨て、満月の光で橙色の鱗が輝く光沢ある姿を外気に晒した。
――その時だった。
「やれやれじゃ。何故か魔王具が出てこぬし、それにいくらダメージを与えても仕留められぬヘビとは、中々に面倒じゃな」
空からクロアの呆れた声が辺りに響いてきた。
慌てて白夜とミドガルズオルムは顔上げて空を見ると。
そこには空中で腕を組んで仁王立ちするクロアの姿があった。
まるで空中に透明な足場があるかのようにクロアは、宙に停滞し落ちてこない。
そんなクロアは、口を開けて絶句するミドガルズオルムを見下ろし、
「ふむ、ずいぶん驚いておるようじゃな。まあ、仕方ないのじゃ。
我のクラス《美猴王》、その固有スキルである【筋斗雲】は神速と空中に足場を作るスキルじゃからのう。驚くも無理もないのじゃ、フッハハハッ!」
空中で悪役のような高笑いするクロア。その姿に――
(なんでだろう? ごっこ遊びしてる子供に見えてきた)
そんな考えが白夜は頭の中で過ってしまう。
しばらくクロアは高笑いした後、不敵な笑み浮かべ、再びミドガルズオルムを見下ろした。
「とは言え、今の我は魔力が少ないしのう。………ふむ、ならばヘビよ! お主は特別に我が拳――トウガ流魔闘術で仕留めてやるのじゃ!!」
ビシッとクロアはミドガルズオルムに指差し、そう宣言する。すると上空に積乱雲が集まり、ゴロゴロと雷鳴が響き渡った。
突然、天候が崩れ始めた事に戸惑う白夜は空中にいるクロアを見つめると。
「まずは、来たれ雷雲よ・稲妻となりて・我が身を討ち滅ぼせ――『九天雷霆』!」
積乱雲に向けて詠唱、クロアは魔法を発動させる。
上空の暗雲から稲光と轟音を響かせ、幾閃もの稲妻が降り注ぐ。
――空中で仁王立ちするクロア目掛け。
「えっ!?」
「シャア!?」
声を上げた白夜とミドガルズオルム。その目には、幾つもの稲妻に打たれるクロアが映った。
自滅した!? と頭によぎる。しかし、
「生憎と我に雷は効かん」
空中で青い雷に打たれながらもクロアは平然としていた。そしてより笑みを深め、
「何故なら我が異能【雷電皇主】は雷に属すものを自在に操る。
故に雷は我にとって魔力を回復させる糧であり、力でしかないのじゃ!」
〝異能〟――女神の恩恵の技能や魔法とは異なり、生まれながら個人もしくは一族のみしか発現しない特殊能力である。
やがて、クロアの全身から帯電した稲妻を駆け巡っていた。
「さて覚悟はよいか、ヘビ?」
そしてクロアは全身に纏う稲妻を、固めた左拳に収束。直視した瞬間に目が灼くであろう雷光と雷鳴を轟かせる中、その左拳に膨大な稲妻を宿し、クロアは拳を構えた。
「――――――――!?」
左拳から莫大な稲妻を撒き散らすクロアの姿を見たミドガルズオルムは身の危険を感じたのか、再び森に逃げようと動き始めた。だが――
「言ったはずじゃぞ。仕留めると、我の【筋斗雲】――その神速の前では如何なる敵も逃げらればせん!」
クロアは空中で青い雷の軌跡だけを残し、一瞬にしてミドガルズオルムの頭上に移動する。
〝筋斗雲〟――西遊記に登場する仙猿、孫悟空が10万8000里の距離を神速の速さで一跳びし、空を自在に飛んだとされるモノだ。
《美猴王》のスキル。【筋斗雲】はその逸話を元にしたスキルである。
そして【筋斗雲】の神速とは、移動に要する時間を短縮する能力である。これによってクロアは自在に音速の速度で動くことができるのだ。
また、稲妻を身に宿し纏うことによって【筋斗雲】は強化され、クロアの速さは雷と同程度の速さまで動くことを可能とさせた。
「トウガ流魔闘術――」
空中で逆さとなったクロアは【筋斗雲】で作り出した透明な足場から力強く跳び、ミドガルズオルムの頭を一筋の稲妻が打ち抜く。
雷光爆裂
「『雷神撃砕』!」
稲妻の莫大なエネルギーを籠った雷速の左拳がミドガルズオルムの頭部に食い込んだ刹那。まるで榴弾ようにその拳に内包した超高出力の雷撃が解放され、青い雷光が夜の闇を切り裂き広場を照した。
質量×速度――まさにクロアの放った一撃はその言葉を体現した破壊力だった。
ドオオオオォォォォォォンンンン!!!!
落雷の如く叩き込まれた一撃は広場を揺るがす程の雷鳴を響かせ、ミドガルズオルムの頭部を跡形もなく粉砕するばかりか、そのあまりの威力に地面すらも吹き飛んだ。
◇ ◆ ◇
地面から土煙が上がり、繰り出された一撃から発生した衝撃波は、遠くに居た白夜のところまで届いた。
「うわぁぁぁ!?」
迫ってきた衝撃波に吹き飛び、転がりように地面に倒れた。
地面に倒れ伏す僕は恐る恐る立ち上がると、あの一撃が叩き込まれた場所には隕石が落下したような土煙が、爆煙のように立ち上ぼる小さなクレーターが出来ていた。
しばらくして土煙を鎮まり、クレーターからクロアの呑気な声が聞こえてきた。
「おーい小僧! 終わったのじゃ」
呑気に手を振りながら、土を被った彼女がそのクレーターから出てきた。
軽い足取りで僕の前に来ると、
「うむ。では小僧、飯を食いながら話を訊かせてもらうのじゃ。食材ならそこにあるからのう」
そう言って、彼女は後ろのミドガルズオルムの頭部のない胴体を親指で指す。
「アハハ……ば、化け物だ」
かすり傷一つ負ってない彼女の姿を見て、僕の口から空笑いが漏れた。
「うにゅ?」と可愛らしく首を傾げる白銀髪の美少女。あれほど自分を苦しめたミドガルズオルムを一撃で倒し、この惨状を作り出した人物には見えなかった。
最後まで読んでいただき有難うございます。今回、クロアはメインで書かせて貰いました。投稿ペースが遅く不明過ぎてすみません。感想や指摘などを貰えると嬉しいです。誤字も




