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色彩のファンタジア ~ 白と黒の英雄讃歌 ~  作者: 小塚 正大
第一章  最弱の白と最強の黒
21/32

白と黒の序曲 《後編》

 

 ガサガサと落ち葉を踏む。草を払いながら、白夜は進んでいる方角や時間すらも分からず、ただひたすら森の奥へ進んでいく。


 途中、遭遇する魔物を自分が持ちうる技能(スキル)を工夫しながら――

 時に【潜伏】で己の気配を潜めて、

 時に【察知】で魔物の居場所を把握し、

 時に【予感】で移動するタイミングを計り、

 時に【加速】で脱兎の如く、魔物から逃げていた。


 それでも、走っている白夜の背後から、


「シャアアアアァァァァ!!」


 と、怒鳴り散らすミドガルズオルムが木々の間をうねりながら、しつこく追いかけてくるのだ。

 白夜は息を切らせながら、後ろにいるミドガルズオルムをチラリと覗くと。


「はぁ、はぁ、し、しつこいぞお前! 周りを見ってよ。もう僕、一人でしゅぅ。とく(・・・・・・)に飽きれば良いひょに!」


 疲れと恐怖のせいで噛んでしまう。その時、白夜の腰の荷袋から微な光が漏れてすぐに消える。


「ん? 今なにか僕に………」


 自分の中に何かが入ってくる奇妙な感覚を感じた。

 確かめようと下を向いた時だ。


「シャアアァァァァアア!」


 待ってコラ! と言う感じで背後に迫りくるミドガルズオルムの大きな叫び声をあげた。

 その叫びに白夜は慌てて一歩踏み出す。


「うわぁぁぁぁぁ!?」


 ――が、小石を踏んでバランスを崩し、躓いてしまう。

 慌てて体勢を立て直す白夜。

 その僅かな時間、ミドガルズオルムは自分のすぐ近くまで迫っていた。

 咄嗟に白夜は、斜め後ろにある苔の生えた大岩を眺め、腰に差した片手剣を掴み。


(これに賭けるしかない。……じゃないと追い付かれる!)


 それに【ステータス】やスキルだって増えてるからいける筈だ、と白夜は考え、力を込めて片手剣を引き抜いた瞬間。脳裏に『言葉は力で在り、名は意味を表す』とダリアに教わった異世界(ミルトス)(ことわざ)が浮かび上がった。

 そして思い付いた言葉(スキル)を叫んだ。


「『射撃投擲』!」


【射撃】――射撃系の攻撃威力や命中精度を補正するスキルである。

【射撃】と【投擲】――その二つのスキルを合わせた片手剣を(とう)じた。

 勢いよく回転しながら片手剣は、正確に大岩に命中――そのままくの字に跳ね返り、ミドガルズオルムの右目に突き刺さった。


「シャアァアアァァッ!?」


 右目に激痛が走ったのかミドガルズオルムは悲鳴あげながら、長い首を左右に振りその場で暴れる。


「良し成功! これで一時的に片目が潰れた今のうちに……!」


 自分の目論見が成功したことを喜びながら、潰れた右目を再生させるミドガルズオルムから急いで距離を取った。


「でもこれじゃその場しのぎだ。くそ、僕にもビッグフットの『迷彩』ような能力があれば逃げ切れるのに!」


 そうぼやくと走っている白夜の身体が、スッと周囲に溶けるように消(・・・・・・・・・・)えた(・・)


「シャアァ!? シャシャ? シャア?」


 ミドガルズオルムはキョロキョロと周りを見渡し、消えた白夜を探しに、うねりながらその場から離れていく。


 突然、離れていくミドガルズオルムの行動に白夜は戸惑ってしまう。


「え!? 何が起きたんだ? ………分からないけどでも、この間に何処か身を隠せる場所に」


 森に同化している状態に気付かず、白夜は森の奥に歩いていく。



 ◇ ◆ ◇ 



 日が沈み夜となった。森の景色と同化していた白夜は元の状態に戻り、森の中を彷徨い歩く、夜の闇を更に濃くする木々の下で、時折木の間に月明かりが照らす。

 そんな森の中を歩いていると、少し先の方で木々の間から明かりが見え、僕はそこに足を向ける。


 夜の森から広場のような場所に辿り着いた。


 薄暗い森の中、ぽっかりと空いた広場、空には満天の星空と輝く満月が咲き乱れる花を照らす。

 そして花畑の広場の中央に赤、桃、青、緑、紫、黄、橙、茶、白、灰、黒、金、銀、銅の十四色が混じり合うように輝く六メートルぐらいの巨大な結晶があった。


「わぁー、大きい! それに綺麗な魔石………もしかしてコレが〝星晶石(エーテルライト)〟!?」


 〝星晶石(エーテルライト)〟――それは大地に流れるマナが溜まり、長い時間をかけて結晶化したものだ。


 この星晶石(エーテルライト)は別名〝聖霊結晶(せいれいけっしょう)〟と呼ばれ、マナの蓄積と増幅、性質変化や魔力による硬度の変質など他にも色々な性質と高い親和性を持つ万能素材だ。

 これを武器や防具に使えば素材の性能を最大限引き出した武器や防具ができ。

 薬の材料にすれば万能霊薬(エリクサー)を作成できるのだ。

 また儀式の触媒にすると、あらゆる奇跡を引き起こすらしい。


 ニ千前には魔導炉(リアクター)の核として使われ、量によって高出力のエネルギーを生み出す動力炉(エンジン)ができるらしい。

 ちなみに(キー)であり聖王具(アーク)は、殆どが星晶石(エーテルライト)を使用しているらしく、同じ(キー)である魔王具(レガリア)もまた同じ量で作られているのだろうと云われている。


「でも星晶石(エーテルライト)って滅多に取れないって聞いたけど……」


 そう、今の時代。星晶石(エーテルライト)は貴重なもので、ごく稀に魔境で小石程度のものしか取れないらしい。


「それにもっと小さい……あれ? 結晶の中に何かある」


 と、その巨大な結晶――星晶石(エーテルライト)の中をよく見る。

 ムーンストーンような白い宝石が付いた長槍(・・・・・・・・・・)が、まるで琥珀のように地面に突き刺さっていた。


 もっと近くで見ようと近寄る。すると、結晶の影から、のそりのそりと一匹のホーンウルフが僕の前に姿を(あらわ)す。

 そいつは普通のホーンウルフよりも図体が大きく、額に太い一角を()やした白色の毛皮の強そうな一角狼だった。


「グルルルッ」


 その低い唸り声は、身体の芯にまで響いてきた。


「あはは、ここは君の住処(いえ)だったのかな?」


 立ち止まり、苦笑いを浮かべた僕は一歩後ろに下がろうとする。


「勝手に入った僕が悪い――」


 すると、その白いホーンウルフが僕の視界から消えた。

 瞬間――ドスッと胸に衝撃が走る。


「――え?」


 僕はゆっくりと視線を下げ、奇妙な衝撃を受けた自分の胸――太い何か棒ようなものが生えた胸元を見た。

 直後、胸から燃え上がるように沸き上がった激痛に。しばらくの間、理解することができなかった。


「がぁぁぁぁぁぁぁ!? なにこれ……げほっ!?」


 喉からこみあがてきた血が口から溢れ、まともに呼吸ができなくなった。

 そして突き刺さる棒の持ち主と目が合う。


「グルルルルルルルッ!」


 それが先程の魔物の角だと理解すると、同時に白いホーンウルフは首を激しく振り払い、僕を背後にあった星晶石(エーテルライト)に叩きつけた。


「ガハッ!? あ、あう」


 星晶石(エーテルライト)に僕の血がこびりつき、背中からくる痛みに息を詰まらせながら、僕は右手を使い自分の胸を触る。手のひらにべっとりとした感覚と内から溢れ出る血を感じつつ、激痛に耐えつつ、今の状況を考えていた。


 ……ここまで来て僕は死ぬのか? 


 折角、この場所まで逃げてきたのに。

 皆に追い付こうと必死に努力してきたのに。


 ……ここで終わりなの? ここで何もかも諦めないといけないのか?


 ――嫌だ。諦めたくない。


 ――約束したじゃないか彼女と。


 倒れかかる星晶石(エーテルライト)を掴みながら――


「――イヤだ……! 僕はまだ―――死にたくないッ!!」


 必死に起き上がろうとする。

 白いホーンウルフはそんな僕に向かってゆっくりと近づいてくる。


「約束し……だ……帰る……僕……みんなの……」

「グルルルゥゥ」


 掴んでいた手に力が抜けて、ドサッと僕は地面に座りこんだ。

 胸から溢れ出す血と痛み。おまけに目がぼやけ始め、遠退く意識の中、


『ねぇねぇ君、どうしてそう願うの?』

「だれ? ……どこから」


 突然、僕の頭の中に幼い声が響く。


『探しても無駄だよ。リリスはそこから別の場所で貴方に話し掛けるんだよ』

「きみ――ゴホッ!?」


 僕に語りかけてくる存在に口を開く。が、喉に血を詰まらさせ、ろくに話せなかった。


『ああ、死にかけているんだっけ? 無理せず心の中で話してくれて良いよ』

(………君は一体?)


 言われ通り僕は心の中で話し掛けって見ると、嬉しそう声で返ってきた。


『ふふふ、ずいぶんと素直なんだ。異世界の来訪者くんは』

(本当に誰なの君は?)

『リリスだよ?』


 どうやら意味がうまく伝わっていないようだ。


(ごめん、君の正体が何者って聞いたんだ)

『正体? う~~ん、あ、女神! 異邦人達がリリスの事を女神って呼んでいたよ!』

(女神? それに異邦人って……あ! 君、女神イヴでしょう。僕の世界じゃあ同じ神様でも別の名前がある神様もいるし。それに僕の事を異世界の来訪者って)


 心の中で僕がそう尋ねると、リリスは不思議そうな声で答えてくれる。


『女神イヴ? もしかしてアレのこと? リリスとアレは別の存在だよ。そんな事より答えて、貴方はなんで仲間の元に帰りたいと願うの? 答えくれたらリリスが助けてあげるよ」


 問いかけてくるリリスに、子供みたいだな、と思い僕は弱々しく微笑んでしまう。


 ……これはもう助からないな、僕……。


 いつ死んでも可笑しくない致命傷(ちめいしょう)。おまけに頭に響く不思議な声。

 もはや助かる見込みがないと悟ってしまう。

 だったら、と。


 ……残された時間、今の僕に出来ることをしよう。


 もう詰んでいるのだ。どんなけ頑張ったとしてもう(くつがえ)らない。

 この場所に来た時点で自分はもう人生終了(ゲームオーバー)だった。

 ここで人知れず、何も出来ないまま、皆にこの想いを伝えられずに、一人寂しく終わるはずだった。本来(ミライ)の僕。でも――


 ……まだ終わっていない。


 まだ自分に出来ることがある。まだ自分には残せるものがある。自分にはまだ側にいてくれる誰かがいるのだ。

 自分の最期を見届けてくれる不思議な存在に感謝をしながら心の中で言った。


(帰りたいと願うのは約束したからだよ)

『約束? 契約のことかな異世界の来訪者くん?』


 その答えに僕は弱々しい苦笑いを浮かべた。

 いつの間にか、近づいていた筈のあの魔物(白いホーンウルフ)の足音が消え、ジッと僕を見つめる視線を感じた。野性の勘で超常的な存在を感知したんだろう。


(契約じゃないよ。約束、僕が蓮花……みんなの元に帰るって言う大事な誓いみたいなものかな。それと僕の名前は白夜、異世界の来訪者って名前じゃない)

『白夜、それが貴方の名前なの?』

(そうだよ、リリス。僕の名前は天城・白夜って言うんだ)


 心の中で肯定すると、リリスは『へぇ~』と興味深そうな声を問い掛けてきた。


『そうなんだ。そうじゃあ白夜、次の質問。どうして白夜は橙の欠片。その持ち主を助けたの? 見る限り貴方のことを嫌っていたけど、ねぇどうして?』


 ………もしかして和馬君の事を言ってるんだろうか?


 どうやらリリスは、和馬君との出来事を全て知っているようだ。

 そう質問したリリスに、力のない苦笑いを浮かべ答えた。


(みんなとの約束でもあるけど、僕は友達を見捨てるような人間になりたくなかったからかな)


 ホント自分勝手な理由だな、とそう言った自分自身に嫌気を感じてしまう。

 そんな僕を、リリスは理解できないのか問いかけてきた。


『ん? なんでリリスの欠片を使って脅していたのに?』

(そうだね。でも和馬君は理由はアレだけど、初めは弱い僕を魔族との戦いから遠ざけようとしてくれたし、僕の事を認めてくれていたんだ)

『え!? あの人、白夜を認めていなかったよ。それどころか酷いこといっぱい言っていたよ!』


 困惑したリリスの声が頭の中に響く。

 確かに、と僕も当事者ではなければそう思う。――でも、


(あの時、和馬君がその気なら魔獣(ミドガルドオルム)共々、僕を消すことだって………でも、彼は魔獣だけを狙った……)

『うーん、それ偶然(ぐうぜん)じゃないかな? もしかして白夜って〝お人好し〟とかいう人なの?』

(はは、そうかもね。……それでも僕は今度こそ本当の友達になりたくて助けたんだ)


 それにずっと姉妹(天才)に比べられていた人生で、本心じゃなくて自分を認めてくれた友達(和馬)を見捨てることができなかったんだろう。

 僕は呆れ気味にそう思った。


 ――すると。


『友達? ねぇ白夜、さっきから言ってるその〝友達〟ってなに?』


 その言葉の意味がピンとこないのか、リリスがそう尋ねてきた。


(……一緒に遊んだり喋ったり笑いあえる人かな? 今の僕とリリスのように)


 悩みながら僕はそう答えた。

 直後、身体から力が抜けて、視界が真っ黒に染まっていく。

 どうやら自分の限界が近いようだ。

 そんな中でリリスは声が震え楽しそうに笑った。


『あはははっ! やっぱり貴方面白いねぇ! じゃあリリスと白夜はもう友達なの?』

(……うん、リリスがそう思ってくれたら)

『そっかぁ! じゃあリリスと友達だね! ねぇ白夜、今後は貴方の世』

「グルルルルルルル」

『むぅ!? もう空気を呼んでよキミ』


 楽しみを邪魔されて不機嫌そうなリリスの声が伝わった。

 真っ暗な闇の中で僕の耳から、あの白いホーンウルフの唸り声と足音が段々と近づいて来るのを聞こえた。


『………白夜、少し手伝って白の欠片を持つだけで良いから』


 リリスはそう言うと、突如僕の左手に棒のような感触が伝わってくる。

 そして棒を掴む左手から身体に全体に、ピリッと静電気が走り、ビクッと身体が反応したのだ。


『うん、制約条件をクリアしてるねえ。じゃあ白の欠片、力を発動しなさい』

疑似・竜を貫(レプリ・アス)■■■■■■■』


 リリスの言葉に、手に持つ棒から、雑音混じり声が響いた後、


「キャワアアァァァァン!?」


 真っ黒な暗闇が一瞬、視界が真っ白に染まるとともにあの魔物の悲鳴が聞こえてきた。

 朦朧とする意識の中、僕の心中にリリスの声が掛かる。


『これで邪魔者が消えたねえ。じゃあ今後は白夜がいた世界の事を聞かせて!』

(そう……か君の……お陰で……助かった……んだ。あり………がとう)


 段々と身体から熱が消えていく。凍えるような寒さを感じる。

 猛烈な眠気が自分に(おそ)い掛かってくる。


 ……みんな……蓮花……約束を守れなくてごめ……。


 ハァーハァーと弱々しかった呼吸が停まり。


 ――――そこで僕の意識が途切れた。



 ◇ ◆ ◇ 



 赤く染まった地面に倒れ、動かなくなった白夜。

 そんな白夜にリリスは期待を膨らませた声で言った。


『さあ、早く白夜のいた世界の事を教えてよ! どんな……ん?』


 そこに白夜の左手に握っていた長槍――に付いた白い宝石がピコピコと点滅する。


『どうしたの、白の欠片……え、違うの? ああ、そうか! 今は確か《希望(スペス)》だけ?』 


 正解というように《希望(スペス)》は白い宝石をピッコンと一瞬強く輝かせた。

 リリスは此処とは別の場所にいる。しかし、リリスと《希望(スペス)》は霊的に繋がっている。故に欠片(じぶん)同士限定ならどんな場所だろうと意志疎通ができるのである。


『ふむふむ、〝もう死んでるから話しかけも無駄〟……え、白夜死んじゃったの!? でもなんで?』


 《希望(スペス)》が白夜の現状を伝える。だが、リリスは理解できなかった。

 だから、《希望(スペス)》が伝えたことを確かめるために聖王具(スペス)に組み込まれた機能を使い、白夜を調べ始める。


『……う~ん? これかなバイタルサイン』

『了解:チェック項目:脈拍・血圧・意識・呼吸・体温:――測定開始』


 《希望(スペス)》から表示枠(ウィンドウ)が展開した後、しばらくすると脈拍・血圧・意識・呼吸・体温の結果が表示枠(ウィンドウ)に表示される。そして最後に、


『――診断結果、心臓欠損及び多量の出血による死亡と推察します』

『………そっか、人はそのぐらいで死んじゃうんだ』


 眠っているかのように見える白夜。

 しかし、それは生命(いのち)が終わった残骸――亡骸というものだ。

 二度と喋らない、二度と動かない、摂理によって定められた結果(おわり)

 そんな一つの終焉(しゅうえん)を眺めたまま、リリスは憂いを帯びたつぶやきを漏らした。


『……せっかくティファ以外でリリスとお話してくれる人を見つけたのに……」


 リリスを友達と言ってくれた面白い人。

 自分が創った世界とは異なる世界から来た来訪者(まれびと)

 もっとお話したかった。彼の世界の事を知りたかった。

 そう思っているとリリスはある約束を思い出す。


「……あ! そう言えば助けるって約束したんだけ……』


 どうしよう、と悩んでいると、《希望(スペス)》の宝石がピコピコと点滅を繰り返した。


『えっ! 〝力を貸してくれたら、少年(白夜)を蘇生させられる〟でも《希望(スペス)》。貴方、彼女を封印してるじゃなかったの?』


 今度は《希望(スペス)》の宝石が激しく点滅を繰り返す。


『えっと、〝百年もこんな所にひとりでいたから寂しい、それに《傲慢(スペルビア)》がグチグチとうるさいからもうヤダ〟ふ~んあれ? でも《希望(スペス)》の力ってそんな事できたっけ?』


 リリスの問いに、ピコピコピッコンとモールス信号のように《希望(スペス)》は宝石を光らせる。


『ふんふんそっか、《希望(スペス)》の力じゃ《慈愛(カリタス)》のようにできないもんね……うん、良いよ。やろうか! (さいわ)いリリスの力の結晶がそこに在るしね』


 広場にある巨大な星晶石(エーテルライト)が一瞬、強く輝く。

 突如、死んだ白夜の手から長槍――《希望(スペス)》が離れ、宙に浮かぶ。

 そして《希望(スペス)》が輝き始めると、広場全体に白い光を放つ巨大な魔法陣が広がる。


『じゃあ白夜、お別れだね。今のリリスはこの世界に干渉できる場所が限られてるから、またお話しできるか分からないけど約束して』


 周囲のマナを取り込んで魔法陣の輝きが増していく。


『貴方はいつかリリスの世界で選択をする。その選択によって何度も挫折や後悔、痛い事や悲しい事をたくさん味わうと思う。でも――』


 魔法陣の魔力が白夜に集まり、傷付いた肉体を癒し始める。


『絶望しないで白夜。リリスの欠片――《希望(スペス)》が貴方の側にいるから』


 《希望(スペス)》がより強く輝き、白く輝く光の粒子となって自身を分解し始める。


『《希望(スペス)》がね〝(われ)が君の大切な者を守る盾になろう。未来を切り開く矛になろう。新たな心臓となろう。だから覚えおいてくれ。君には常に希望がついている〟って言ってる』


 白い光の粒子は、白夜の胸に空いた風穴から傷ついた心臓を再構築していく。


『リリスの代わりに《希望(スペス)》が白夜を助けてくれる。リリスの世界に住む住人達(すべ)てが、敵になっても、リリスと《希望(スペス)》は貴方の味方になってあげる。だから生きて……』


 広場にある巨大な結晶――星晶石(エーテルライト)が赤、桃、青、緑、紫、黄、橙、茶、白、灰、黒、金、銀、銅の十四色に光輝く光の粒子となって混じり合い、やがて天に昇る。


『リリスはもう一度、白夜とお話したいから、これが今のリリスに与えられる祝福だよ』


 十四色に輝く巨大な光の竜巻が夜の闇を照らし、雲を切り開く。そして全て色が混じり合う煌めく螺旋の塔が現れた。それはあたかも、天へ目指そうとするバベルの塔のようでもあった。


『バイバイ白夜、リリスの初めてお友達………そして十四人目のリリスの欠片の所持者、最後の〝神鍵の解放者(コードリベレーター)〟。リリスは揺り籃(・・・)の中で貴方を見守っているよ』


 その一言で光の塔を砕け散り、十四色に輝く雪が広場を空を満たして渦をつくる。

 直後、甲高い清音とともに収束するように白夜を包みこみ――光の繭が誕生する。


 ―――『親愛なる友に祝福あれヴェアトゥス・アガペー


 光の繭から硝子が砕け散るかのような音と閃光と共に弾け、一際(まばゆ)い光が広場全体に染め上げた。数秒後、十四色の極光に照らされた広場に静寂が戻った。そして光の繭があった場所――


 そこには、ドクン、ドクンと心臓の鼓動する白夜が静かな寝息を立てて眠っていた。


 その様子を広場の空に、(ただよ)う微か残った光の粒子からリリスは見届け、


『……無……成功……だね……夜………ばティフ………放者………全て集………ダメ……なん……ろう?』


 途切れ途切れに呟く。すると、森からヒューと風が吹き抜けて、残っていた光の粒子が散っていた。



 ◇ ◆ ◇ 



 頬に風を感じ、白夜は(まぶた)をゆっくりと開いた。

 目を覚ますと、まず視界に映ったのは、満天の星空に光る満月だった。

 次に気だるい体を起こす。草花に覆われた広場が目に入る。


「あれ? ここは何処だ? どうして僕はここに…………あ!?」


 この広場で起きた出来事を思い出した白夜は、慌てて自分の身体をぺたぺたと触り出す。自分が被った大怪我(胸の風穴)を確かめるためだ。

 血に汚れたフーデッドコート型の魔導具(レリック)《イカロス》、胸の部分に穴が空いた軽装鎧。

 ――だが、


「ない! 怪我がどこにもない!? あんな大怪我していたのにどうして? ………もしかして全部夢だった?」


 身体は傷一つない状況に、訳も分からず頭を悩ませた。

 しかしいくら考えたところで解らない。謎が深まるばかり。

 出口のない迷宮に迷い込んだ気分だ。


「……なら、仕方ないか。あれこれ考えても分からないし」


 とりあえず奇跡が起きて助かった、と考えよう。

 白夜は気持ちを切り替えることにした。


「まあ、助かったんだし。終わりよければすべてよしってね」


 しばらくして落ちついた白夜は一息入れ、立ち上がると。


「……取り合えず朝まで身を隠せる場所を探さないと」


 この広場だと丸見えだろうし、とお気楽な事を考える白夜は移動しようする。

 すると、正面の森の方から木々を薙ぎ倒しながら、


「シャアアアアアァァァァァ!」


 やっと見つけたぞ! と怒り心頭(しんとう)で睨みつけるミドガルズオルムが現れた。

 そして広場にその長い体躯(たいく)を見せつけながら、まっすぐ白夜に大口を開けて突っ込んでくる。


「ひぃぃ!?」


 それを見た白夜は後退(あとず)さろうとする。しかし足がもつれて、尻餅をついた。

 ミルドガルムオルムは絶好のチャンスとばかりに「シャアアアァァァア」と叫びながら飛び掛かってきた。


 ――その瞬間だった。


 突如、眼前の地面から強烈な光を放つ。

 それはこの世の穢れを打ち払うような純白の光。

 神聖と讃えるべき純白の魔法陣が出現する。


「――――――――」


 白夜の顔を(まぶ)しく照らす中、その魔法陣から人影が姿を現した。


「な!? だ、誰ッ!?」


 そこに居たのは小柄で、白銀に煌めく短髪(ショートヘア)に牡牛のような角を生やし、カンフー映画に出てきそうな武術服。その片腕に赤と黒の二本のバンダナを巻いた人物が、ゆらりゆらりとふらつく後ろ姿だった。


「シャアアアアアァァァァアア!!」


 構うものか、と白夜に飛び掛かっていたミドガルズオルムはその人物ごと食らおうする。


(――逃げ、いやダメだ、もう間に合わない……!)


 あわや、その巨大な顎門(あぎと)に呑み込まれると白夜は思った。――だが、


「――――――」


 一歩。白銀の髪をなびかせ、その人は力強く一歩、踏み込み――

 迫りくるミドガルズオルムの(あご)に右拳、鋭いアッパーカットを食らわせた。


 ドオォォォォーーンッッ!!!! 


 空気が弾けたような轟音を響かせ、砕けた(あご)の鱗を撒き散らす。


「ギシャアアアァァァァァァーーーーッッ!??」


 顎を砕かれた痛みに悲鳴をあげ、巨大なミドガルズオルムは上空に吹き飛んでいた。


 (う、嘘でしょう!?) 


 尻餅をつく白夜は口をパクパクさせる。

 そして、全長三十メートルぐらいある大蛇(ミドガルズオルム)を殴り飛ばしたその人物が――


(やかま)しいのじゃぁ貴様らっ! 人が気持ちよく寝ておるのに、耳元で騒いどる()れ者はどこのどいつじゃぁ!! ………うにゅ?」


 最初に出た言葉が、寝起きでイラついた一言だった。

 そして辺りを見渡し、後ろにいる白夜に気づき振り返る彼女――クロア。


 これが白夜の追憶(エピローグ)の終わり。そして――最弱の白(白夜)最強の黒(クロア)


 色彩(ふたり)の物語がここから始まった。


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