白と黒の序曲 《前編》
投稿が遅くてすみません。
日差しが降り注ぐカムランの陸港。専用停泊場に着陸した魔導船から下りた白夜は、蓮花達を捜すため周囲をぐるりと見渡す。
陸港からでも見える外壁。騎士団の駐屯地とその倉庫に荷物を搬入する荷馬車や全長三メートルぐらいの武骨な鎧――小型級魔導機兵が重そうな木箱を荷台に積み込んでいく。
そして敷地の端に、巨大な何かに締め付けられ破壊された中型級魔導機兵の残骸が放置されていた。僕はその側に知り合いを見つけた。
……あ! ゼル爺!
先程まで一緒だったゼルと一人の作業員と話し合う声が微かに聞こえてきた。
「なんじゃこりゃぁぁああ!? 頑丈な筈の魔導炉まで完全に潰れてるじゃねぇか! 何をしたら――――」
「カムラン渓谷の主、そいつの仕業らしいで――――」
遠くいる事と搬入作業よる喧騒で、二人の会話が上手く聞き取れなかった。
二人の話が気になり近付こうする。そこに僕を呼ぶ声が飛んできた。
「白夜君! こっちだよ! みんなが待ってるよ!」
元気よく左手を振り、笑顔で呼ぶドレスアーマーを身に付けた蓮花だった。
見た目は、白と桃色をベースに肩周りを露出させ、可憐さと動きやすさを備えた女騎士のようだ。
そのせいで周りで作業をする人達が、立ち止り可憐な彼女の姿に目を奪われた。
また、身体のごく一部を凝視した後、その右手に担いでいるものを見てギョッと目を丸くさせる。
「………うん、やっぱりアレを見たら誰もがそうなるよね」
僕はうんうんと頷き、蓮花が持つ魔導具に目を向ける。
柄の部分は蓮花と同じ身長ぐらいで、刃の部分は巨大で厳つい斧槍。
かなりの重量がありそうな見た目の《ジャンヌ・ダルク》を、片手一本で平然と担いでいれば、誰もがそうなるだろう。
注目を集める蓮花の側で他の皆を見つけた。
僕は歩きながら皆の姿を眺める。
白いとんがり帽子を被り、水色のケープを身に着け、白い魔女のような見た目の雪妃。先端に水色の宝珠が付いた長杖型の魔導具《マーリン》を握って、隣にいる桃子と楽しそうに防具を見せ合っていた。
「あはははっ♪ ユッキー似合ってよ! まさに雪の魔女ね♪」
「………喜んで良いか迷う褒め方ね。そう言う貴女も結構似合ってるわよ」
「でしょ~!」
黄緑色のジャケットを羽織り、腰のポーチ付きベルトには近未来的なデザインの砲銃型魔導具《アイザック・ニュートン》を帯銃したまま、くるりとスカートを浮かせて見せつける軽装姿の桃子。
そんな彼女達三人が身につける防具は共通しておしゃれな見た目だった。
しかし、侮ることなかれ。
見た目はアレだが、防具としての性能は折り紙つきである。
なにより、この異世界には恩恵――[耐久]のお陰で防御面に関して問題はないのだ。
何でも、[耐久]によって肉体を護る――防護障壁のような防御膜が形成されているそうだ。その為、高い[耐久]を持っていると剣で切られたとしても、かすり傷程度の傷しか負わないらしい。
おまけに、ある程度性能が良い防具なら[耐久]と相乗効果が発揮するそうだ。
ちなみに[耐久]が最高ランク(S)の場合、並みの武器では歯が立たず、逆に武器自体が砕けるらしい。
そんな蓮花、雪妃、桃子――三人のすぐ傍で、直樹と秋吉が彼女達の防具を見とれていた。
小手とダウンベストような防具を身に付け、分厚い両用剣型の魔導具《ベオウルフ》を背負う直樹がだらしない顔をする。
その隣で高そうな黒マント姿の秋吉。手に角笛型の魔導具《ヴァルデマー4世》を持って悔しそうに「アレはギャル子、アイツがあんなに可愛いなんて……」と呟いていた。
「…………やべぇ、何気無くうちの女子連中のレベルが高いぞ!」
「まあ、学校でもあの三人は美女選挙で上位に入るくらいだし」
「あーアレか! ………たしか美女選挙の一位は天城会長だったっけ?」
美女選挙。学校の男子の間で行われた非公式のミスコンの事を言っているのだろう。
「そうだよ、あ!? そういえば白夜って天城会長の弟だった!」
「おおおお! マジか!? クソ! あっちにいた時に白夜と仲良くなってれば、あわよくば天城会長を紹介してもらえば!」
余程、悔しいのか頭をかきむしる直樹だった。
「今更、後悔しても遅いよ~」
呆れたような眼差しで秋吉は息を吐いた。
……直樹、多分だけど紫姉さんに紹介したとしても脈はないよ。あの人、恋愛に関してはかなりシビアだから………。
残念だけど力になれないよ、と僕は内心そう謝罪した。
そして蓮花達のところに辿り着くと、
「遅いぞ天城! 俺達を待たせて何をしていたんだ!」
派手な青い鎧と赤いマント、腰に片手剣――聖王具《正義》を差した騎士、和馬が叫んできた。
「ご、ごめん和馬君!? みんなとは別の出口だから探すのに手間取って」
「違う! 俺が聞きたいのはどうして俺達を見つけた時に走って――」
目を尖らせ、謝る僕をさらに叱りつける。
この一ヶ月で和馬君は、ようやく僕のことを変態から名字で呼ぶようになった。だが、僕に対する態度は依然変わらず険悪な仲だが。
そんな中、蓮花と雪妃は、僕を庇うように前に出た。
「カズくん! 白夜君は私達と違って別の場所に居たんだから仕方ないよ!」
「和馬! 貴方、いい加減にしなさい! また白夜君に変な言い掛かりつけて、それを何度もやめなさいって言ったでしょッ!」
「なぁ!? 蓮花、雪妃どうして…………」
身を震わせる僕を守る二人を、和馬君は信じられないという瞳で見つめ、
「「………………」」
ただ黙って咎める蓮花や雪妃の視線に、堪えきれず和馬君は背を向ける。
「………分かった。――おい天城、次は気を付けろ!」
チッと忌々しそう舌打ちすると彼は一人でカムランの町に歩いて行く。
直樹は勝手に行く和馬君に気づき呼び止めようとする。
「おい和馬!? お前なに一人で勝手に………おい!」
「………あり得ない、どうして蓮花や雪妃までアイツに味方するんだ。《正義》に選ばれた俺の行いは全て正しい筈なのに」
ぶつぶつと呟く和馬君。その声に気付いていないか振り向きもせず先へ行ってしまう。
そんな彼の後ろ姿に、雪妃は呆れ果てた表情で、
「はあ……直樹君、秋吉君、それに桃子、三人とも悪いけど、あの和馬を追いかけてくれる。今の和馬を一人にすると確実に彼等と問題を起こすわ」
彼女がそうお願いすると、直樹は頭の掻き、仕方なさそう顔をする。
「――ったく、しょうがねぇな。秋吉! 桃子! あのバカを追いかけるぞ!」
「ああもう! ここにはあの三馬鹿を止めてくれるダリア達が居ないに!」
「うるさいわよオタ吉! 民を守るのが騎士の仕事なんだから仕方ないでしょ!」
「ぐぅ、分かったよギャル子! クソ!」
桃子の言葉に、口を尖らさせた秋吉は不満を漏らす。
そう。本来ならダリア達もカムラン渓谷に付いて来る予定だった。
しかし直前に、近隣の街で大規模な暴動が発生したと報告が入り、申し訳なさそうに彼女等は騎士団を率いて暴動が起きた街へ向かった。
その為、ダリア達は此処には遅れてやってくるそうだ。
「ったく、じゃあユッキー、レンカっち、ハクヤっち渓谷の入り口で待ってるから!」
僕達に手を振り桃子、秋吉、直樹の三人は和馬君を追いかけカムラン街に向かった。
直樹達の後ろ姿を見つめながら雪妃は嘆息する。
「…………まったくあの時の誤解が解けたは良いけど、あの事を知ってますます頭がおかしくになっているわ」
「うん、カズくん、あの日から段々と人を見下すようになってきたの。私、今のカズくんは嫌いかな」
悲しそうな顔でうつむく蓮花だった。
シャルバ達を懲らしめた日から一ヶ月、和馬君の頭の病気に対する誤解が解けたのは良いが、彼はその日から、日に日に態度を大きくなっていた。
そんなある日、とある情報を知ってから、和馬君は先のような横暴な振る舞いをするようになったのだ。
「………それと白夜君、どうして貴方達男子は私を名前から委員長に戻ってるの?」
すごく嫌そうな顔で尋ねる委員長、恐らく大体の予想がついているんだろう。
そんな彼女の予想を、僕は肯定し答えを言った。
「和馬君が〝気安く雪妃の名前で呼ぶな!〟って《正義》をちらつかせて僕達を脅してくるんだ」
まあ、アレは好きな子に対する独占欲からきた衝動なんだろう。
すると、片手で白いとんがり帽子を深く被り、顔を隠した委員長はわなわなと震え――
「あの馬鹿! 七徳大聖だからって、周りからチラホラされて調子に乗るだけじゃなく、白夜君達に迷惑かけて一体何を考えているよっ!! 自分は選ばれた存在だから何やっても赦されると思ってるのっ?! 周りの連中も連中で本当にいい加減――――」
僕と蓮花の前で、今まで溜めていた愚痴を漏らし始める。
この一ヶ月、貴族や兵士に崇められる和馬君に対して相当ストレスを溜めていたようだ。
――それから、五分後。
スッキリした笑顔で委員長は頭を下げた。
「ごめんない白夜君……後で直樹君や秋吉君にも謝っておくわ」
「あはは、大丈夫だよ僕達は気にしていないから」
「それなら良かったわ。じゃあ白夜君、蓮花、渓谷の入り口に行きましょうか」
そう言って委員長は歩きだす。溜まっていたものを吐き出したお陰で大分楽になったんだろう、と思う僕の前で彼女は蓮花に顔を向け――
「あ! そうだ蓮花、その《ジャンヌ・ダルク》でバ和馬を頭から思いきりぶん殴ってくれる。多分それであの横暴な態度も治る筈よ」
「任せてユキちゃん! 態度の悪い今のカズくんにハリセンみたいにバシッと叩けばいいんだね!」
蓮花はそう答え《ジャンヌ・ダルク》をブンブンと素振りをする。
……蓮花、そんな巨大な斧槍じゃバシッじゃなくグシャッと頭を潰れるよ。
それよりも委員長、笑顔なのに恐い! まだ怒りが収まっていないらしい。
ビキッと青筋を立てて笑みを浮かべる彼女から距離を取る僕。
すると、蓮花が素振りをやめて、クルリと舞うように振り向き、ドレスアーマーのスカートを片方をつまみ、
「白夜君、どうかな私の防具?」
頬を赤くして恥ずかしそうに彼女は感想を求めてきた。
その背中に巨大な斧槍を隠しきれていないが、それでも何処かの姫様ような可憐な騎士の姿に目を見開き、僕は赤面しながら。
「色々とツッコミたいことはあるけど……凄く可愛いよ蓮花」
「エヘヘ♪ ありがとう白夜君」
僕の祖直な答えに、蓮花はお日様ような笑顔を浮かべ、二人は視線を交わし合う。
そこに先に歩く委員長は白けたのか呆れたため息をこぼす。
「貴方達……そこでずっとラブコメする気? さっきから作業している人達の邪魔になってるんだから、早くみんなと合流するわよ」
そう言われて、初めて周囲の人達から鬱陶しいそうに突き刺さる視線に気付いた。
僕は苦笑いを浮かべて頷く。
「はは、そうだね!? じゃあ行こうか」
「うん!」
僕達はカムランの街へ歩き出した。
◇ ◆ ◇
魔境であるカムラン渓谷の麓に作られたカムランの街は、魔物の襲撃から街を守ることを重点的に置いた石造り街だった。
そんな石造り街中を三十分歩き、がやがやと喧騒が響くカムラン渓谷の入り口広場に辿り着いた。武器を携えた多くの冒険者達が行き交う広場。その一角に人だかりが出来ていた。そして、その人だかりの中から聞き慣れた声が――
「ふざけるな! カムラン渓谷の鍵を手に入れるのは聖王具《正義》に選ばれた救世主である俺だ! 他国の紛いものとは格が違うんだ!」
「馬鹿ッ! 無駄にデブ王子を挑発するな! 無視しろこんな奴」
声を聞いた白夜達はその人だかりを押しのけ、様子が分かるところまで進む。すると、そこには直樹に羽交い締めされた和馬が、シャルバ達と揉めているのを目にする。
「はっ! 紛いものだと? それは貴様の事を言っているか《正義》の七徳大聖?」
豪華な見た目の防具を着たシャルバは、和馬を見下し嘲り笑う。
「貴様が紛いものと呼んだ者達は既に他国で活躍しているのに、貴様はこの一ヶ月、何をしていたんだ?」
「な!? ま、まだ何もしていないが……だが俺は! いずれ七罪魔王を全て倒して残りの鍵を手に入れる。そしてエデンに封印された女神を解放し、この世界を救ってみせてやる!」
勢いよく言い切る和馬を、太っているシャルバはその豚鼻で笑った。
「ふっ、随分な大言壮語だな。まあいい、俺様達はこれでも忙しい身でなぁ、ここで遊んでる暇はない。今日は見逃してやるから感謝しろ。――行くぞ!」
と、高そうな武器と防具を装備した二人の取り巻きを連れてカムラン渓谷に向かって行く。
「待てッ! まだ話は終わってな――」
「もう終わってるじゃない和馬」
羽交い締めされながらもシャルバ達を追おうとする和馬を、合流した雪妃が止める。
そのすぐ後、白夜、蓮花も入り口に集まる皆と合流する。
「また三馬鹿に他国の勇者……七徳大聖と比較されたの?」
和馬を呆れ気味に見つめながら雪妃はそう問いかける。
そう。とある情報というのがデーヴァ帝国とプロテスト教国に召喚した勇者達の事だ。どうやらその勇者達の中に、二国が所有する聖王具に選ばれ七徳大聖となった勇者がいるらしい。
余談だが、この異世界では勇者よりも七徳大聖の方が人々から敬われている。
女神に選ばれた存在。そういう宗教的観点も要因の一つでもあり、歴代の七徳大聖の逸話や英雄譚が世界各地に数多く存在することも理由の一つだ。
故に、七徳大聖は勇者的な役割を担う存在として認識されている。
まさに異世界ならではの価値観――カルチャーギャプの一言である。
「ああ、あのデブ王子。自分じゃあ和馬に勝てねぇからって姑息な嫌がらせをしやがる」
和馬を羽交い締めから解放した直樹が疲れた表情で頷く。
「それはまた……ご愁傷様」
「………なあ、雪妃? 俺はその七徳大……他の二人に劣っていないよな?」
弱りきった和馬の問いに、「そうね」と雪妃は肩をすくめた。
「さあ? 知らないわ。少なくとも、私は自分の目で確認しない限り判断しないようにしているわ」
「じゃあ七罪魔王を倒すいう俺の目的は間違いなのか?」
「ええ、それは間違っているわ」
キッパリと言い切る雪妃。白夜達は驚きを隠せなかった。
「なぁ!?」
「「「「えええ!?」」」」
ふふふ、と雪妃は微笑を浮かべながら手をヒラヒラさせ、
「落ち着いて、私が言いたいのは和馬一人の目的じゃなく私達、みんなの目的でしょう。七罪魔王を倒して十四個の鍵を集め女神を解放する。それが唯一、私達が元の世界に帰る方法なんだから」
それがピエール大司教によって教えられた元の世界に帰る唯一の方法だった。
あの時の大司教は『勇者を召喚したのが女神イヴなら送還できるのも、また女神しかいないのです』と言った。
「そうだ! だから俺は雪妃や蓮花………みんなのために」
「気持ちだけ貰っておくわ和馬」
確かに道理は通っているし、他に元の世界に帰る方法を自分達は見つけられなかった。だから、白夜達はそれを信じることにした。
「それにダリアとの約束を果たすには、必然的に憤怒の魔王を倒さないといけないわ」
「結果的に一石二鳥ってことだね、委員長」
白夜がそう言うと「ええ、そうね」と雪妃は微笑み頷く。そしてみんなを見回す。
「それじゃみんな、そろそろカムラン渓谷に出発しましょう! 今日は下見程度だから奥まで行かないけど油断しちゃダメよっ!」
「「「「おおー!」」」」
雪妃の掛け声に、白夜達は気合いを入った声で答え、カムラン渓谷に足を踏み入れた。
◇ ◆ ◇
〝カムラン渓谷〟は百年前、かの亡国と傲慢の魔王との戦いで出来た魔境である。
この魔境はオルレアン王国において五本の指に入る程の魔物の巣窟と言われ、同時に貴重な素材と質の良い魔石が手に入る場所でもあった。
また奥に行くほど魔物が強くなり、その最深部には、かの魔王を討ち取ったとされる《希望》と魔王が持っていた《傲慢》。二つの鍵が眠っていると云われている。
そのカムラン渓谷に入って大体、三時間ぐらい過ぎた頃。
白夜達は襲い掛かる多くの魔物達を倒しながら徐々に奥へ進んでいた。
そして今、自分達は木々が生い茂る、森の中で七匹の魔物と戦闘中だった。
「はああああ! ――戦技『疾風斬』!」
雄叫びを上げながら和馬は握っている《正義》から――橙色に煌めく一閃。
「キャンンンンゥゥゥ!?」
額に短い一角の生えた大型犬サイズの狼――ホーンウルフの首が宙に舞う。
次っ! と和馬はもう一匹のホーンウルフに斬りかかる。
「ブモオォォォォッ!」
その近くで、軽自動車並みの巨大イノシシ――ワイルドボアを、直樹と蓮花の二人で協力して戦っていた。
「おら、食らえ、イノシシ野郎! ――戦技『パワースラッシュ』!」
直樹は《ベオウルフ》でワイルドボアの横腹に袈裟斬りを放つ。
「ブボオオオオオォォォォォ!?」
「今だお嬢っ!」
ワイルドボアの正面。ジャンプをした蓮花は振り上げた《ジャンヌ・ダルク》を力強く振り下ろす。
「えええいいぃぃぃ! ――戦技『大切断』!」
「ブギャァ!?」
ドゴオォォォォーーォン!
轟音と共に《ジャンヌ・ダルク》の分厚い刃によってワイルドボアが真っ二つになる。
二つに分かれたワイルドボアの身体からドバドバと真紅の水が地面に広がっていく。
蓮花は赤く汚れた地面に深く刺さる《ジャンヌ・ダルク》を引き抜こうとする。
「よいしょ……」
「ウオオオオオォォォン!」
「お嬢!? あぶね――」
木の影に潜んでいたホーンウルフが飛び掛かる。そこを――
「――戦技『スナイプショット』」
「キャワン!?」
一筋の魔力弾が、そのホーンウルフの顔面に命中し吹き飛ばした。
《アイザック・ニュートン》を構えた桃子の援護に、助けられた蓮花は嬉しそうにブンブンと片手を振る。
「ありがとう桃子ちゃん!」
「ふふん♪ 気にしないでレンカっち、援護は全部あたしに任せてなさい」
ふふ~ん、と上機嫌な桃子は後衛の二人――雪妃と秋吉を守る白夜と対峙する三匹のホーンウルフ。その内、一匹を狙い撃つ。
そこを白夜が手に持つ槍で――
「えい!」
撃たれ怯んだホーンウルフに素早くトドメを刺す。
「キャワンンン!?」
「ガウゥ!」
仲間を犠牲にして一匹のホーンウルフが白夜に飛び掛かる。
が、白夜は倒したホーンウルフに深く突き刺さる槍を手離しスキルを唱える。
「――『変更』! やあぁぁぁぁっ!」
「キャッン!?」
【変更】――携帯している武器を取り換えるスキルである。
右手に腰の片手剣が現れた。白夜はそれを握ると力強く片手剣を振り抜き、飛び掛かるホーンウルフをはじき返す。
「白夜君! 魔物たちを一ヶ所に集めて!」
と、白夜の後ろで雪妃と秋吉が魔法詠唱を始める。
「分かったよ委員長! ――『投擲』!」
【投擲】――投げる物の命中率と威力を上げるスキルである。
返事とともに持っていた片手剣を思いきり振りかぶり、倒れているホーンウルフに投げつけた。
「ガアゥ! ガルルルル!」
迫り来る片手剣を野生の勘で立ち上がり避けるホーンウルフ。そして仲間のホーンウルフと合流し、白夜を吠えて威嚇する。白夜は足下の槍を見つめ、
「『盗取』――委員長! 魔物を集めたよ!」
【盗取】――視界に入る三メートル以内のアイテムを盗み取るスキル。ただし成功率は[幸運]に依存する。
足下の槍が消え、白夜は手にした槍を掴み、二匹のホーンウルフに向けて槍を構えた。
「ありがとう! 秋吉君、タイミングを合わせて」
「任せて委員長! 土よ・魔物を拘束せよ――『アース・バインド』」
秋吉は左手をかざし、二匹のホーンウルフに向けて土属性魔法を放つ。
地面から土が盛り上がり、二匹に纏まり付き拘束。
そこを《マーリン》を突き出した雪妃が準備していた魔法を発動させる。
「突き刺さりなさい――『アイスランス』!」
空中に鋭く尖った太い氷の槍を複数産み出し放つ。
放たれた氷槍が二匹のホーンウルフに突き刺さり絶命する。
そして最後に残ったホーンウルフが「キャァン!?」と悲鳴を上げ倒れた。
ようやく戦い終えた白夜達は、その場で周りに注意を払いつつ一息つく。
「とりあえずみんな。今日はここまでして休憩した後、街に戻りましょう」
疲れた表情の雪妃は肩を揉みながら声を掛けた。
「賛成! 今日はもう帰ろ。服が汗でベトベトであたし早くお風呂に入りたいし!」
そう言って桃子が大胆に胸元をバタバタさせる。和馬、直樹、秋吉はそんな彼女の胸元につい、チラチラと覗き見ていた。
(………秋吉、そんなにもまじまじと凝視したら……)
白夜もそっちに目を向けようとする。ところが――
ドーンと目の前に分厚い刃、《ジャンヌ・ダルク》が地面に突き刺さる。
白夜は「ひぃ!?」と口から悲鳴を漏らし、ニコニコと微笑む蓮花の顔が目に映る。
「………白夜君、《ジャンヌ・ダルク》の整備をお願いしても良いかな?」
「あ、はい!? 直樹! 魔導具の整備するから《ベオウルフ》を貸して、他のみんなの魔導具は街の宿で整備するよ!」
「お、おう!? こいつを頼むぜ白夜!」
微笑む蓮花の迫力に冷や汗をかきながら、直樹から《ベオウルフ》を受け取り地面に置く。そして――
「『調整』」
【調整】――魔導技術で作られた物や魔道具などを手入れするスキルである。更にこのスキル系統が唯一〝銘入り〟――生存する所持者から魔導具の登録をリセットすることができるのだ。
スキルを唱えた直後、宙に操作盤一体型の表示枠が展開する。
同時に《ジャンヌ・ダルク》と《ベオウルフ》の一部がカシャッと開く。そこには魔導具の心臓部、クリスタル型の魔導炉――霊核魔導炉が存在した。
〝魔導炉〟とは、大気中のマナを取り込み膨大な魔力を生成する動力装置である。
そして魔導具に組み込まれた霊核魔導炉は特別製で、統御機能と魔導炉が一体化しているタイプらしい。
そこから白夜は表示枠を操作しながら、表示されたそれぞれのパラメーターを調整する。主に霊核魔導炉の出力系の調整や耐久度の回復など。
魔導具も所詮は武器や防具――道具なのだ。しっかりと手入れをしないと不備が生じ壊れてしまう可能性があるそうだ。
そんな魔導具のメンテナンス作業する白夜の姿を、雪妃はチラリと見て、
「そう、分かったわ。じゃあ私達は倒した魔物の魔石と素材の剥ぎ取りね」
「うげ!? あたしパス! オタ吉、あんた《冥将軍》なんだから得意でしょう? それにあんた……人の胸元をガン見したんだから嫌とは言わないでしょうね?」
「げぇ!?」
なんで気付かれた、と驚く秋吉に、桃子はジト目で睨む。
「………あれだけガン見してたら普通気付くわよ。まあ、そう言うことだからオタ吉! しっかりとあたしの分まで働きなさい!」
「チッ、分かったよ!」
そう言葉を残し桃子は、白夜が行っている作業を見学しに来た。
秋吉はしぶしぶ倒した魔物から素材となる部分を剥ぎ取っていく。
雪妃は素材を剥ぎ取った魔物を魔法で凍らせながら、周囲を警戒する和馬の方に振り向き、
「和馬! 貴方の聖王具も整備しなくても良いの? 一応、それも魔導具の類いなんでしょ?」
「ふっ、心配しなくて良いぞ雪妃。女神の力が宿る聖王具には自己修復機能があるんだ。だから、俺の《正義》は常に万全の状態で使える。整備する必要性がないのさ」
「あ、そう……」
自信満々な和馬の答えに、心底どうでも良さそうに雪妃は凍らせる作業を再開した。
その答えに蓮花、直樹、桃子は首を傾げ、調整中の白夜に訊いてきた。
「ねぇ、ハクヤっち。さっきカズまっちが言った事は事実なの?」
「う~ん? そこは僕にも分からないけど、魔導具が作られた旧文明は高度な文明だったらしいんだ。だから、人間並みの知性を持つ人工知能が在っても不思議じゃないよ」
「ああ、確かにロボット同士が普通に戦うのを観てるとあるかもな」
五日前に見学した中型級魔導機兵《マーリク》同士の模擬戦のことを言ってのだろう。
「まあ、今の技術じゃ魔導具や魔導炉は作れないらしいから。実際、現在ある魔導機兵を修理するなり改修するなりして再利用するしかないんだって」
「それを改めて聞くと大昔に作られた魔導具や鍵ってすごいだね、白夜君!」
「うん、そうだね蓮花。魔導具自体まだ解明できない部分もあるらしいし、旧文明がどれだけ超高度な文明を持っていたのかよく分かるよ」
そう言うと蓮花は、旧文明の遺産である自分の魔導具《ジャンヌ・ダルク》を見つめる。
(……まあ、鍵である聖王具にも、まだ隠された機能や能力が存在する可能性があるってゼル爺が言ってたけど)
ゼル爺の言葉を思い出しながら白夜は、《ジャンヌ・ダルク》と《ベオウルフ》のパラメーター画面を消すと開いていた心臓部――霊核魔導炉がカチッと音を立てて閉じた。
「はい、二人とも魔導具の調整が終わったよ」
「ありがとう白夜君!」
「おう、ワリぃな」
整備を終えた《ジャンヌ・ダルク》と《ベオウルフ》を蓮花と直樹に返す。
丁度、剥ぎ取り作業を終えた雪妃と秋吉が近寄ってきた。
「それじゃ、残った魔物の死骸を白夜君が回収次第みんな帰り――」
――その時だ。正面、中層の林からガサガサと音を立って三人の冒険者が飛び出してきた。
「「「!?」」」
突然現れた三人はハァーハァーと荒い息を漏らしつつ、その場で座り込んだ。
そんなボロボロに汚れた三人を、皆は警戒しながら覗き込むと、そこには。
「「「「……あ!? 三馬鹿!」」」」
魔境の入り口で会ったシャルバと取り巻きの少年二人。
豪華だった防具は見る影もなく破れ、土に汚れてボロボロであった。
そんな彼等は顔を青白くさせ、白夜達に叫んできた。
「おお、お前達た、助けてくれ!? 早くしないとヤツが! 早く俺様達を連れて街へ――」
「おい? 何を慌ててるんだデブ王子。それにヤツって誰のこと……!?」
恐怖のあまり混乱状態のシャルバに、一歩踏み出そうとする和馬が立ち止まり上を向いた。
「――え?」
白夜もつられて上を向く。橙色の鱗に巨大な牙、ギョロりとした瞳、全長三十メートルもありそうな長い体躯――そんな大蛇の魔獣が白夜達をジッと見据えていたのである。
「あああ、魔獣ミ、ミドガルズオルム!? カムラン渓谷の主がなんでまだ追ってきてるだぁ!?」
大蛇の魔獣に気付いたシャルバは這いつくばりながら震える声でそう漏らすと――
「シャアアアアァァァァァァッ!」
「「「ひぃぃぃぃ!!」」」
ミドガルズオルムは大声で威嚇しながら木々をなぎ倒し、森から這い出る。それを見て悲鳴を上げるシャルバ達三人。
そしてミドガルズオルムはその巨大な図体を現し、白夜達と対峙するのであった。




