正義と未来への一歩
「貴様! よくも俺様に手を出したな!」
和馬の目の前で、怒り狂うシャルバは指を突き出す。それと同時に子分の二人、大柄の少年オルガは殴り掛かる準備をして、小柄の少年ライクは何時でも魔法を撃てる構えを取っていた。
そんな三人に包囲されていると、
「次期国王である俺様に手を出せばどうなるか教え………うん?」
まじまじとデブ王子が俺の顔を見てきた。
「お前、あの時の《騎士王》の勇者か!?」
そして俺の事を今思い出したかのようにデブ王子が叫んだ。
デブ王子達に囲まれた俺は「はあー」と溜息を漏らす。
「上杉・和馬だ。人の名前ぐらい覚えたらどうだデブ王子?」
「お前もだろ!」と離れている雪妃達からツッコミが飛んできた。
……何言ってるんだあいつら? 時と場合を考えろよ。
呆れ果てる俺に、自分の正体を知ったデブ王子の子分達が慌てふためく。
「な、あの王者級クラスの!? ヤバイですよシャルバ様! 最高位クラス相手になんて勝てませんよ!」
「それに奴は七徳大聖〈正義〉の継承者です! もし彼に何かあれば陛下が黙っていません! 諦めましょう、シャルバ様!」
「オルガの言う通りです。まだ何もしていませんし、ここは逃げましょうシャルバ様!」
必死にデブ王子を説得する二人の子分。
二人の言葉に苦笑する俺は彼等の物言いに便乗する。
「だそうだデブ王子。お得意の権力は俺には通じない、この場で二度と蓮花達に近寄らないと誓うなら見逃してやる」
それを聞いたデブ王子は頭から湯気を立て地団駄を踏み始めた。
そんなデブ王子の様子に子分の二人は怯え、
「ふざけるなッ! 何が《騎士王》だ! 何が七徳大聖だ! 所詮カビの生えた古臭い伝承だろう! オルレアンの次期国王たる俺様が負ける筈がないッ!!」
ビシッとこちらを指差し、
「大方、先人どもが有ること無いこと吹き込んだ虚言に決まっている。そんな力が有るなら見せてみろッ!!」
はぁ、はぁと息継ぎしつつ、興奮したデブ王子は挑発する。
それに対し俺は右手の突き出す。
「なら見せてやるデブ王子。お前が虚言と言ったあいつ、《正義》の力を――『聖王武装 』!」
叫んだ瞬間、俺の右手から橙色の光が発生。両刃の剣へと形を変えていく。
その場にいた全員は橙色に輝く片手剣に目を見張る。
「「「「なぁ!?」」」」
俺の右手に聖王具《正義》を握った後、地面に刃を突き刺す。そして厳しい表情でデブ王子を見据え――
「……最後に警告だ。俺の前から消えろ。そして二度と蓮花に関わるな!」
俺の最終勧告に、ギリッと奥歯を噛み締めデブ王子は涙目で睨み返す。しかし、その膝はガクガクと震えていた。
「ふ、ふざけるな! お、おれ、様は次代のこ、国王だぞ! そ、んな脅しに屈するか!」
「「シャルバ様!?」」
それなりに王族のプライドあるらしい。
子分二人は顔を見合わせ、虚勢を張るデブ王子から離れていたのに。
逃げる二人の見て俺は、その場に残り意地を張るデブ王子を多少は見直す。
「……ああ、そうか。なら、正義の名の元に罪を暴け――」
光剣乱舞
「『審判を降す正義の剣』!」
《正義》を中心に橙色の光の粒子が広がり、城を全体を包み込むフィールドを形成する。同時に、頭上高くに天秤と剣が合わさった橙色の巨大な光の剣が一本現れ、その周囲に無数のロングソード――橙色の光剣が乱れ尽くす。
「「「「………………………」」」」
空にできた光景に全員、口を開け立ち尽くし。また城内から悲鳴や叫び声があちこちに聞こえてきた。
「これが聖王具《正義》が持つ権能の一つ――【審判】の概念。〝あらゆる存在の罪を暴き裁きを降す〟その力を魔導技として昇華したものだ。この魔導技は、対象の罪の重さによって威力が変わり、より重い罪を犯しているなら肉体を消滅させる……」
そう言うと俺は空いてる片手を上げ、デブ王子を睨み付ける。
「さあ、覚悟いいなデブ王子!」
「うぐっぅぅぅ………俺様は!」
悔しがるデブ王子、その場から動こうせず俺を親の仇ように睨み返す。
緊迫した空気が漂う中、俺は腕を降り下ろそうとした瞬間だった。
「「お待ちください、〈正義〉様ッ!!」」
逃げた筈の二人の子分が、俺の前に飛び出し地面に跪く。
「どうかシャルバ様をお許しください〈正義〉様!? 私はどうなって構いませんから、何卒シャルバ様のお命だけは!」
「自分もです! あのレンカと言う娘や他の勇者達、もちろん彼に近付きませんからどうかお力を納めてください! お願いします!!」
「お、お前達!?」
「…………………」
二人の土下座を眺めながら俺は片手を横に降り、空を覆い尽くす光の剣を霧散させる。
「………良いだろう。そこの二人に免じて許してやる」
「「〈正義〉様!」」
泣きはらんだ目で嬉れしそうに子分達が頭を上げたその時だ。
「ただし!」
「「「……っ!?」」」
「そこのデブ王子はしっかりと皆の前で謝ってもらう。そこの子分達と同じ格好でだ、それが条件だ!」
二人の謝罪を受け入れた俺は、デブ王子にもその二人と同じ土下座を要求する。
傲慢なこいつを反省させ、尚且つ屈辱を与えるにはこれだろうと思った。その証拠に、
「ふ、ふ、ふざけるな!」
グッと拳を握り締め、デブ王子は唾を飛ばしながら吠えてきた。
「……もう一度、魔導技を使うぞ。次は止めない」
「ぐぅ!?」
冷徹に宣言を告げ、冷たい眼差しでデブ王子を睨み付ける。
「シャルバ様! ここはあの方の言う通りに」
「そうです! 時には誤りを認めるのも次代の王して必要です!」
「しかし、お前達!」
葛藤するデブ王子を子分達が必死に宥めていた。
………はぁ~、いい加減にしろよ。力の差がはっきりとしてるだろう。
心の中で溜息を吐いた俺は皆がいる方を覗いてみる。
両手を顔に覆う雪妃から「完全にあた……」と微かに聞こえ、そこを蓮花達が必死に慰めていた。
………それにさっきからなんであの変態、ずっと俺を見てるんだ?
そう思っていると、
「絶対にいやだだぁぁぁぁぁーーーっ!!」
いきなりデブ王子が絶叫を上げた。
何事だ、と俺は視線を戻すと、アイツの後ろに彼女がいた。
「「シャ、シャルバ様!? ――あ!」」
「どいつもこいつも俺様を邪魔をしやがってッ! そこの七徳勇者と言いあのハリボテ勇者や嫁き遅れて暴力脳筋姉も!」
二人の子分共々、デブ王子の後ろにいる彼女が口をひん曲げるのを目撃する。
「ほう、誰が嫁き遅れで暴力脳筋姉なんだ? 我が身に・より強き力を――『パワー・ブースト』」
「そんなもの我が姉、ダリアに決まっている! あの女は何かと俺様を殴るし! ダイエットと称して頭がおかしい訓練をさせやがる!」
デブ王子の暴言に、彼女はブルブルと震え、次々と額に青筋を立てていく。
そんな彼女を見て子分達は、口をあわあわと動かし青ざめていく。
「あいつの脳みそは全て筋――うん? お前達、どうし――」
「どうした? 続きを言ったらどうだ愚弟? ――『魔導剣』」
「――ッ!?」
烈風を纏うダリアは、ガシッとデブ王子の後頭部を鷲掴み、メキメキを音を立て締め上げる。
そんな彼女をよく見ると、左手に大きなバスケットを持っていた。そしてその後ろにいるジルバートも片手にバスケットを持って「あらら」と顔に片手に添えていた。
どうやらダリア達が居なくなったのは、昼の弁当を取りに行っていたからのようだ。
◇ ◆ ◇
ダリアは持っていたバスケットをジルバートに預け、右手に徐々を力を込めいく。
「いだあああぁぁぁぁああ!?」
「おい愚弟! なんでお前達が此処にいる? それに先程の光景はなんだ。こ・た・え・ろ!」
「ダリアさまぁぁーーッ!? 潰れちゃいます! それ以上、力を込めればシャルバ様の頭がグシャッと潰れてしまいます!?」
「全て話しますから!? シャルバ様の頭から手を放して下さい!」
「…………なら、話せお前達。此処で何があった?」
「「実は……………」」
右手から愚弟を解放し、愚弟の取り巻き――ライクとオルガに事情をこと細かく白状させた。
そして私は、フゥと溜息を漏らし愚弟の両肩を掴み。
「成程。…………つまりこの騒ぎの原因は愚弟。全部貴様の所為だろぉぉぉぉぉぉ!!」
「ぎゃあぁあああああああ―――――っ!?」
グルグルと回りハンマー投げのように愚弟を城壁の向こう側に放り投げた。
「そのまま堀で頭を冷やしてこいぃぃぃ!!」
「「シャルバ様ぁぁぁぁぁ!?」」
ライクとオルガの二人は急ぎ城壁の外に向かうと、ドボッーーンと水が跳ねる音が聞こえた。
「まったくあの愚弟は! 無駄に悪知恵だけつけよってジル! カズマ殿! 皆の所に行くぞ!」
私は嘆息をつきながら、ハクヤ達の元に歩み始める。
「は~い。こういう時は明るく騒いで食べるのが一番~よ姫様。カズマくんも来なさい沢山作ったのよ!」
バスケットを掲げ、クネクネとカズマに近寄る。
近寄るジルに、カズマは怯えながら距離を取った。
「そ、それジルバートさんが作ったのか?」
「そう、姫様の花嫁修業の一環にね♪ もっと近く見ても良いわ~よ」
「遠慮します! じゃあ俺、先にみんなの所に行きます!」
迫りくるジルから、カズマは駆け足で去っていく。
「あ~ら、残念だわ」
「なにやってるだジル! まったく……ん?」
正面を見ると、カズマを囲い、暖かく慰めているユキ達を目撃した。
◇ ◆ ◇
白夜の目の前で皆が和馬を囲い、それぞれの言葉を掛けていた。
「凄いじゃん、カズまっち! ……うん。だから、今日はもう休んだ方がいいよ。あたしからダリアに頼んでみるからさ」
「うん? ああ、ありがとうでも俺、そこまで疲れていないが?」
桃子に背中を撫でられて、「どうしたんだ」と首を傾ける和馬。
そんな和馬の肩を、直樹は笑みを浮かべて叩く。
「おう、桃子の言う通りだ。和馬、お前はよく頑張った………だから、もう休め」
「凄いよ和馬! そんなに成るまで頑張るなんて、ボクは感動したよ!」
何を感動したのか秋吉は、腕で涙を拭いながら言った。
「ええ、素晴らしい勇姿でした。だから任せてください! 必ずや名医を探してきます!」
次に真剣な表情のジャンは片手を自分の胸に叩く。
「別に怪我はしていないだが? はっ! まさか!? 蓮花が怪我をしたのか!?」
辺りをキョロキョロと見渡し、蓮花を発見すると駆け足で駆け寄った。
「大丈夫なのか、蓮花!?」
「え? うん、大丈夫だけど、カズくんの方は大丈夫なの?」
目をパチパチさせる和馬。すると、屈託のない笑みを浮かべ、
「ははは! 俺があんな奴ら相手に怪我なんてしないさ」
「………本当に大丈夫なのね、和馬?」
そう声をかける雪妃は潤んだ瞳で和馬を見つめる。
「――っ!? ………雪妃」
彼女の瞳を見て、和馬はキメ顔で片手で髪を梳くってウズウズする。
それを眺めて白夜は思った。
何か的外れな展開を期待しているようだ、と。
「………和馬、本当にあたま大丈夫なの?」
「頭? 別に問題ないが、それより他に言うことはないのか? 好きとか惚れたとか!」
「………そう自覚がないのね」
うっ!? と彼女は口を抑え、
「ごめんない私、今のあなたをまともに見れないわ」
「あ!? 待ってくれ、雪妃!」
そう言って雪妃は去っていく。手を伸ばしたまま和馬は意味分からず立ち止まる。
互いに話が食い違っている感じだ。
そこをダリアとジルバートがバスケットを掲げ、話しかけてくる。
「おーい! 皆、弁当を持ってきたからランチにしよう」
「沢山あるから好きなものを食べていいわよ♪」
「「「おおー!」」」
歓声をあげ、皆はすぐに二人の元に集まり。バスケットから、好きなパンやサンドイッチなどを食べ始める。
そんな中、まったく動こうとしない白夜を、心配そうな顔で蓮花が誘いにきた。
「白夜君! お昼食べないの? 早く行かないとお昼ご飯が無くなるよ」
「……ごめん、蓮花。まだお腹すいてないんだ。だから走ってくる」
「え? あ!? 白夜君!」
その場に蓮花を置いて白夜は何処かへ走り去っていた。
◇ ◆ ◇
……畜生! 畜生! なんで僕は弱いんだ!
訓練場から逃げるように白夜は走りながら、そう思った。
脳裏に浮かぶ。僕をダシに蓮花を脅すシャルバ。そんな連中から蓮花を助ける和馬君の姿。そしてシャルバ達を屈服させたあの光景が。
自分の心に激しい憤りが渦巻く。
不公平だ! 和馬君は王者級クラスでおまけに聖王具に選ばれて、他のみんなだって英雄級クラスなのに、よりによって僕だけが下級クラスなんだ!
生まれつきの天才、恵まれた才能、そんな人物がいつも僕から全てを持ち去っていく。
「何時だってそうだ! 僕の周りは才能に恵まれた人ばかりで………それでも」
城壁を沿ってただひたすら走る。途中で見覚えある鎧を身に付けた兵士に呼び止められたが、構わず走り去った。
――それでも一番悔しいのは、
「蓮花を助れず、ただ助けられてばかりの、情けない僕自身だ!」
これじゃ彼女に答えを返すなんて一生出来ない。
だからこそ、己は青く彩る天空に向かって願った。
「人々を救う勇者になれなくても良い! たった一人の女の子を守れるくらい。どんな理不尽でも護れるくらい強くなりたい! だから女神や魔神、魔王だっていい僕に強くなる希望を下さい!」
腹の底からくる感情を制御できず叫び出す。
「うわあああああああああああああああああーーーー!」
僕の叫びは城に響き、目から涙が溢れ行き先もなく走り続けた。
◇ ◆ ◇
一体、どれくらい走ったんだろう。
いつの間にか日が暮れて暗くなり始めた頃。ようやく白夜は訓練場に戻ってきた。
そこにはジルバート以外、誰も居なく寂しい光景だった。
「……はあはあ……はあ、此処にいるにはジルバートだけ? 他のみんなは?」
「あら! お疲れさま。みんなは自分達の部屋に戻っていたわ~よ。後はハクヤくんだけだからワタシが待ってたの」
「………それはごめん、ボクのせいで」
「良いわよ。気にしないで、じゃあ、もう日が暮れたし帰りましょうハクヤ君。汗まみれだしそれにお昼も食べてないでしょう? 少しだけど昼の残りはあるわよ。食べる?」
そう言ってジルバートは左手のバスケットを突き出す。
要らない、と白夜は首を横に振る。
「僕はもう少し走ってから帰るよ」
「………ハクヤくんどうしたの? あなた変よ、まるで生き急いでいるように見えるわ。……何か悩みがあるならワタシで良ければ相談に乗るわよ?」
「…………分かった。実は――」
じっと見つめるジルバートに、先まで自分が悩んでいたことを話し始める。話が進むにつれジルバートの表情が曇っていく。
白夜の相談を聞き終えたジルバートは目を吊り上げた。そして最初に発した言葉は忠告だった。
「そんなことしても無駄に身体を壊すだけよ。ハクヤくん」
「でも僕は………弱いし、クラスだって最弱クラスだから」
自分が発した言葉に落ち込んでしまう。
「う~ん? ワタシ的には《無能者》は最弱なんて思わないわ。なにしろハクヤくんと同じクラスで四百年前、大陸中央を統一したグランデーヴァ帝国。その建国に貢献した大英雄。〈建国の十英雄〉が一人、〈拳神〉トウガがいるもの」
白夜が「〈拳神〉トウガ?」と誰のことか分からず首をひねる。
「〝魔闘術〟と呼ばれる魔導技に匹敵する技を編み出した御方よ」
「技? もしかして魔闘術って流派があるの?」
「ええ、現在じゃあ伝説の流派って呼ばれているわ」
「じゃあ、僕もその流派に入れば強くなれるの!」
希望を見いだした白夜が目を輝かせながら視線を向けてると、ジルバートは苦笑を浮かべつつ、首を左右に振り否定する。
「ごめんさいねハクヤくん。期待をさせちゃたけど魔闘術の習得には超高度な技術を要求されるそうで、正直習得は不可能に近いのよ。だから魔闘術は殆どトウガの固有技能みたいものだったらしいの」
「え、習得不可能って!? それじゃあ魔闘術は失伝したってこと?」
いいえ、とジルバートはその太い首を振る。
「魔闘術自体は体得できなかったけど、トウガには三人の弟子が居たそうよ。そして彼等がその技術の一部を利用した絶技。スキルと魔導技の合わせ技を世に生み出したわ」
「合わせ技? ………複合技や合体技みたいな?」
「まあ、そんな感じのものね。その三人の弟子は自身の流派を立ち上げ、現在では三大流派と呼ばれるくらい有名なのよ。ちなみに話を戻すけど、習得不可能と云われた魔闘術を体得した人物が居るわ」
え、ホント、と白夜はジルバートの顔を見つめる。
「ええ、トウガが魔闘術を極める旅に出て百年後に現れた〈白銀王〉と呼ばれた人物よ」
「百年後ってことは三百年前だよね。〈白銀王〉って人が魔闘術を……一体何者なの、その〈白銀王〉って?」
首を傾げる白夜の目の前で、いきなりジルバートは頬に片手をそえてうっとりする。
「世界中を荒らし回り人々を騒がせた白銀髪の人族よ、それも美少年! 彼の行いは寓話にするほど凄かったらしいわ。子供の頃にその寓話を読んでワタシ大ファンなったのよ。はぁ~、一度いいから三百年前の彼に会ってみたい」
白銀髪の美少年、どこかで聞いたことあるフレーズだな、と白夜は思った。
それにしても寓話にするほど世界中を荒らし回ったとは……。
「具体的にその〈白銀王〉って何をしたの、ジルバート?」
「確か何処かの女神像にいたずら書きしたり、どこぞの戦場で両軍相手に喧嘩を売ったりとか、何処かの国の献上品を勝手に飲み食いしたり、何処かの城壁に〝我、参上なのじゃ!〟とデカデカと文字を描いたそうよ」
白夜が「〈白銀王〉の由来はどこに?」と困った顔をすると、ジルバートが苦笑する。
「そんな問題を毎回起こすから、被害にあった国々はこぞって彼を捕らえようとするの。でも毎度の如く返り討ちにされて取り逃がすのよ。国に名を馳せるほどの強者が居たにもかかわらず。そしていつしか彼のあまりの強さとその容姿から〈白銀王〉の二つ名が付いたそうよ」
(……うん、とんでもない程のはた迷惑な人らしい)
それにしてもその〈白銀王〉って人は、昔話に出るお釈迦様に悪戯して捕まったサルみたいだな、とジルバートの話を聞いて白夜はそう思った。
「それでジルバートは何が言いたいの?」
「話が逸れすぎたわね。ワタシが言いたいのはトウガも初めは弱かったの」
「〈拳神〉と呼ばれた人が………」
「ええ、彼は地道に修練を積んで強くなっていたわ。だから、ハクヤくんもトウガのように地道に強くなって欲しいの、大きすぎる力は使いようによっては人々に多大な迷惑かけるわ。〈白銀王〉のように」
「…………ジルバート」
ジルバートの真摯な訴えに、白夜は受け入れ、頭を下げた。
「ごめんさい。僕も色々と焦っていたんだ。みんなが僕よりも恵まれていることに、だからジルバートとの言う通り地道に強くなって蓮花に――う、うん何でもない!」
「あらそう? でも、それでいいのよハクヤくん。ゆっくりでいいから強くなりなさい。幸い、陛下はカムラン渓谷探索に期限を設けっていないんだから」
「あはは、そうだった。忘れていたよ――あ!?」
気が楽になったお陰で白夜の腹からギュルルルと音を立てる。
お腹を抑えた白夜は恥ずかしさあまり苦笑いすると、ジルバートからバスケットが差し出される。
「まだ、食べ物が残ってる筈よ」
「あはは、ありがとうジルバート」
白夜はバスケットを受け取り、中にあったハムサンドを頬張る。
「あはは、なんかしょっぱいやこのサンドイッチ……ひぐ、うぐ」
「あら、塩加減を間違えたのね姫様」
隣で泣く白夜を、ジルバートは見てみないふりをしながら一緒に皆がいる兵舎に帰っていた。その後、皆(和馬以外)にこっぴどく叱られ眠りについた。
それから白夜は――
魔法をジャンに、机に塔が出きるほど課題を出され教わり。
武器の使い方をジルバートに、文字通り手取り足取り習い。
ダリアに特殊部隊さながらの訓練で身体を鍛えられ。
もう一人の協力者の元で、色々な知識や技術。そしてスキルを増やしていた。
他には城内で移動する際、出会う貴族達から嫌味やゴミを見るような侮蔑の目で見られたくらい。あとは、自分達が使う部屋の前に、不思議と誰かがいつも差し入れを置いてあるくらいだった。
初めは、誰かの嫌がらせと疑ったが中身は普通に食べ物や飲み物、回復薬だった。
ダリア達に聞いても、誰も知らず最後まで誰の仕業か分からなかったのである。
◇ ◆ ◇
短くも長い一ヶ月の訓練、あの日々を。
魔導船の貨物室。木箱の上で休んでいる白夜は思い出していた。
するとそんな白夜の元に、禿げた頭の上に作業ゴーグルを着け、作業服からでも分かる鍛えられた筋肉と太い腕、灰色のもじゃもじゃ髭を蓄えた老人が近寄ってくる。
「おう、坊主。もう少しでカムラン渓谷だ。今から自分の武器や防具を準備しねぇとお仲間達に置いていかれるぞ」
この老人が最後の協力者、名前はゼル・バウマン。親しい人達からはゼル爺。城の兵士や作業員達からはゼル班長と呼ばれている人物だ。
ゼル爺の仕事は主に、オルレアン王国が所有する魔導機兵や魔導具、兵士達の武器や防具、魔道具を整備する技術者であり、またその技術者達の班長でもある。
「え!? もうそんなに近くなの! 分かったありがとう、ゼル爺!」
白夜は急ぎダリア達から貰った一般兵の装備を素早く身に着ける。
軽鎧を着け、腰のベルトに片手剣と投擲用の短剣を装備し、左手に槍を持つ。
ゼルは適当な木箱の上に座り、そんな白夜の姿を眺めると、
「……しかし、坊主がそれを着るとうちの兵士と見分けがつかねな?」
「これが王国兵士の鎧だからでしょ! お金があったもっと良い武器や防具を買うよ!」
「それもそうか、がっははははは!」
側で大笑いするゼルを眺め、白夜は自分の武器、王国兵士達のお下がり。それなりに整備された片手剣や槍、短剣を点検する。
「ははは、そう言うなよ坊主、お前さんの武器だって国の兵士が使う質の良い武器だぜ」
「………別に文句ないよ。それに僕の戦い方は武器が多いほど良いし」
「まあ、確かに、坊主の戦い方は〝世界〟のクラスしかできねぇな」
うんうんと頷いた後、ゼルは腰のアイテムポーチに手を入れ何かを取り出した。
「ほれ坊主! 姫様達からの預りもんだ」
「え!? あ、アイテムポーチだ!」
ゼルの手にあるシンプルなデザインの黒いアイテムポーチ。【錬金術】というスキルで作られた、色々な物を収納できる魔道具だ。
「……でもゼル爺、これ結構高いんじゃあ?」
そう、このアイテムポーチは、収納できる容量によって値段が倍以上に高くなる高級魔道具なのだ。
「がっははは! 金のことは気にするな坊主。これは姫様達が坊主のために用意したプレゼントなんだぜ」
「……ダリア達からのプレゼント?」
「応よ! こいつは国から支援を受けれねぇ坊主に姫様達なりの支援ってやつさ。だから、変に遠慮せずに受けとりな」
そうなんだ、と白夜は自然と笑みがこぼれる。
ダリア達の温かい心遣いに、自分の心を満たされるのを感じた。
へへ、とゼルは微笑しつつ、そのアイテムポーチを手渡す。
「見た目は地味だが収納容量は最大級、おまけに入れた物を時間凍結する効果付きのフォルムガンド・カンパニー最新作だ! 中に非常食と調味料、それと前に言ってたスタンなんちゃらとかも色々と入れてある。後で確かめろ」
フォルムガンド・カンパニー。通称カンパニー。
大陸南方、アンタギア共和国を拠点とする巨大企業。様々な分野を展開し、こと、魔道具の生産、販売、開発分野に置いて最大手らしく。
エノクやトビト大陸各地の街や都市にはカンパニーの支店が存在するほどだ。
白夜は受け取ったアイテムポーチをベルトにセットする。
「アレだねゼル爺、完成したの?」
「いや、坊主に教えて貰った概要で、遊び半分に作った試作だが性能は十分だ。だから、もしもの時に使え――あ!?」
いけねぇ、と言いそうな顔するゼルは、またアイテムポーチから野球ボールサイズの結晶と羽織に似た外套を取り出す。
「すまん坊主! こいつも忘れる所だった。まずこいつ、坊主達が出会ったビッグフットの魔石だ」
と、野球ボールサイズの魔石を白夜に渡す。
〝魔石〟――魔物や魔獣の体内にある第二心臓と呼ばれるマナの結晶体である。使用方法は様々あり、今のミルトスには生活に欠かせない必要なエネルギー資源なのだ。
その為、ギルドや国の換金施設では、魔石の純度による等級に応じたお金を支払われる。
特に魔獣の魔石は、魔物の魔石よりもマナが多く蓄積しているので純度が高く、殆どが高い等級になるらしい。また、その魔石の中には〝魂石〟と呼ばれる魂が宿った魔石が存在し、これを素材に特殊な加工することで〝召喚石〟――《召喚士》が使役する召喚獣の触媒ができるそうだ。
「えっと、これを売って装備を整えろと?」
「がははは! 面白い冗談だな、坊主。残念だが違う。そいつは昔からある魔物避けのお守りだ。理屈は知らんが魔獣の魔石を持ってると不思議と魔物達は寄ってこなくなる。恐らく本能で自分より上位存在を感知してるんだろうよ」
「へー、そうなんだ。もう一つの羽織みたいな外套はなに?」
白夜は取りあえずベルトに縛る小さな荷袋に魔石を仕舞い、外套を受け取る。
見た目は茶色でフードがあり、背中に翼の刺繍がされていた。
コレが何か分からず首を傾げる白夜。
「そいつは昔、ワシが市場で手に入れた装身具系の魔導具だ、名は《イカロス》。勿論〝祝別〟は済んでいるぞ」
〝祝別〟とは、魔導具に施された魔神の封印を解除し、機能を復活させ、再び使用できるようにする意味だ。
「あ、ありがとうゼル爺! でも良いの、魔導具は貴重だと国王が言ってたけど?」
「気にするな坊主。魔導具は祝別を施さないとただの武器や防具と見分けつかん。おまけに武器適正がないと使えん代物だ」
だから、と悪そうな笑みを浮かべるゼル。
「たまに市場で魔導具だと気付かないまま売られていることもある。そんなことよりさっさと羽織ってワシに晴れ姿を拝ませろ!」
「うん!」
ゼルにうながされ、白夜は《イカロス》を羽織る。
着心地は良いし、片手剣や槍を振る時も邪魔にならない。
身体を動かし、動きが阻害されないか確かめている時だった。
ゴゴゴゴゴゴ…………ピンポンパンポーン!
魔導船全体が揺れて、地上に着陸したことを報せる放送が流れる。それを聞いた作業員達が、慌ただしく貨物室で動き始めた。
「ふむ、どうやら到着したようだな」
ゼルは周囲を見回し頷く。
「じゃあ坊主、死ぬんじゃねぇぞ! てめえら仕事の時間だ!」
「「「うーす!」」」
白夜に一言、激励しゼルは部下の作業員達に指示を出し始める。
ゼルを見送り白夜は最後に自分の【ステータス】を確認した。
「『状態確認』」
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名前 :天城・白夜 性別:男
クラス :無能者
ワンド :[世界・無能者]
ソード :
カップ :[全種類]
コイン :[無職]
筋力 : I (S) ★★★★★☆☆☆☆☆
耐久 : I (S) ★★★★★★★☆☆☆
敏捷 : I (S) ★★★★★★★★☆☆
器用 : I (S) ★★★★★★★★★☆
魔力 : I (S) ★★★★★★☆☆☆☆
幸運 : F (S) ★★★★★☆☆☆☆☆
属性 : 火 水 風 土 雷 氷 光 闇 木 鋼 時 空
スキル :【習得】【斬撃】【黒魔】【舞踊】【操作】【白魔】【防御】
【変更】【体術】【魔導】【予感】【察知】【盗取】【投擲】【潜伏】
【鑑定】【鍛治】【打撃】【使役】【付与】【調整】【解析】【射撃】
【凶暴】【支援】【刺突】【加速】




