終幕大戦の記録と無力な自分
初代七徳大聖によって奴隷の呪縛から解放された人々は、自らを〝解放軍〟と名乗り魔導具と魔導機兵を手に、魔族との戦争を始めた。
それが終幕大戦の開幕の狼煙だった。
彼等――解放軍は、初めに自分達が住むエノク大陸に存在するセフィロト。第三遺跡《理解》を拠点として奪い、そこを起点に大陸各地に渡り魔族と戦いを挑んだ。
このエノク大陸攻略で最も多く活躍し、敵の魔導機兵を倒した存在がいた。
ケルビムシリーズと呼ばれる四機の大型級魔導機兵――
蒼天の魔導機兵〝ジブリール〟
紅天の魔導機兵〝ミカイール〟
紫天の魔導機兵〝アズライール〟
翠天の魔導機兵〝イスラフィール〟
その四機は多く戦場を渡り抜き、何時からか人々から〈四機天〉の二つ名で呼ばれ始めた。
魔族も黙って見ている訳もなく抵抗する。だが、彼等には致命的な弱点があった。
強靭な身体と長い寿命を持ち、魔導に対する深い知識を持つ種族だが、その反面――他の種族に比べて数が少なく。圧倒的な数の解放軍に対応できず、魔族は敗北し続けた。
そして二年後、ついに解放軍はエノク大陸いる全ての奴隷を解放し、魔族から自由を勝ち取ったのである。
魔族との戦いに勝利し、高揚する解放軍はそのままの勢いでトビト大陸――自分達と同じ奴隷にされた亜人達を解放しようと進軍した。
――しかし、この時の戦い〝第一次ティファレト攻略戦〟で解放軍は大敗北を経験する事になった。
何故ならトビト大陸には魔王具、その所持者である〝七罪魔王〟が居たからだ。
〝魔王具〟――それは遥か昔、魔神アダムが女神イヴの力を奪い創り出した聖王具と対をなす神器。そして魔族達が所有する鍵である。
当時、トビト大陸に現れた〈憤怒〉〈怠惰〉〈色欲〉――七罪魔王率いる魔王軍。そしておよそ大型級の約三倍、全長三十メートルを越える超大型級の魔導機兵が数体。解放軍を待ち構えていた。
戦いに敗北した解放軍は、殿を務めた多くの戦士達や〈四機天〉を擁する魔導機兵部隊の半数。そして初代〈勇気〉〈節制〉の二人を犠牲に、トビト攻略の拠点だった第六遺跡《美》に何とか退却に成功した。
だが、このトビトの戦いによる敗北により士気が下がり絶望に囚われた人々。
そんな人々の前に、初代七徳大聖の中心人物であるティファ・アダムス=スペスが「みんな! 我を信じ付いて来て、次は必ず勝てる!」とそう告げる。
ティファの言葉に半信半疑だった人々だが、彼女の今まで活躍を信頼し、再びトビト大陸攻略に乗り出した。
そして彼女の言う通り。〝第二次ティファレト攻略戦〟――多少の負傷者が出たものの犠牲者を出さずに解放軍は魔王軍に大勝利した。
また同時に奪われた聖王具を奪回することにも成功したのである。
その後も彼女を中心に魔王軍と戦い、まるで未来が見えているかの様に次々と魔王軍の戦略を見破り勝利していく。
また時にはトビト大陸に住む〈龍帝〉イグニスの力を借りて勝利したこともあった。
そして一年後。遂に三人の魔王と超大型魔導機兵を倒し、トビト大陸全ての亜人奴隷を解放された。
そうして解放軍は、魔神アダムと魔王軍との最終決戦を挑むため半月程、戦力増強を図り。当時の魔導技術で建造された空中艦隊と共に決戦地――バルク大陸に向かった。
そしてバルク大陸との最終決戦。両軍、一進一退の熾烈な戦いを繰り広げていた。
両空中艦隊による激しい砲撃戦。地上では地上部隊と魔王軍がしのぎを削る。
やがて大戦は終盤へと移っていく。ティファ率いる解放軍はなんとか魔神アダムがいるバベル――大陸中央にある魔神アダムの居城に辿り着いた。
そこで〈傲慢〉〈暴食〉〈強欲〉〈嫉妬〉の魔王と戦い、そして魔神アダムと決戦へ挑んだ。その決戦は熾烈を極め、多くの仲間の犠牲を払いながら、ティファ達は聖王具の宿る女神の力を顕現させることで、魔神アダムに勝利を納める。
だが、滅びかけた魔神アダムは最後の力で女神イヴをエデンへ封じ、ティファ達を世界の彼方へと飛ばした。
――その瀬戸際、女神イヴの最後の抵抗に、空から眩く輝いた一筋の光。
大戦で生き残った人々がのちに語る〝裁きの光〟がバベルを撃ち抜いた。
魔神アダムはその一撃によって滅びた。しかし、最後の最後に魔神アダムが世界に対する呪い。旧文明を滅ぼし、人々に災いをもたらす呪詛を残す。
魔神アダムを倒した直後、大陸中央を消し飛ばす程の大爆発を起き、次に大規模な地殻変動がバルク大陸全土を襲うどころか、エノクやトビト――二つ大陸にまで小規模の地殻変動が襲った。
しかし、この大災害は絶望の始まりに過ぎなかった。
バルク大陸中央で戦っていた魔王軍と解放軍の両軍は、この大爆発に巻き込まれ両軍は全滅。そして魔神が行った女神の封印。その影響で、全ての大陸に存在した旧文明の遺物は一部を残し、全て機能を停止したのである。
〝大崩壊〟――歴史に刻まれる一つの文明を崩壊させた未曾有の大災害。
こうして終幕大戦は、この大災害によって勝者も敗者もなく、強制的に終結したのあった。
この大崩壊時、ティファ達とごく少数の解放軍は奇跡的に生き残り、地獄と化したバルク大陸から、大空洞を通って命からがらエノク大陸に帰還を果たした。
ようやく、あの地獄から脱出できたティファ達と解放軍の生き残りは「助かった」と思いつつ人々の喜び合う姿を夢見た。
―――だが、
そんな彼等が見たのは、未曾有の大災害――大崩壊によって荒れた大地。
そして――混乱する人々の姿だった。
それを知った解放軍の生き残りは、急ぎエノク大陸の拠点だった第三遺跡《理解》を中心に大陸全土の復興を始めた。のちにこの場所が神導教会の発祥地、プロテスト教国が誕生するのである。
その復興活動を指揮したのが、あの大戦で生き残った七徳大聖。
〈信仰〉シモン・プロタント=フィデス。
〈慈愛〉ルカ・アブリル=カリタス。
そして〈希望〉ティファ・アダムス=スペス。
のちに、人々から〈三賢人〉と呼ばれる三人であった。
ティファは、シモンとルカに《信仰》《慈愛》《正義》《希望》の聖王具を託し。
彼女は《知恵》《勇気》《節制》を持って「南で助けを求める人々の元へ」と、賛同する者達と共にトビト大陸に繋がる大橋――第六遺跡《美》に向かった。
そこで彼女は第六遺跡《美》を拠点にトビト大陸を復興させながら、魔族と同じ過ちを繰り返さないという理念。そして平和と安全を目的とした人々を支援し救済する組織――〝ギルド〟を創設する。
その後、〈三賢人〉はエノクとトビト――二大陸に存在する旧文明の大遺跡〝セフィロト〟の機能をある程度回復させ、その魔導技術と遺産を人々に分配。およそ百年の月日を費やしながら、人々が自ら足で歩んでいくのを見届けたという。
◇ ◆ ◇
「「「「…………………」」」」
二千前の出来事を聞き終えた皆は無言で感傷に浸っていた。そんな最中、
なんだろう? と白夜はその内容に違和感を感じた。
(……まるで真実を別の方に誘導してる様な? )
内心、そんな疑問を抱いた。
黒板の前で語り終えたジャンは一息つく。
「ふぅ、大体このぐらいですね。何か質問は有りますか?」
「………その後、バルク大陸はどうなったの?」
大崩壊 後の事を白夜は質問する。
「伝聞では、大陸全土がこの世の法則とは異なる法則で支配された魔境の世界、異界となってしまったそうです」
「魔境?」
この世界独特の災害です、と答えながらジャンは手持ちの資料を片付ける。
「〝魔境〟というは地脈――」
「ごめん、ジャン。その〝地脈〟ってなに?」
「大地を流れるマナの経路の事です。霊脈、龍脈と様々な言い方があります。それが何らかの原因でその土地に溜まり、環境を激変させた土地のことを〝魔境〟というのです。この魔境はよく魔物や魔獣の住処になるのでそう呼ばれる要因の一つです」
ゲームで言うところのダンジョンや迷宮の様なものらしい。
「ちなみに今後、皆さんが向かうカムラン渓谷もその一つですよ」
成程、と白夜達は頷いた。
すると、秋吉が「さっきの話で訊きたい事があるんだけど」とジャンに質問する。
「ジャンさん、この世界の航空技術って言うよりも空を飛ぶ乗り物が存在するの?」
「ええ、〝魔導船〟という旧文明の魔導技術で造られた飛空船がありますよ」
「へぇ~、でもジャンさん。その魔導船ってのが在るなら、それを使って海を渡れば良いじゃ」
危険な海を渡らず空からバルク大陸に行けば、と秋吉の問いに、ジャンは首を左右に振り否定する。
「無理ですよアキヨシ殿、大崩壊が原因で発生した〝星幽気流〟と呼ばれる高密度のマナ気流が世界中の空に存在するんです。そこを無理矢理に魔導船で通ると……」
言葉を区切り体を丸めたジャンは一気に手を広げ、大袈裟なリアクションをする。
「魔導炉が暴走してドッカーーンと大爆発するそうです」
「うわぁ! なにそれ!? ちょー危ないじゃん!!」
ジャンの大袈裟な説明に、桃子は目を見張る。
「ええ、危ないですよトウコ殿。ゼル班長によると二千年前の魔導技術は空間に存在するマナを吸収して半永久的に動く機関だったと聞いています。ですから星幽気流が薄い、ある程度の高度でしか飛べないんです」
なんでもない様に語るジャンに、和馬は頬を引きつらせ、隣に座る直樹に話し掛ける。
「なあ、俺の聞き違いか? 今、永久機関ぽい事を言わなかったか?」
「オレに聞くな!? そんな小難しい話を……冷った!?」
和馬に聴かれ、直樹は知恵熱を出し額を押さえた。すると、直樹の頭に小さな雪ダルマが落ちてきた。
「大分、コツが分かったきたわ。直樹君、それで頭を冷やし良いわよ」
「お、おう!? すまん」
小さい雪ダルマを頭から払う直樹を見届けた後、雪妃は真剣な眼差しでジャンに話の続きを促す。
「それでジャンさん、話に出た〈三賢人〉はその後どうなったの?」
さらに魔法を使いこなす雪妃に、ジャンは心から感心した表情で言う。
「はは、スゴい上達ぶりですねユキ殿。そうですね、シモンとルカの二人は神導教会を立ち上げ、初代教皇と初代至聖女になったそうです。そして死後、聖人として崇拝されているそうです……ただティファだけは……」
腕を組んでジャンはどう伝えようか、迷ってるようだった。
「………ギルドを設立したティファはトビト大陸に渡り、亜人達の国を復興させたのち、しばらくして聖王具を置いて、人々の前から姿を消したそうです。その後、彼女を見た者は誰もいないそうです」
白夜が「歴史ミステリーみたいだな」と呟くと、肩をすくめるジャンは言う。
「まあ、その当時から謎の多い人物だったらしいですよ」
「謎の多い? そのティファさんは解放軍の中心人物なのに詳しい記録がないですか?」
不思議そうに首を傾げる蓮花に、ジャンは頷き肯定する。
「ええ、ティファ・アダムス自身が自分の記録を残すことを極端に嫌っていたそうです。お陰で彼女の肖像画もなく、眉唾物な情報が幾つか残っている程度です」
「どんな情報が残ってるのジャン?」
白夜の言葉に、ジャンは右手で口を隠し考え込む。
「……う~ん、絶世の美女とか残念美人と云れたり、髪が長い金髪やら短い黒髪だったり、鍵である聖王具や魔王具を全て使えたとか、他に胸が絶壁やら巨乳とかなど………ああ、あとマリアと言う娘がいたとか信憑性がないものばかりです」
聞いて見たけど性別以外、マトモな情報が無さそうだ。
ティファ・アダムス、一体どんな女性だったんだろう。
そんな事を考え、遠い目をする白夜だった。
「ティファさんの事は分かったわ。でもジャンさん今の話だと、その神導教会は亜人達を嫌うような要素がまったくない様に聞こえるわよ?」
「二千年も経ってば教会も色々と変わってしまうんですよ」
苦笑い浮かべるジャンの答えに、深く考え雪妃は結論を出した。
「………宗派、今の教会は二千年前の宗派とかが違うってことかしら?」
正解です、とジャンは頷く。
「エノク大陸北方、現在の神導教会の実権を握っているのは〝女神に最も愛されし、人族こそが女神の恩恵を授かるに相応しい種族〟と他種族を蔑ろにする教えの人主派です」
永い時間を過ぎれば、記憶が薄れ人々は同じ歴史を繰り返すってことなんだろう。
魔族がしていた事を今度は人族が亜人達に対して行い始めたらしい。
「昔の神導教会は〝女神は総てを平等に愛し、女神の恩恵もまた全ての者に等しく公平に〟というかなり自由な教えの旧派だったんですが……宗教戦争が勃発しそうになると、当時の指導者が争う事を放棄して人主派からある方法を使い、信者達と共に南に脱出したそうです。その方法が――」
異世界でも宗教問題があるらしい。
そして何故か、ジャンは口に手を抑えプルプルと必死に笑いを堪えていた。
「不安がる信者達の前でその指導者が〝これも時代の流れか。よし、皆の者、南に行くぞ! そこが我等の新たなる新天地――ケモミミパラダイスへ!〟と声高らかに叫び、それを聞いた信者達が〝最後のはいらねぇだろ!〟とブチ切れ。そのお方を袋叩きにしたそうです」
(………うん、その人は一体どこへ連れて行こうとしたんだろう)
それにして信者達も自分達の指導者に対して容赦ない。
白夜がそう思っているとすぐ近くで。
口を抑えてプルプルと震える桃子は、秋吉を眺め小馬鹿にしてきた。
「ぷぷー、良かったわねオタ吉! あんたの仲間が居たわよ。ぷっ、あはははっ!」
「うるさいギャル子! で、その指導者はその後どうなったんだよ!」
堪えきれず大笑いする桃子を無視して、秋吉は訊いた。だが顔は真っ赤だった。
二人の様子を見ながら、なんとか笑いを耐えたジャンは続き話す。
「ゴッホン。ボコボコにされた指導者は十字架に半裸で縛られた後、神輿として信者達に担がれながら南に向かい。人主派に妨害される事もなく無事、国外に脱出できたらしいです。そして当時のアンタギア共和国を拠点に活動。その結果、現代でも大陸中央と南方に信仰されています」
どうやらその人達はエノク大陸南方まで逃げたようだ。
まるで旧約聖書にあるモーセの十戒を聞いているみたいだな、と白夜は思った。そして、
「………それ完全に信者達だけ解決してるよジャン、その指導者は必要だったの?」
「ははは……まあ、そう思いますよねハクヤ。でも別にその指導者が頭がおかしいワケじゃないですよ。昔から旧派はお笑いに対する情熱が半端ないんです」
「お笑いに対する情熱って……もしかして人主派が妨害しなかったのは……」
「ええ、一説によると、この行動を見た人主派は〝また、旧派の連中が変な祭りを始めた〟と思われたらしいですよ」
「なんと言うか……その指導者の策略が凄いのか、日頃の行いのお陰なのか、判断に迷う結果だね」
「………まあ、宗教戦争を回避が目的だったので結果としては良かったじゃないですか」
終わりさえ良ければ全て良しという考えだったらしい。
ジャンの話を忘却したかのように雪妃は真面目な顔で納得する。
「つまり、大陸北方に亜人達が来ないのは、その人主派が広めた教義のせいだったのね」
「ええ、そうです。余程の物好きか、何か目的がない限り、彼等は帝国や共和国を越えて北方の国々なんて来ませんよ」
誰しも嫌な思いをしたくないですからね、と最後に付け加えたジャンは雪妃を眺め、
「ああ、それと私のリュブール伯爵家は旧派ですよユキ殿。北方諸国にも少数ですが旧派を信仰する者達もいます」
その時だ。訓練場にゴォン、ゴォォンと鐘の音が響き渡る。
ジャンは西にある城の時計塔を眺めた。
「もう昼時ですか? そうですね。此方も大体伝えまし午後からはジルバート番です。それまで昼食に――」
「ふむ、なら丁度良い、レンカとそこの……ユキとトウコだったか? お前達は俺様達と一緒に食事しようではないか? その後の訓練でもな、くくく……」
突如、後ろからジャンの会話を遮る者が現れた。
白夜達は後ろにくるりと振り返ると。
◇ ◆ ◇
「「「「――ッ!?」」」」
「…………シャルバ殿下」
と、ジャンは自分達の前に現れたシャルバ殿下と取り巻きの二人に向かって呟く。
シャルバ殿下達はニヤニヤと皆さんを、いやハクヤを見て嘲笑っている様だ。
「「「…………………」」」
彼等が現れたことでハクヤ達に険悪な空気が漂い始めた。
そんな空気の中、シャルバ殿下は気にせずレンカに一方的に話し掛ける。
「それで返事はどうした、レンカ。この国の王太子が聞いてるんだぞ?」
「…………………」
無視し続ける彼女に、シャルバ殿下は業を煮やし怒鳴りつけた。
「早く、返事をしたらどうだ!」
その怒鳴り声に、ビクッ!? と反応したレンカは震えながら口を開く。
「………おことわ――」
「ああ、それと断るならそこにいる。ハリボテ勇者を王都から追い出すぞ」
「「「はあ……!?」」」
と、ハクヤ達と一緒に驚きながら自分は思った。
……よりにもよってハクヤの事を脅しに使い、レンカ殿の拒否を封じるのか!
それが王族として、仮にも人の上に立つ者として恥ずべき行為だろう。
「当然、父上が許したは国の滞在だ。ならばわざわざ王都ではなくとも良い筈だ」
「ま、待って下さい殿下!? 勇者に関しては姫様の管轄の筈です!」
嘲笑うシャルバの言い分に、慌てて正面に立った私は抗議する。
「ふん! そんな事は知っている、リュブール卿!」
「ならば!」
「だが、我がオルレアン王国はソイツを勇者として認めていない。ただあの行き遅れ暴りょ………」
私との会話の途中で、シャルバ殿下のたるんだ顔が蒼白になる。
恐らく姫様に対するトラウマが甦ったんだろう。
「――姉上の情けでいるだけだ!」
「っ!? それはそうですが姫様に――」
「い、今は姉上の事はどうでもいい! 俺様はただレンカ達――勇者を昼食に誘いに来ただけだ。なあ、お前達」
「シャルバ様の仰せの通りだ、リュブール卿」
「そうですよ! 我々は食事に誘い来ただけで……まあ、食事後に帰りたくないと言ったのなら知りませんが、フフフ」
と殿下の言葉に、普段から一緒にいる取り巻きの二人が頷いた。
……白々しい言い訳にしか聞こえないですが。
その言い分を聞いて私はそう思った。
「そう言うことだ。リュブール卿、邪魔をしないで貰おうか」
「しかし殿下!」
「リュブール卿………これ以上、王族に意見をするならリュブール伯爵家はどうなっても良いんだな?」
「なぁ!?」
諫めようとする私に、イラつくシャルバ殿下は信じられない強行策を持ち出した。
……寄りによって私の家の事を持ち出すのか、このお方は!
憤る私は沈黙したまま、しばらく思考する。
自分の家と己の立場を秤にかけ――
「…………分かりました、殿下。先程のご無礼を御許しください」
私は頭を下げシャルバ殿下の前を退く。拳に血が出るほど握り締めながら。
「ふん! 分かれば良い。まったく初めからそうしてれば良いものを」
それを見届け後、レンカ達の前に移動したシャルバ殿下は嫌らしい笑み浮かべ。
「さて無駄に手間かかったがレンカ、答えは決まったな?」
「わ、私は――」
「まだ、決まらないのか? はぁ~、ではお前達! あのハリボテ勇--」
「待って!? いま答えますから!」
ねちねちと脅しながら蓮花を追い込んでいく。
◇ ◆ ◇
……あいつ! 人の弱味を!!
シャルバに自分の弱みを利用され、苦しむ蓮花を見て、白夜は腹の底から怒りが込み上がった。
拳をグッと握り締めながら立ち上がる。
すると、隣から悲痛な叫びが聞こえ視線を向けると、
「離せ秋吉! あのデブをぶん殴ってくる!」
「やめなよ直樹! 仮にもあいつは王族なんだよ! 下手に危害なんて加えたら不敬罪で牢屋送り……最悪死刑だってあり得るんだぞ!?」
そこには秋吉が必死に立ち上がる直樹を止めていた。また、不思議とこの事態に一番早く行動しそうな和馬は何故かじっーと自身の右手にある紋章を眺めていた。
「隣に委員長がいるし、ボクらは向こうのダリアにたす……っていない!?」
「はあぁ!? 鐘が鳴る前には居ただろ!」
「知らないよ! 現に今は居ないんだから!」
秋吉の叫びに、向こういた筈のダリアとジルバートは、いつの間にかその場所から消えていた。
白夜は視線を蓮花達に戻す。
すると、そこには蓮花の両端に座る雪妃と桃子が、シャルバ達をゴミを見るような目で睨みつけていた。
◇ ◆ ◇
「………蓮花、イヤなら断りなさい。後は私がそこの三馬鹿を適当に所で氷漬けにしてあげるから」
「ユッキーの言うとおりよ、レンカっち! そんなキモデブ、《錬金射手》のあたしが蜂の巣にしてあげるわ!」
「ユキちゃん、桃子ちゃん………うん、ありがとう!」
二人の励ましに勇気つけられた私は笑顔になる。
その様子に、ユキちゃんは深い息を吐き、安堵の笑みを浮かべ、
「それに蓮花。貴方のクラス《聖斧姫》なら余裕でそいつに勝ってるでしょ。おまけにアレのお陰で[筋力]だけなら、直樹君の《超勇士》と同じぐらい高いんだから三馬鹿よりも強い筈よ?」
「なにそれ、ユッキー!? じゃあ今のレンカっちなら《冥将軍》のオタクや目の前のキモデブも一捻りできるってこと!」
「うわあああ!? わああああ! ユキちゃん!! 教えちゃダメだよ!?」
両腕をバタバタさせて叫んだ。そして、チラリと白夜君を覗き見る。
目をパチパチさせる白夜君の様子に、私は大きく安堵する。
……さっきの会話は聞こえていないみたいだね。
秘密をバラしたユキちゃんに、顔を赤くしながら涙目で睨んだ。
「酷いよ、ユキちゃん!? 白夜君に聞こえたどうするの! 怪力女と思われたら」
「事実でしょう」
「ゆ――」
文句を言おうとした時だった。
「いい加減に俺様を無視するのやめろぉぉぉぉぉっ!!」
と、完全に存在を忘れらたシャルバが目を吊り上げ怒鳴り散らす。
耳を押さえた桃子ちゃんが食って掛かる。
「うるさいキモデブっ! レンカっちは断ったんだからいい加減にあたし達の前から消えなさいよッ!!」
「うるさい! 貴様に用はないわッ!」
シャルバはボサッとする私の腕を掴み、
「もう返事などいい、レンカ! お前は俺様達と一緒に来い!」
「え!? きゃぁ!」
無理矢理何処かへ連れて行こうとする。
◇ ◆ ◇
それを見た瞬間、白夜はもう限界だった怒りが爆発した。
「蓮花から――」
「その汚い手を蓮花から放して貰おう」
殴り掛かろとする僕よりも早く、和馬君が駆け抜けた。そしてそのまま蓮花を掴むシャルバの手を握り潰す気でメキメキと音を立て握り締める。
「ああああああああッ!?」
捕まれた腕の痛みでシャルバは蓮花から手を離した。同時にその腕の痛みのせいで涙と鼻水を垂らしたシャルバの顔は段々と醜くなっていく。
「あ、カズくん?」
「すまない、蓮花。あいつを理解するのに時間を掛けた」
「あいつ?」
「ああ、すぐに分かるさ」
蓮花を助けた和馬君は状況を気にせず笑みを浮かべる。
「あああ! お前! 早ぐ俺様がらでを離ぜッ!!」
「ふん! 言われる間でもない。――ほら」
「「シャルバ様!?」」
和馬君はあっさりと手を離しシャルバを解放する。「すぐに怪我を治します!?」と取り巻きの一人が青アザのできたシャルバの腕に魔法を掛けて回復させる。
が、ジャンよりも回復魔法の威力が低いのか、治療にやたらと時間を掛かっていた。
「蓮花、ここは危なくなるからみんなと共に少し離れていてくれ」
「うん、分かった。………でもカズくん、大丈夫なの?」
「俺があんな連中に負ける訳が無いだろ」
「えっと、そっちの意味じゃないんだけど?」
自信満々の表情を作る和馬君に、蓮花は苦笑を浮かべる。
「いいから、蓮花。早く離れてくれ、あいつの怪我が治ったらしい」
顔を赤くしたシャルバが取り巻きの二人を引き連れてドスドスと大股で近づいてくる。
「あ!? うん、カズくん頑張ってね! ほら二人共、早く白夜君達の所に行こう!」
「ええ!? 分かったわ蓮花、そう急かさないで!」
「ちょっ!? レンカっち、立つから待って!」
蓮花に促され、立たされた雪妃と桃子。
「……それにしても和馬、どうしたのかしら?」
「……ねぇ、ユッキー。先のアレ、なんか性格変わってない?」
二人は困惑しながら僕達の元へ。
誰こいつ? と懐疑的な目をする皆は、すぐにその場から離れた場所で円陣を組んだ。
「ねぇ? あんた達、さっきユッキーの幼馴染みがおかしかったんだけど何か知らない?」
「はあ? なに言ってだ、桃子?」
「ハッ!? そう言えば直樹! 和馬の奴、さっきからずっと右手の紋章を眺めてぶつぶつと呟くのをボク見たよ!」
「おいおいマジか!? アイツ暑さで頭がおかしくなっちまたのか!」
秋吉の証言に、雪妃は片手を目元を覆ってしまう。
「それ本当、秋吉君? ………ジャンさんこの国に腕の良い医者はいるかしら?」
「う~んユキ殿、あの手の病は長期の治療が必要ですから、手配できるまで見守ってあげて下さい」
「酷いよみんな! 確かに、さっきのカズくんはおかしかったけど病人扱いはどうかと思うよ! ねぇ、白夜君もそう思うよね?」
蓮花に叱られても、雪妃達はなおも、あの和馬君をどう治療するか相談し始める。
さっきの和馬らしくない行動に皆は不信感を抱いたらしい。
そんな話し合い中、僕は和馬達の方にジーッと眺めていた。
「……………………」
「白夜君?」
話し掛けても反応を示さず無言の僕に、蓮花は不思議そうに首を傾げる。
最後の読んでいただきありがとうございます。感想やご意見、ご指摘等を受け付けています。




