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色彩のファンタジア ~ 白と黒の英雄讃歌 ~  作者: 小塚 正大
第一章  最弱の白と最強の黒
14/32

崖っぷち姫の願いと白の決意

 

 謁見の間の大扉が閉まり、ダリアは窓から茜色の夕日の光が入る廊下を見回す。人と居ないか確認した後、


(みな)、すまない! 父上や国の者が迷惑を掛けた。特にハクヤ殿も大変な迷惑を掛けしまって申し訳ない」


 白夜達に頭を下げて謝罪した。


「……それと図々しい願いだが父上を、国王を嫌わないでくれ!」

「「「「………………」」」」


 頭を下げたまま、そう願うダリア。その願いに対し、白夜達は無言で拒絶の意思を示してしまう。


「信じて貰えないかもしれないが………昔の父上は思慮深く、天職階位(クラスランク)など気にせず平等に人々に接し民から慕われる王だったんだ。他国からは〈慎重王〉と呼ばれる程の立派な人だった」


 ……だが、と頭を上げたダリアはうつむき、


「五年前、憤怒の魔王に兄上を殺されてから復讐に囚われ………優しかった父上は別人のように性格は変わり、民を苦しめるようになった」


 過去の想い出を()らせたんだろうか、ダリアは目を潤ませた。


「そのせいで欲深(よくぶか)い貴族や教会は、お調子者だった弟(シャルバ)を担ぎ上げ国の好き放題荒らし……その頃の私に出来たのは分裂しかけた騎士団を治め、苦労して全軍の指揮権を掌握することだけだった」

「それでも凄いことよダリア。お姫様なのに騎士総団長なるくらいだし」


 同情する白夜達。当時の知るジャンとジルバートは首を傾げ、「そうだっけ?」みたいな表情をしていた。

 そんな中、陰りのある暗い瞳を宿すダリアは悲痛な表情をする。


「ユキ……別に凄く無いさ。姫と言っても私は庶子だ。それに騎士総団長の座は、当時の総団長とその座を賭けて決闘し苦戦しながらなんとか勝ち取ったぐらいさ。ふっ」

「あれ? 姫様、記憶が違っていませんか? 速攻で【魔導剣(ルーンフォース)】と魔導技(アスカロン)コンボで、大型(スローンズ)級の魔導機兵(エンジェル・ギア)を真っ二つにして完勝だったじゃないですか? ――いたッ!?」


 当時の決闘の事を知るジャンのツッコミに、ダリアは足を踏んで黙らせた。


「その決闘の後、騎士団のみんなから畏怖と尊敬を込めて〈オルレアンの戦鬼(せんき)〉と呼ばれたわ。……まあ、すぐに姫様が〝戦鬼なんて嫌だ! 戦姫(せんき)にしろっ!!〟と初めての騎士総団長権限で脅したわね。懐かしい~わ」


 ジルバートは当時の出来事を懐かしんでいるらしい。


(……まあ、確かにダリアも乙女だし、〝(おに)〟と呼ばれるのが嫌だったんだろう)


 白夜が、「話の腰を折るなお前達!」と目をつり上げる彼女を見てそう思った。


「ごほん、私は大好きなこの国を守りたい、父上の目を覚まさせたい。だから皆! 図々しいお願いだが私に力を貸してくれ。勿論、元の世界に戻る方法も探す。それまでの生活は私が責任もって保障する、だから頼む!」

「「「「………………」」」」


 再び、頭を下げるダリアに、白夜達は互いに目配りして頷き会う。


「顔を上げてダリア」


 代表として雪妃が前に出てダリアの手を取った。


「……この国はまだ信頼出来ないけど、ダリア。貴方の想いを信じて力を貸すわ」

「ユキ………」

「私達にどれだけのことが出来るか分からないけど、みんなと一緒に頑張って行きましょう!」

「雪妃の言う通りだダリア! 俺もこの《正義(ユスティツィア)》と共に力を貸すよ」

「へぇ! イケメンに言われまでねぇ! オレの力を貸してやるぜ!」


 聖王具(アーク)を掲げる和馬、拳を打ち鳴らす直樹。


「流石は直樹だ! 折角、異世界に来たんだ。ボクも手を貸すよ」

「仕方ない――ってオタ吉に先に言われた! あー、もう! あたしも生活の為に手を貸してあげるわ!」

「ギャル子、お前………素直に……」

「なによ!」


 呆れる秋吉と赤面の桃子は睨み合う。


「うん、私も! 今の自分じゃ大切な人達を守れない……もう二度とあんな光景を見たくないから私も同じ気持ちだよ。白夜君もそうでしょう?」


 強くなる覚悟を決めた蓮花。そして白夜は、


「………僕にはこの国で居場所がないけど、みんなと離れたくない! だから強くなってこの国に自分の居場所を作るよ! 助けられるばかりじゃ嫌なんだ」


 異世界に来て、ずっと助けられてばかりの情けない自分。

 そんな自分自身を変える覚悟を決意する。


「皆、ありがとう! ……後、カズマ殿。我が国の国宝である聖王具(アーク)は、まだ正式には貸しているだけで自分の物のように語ると、私の立場的に捕縛しないといけなくなるのだが」


 《正義(ユスティツィア)》が国の管理下である事を指摘し、ダリアは苦笑いを浮かべる。


「うう、良かったですね姫様!」

「うおーん! 美しい絆が生まれた歴史的、瞬間だわ!」


 目を潤ませジャンは微笑むと、号泣するジルバートは感動してダリアを祝福する。

 紅い絨毯を敷かれた廊下で、皆の間に心地よい雰囲気が流れた。


「………ところでハクヤ殿、先ほど居場所が欲しいと言ったな?」


 照れ臭そうに苦笑するダリアは、白夜に近付き手を握る。

 突然ダリアに手を握された白夜は目をパチパチとする。


「え!? うん!」

「ハクヤ殿には、私が出来る限りことを償う予定なんだ」

「えっとダリアが出来る事って?」


 ダリアの余りの迫力に、目を丸くする白夜は反射的に聞き返しまう。

 頬を赤らめダリアはモジモジしながら、


「その、あれだ! ハクヤ殿が国に居場所を望むなら私と結婚――」

「「はい、そこまで」」


 言い淀むダリアの両肩に、ジャンとジルバートの二人の手に掴まれ廊下の奥に引きずれていく。

 二人は引きずりながらダリアに説教をし始めた。


「姫様、空気を読んで下さいっ! それに重いですよ!? ハクヤの様な純朴な青年にナニをしようとしてるんですか! あ、皆さん、ささやかながら(うたげ)の準備をしてあるので付いて来て下さい」


 部屋を案内するとジャンに言われ、皆は戸惑いながらついて行く。


「流石にがっつきすぎよ姫様! ワタシでも、もっと仲を深めからじゃないと! 何を考えてたの?」

「おい、お前達、失礼だな! これでも私なりに考えたんだ! ハクヤ殿があの魔境を行かなくても国に居れる方法を!」


 その一言でジャンとジルバートはピタッと止まり、自信満々なダリアを覗き見た。


「ふん! よく聞け、ジャン! ジル! 私とハクヤ殿が結婚する。そしたらハクヤ殿が国王に為って貰う! どうだ、それならハクヤ殿は魔境を探索せずに居場所でき、私も崖っぷちから脱出し、一石三鳥の素晴らしい考えだろう?」

「「「「思わねぇよ!」」」」


 欲望駄々もれのダリアに、廊下にいた男子達+漢女(おとめ)にツッコまれ、ジャンに反論された。


「何を考えているですか姫様!? それ普通に貴族達に反対されますよ! ハクヤは今の所、素性も分からない人物と認識なんですよ!」

「何を言うお前達! このままあの愚弟が王位に就いたら考えてみろ!」 


 皆は一斉に、傲慢なシャルバが玉座についたオルレアン王国を想像した。そして、


「………国が滅びますね」

「「「「うんうん」」」」


 ジャンの一言に、今日初めて会ったばかりの白夜達すら同意し頷く。


「……ジルバート。殿下派の貴族を抑えれば、いけますか?」

「う~ん? ジャンくん、姫様派は大体、武闘派だし。穏健派の筆頭を引き込めばいけるんじゃない?」

「あのヴァン殿をですか? 難しいですね」

「そうね。頭の固い男だもの」


 廊下を歩く二人はダリアを引きずり、何故か前向き逆玉計画を検討し始めていた。

 二人の会話に面食らう白夜。隣に歩く蓮花は何かを考えて話し掛けてきた。笑顔で。


「白夜君!」

「ひいい!? 何かな小島さん?」


 何故か蓮花の笑顔を見た瞬間、嫌な予感が白夜の脳裏に(よぎ)った。

 これが《占術士》のスキル【予感】なのだと、数日後に知ったのである。


「む~! 蓮花」

「え? え?」


 急に機嫌を崩し、不機嫌に頬を膨らませる蓮花。彼女の変化に戸惑う白夜に。


「蓮花って呼んで白夜君!」

「えええ、こ「蓮花」――!? 蓮花さ「さんは、いないから」………蓮花」

「うん! 白夜君あのね」


 満面の笑顔で機嫌を直した蓮花がトンデモないこと口にする。


「お妾さんを作っても、最後に私の所に帰ってきてくればいいよ」

「はああぁぁぁっ!?」


 蓮花の言葉に、驚愕する白夜。おまけに何処(どこ)からかピーコンと音と共に「女難を取得しました」という幻聴が聞こえたような気がした。しかも偶然、通りかかった侍女二人にその会話を聞かれ、自分と蓮花を交互に見た後、蔑んだ目を向けてヒソヒソと早歩きで去っていた。


「あああ!? 待ってくださいぃぃぃ! 違いですぅぅぅ!」


 去っていく侍女達に白夜は手を伸ばす。

 駄々でさえ城内での立場が低いのに、さっきの出来事を侍女達の情報網に駆け巡ったらと想像する。


「………終わった」

「え? どうしたの白夜君?」


 どん底に突き落とされた気分になる。そんな白夜は隣で状況が何も理解していない蓮花(悪魔)に理由を尋ねてみた。


「………蓮花。なんでそんな爆弾みたいなことを言うの?」

「爆弾? 小島家ではよく有ることだとお母様に教えられたよ? 〝お前も小島の家に生まれた以上、覚悟しておきなさい〟って」


 知りたくもない小島家の家庭事情を知ってしまった。

 そしてすぐ近くで和馬は、誰をどう排除するか計画を立っていた。


「蓮花に気付かれず彼をどうやって消そうか? ここは定番の夜道――」

「………………」


 和馬の背後、無言の雪妃が廊下に飾ってある銅像を振り上げ、ガンッと叩きつけた。


「――がはっ!? ………………」


 と、頭から血を流し倒れる和馬。その流れる血は床を汚す。

 あっという()に廊下は刑事(けいじ)ドラマの事件現場化した。

 雪妃はそんな和馬を確認した後、銅像を拭いて元の場所に戻し(証拠隠滅)、冷たい笑顔を白夜、直樹、秋吉、桃子に向け、


「貴方達は何も見なかった。そこに転がる和馬(バカ)は足を滑って転んで、その拍子(ひょうし)に頭を打って血が出ただけ………分かった?」

「「「「イエス、マム!」」」」


 瞬時に白夜達四人は軍隊さながらの見事な敬礼をする。

 口封じを終えた雪妃は和馬を蹴り起こした。


「ほら、起きない和馬! 置いていくわよ」

「ぐふっ!? ――うん? あれ俺は何を? なんで床に寝ているんだ雪妃?」


 その質問に慈愛に満ちた笑み浮かべ雪妃は、記憶が曖昧(あいまい)な和馬の血を拭い立たせた。


「今日は色々とあって疲れたんでしょう? ほら、ダリア達が食事の準備をして待ってるから。みんなも早く行くわよ」

「な!? 待ってくれ雪妃! ……でもなんか大事なことを忘れてるような?」

「忘れるぐらいなんだから大事じゃないって事でしょう?」

「それもそうか! よし、行こう!」


 雪妃(加害者)の後を追う和馬(被害者)に、皆は憐れみの視線を送りながら廊下を進んで行く。


 そしてダリア達が待つ部屋の前にやってきた。扉の前に立つ彼女達が木の扉の開くと、部屋の奥に色とりどりの料理がテーブルに並べられていた。


「「「「おおおおおおお~!?」」」」


 と、白夜達は喚声を上げて部屋の中に入り、料理をかぶりつく勢いで見る。

 薄い生地に上にオレンジ色のソースを塗って具とチーズをまぶして焼いたピザの様な料理、黄色や赤色のスープ、分厚いローストビーフような焼いた肉、様々なパスタやデザート等がテーブルにお皿に盛られていた。

 ダリア達が部屋に入ると「はははは!」と笑う。


「皆、慌てなくとも料理は逃げないから、まずは乾杯をさせてくれ」


 ダリアにそう言われ、部屋にいた侍女が飲み物を入ったグラスを渡してくる。グラスを貰った白夜達をダリアが確認して口を開く。


「では、異世界の友人に女神の祝福を――乾杯!」

「「「「乾杯!」」」


 口の中にさっぱりとした果物の味が広がった。


 そして皆は思い思いに食事を楽しんでいた。

 和馬と直樹は皿に肉を山盛りに、秋吉は色々なピザを食し、雪妃と蓮花はバランスよく料理を食べ、桃子は軽め食べた後、デザートに。

 白夜はオレンジ色のミートソースが乗ったパスタをもぐもぐ食べる。


「トマトパスタみたいな味で美味しい。他のも食べてみよ」


 しばらく色々な料理を食べているとジャンが近づいてきた。


「ははは、ハクヤ! 沢山食べてますか?」

「うん、食べているよ、ジャン。それにしてもこの料理や他の料理もそうだけど、結構な量の香辛料を使っている事に驚いたよ」


 そう、自分が口にした全ての料理に味がしっかりとついていたのである。

 時代によってハーブや胡椒(こしょう)などの香辛料(スパイス)は金に等しい価値があるのだ。

 それを大量に使用していることに白夜は密かに驚いていた。


「ははは、我が国の料理が豊かなのは国土(こくど)肥沃(ひよく)な土地と豊富(ほうふ)な水源に恵まれ。そして何よりも〝セフィロト〟の恩恵を受けているからです」


 少し酔っぱているジャンがそう言った。


「〝セフィロト〟?」

「皆さんがいた第二遺跡《知恵(コクマー)》のことですよ。あの遺跡は食料品を加工や生産する施設、他にも生活に役立つ魔道具(マジックアイテム)類が多く発見されているんです」

「へぇ~!」


 やはり、過去に存在したミルトスの旧文明はかなり高度な技術を持っていたらしい。

 そう感じた白夜に、赤い顔のジャンは言葉を続けた。


「このエノク大陸には他に六つの大遺跡(セフィロト)が存在します」

「へぇ、じゃあこの大陸には《知恵(コクマー)》ような遺跡があと五つもあるんだ」


 白夜の頭の中にドーム状の遺跡をいくつも思い浮かべた。


「ええ、エノク大陸で(もっと)も有名なのが南の国境、アラト山脈の頂上にある第四遺跡《慈悲(ケセド)》。別名〈大水門〉、エノク大陸に流れる全ての大河(たいが)の源流と()われる場所です」

「へえ、大陸に流れる大河の源流。それは凄いね!」

「ええ、かの地は世界有数の絶景スポットとして有名ですよ。……ああ、話のついでに皆さんが向かう予定のカムラン渓谷について少しお話しします」

「カムラン渓谷って国王が言っていた所だよね?」


 これから自分達が行くことになる場所だ。


「はい、王都から北東にある渓谷で、いわく付きな場所ですから」


 難しい顔で悩むジャン。


「なにせ自然が生み出した地形ではなく百年前に作られた渓谷(・・・・・・)なんです」

「え? 百年前って……そういれば謁見の間で魔王が魔境を作ったとか言ったよね?」

「そうです。()、傲慢の魔王クロア・ノース=スペルビアが百年前の戦いで平原だった土地を一撃で渓谷に変えたと記録が有るんですよ」


 酔い覚めたジャンの言葉に、白夜は危うく皿を落としそうになる。


(……この異世界の魔王って、みんなラスボス級なのかな?)


「……憤怒の魔王も一万の軍勢を一撃で倒したって聞いたけど、そのクロアも化け物だね!」

「はい、本当に。なにせ見た目が白銀髪の美少年(・・・・・・・)だったらしいですよ。まあ、記録が曖昧すぎて分からないんですが」


 そう言うジャンも割りと美形に入るくらいだよ。

 彼の顔を見て白夜はそう思った。それにしても、


「記録に残るぐらいイケメンって………一体どのくらいの美少年だったんだろう?」


 記録に残る美少年。そんな存在がいるなら一度見てみたいかも、と白夜は好奇心を抱いた。


「………ねえ、そう言えばジャン達はどうやって魔族の情報を手に入れているの?」


 魔族との関わりがないはずのジャン達が、そこまで詳しい情報を持っている事に疑問が浮かぶ。


「……情報元は………教会なんです」

「ええ!? どうして教会がそんな情報を?」


 そう聞いて白夜は目を丸くする。すると、ジャンは首を左右に振り、


「そこは分かりませんが、教会……というよりもその大元であるプロテスト教国は伝承や歴史、書物など過去の知識や記録を収集し保管している国なんです」

「過去の記録って旧文明や終幕大戦(フィナーレ)に関しても?」

「ええ、おそらく諸外国よりも多くの情報を持っている国でしょう。ですから、我々の知らない魔族の情報を持っていても不思議じゃないんです」


 困り顔のジャンがそう言った直後だった。


「おい、ジャン! 折角の宴にあの連中の事など話すな!」


 と、ダリアは不機嫌な表情を作りながら自分達の側までやって来た。そして手に持っていたグラスに入った飲み物を一気に飲む。


「………姫様、高いお酒なんでもっと味わってくださいよ。はあ~」

「そんなのは知らん! 今はハクヤ殿に用があるんだ!」

「僕に? ダリア、何か用があるの?」


 ため息を漏らすジャンはグラスを手に取り、中身を口に含む。


「うむ! ハクヤ殿は強くなりたいんだろ?」

「うん、僕は強くなりたい! でもそれがどうかしたの?」


 胸を叩くダリアは白夜にある提案をする。


「なら私が一から鍛え上げよう! これでも騎士総団長だからな、ははは!」 

「え!? ダリアが僕を鍛えてくれるの!」

「ぶぅぅぅぅーーーっ!?」


 飲んでいた飲み物をジャンは口から噴き出す。

 ジャンの様子に気付かず白夜はダリアの提案に飛び付いた。


「ごほ!? ごほ!?」

「ああ! 任せてくれハクヤ殿。君を一人前の騎士にいや、ヴァンやジルと戦えるくらい鍛えやる!」

「あはは、そこまで高望みしないよ。せめて魔境で死なない程度に頑張るよ」


 覇気のない白夜の態度に、正面にいるダリアが激昂する。


「なにを言う! ハクヤ殿は強くなりたいのだろ? ならばそんな妥協なの許さん!」

「ダリア!? ………そうだね! ダリア程、実力者に鍛えて貰うんだ! 弱音を吐かないよ!」


 熱くなる二人、話が進みもう後戻りできない雰囲気になっていた。


「あのハクヤ………本当にいいですか?」


 そこにジャンが会話に割り込みんだ。


「ジャン、止めないで! 僕のクラスは鍛えれば強くなるって言ったのはジャンだよ!」

「そうだジャン! 最弱クラスだろうと鍛えれば強くなれる! 私だけではなくお前やジル、ゼル爺も手伝わせるから準備していろ」


 邪魔すんな、とダリアに睨まれていた。


「………そうですか。もう止められませんねハクヤ。しかし覚えておいてください。姫様は、実力者ではありますが、指導者ではありません」


 とても優しい笑みを浮かべジャンは意味深な言葉を告げた。


「うん? どういう意味?」

「いえ、何でもありません」


 言葉を残し去って行く。去って行く際に胸に十字を切っていた。

 しばらくするとパンパンと雪妃が手を叩き全員が注目した。


「みんな! いい機会だからこれから名前で呼び会いましょう。私たちがこの国で生活する以上、今、信頼できる人が限られるわ。だから、私達だけでも連帯感を高める為に……どうかしら?」


 雪妃の提案に白夜達はすんなりと受け入れ、互い自己紹介した後、名前で呼びあった。



 ◇ ◆ ◇



 やがて歓迎の宴が終わり、白夜達はダリアが用意した騎士団の兵舍(へいしゃ)に案内される。

 案内された部屋は、木で作られたテーブルやイス等の家具に、二段ベッドが二つある質素な四人部屋だった。


 見知らぬ世界で不安な僕達に配慮してくれたのか、男女別に同じ部屋を用意して居てくれたようだ。


 そして僕達――男性陣は部屋にある二段ベッドの上と下を誰が使うか決め、それぞれのベットに入る。すると、これまでの疲れが出たのか和馬、直樹、秋吉はすぐに眠りについた。


「父さん、母ちゃん、紫姉さん、紅葉。………心配してるだろうな、みんな」


 上のベットに寝る僕は天井を見ながら思った。

 今頃、元の世界にいる家族は異世界に召喚された自分を心配しているだろう。

 この世界は僕にとって辛い世界だ。それでも、


「この世界で友人ができたし、仲間もできた」


 まだ小さいけど、この異世界で出来た自分の居場所。

 自分にとっての生命線であり、この世界で生きていく為の目的だ。

 だからこそ伝えたい。自分を心配する家族に。

 言葉にしたところで皆には届かないだろう。だが、あえて僕は言う。


「だから心配しないで、僕はこの居場所を守るために頑張って生きていくよ」


 おやすみ、と決意を固め目を閉じた。


 そして次の日、訓練開始から五分で僕はジャンの言って意味を理解した。

 確かに、ダリアは実力は凄いが………指導に関してはまったくダメだと。



 ………その意味を真に理解するのであった。


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