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色彩のファンタジア ~ 白と黒の英雄讃歌 ~  作者: 小塚 正大
第一章  最弱の白と最強の黒
12/32

最弱のタロットと天職階位

 

「申し訳ありません皆さん! 陛下や殿下のせいで不愉快な思いさせてしまい二人に代わってお詫びします!」


 辿り着くと同時にジャンは頭を下げると、雪妃は頭が冷え冷静を取り戻す。

 その態度に白夜達は好感をもち微笑を浮かべる。


 トゲトゲしかた雰囲気が和らいだと感じ、ジャンは顔を上げ、いつもの爽やか笑みを浮かべた。

 彼の笑みで気が削がれたのか雪妃はため息を漏らしながら腕を組んだ。


「……はあ、じゃあジャンさん説明をお願いします」

「ええ、分かりました。ではまず………」


 ジャンの説明を説明は大体このような感じだった。


 女神の恩恵とは、女神イヴの力で自分の中にある資質を〝クラス〟という形で発現させる奇跡らしい。例えるならMMORPGのジョブや職業といたモノだ。


 このクラスの名称を簡単な説明すると、まず基本クラスはタロット――大アルカナを元に二十二のクラスがある。


  [0・愚者・戦人][Ⅰ・魔術師・黒魔道士][Ⅱ・女教皇・踊り子]


  [Ⅲ・女帝・召喚士][Ⅳ・皇帝・戦術士][Ⅴ・教皇・白魔道士]


  [Ⅵ・恋人・盾使い][Ⅶ・戦車・斧使い][Ⅷ・力・武闘家]


  [Ⅸ・隠者・魔導士][Ⅹ・運命の輪・占術士][ⅩⅠ・正義・侍]


  [ⅩⅡ・吊るされた男・盗人][ⅩⅢ・死神・刺客][ⅩⅣ・節制・鍛冶士]


  [ⅩⅤ・悪魔・魔物使い][ⅩⅥ・塔・技士][ⅩⅦ・星・弓使い]


  [ⅩⅧ・月・凶戦士][ⅩⅨ・太陽・遊吟詩人][ⅩⅩ・審判・槍使い]


  [ⅩⅩⅠ・世界・無能者(ノービス)

 

 基本この二十二クラスで構成され、それぞれのクラスには武器や才能、能力、特性――〝スキル〟という技能を宿している。

 このスキルには任意発動系のアクティブスキル、常時発動系のパッシブスキル、他に条件発動系などの種類があるそうだ。


 そしてクラスには、〝メインクラス〟〝サブクラス〟〝武器適性〟〝職業(ジョブ)〟があり、それぞれ[ワンド(メイン)][ソード(サブ)][カップ(武器適正)][コイン(職業)]の絵柄で表すらしい。


 クラスの数は本人の資質より一つから最大で五つまで発現するそうだ。

 主に〝メインクラス(ワンド)〟が一つ。〝サブクラス(ソード)〟一から四まで獲得する。

 そして獲得したクラス(タロット)の数によって五つのランク――〝天職階位(クラスランク)〟に別れる。


 ワンド(メイン)のみで〝下級(コモン)〟。

 クラス(メインとサブ)二つで〝上級(レア)〟。

 クラス(メインとサブ)三つで〝特異級(ユニーク)〟。

 クラス(メインとサブ)四つで〝英雄級(エピック)〟。

 クラス(メインとサブ)五つで〝王者級(レジェンド)〟。


 この五つの天職階位(クラスランク)を示すそうだ。


 〝上級(レア)〟以上のクラスを獲得した者は、メイン(ワンド)をベースに系統樹のように枝分かれした上位クラス。各基本クラスの上位互換というべき様々なスキルや能力を所持するクラスで呼ばれるらしい。

 ちなみに、この上位クラスの名称はそのクラスを獲得した瞬間、自然と(わか)るそうだ。


 例えば、ダリアのクラス《魔導剣士(ルーンセイバー)》は、戦人をベースに凶戦士+魔導士+吟遊詩人で構成されたクラスであり、天職階位(クラスランク)英雄級(エピック)

 その四つのクラスにある《武器適正》の魔導技(アーツ)が使用できるらしい。

 また、固有スキル【魔導剣(ルーンフォース)】は、剣系の武器や肉体に属性強化付与する認識発動(アクティブ)型のバフスキルが使えるそうだ。


 その他に、戦人+凶戦士の組み合わせで【剣技】と言う剣技を威力強化する常時発動(パッシブ)技能(スキル)を保有する上級(レア)クラス――《剣士(セイバー)》。

 黒魔道士+白魔道士+戦人の組み合わせで《赤魔道士(レッドメイジ)》――【連魔】という同じ魔法を連続で行使できる技能(スキル)を持つ特異級(ユニーク)クラスになるらしい。


 余談だが、現在この異世界(ミルトス)で最も多い天職階位(クラスランク)下級(コモン)らしく、この世界の住人の約半数(はんすう)下級(コモン)クラスらしい。逆に王者級レジェンドクラスなどは終幕大戦(フィナーレ)から二千年の(あいだ)に現れたのは、僅か十人だけという話だ。


 話を戻そう。次は〝カップ〟の説明だ。


 〝カップ(武器適正)〟――それは各種クラスに存在する専用武器の適正だ。

 〝武器適正〟とは、旧文明の魔導遺産。その中でも特殊な武器・防具・道具――魔導具(レリック)。それの最大の特徴である〝魔導技(アーツ)〟と呼ばれる特殊な術式機能を使用する為の大事な要素らしい。

 他に〝コイン(職業)〟の恩恵もあるが今は関係ないので別の機会でという話だ。


「まあ、このくらいですか。何か質問はありますか?」


 と、説明を終えたジャンは白夜達を見渡す。思案する雪妃が顔を上げる。


「……ジャンさん、そのクラスとかを得れば誰でも簡単に超人のような能力や強さが手に入るのかしら?」

「はい、そうですユキ殿。上位のクラスは最早(もはや)、そう言っても過言ではないと言えます」

「じゃあ、そのクラスは自分で選ぶことが可能なのかしら?」

「それは出来ません。基本、クラスは本人の資質によって選ばれます。まさにジャンブルですね♪」

「「「「「「「…………………」」」」」」」

 

 ピシッと空気が凍りつき、無言で白夜達はその冗談にジトっと冷めた十四の目で返した。


「や、やめて下さいよ皆さん!? そんな目で見ないでっ! ()を和ませようとちょっとしたジョークですよ……あ、すいません真面目にやります!!」

「「「「「「「………………」」」」」」」

「ごっほん! 実はこの天職階位(クラスランク)についてある問題があります」

「ある問題? 一体どういう問題なのかしら?」


 咳払いして真面目な顔をするジャンに、未だに()めた目の雪妃が問いかけた。


「〝天職階位(クラスランク)至上主義〟と言う差別です」

「「「「はあ?」」」」


 一斉に声が重なる白夜達、その反応を予測していたのかジャンは苦笑する。

 そして周囲を見渡すジャンは、特にピエール大司教や貴族達いる方を気にしながら(ささや)く。


「異世界出身の皆さんには馴染みが無いでしょうが冒険者や貴族、教会の間には〝天職階位(クラスランク)の高さが全て〟という考えが根強くあるんです。

 特に国内では一部の貴族の間で酷く根付いて、また教会でも天職階位(クラスランク)を神聖視する者がいるくらいです。まあ、実際に女神の奇蹟(・・・・・)なんですが真正(しんせい)だけに」

「ねえ、それってそんなにも酷いの? あたしにはそこまでピンと来ないんだけど?」

 

 そのジョークを無視して髪を(いじ)る桃子の疑問に、「これもスベるとは」と悔しがりながらジャンは頷く。


「はい、貴族、地位の高い者程その傾向が強いです。例えば公爵家の嫡男でも下級(コモン)だった場合、一族の汚点として認識され、色んな理由をつけて廃嫡(はいちゃく)。もしくは存在自体を隠蔽(いんぺい)するくらいです。逆に天職階位(クラスランク)が高ければどの様な出自(・・・・・・)でも成り上がれます」



 ◇ ◆ ◇ 



 驚愕の事実に血の気が引き、蒼白になる白夜達。

 その最中に、雪妃にしては、珍しく言いずらそうにジャンにあることを尋ねた。


「ダ、ダリアもそうなの?」


 ダリアはこの国のお姫様である。この国の貴族と同じ価値観を持っていても不思議ではない。


「あ! それはありえません」


 聞かれた内容にジャンはあっさりと手を左右に振りながら、皆を安心させる。


「姫様は出自が特別なの(・・・・・・・)で、その風潮を毛嫌いするくらい嫌っています。本来は王国貴族は天職階位(クラスランク)の高い者の血を積極的に取り込むんですが、……その考え方のせいで嫁の貰い手がぅぅ……」


 目許を隠して憐れむジャン。もしも、この場にダリアがいたら笑顔で魔導技(アスカロン)をぶち込まれると白夜は秘かに思った。

 雪妃は「後でダリアに報告ね」と小さく呟くと鬱陶しそうに顔を歪め、貴族令嬢達を一瞬、覗き見る。


「……さっきから気になってだけど、向こうのお嬢様達はなんで和馬を見惚れてるの?」

「「お!?」」


 その発言に和馬は目を輝かせ、髪を整えて何かを期待するように雪妃を見つめる。

 二人の態度で事情を(さっ)してジャンはお節介を焼こうとする。すると、何故か蓮花は彼の雰囲気に察して「あちゃあ」と言わんばかりに顔を覆った。


「ああ、それはカズマ殿の右手の甲に剣の紋章がありますよね」


 そう言われ、皆は和馬の右手の甲に浮かぶ橙色の剣の紋章に注目する。


「それは聖王具(アーク)正義(ユスティツィア)》に選ばれし者の証。そして(キー)に宿る女神の力を引き出す者――〈神鍵の解放者(コードリベレーター)〉の証なんですよ。ですからカズマ殿は今後、〈正義〉の七徳大聖の称号を受け継ぎ――カズマ・ウエスギ=ユスティツィアと名乗ることが出来るです」


 と呟きジャンは、和馬にウインクを送り、


「ちなみに、この七徳大聖は約百年に二~三人しか現れないらしいです。ですから彼女達にしてみれば尊敬する英雄が目の前にいるようなものなんですよ」

「ああ、アイドルのファンみたいなものなのね」

「ははは、ユキ殿的にはカズマ殿が人気者になって嫉妬の嵐ですか?」

 

 次の瞬間、雪妃の表情が消えて無表情になった。


「いえ、違います。アレとはそんな関係じゃないんでやめて下さい、迷惑です」

 

 バッサリと否定すると、期待していた和馬が崩れ落ちた。

 それは何処かのボクサーのように白く燃え尽きたみたいだった。

 雪妃は無表情まま、「うわぁ」と戸惑うジャンを見つめ、


「それでその(キー)の力を引き出すって、どういう意味かしら?」

「え!? あ、ハイ、スミマセン! えーっと知っての通り聖王具(アーク)は女神の力を宿した神器でもあり(キー)なんです。そして同時に神格武装と呼ばれる強力な兵器と云われています。皆さんも覚えていますか? 《正義(ユスティツィア)》の力によって作り出されたあの廃墟の惨状を」


 白夜と和馬以外全員はその時に目撃した惨状を思い出したのか、身体が震えていた。

 すると、その惨状を見ていない白夜はいまいち理解できず首をかしげる。


「ねえジャン、それってそんなにも凄かったの? ダリアの魔導具(ゲオルギウス)とどう違うの?」

「規模が違いますよ! 例えば戦場で《ゲオルギウス》を(もち)いれば小隊の幾つかを壊滅させることができるでしょう。しかし《正義(ユスティツィア)》が司る権能(チカラ)を使えば戦場にいるすべての部隊を全滅させることや、ましてや使いようによっては国すら滅ぼせるらしいです」


 それに世界各地に聖王具(アーク)に関する様々な逸話が残っているんです! とジャンは冷や汗をかきながら聖王具(アーク)を凄さを伝えた。すると、そこにピエールが穏やかな声で訪ねてきた。


「ジャン殿、もう宜しいかな?」

「………ええ、皆さんも、準備いいですか?」


 確認するジャンに、少し不安げだったが自分達は頷く。


「和馬、儀式が始めるそうよ。起きなさい!」 


 雪妃が燃え尽きた状態の和馬の頭をはたく。

 けれども和馬はピクリとも反応しない。そんな彼を眺め、


「……はぁ、仕方ないわね。和馬―――」

「……っ!? ホントか! 何処(どこ)まで良いんだ!? よしッ! そこの大司教! 儀式を早く始めてくれっ!!」

 

 耳元で雪妃が何やら囁くと、和馬はすぐに復活した。

 ピエールは苦笑して頷き、再びカードの束を頭上に抱え、呪文を詠唱する。


「では、洗礼のタロットよ! 創造の理法(ことわり)を生み・宇宙の真理(しんり)を詠み・終末の論理(ろんり)を解き・この()の概念を示せ――『生命と真理の図式(カバラ)』」


 儀式魔法が発動し、ピエールの手からカードがばらけて飛び上がった。

 そして天井の近く空中で停まると、カードが大きな円を描きながら宙に停滞する。


 円輪の中にある絨毯(じゅうたん)に白色、灰色、黒色、青色、赤色、黄色、緑色、橙色、紫色、レモン・オリーブ・小豆・黒が混ざり合う四色の円の魔法陣が現れた。


 ピエールは白夜達に振り返り、腕を広げ高らかに声を響かせる。


「では皆様! お好きな色の魔法陣を一つ御選(おえら)び下さい。ああ! 勇者様方、ご安心を、魔法陣の効果は全て同じなので、お好きな色の魔法陣を御選び下さい」


 そう言うと、どれを選ぶのか迷っていた皆は、自分の好きな色の魔法陣に向かう。

 

 和馬はウキウキと橙色へ。

 直樹は自分に合いそうな赤色へ。

 秋吉は趣味の琴線に触れるのか黒色へ。

 雪妃は深く思案して緑色へ。

 桃子はとりあえず目についた黄色へ。

 蓮花は雪妃と和馬の間にある紫色の魔法陣へ。

 そして白夜は未だに、どの色の魔法陣にするか悩んでいた。


「う~ん、残り四つかどうしよかな?」

「白夜君! この四色の魔法陣が空いてるよ!」


 難しい顔で悩でいると、蓮花が手を招きして隣に呼び込んできた。


「あはは、うん! ありがとう、小島さん。じゃあそこでぇ――!?」

 

 そんな彼女の態度に、苦笑い浮かべ白夜が照れながら四色の魔法陣に一歩踏み出そうとした時だった。


「くくく、そこまで俺様を誘うとは随分と可愛い女だ。なあ、レンカ」

「――え!?」


 横から割り込んきたシャルバが四色の魔法陣に入った。

 今度は誰も邪魔されずシャルバはじっくりと蓮花の身体を眺め始める。

 その視線が嫌で蓮花は外に出ようするも、紫色の光壁に阻まれ魔法陣に立ち止まる。

 

「どうして、外に出れないの!?」

「ふはははは! ムダだ! この儀式が終わるまでは魔法陣からは出ることができない!」 

「――っ!? なら儀式を早く終われば! 小島さん少し我慢して待ってて!」

「うん、白夜君! 信じているから頑張って我慢するね」


 震えながら強がる蓮花を見た後、嘲笑うシャルバを覗きながら、白夜は走り出した。残り三つの魔法陣へ。だが、いつの間にか灰色と青色の魔法陣に貴族の少年二人が入っていて、残っていたのは反対側の白色の魔法陣だけだった。


「少し遠い………でも急がないと!」


 白夜は急いで白色の魔法陣の中に滑り込む勢いで入ると、十色の魔法陣が光り輝き、あの時と同じ女性の声が頭の中に聞こえてきた。


『『王冠(ケテル)』――『知恵(コクマー)』――『理解(ビナー)』――『慈悲(ケセド)』――『峻厳(ケブラー)』――『(ティフェレト)』――『勝利(ネツアー)』――『栄光(ホド)』――『基礎(イェソド)』――『王国(マルクド)』――規定人数………確認』


 空中で円に回る二十二枚のタロットがゆっくりと回りながら降下してくる。


『各因果率――観測開始………観測完了』

身体調整(カスタマイズ)………開始、『愚者(アレフ)』――』


 十色の魔法陣にそれぞれに小径(パス)が繋ぎ始め、


『『魔術師(ベート)』――『女教皇(ギーメル)』――『女帝(ダレット)』――『皇帝(ヘー)』――『教皇(ヴァヴ)』――『恋人(ザイン)』――『戦車(ヘット)』――『(テット)』――『隠者(ヨッド)』――『運命の輪(カフ)』――』


 その小径パスの上に降下してきたタロットが、それぞれに別れて停止する。


『『正義(ラメド)』――『吊された男(メム)』――『死神(ヌン)』――『節制(サメフ)』――『悪魔(アイン)』――『(ぺー)』――『(ツァディー)』――『(ユフ)』――『太陽(レーシェ)』――『審判(シン)』――』

 

 そして小径(パス)の中へと同化するようにタロットは消えると、全ての魔法陣に激しい光と共に十色の柱が生まれる。

 魔法陣の中にいた白夜は瞬きをする暇もなくその光の柱に飲み込まれた。


『『世界(タヴ)』――身体調整(カスタマイズ)………完了』

『各資質表記(ステータス)形成………完了』

天職(クラス)選定………全工終了』


 十色の光柱が砕け散る。すると、目の前に一枚のタロットが現れる。

 月桂冠の中に長い金髪の女性、その手にリンゴを持っている絵柄だった。

 白夜はそのタロットを掴み、周囲を見渡す。儀式を(おこな)った全員、数枚のタロットを手に持っていた。


「やりましたよシャルバ様! 私は《黒魔術師(ウォーロック)》です!」

「ふん! ライク、貴様それくらいではしゃぐな!」

「何だと! ならオルガ、お前はなんのクラスだ!」

「自分は《槍士(ランサー)》だ! 文句はあるのか?」


 シャルバの所に大柄と小柄の貴族の少年二人が駆け寄り二枚のタロットを見せ合っていた。


「ふはははっ! そう騒ぐな、お前達。《黒魔術師(ウォーロック)》も《槍士(ランサー)》も所詮は上級(レア)クラス。十人に一人はいるありふれたクラスだ」


 大笑いしながらシャルバは自分の手に持つ三つのタロットを見せた。


「だがしかし、俺様の特異級(ユニーク)クラス《司令官(コマンダー)》の能力(チカラ)さえ有れば何処までも強くなれるぞ!」

「おおおお! そのクラスは《守護者(ガーディアン)》と同じ特化型クラスですね!」

「さすがはシャルバ様! 次代の王に相応しいお方です」

「ふはははは! そうだろうそうだろう、ふははははっ!!」


 二人に誉められ高笑いする彼を眺めている最中(さいちゅう)、蓮花が体当たりをする勢いで自分に飛び込んできた。


「白夜君! 退いて!! きゃあ!?」


 迫ってくる蓮花の表情は、まるで別の身体を動かしてい(・・・・・・・・・・)る様に(・・・)驚いていた。


「えええ!? ――うぐぅ!」


 直後、顔にマシュマロのような柔らかく良い匂いするモノに包まれ――押し倒された。


「……っ!? ぃだっくない? どうしれ? ぞれよりも息が苦じい!」

「きゃぁん!? 白夜君、くすぐったいよ!」 

「ふがぐぐぐぐ!?」

 

 赤く染めた顔に睫毛や眼の大きさまで、はっきりと分かる程の近くで蓮花と目が逢う。彼女の豊満なバストに窒息しそうな白夜を――


「…………何してるのよ、あなた達?」

 

 後を追ってきた雪妃によって助けられる。

 蓮花を片手でつまみ上げる(・・・・・・・・・)雪妃。その傍で他の皆も居た。

 そして和馬以外、皆はニヤニヤしつつ生暖かい目で自分達を見守っている。

 その和馬は、直樹に羽交い締めされた状態で必死に振りほどこうとあがいていた。


「ぬぐぐぐ! 離せ福島!」

「くくく、おいおいイケメン。こういう時は素直に見守ってやろうぜ」

「ははは。いや、ハクヤもなかなか隅に置けませんね?」

「あはは、違うからジャン!」


 立ち上がった白夜を「そうですか?」とからかうジャン。

 ピリピリしていた皆の雰囲気が明るくなった。

 そんな白夜達の明るい雰囲気を壊す、国王の(しぶ)い声が掛かる。


(たわむ)れはそこまでだ勇者達よ! お前達が得たクラスのタロットを見せて貰おう」


 ピシッと凍りつく空気。そんな中、皆は渋々と振り向き、手に待っているタロットを国王に見せる。


「「「「おおおおおお!」」」」


 雪妃、蓮花、桃子、直樹、秋吉は四枚のタロットを見せていくと、貴族の方から歓声が上がる。中には称賛する者までいた。

 その反応にシャルバ達は面白くなさそうに顔を歪める。


「さすがは勇者様達だ! よもや五人も英雄級(エピック)クラスを得られるとは!」

「ああ、まったくだ! 此れなら、かの魔境にあると噂の二つ(・・・・・・・・・・)の鍵(・・)を手に入れることができる!」

 

 貴族達が世間話をしている中、和馬がタロットを掲げて見せる。


「確かに、それに〈七徳大聖〉の彼が居るのならあの忌まわしき門(・・・・・・・・)を開くこと………おい! 彼を見ろ!?」

「なあ!? バ、バカな、タロットが五つだと……!」


 和馬の手に持っていた五つのタロットを目撃した国王は立ち上がり身震い起こす。

 シャルバは盛大に顔を歪め、彼の取り巻きは他の貴族達が同じく驚愕していた。

 その貴族の一人が戸惑いながら呟く。


「〝愚者〟〝皇帝〟〝恋人〟〝悪魔〟〝審判〟――」

 

 その貴族の言葉を引き継ぎように、国王は噛み締めながら口にする。


「――〝王者級(レジェンド)〟クラス」

「ああ、《騎士王(ペンドラゴン)》だ」

 

 勝ち誇るように和馬がそう宣言した瞬間。


「「「「わああああああああぁぁぁ!!!」」」」


 大歓声を上げる貴族達。国王の護衛――近衛兵達も役目を忘れともに騒ぎだす始末だ。


「勝ってる! 勇者いや――救世主様なら憤怒の魔王に! それどころか、かつて憤怒の魔王と双璧と呼ばれたあの傲慢の魔王すらも」

「そうだな! 全く惜しいものだ! (くだん)の魔王は既に百年前に討伐されたことに、もしくは化けて出って欲しいものだ」

「ははは、確かに。……実は討伐されていなかったり」

「まさか?」

「「ハッハハハハ!」」


 興奮した貴族達がそんな会話をしながら騒いでいる時、周囲の空気に感化され興奮気味のジャンが白夜に話し掛けてきた。


「い~や、凄いですねカズマ殿! さすがは聖王具(アーク)に選ばれたことはあります! ところでハクヤはタロットを何枚得たんですか?」

「あはは、うん! この一枚だけだよ(・・・・・・・・)


 興奮していたジャンが笑顔のまま固まる。自分の持つタロットと絵柄を覗き、冷や汗を滝のようにかくと肩に手を置かれる。


「…………ハクヤ。何も言わずこの騒ぎ乗じてこの部屋を出ますよ。出た後、姫様の元に行って下さい。後は私が誤魔化しておきます」

「え? どうし「いいから、早く!」――っ!? わ、わかったよ!」


 そう言った後、ジャンは白夜を背中に隠しながら、騒いでる人達に見つからないようにその場から一歩、踏み出そうとした時だ。

 苛ついたシャルバが白夜達の行動に気付き大声上げる。


「おい! お前達、何処に行くつもりだ!」

「「――ッ!?」」


 シャルバの大声で周囲が鎮まり止まった自分達二人に視線が集まる。

 動き止めたジャンは冷や汗かきながら、この状況を切り向けるか思案する最中。

 シャルバはある可能性に気付いたのか、今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように尋ねた。


「お前も確か勇者様だよな! ならそれに相応しいクラスを得たんだろう? でしたら拝ませて下さいよ。ゆ・う・し・ゃ・さ・ま」

「おおお、そうじゃ!? まだ一人残っておったそこの少年よ。お主は何を得られた?」

 

 和馬のことで機嫌が良かったのか国王は、今まで見たことも無いほど上機嫌で問い掛けてきた。

 もう逃げれないと悟った白夜は、息を整えて国王に恐る恐るタロットを掲げた。

 周囲の人達の視線が自分のタロットに集中すると、


「「「「…………………………」」」」


 さっきの騒ぎが嘘のようにその場がしんと静まり返る。その時だった。


「ふはははははっ!! さすがは勇者だ! まさか世界のタロット――最弱クラスを得るとは、おまけに一枚、下級(コモン)だけとか。あははははははは!」 


 シャルバの大きな笑い声が周囲の沈黙を破り、


「「「「ぷっ、あはははははははははは!」」」」


 それが切っ掛けで貴族や兵士達までもが笑いだす。


 白夜はついさっきジャンに教えられた貴族が抱く風潮を思い出す。同時に貴族達の笑いが止まり、侮蔑、嘲笑、嫌悪感など――様々な視線を浴びた。

 突然の事態に蓮花達は何も出来ず、この状況を見守るしかなかった。


 白夜は青ざめ震えながらジャンを説明を求めた。


「ジ、ジャン、この〝世界〟のタロットのクラスってた、確か……」

 

 ジャンは目を閉じ頷き震える声で絞り出す。


「世界のクラスは《無能者(ノービス)》。基本クラスの全てのスキルを習得、そして武器適正や全属性の魔法適性を併せ持つ万能クラスです」

「それがなんで最弱クラスって呼ばれているの!?」

「ある意味では最強だ。だがな、そのクラスには各クラスにあるクラス補正がないんだよ。だから全能力が本職クラスに劣る器用貧乏なクラスなんだよ」


 理由が分からない白夜の問いに、シャルバが面白がりながら割り込んできた。


「全クラスのスキルを習得できるからと言っても鍛えねえと全く使えない。しかもお前は下級(コモン)、それが持つ本来の真価は上位のクラスが保有する全スキルを使うことができる特化能力だ。だから一枚だけじゃ基本スキルしか使えん雑魚クラスだ!」


 この一言を聞いたジャンは慌てて訂正する。


「いえ!? 成長する要素は有ります。元々、《無能者(ノービス)》――世界のクラスを得る者は滅多におらず四百年前に一人現れたくらいで、未だに謎が多く全ての能力を解明した訳ではありません!」


「どうでもよいわぁ、そんな事はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「「「「!?」」」」

   

 怒り狂う国王の怒声が謁見の間に響き渡る。

 そして憎悪に満ちた鋭い眼差しで白夜を睨み付けた。

 まるで蛇に睨まれたカエルように身体から脂汗を滲ませ動かなくなる。


「まさか、この様な石ころが混ざっていたとは……他の勇者達はまさに原石だったが貴様は!」


 息を吸う国王は、白夜を(ゆび)()し兵士達に命じる。


「誰かッ! 今すぐ、その者を処刑せよ!!」

「「「はっ!」」」

 

 国王に命じるられた近衛兵達は一斉に動き出す。

 その様子を見た蓮花達が白夜を助けるため動くも、ピエール大司教と兵士達に道を塞がれる。


「白夜君! え!?」

「くそ! 邪魔だテメエら、どけッ!」


 蓮花と直樹は兵士達に阻まれてしまう。


「うわぁ!? ボク関係ないじゃん!」

「ちょ!? あんた達、どこ触っての!」


 秋吉と桃子は兵士二人に捕まり文句を言いながら抵抗する。

 

「和馬! 今すぐこの人達を聖王具(それ)で吹き飛ばしなさい!」

「わ、分かった!?」


 物騒なことを指示した雪妃。和馬は《正義(ユスティツィア)》を構えるも――


「……あ、あれ? なんで光らないんだ!?」


 起動せず沈黙する《正義(ユスティツィア)》に混乱する。

 ピエールはそんな蓮花達を諭すように言った。


「ほほほっ、いけませんよ勇者様方(さまがた)、これは試練なのです! そう、女神イヴが与えた試練、皆さまを新たな高みに導くために彼には尊い(いしずえ)になって貰いましょう!」


 微笑み平然と狂気じみた事を漏らすピエールに、蓮花達は恐怖を抱き動きを止めた。

 そしてジャンは自分を守るために兵士達の行く手を阻む。


「やめろ、お前達! いくら陛下の(めい)だからと言っても、これは私利私欲(しりしよく)過ぎる! (ただ)でさえ度重(たびかさ)なる遠征の失敗で国が傾きかけている時期に、この様な蛮行を許せばどうなる! もし民にこの事を知られれば信頼を無くすどころの話ではなくなるんだぞッ!」


 と、近衛兵士達の中――色の違う鎧を着た近衛騎士にジャンは説得しようとする。

 だが……。


「……自分達は近衛だ、ジャン補佐官。陛下を守る絶対の盾であり剣、陛下に絶対の忠誠を誓う騎士。ならばこそ陛下の勅命は絶対だ」

(あい)()わらず頭が固い人ですね、貴方は……!」

「褒め言葉として受け取っておこう。……相手は一人。(みな)、一斉に掛かれ!」

「「「はっ!」」」

「チッ、くそ! ハクヤ! (いそ)いで姫様の元にぐぅ!?」


 多勢に無勢、抵抗むなしくジャンは、数人の兵士達に囲まれ床に取り押さえられる。

 そしてジャンと話した隊長らしき近衛騎士が兵士一人と共に、自分の前に辿り着く。

 ひぃ……、と怯える白夜を見つめ、


「…………無駄な抵抗をしなければ此方(こちら)も手荒い真似はしないと約束しよう。彼を牢屋に連れていけ」

「はっ! 了解です隊長。さあ、貴様は大人しく付いてこい!」


 兵士に腕を捕まれた白夜。すると、近衛隊長が耳元に近づき小声で呟く。


「(いずれ、姫様が助けてくださる。それまで大人しく牢の中で待っていなさい)」

「――え!? あ、はい!」


 近衛隊長は白夜の後ろ姿を眺めた。

 これが忠臣である彼にできる最大限の抵抗だったんだろう。

 と納得し、素直に兵士と共に大扉に向かおうとした時だった。


「待ってお前達、何をしてるんだ! 今すぐそいつをその場で処刑しろ!!」


 興奮するシャルバが後ろから荒い声で命じる。

 その命令を聞いた近衛隊長は振り返り、国王を視線を向け、


「…………謁見の間が血で汚れますが宜しいのですか、陛下?」

「構わん、始末せよ」

「……………」


 素っ気ない国王の答えに、無言で剣を抜剣する近衛隊長。

 迫り来る死の足音に、白夜は足が震える。

 床に取り押されるジャンは激しく抵抗するも、兵士達から抜け出すことが出来ずにいた。

 蓮花、雪妃、直樹、和馬は未だピエール大司教と兵士達に、囲まれた動けない。

 兵士に捕まった秋吉、桃子は抵抗する気力もなく完全に大人しくなる。


「…………………」


 そして、隣の兵士に押さえ付けられる白夜の目前(もくぜん)に、抜き身の剣を携えた近衛隊長が映った。

 血の気が引き怯える白夜。兜で表情が見えない近衛隊長が剣を構えて呟く。


「………無駄に動くと余計に苦しむだけだ。だから、一思に殺らせてもらう。怨みたいのなら自分を恨め!」

「いやあああぁぁぁ! やめてええぇぇぇぇ!!」


 泣き叫ぶ蓮花。

 今頃になって橙色に光輝く《正義(ユスティツィア)》と、それを構える和馬。

 歯を食い縛り見ている事しかできないジャンと雪妃達。

 ピエール大司教は胸に十字を切る。

 国王はただ眺め、シャルバは心底面白がりながら嗤う。

 周囲の貴族達は騒がず成り行き見守り、令嬢達は顔を隠した。


 そして――剣を振り下ろした。

 命の危機。ゆっくりと(せま)り来る凶刃に白夜にそう感じ――


「父さん、母さん、紫姉さん、紅葉」


 恐怖のあまり目を瞑り、家族の名前を呟いた瞬間。


 ドーーーンッ!!


 後ろの大扉が()(やぶ)られ、迫り来る凶刃が止まった。

 白夜は瞼を開け、ゆっくりと後ろに振り向く。そして目に映ったのは――


 ハチミツ色の髪の女性――蹴った体勢のダリア。その隣に大柄の漢女(おとめ)――ジルバートが困った顔をして、二人が大扉から謁見の間に現れる。

 そして何故かダリアは顔が無惨に腫れた男を片手で引きずりながら入ってきた。


最後までも読んでいただきありがとうございます。今回、説明が多いので簡単に例えるとド○クエの転職みたいなものと思ってください。どの組み合わせでなるかはいずれ書きます。

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