生贄。
採取した血液は、試験用の薬品を青く染めた。
「……ダメ、ですね」
薬学も極めているスファーロが、そう言い切る。
「七年の呪いに使える血は、親兄弟、発病以前に作った子供に限られます…が、数少ない例外に呪いや契約に捧げられていないこと、というものも含まれます。彼、リュクヤの血液は、使えません」
「あー…、俺、呪われてますか?」
「どちらかといえば契約に捧げられてますね、あなたの魔術師体質を利用した…他者へ魔力補給する系統の契約です。たぶん産まれた直後か、胎児…母親の腹の中に宿った頃から埋め込まれてます」
スファーロは、綺麗な顔を歪めて言った。
「あなたの近しい肉親が許可して刻んだものでしょう、肉体でなく、魂に刻むような契約で実行したのはかなり高レベルの外道魔術師でしょう……悔しいですが、私よりも高い知識と技術と力を持っているかと思われます…解除は今の所不可能です」
そして肌蹴た胸元に指が這う。
正直こそばゆいが、スファーロが真剣なので我慢した。
日頃飢えてるか、文献に発狂(?)してるか…と、その美貌が台無しな所しか目撃してないせいか、ギャップが激しい。
「ただ、幸いなことにリュクヤの生命を脅かすようなモノではないですね。無意識の任意でしょうか?あなたが自分が安全で、なおかつすぐに魔素の供給を行えると感じていると、高確率でいずこかに供給されるわけです」
「……どこへかは解るか?」
ずっと黙りこくって、ベッドに寝ていたリュウは眉間に皺を寄せて聞いてきた。それにスファーロは首を振った。
「まだ完全に陣が浮かんでいないので、正式な解析も今の所不可能です」
「子供を自分の所有物だと考えるような親など、滅びちまえばいいのにっ」
吐き捨てるようにリラックが言った。その表情は険しい。
彼は孤児院出身で、だから余計に腹立たしいのかもしれない。
「………リュクヤ、俺が……」
簡単に殺してなければ…と、言葉を飲み込み、そっと頬を撫でてくるリュウの辛そうな表情に、俺は思わずその手を握り締めて頭を振った。
「兄さんが悪いことなんて、何もないからっ」
自分も病気で大変なのに、いつの間にか俺はリュウの身内になれてたんだな……と、なんだか不謹慎だけど嬉しくなってしまって………
「……なんか本人だけ呑気だな…」
「怖くないの?」
リラックとスファーロに突っ込まれてしまった。
「だ、って、兄さんが心配してくれるの…ちょっと嬉しい」
つい、小声で反論すると、俺の家庭事情を詳しく知らない面々は首を傾げたが、それなりに知ってたメンバーはなるほどと納得してくれたのだった。
「母親の胎内ってことはないと思う、あの親女の子を欲しがってたし」
この世界では事前に胎児の性別を知る方法は、ない。
「そうですね、魔術師体質だからかけられた術でしょうし」
「赤子に怪しい奴に術をかけられた記憶なんてあるわけないしなぁ」
「寝てる間なら余計に分からないでしょ?俺父親っぽいのに「また男か」みたいなこと言われてたって気付いたのも言葉覚えてからだし、生まれてからしばらく視力とかはっきりしてなかったもん」
うん、覚えているかぎり、怪しげな人に会った記憶はない。
寝てるか飯食ってるか、空腹で泣いてるか、うるさいって怒鳴られてるか…だもんな、ある意味しっかり意識があったら地獄だったかもしれん。
そんなふうに思い出してたら、なぜか皆変な顔になってた。
「赤子の時の記憶があるのか?」
「そういやこいつ四歳の時点で、将来の娼館行きを逃れようと勉強してた奴だった…」
「ちょっと…どうゆう親だったんですか……」
「だから、こいつをいつ売ってもおかしくない家だったんだよ、リュウのこともお前知ってるだろ……」
「あ、そういえば、あの親が女の子を欲しがってたわけが分かったって、聞いた。曾お祖母さんの遺産で女の子だけが相続出来る財産が、国に預けられてたって、三才から両親に預けられるって話で……」
「うーわ~……」
純粋に女の子が欲しかったわけじゃなかった可能性のリュウの言葉に、なんとなく納得してしまう。
そんな俺とリュウ……兄弟の反応に、スファーロはその綺麗な顔を悲しみに染めた。
「よくぞ、こんなよい子に育ちましたね…っ」
「まぁ、実質育ててくれたのお手伝いさん達二人だし」
「いつものお礼です。頑張って必ずその陣の解析をして、あなたを解放してあげますからね」
ぐっと拳を作って宣言したスファーロの横で、ユーニも同じ仕草をしてこくこく頷いていた。
「「これからのご飯のためにもっ」」
すっかり二人の胃袋を管理している俺だった……