アナ、キレる。
「リーレ卿!リーレ卿!」
この騒ぎが起きたのはお昼が過ぎた頃の話だった。
アナは昼食を拒否し、部屋に籠もっていて、やっと出てきたと思ったら、この騒ぎだった。
お父様が慌ててアナの前に跪く。
私と妹はそれを遠くから見ていることしかできなかった。
「なんですか、この提案書は?
国民が一番大変なのですよ!
その国民に徴兵を迫るなんて…」
「申し訳ございません。
しかし、兵士の数が足りていないのが現実でして…」
跪きながら強く目を瞑るお父様にアナが紙の束を渡した。
「今の兵士の数でできる方法を考えました。
国民に徴兵を迫るのは最終手段です!」
「はっ!」
「これをウォール卿にも見せてください。
それから陛下に報告を」
「…」
黙ってしまったお父様。
「リーレ卿?」
「…申し訳ございません。
殿下に口止めされていたのですが、陛下は現在意識不明の重体です。
まだ、気があるため猊下の魔力でもわからないと思い、黙っているよう命令されておりました」
跪く姿勢から土下座に変えた父が深々と頭を下げた。
「王宮に行きます」
「それはいけません!
王宮は今、危険です!」
後ろを向き歩き出そうとしたアナの手を父が掴んだ。
アナがまた父に向き直った。
「失礼致しました」
父はすぐに跪く姿勢に戻った。
「今、猊下まで失うことになれば、国は確実に最期を迎えます。
どうか、ご理解下さい」
「どうせ最期を迎えるのならば、全ての手を尽くすべきです。
それに、今のシオウとウィラを支えられるのは私だけです」
「…馬車と兵士を用意させます…」
アナが立ち去ったあと、私と妹は父に駆け寄った。
「猊下まで失うわけにはいかない。
だが、猊下の言われたことは正しいんだ…」
涙を浮かべるお父様を見るのはこれが初めてだった。
私はアナの部屋に走った。
扉の前まで来て、急に緊張した。
猊下としてのアナとは話すのは初めてだったからだ。
でも、私は勇気を出した。
「猊下、どうか父たちの思いも汲んでやってもらえないでしょうか?
お願い致します」
扉が開き、跪いている私をアナは強く抱きしめた。
「ごめんなさい、エダ
今は私が王宮へ行かなければならないの…」
それからしばらく私達は泣いた。




