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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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 クレープ平原は、本来なら美しい土地だった。


 どこまでも続く黄金色の麦畑。


 緩やかな丘陵。


 風車。


 遠くに見える河川。


 ルミナス王国最大の穀倉地帯と呼ばれるだけのことはある。


 だが今、その景色には妙な不安が混じっていた。


 畑の一部が潰れている。


 焼け跡もある。


 荷車の残骸が転がり、遠くでは農民たちが怯えた顔で空を見ていた。


 魔物被害。


 しかも最悪な時期だった。


 収穫前。


 ここで物流が止まれば、地方どころか王都の食料価格まで吹き飛ぶ。


 だから。


 王族直属遊撃兵レイが派遣された。


 そして。


 問題はあまりにも一瞬で終わった。


「のだぁあああ!!」


 銀色の何かが平原を走る。


 次の瞬間。


 大型魔狼の群れが吹き飛ぶ。


 さらに。


 空から降下した飛行魔物の首が消える。


 そして。


 地響き。


 巨大土蜘蛛が真っ二つになる。


 農民たちは呆然としていた。


「……終わった?」


「今ので?」


「いやまだいるだろ……」


 いた。


 だが。


「のだぁ!!」


 全部死んだ。


 早すぎた。


 しかも。


 レイは最近剣を覚え始めている。


 その結果。


 元々おかしかった殲滅速度がさらに酷いことになっていた。


「剣便利なのだぁ!!」


 どやぁ。


 なお。


 兵士たちは完全に脳を焼かれていた。


「レイ様すげぇ……」


「本当に世界最強だ……」


「一人で戦争終わるだろこれ」


 しかも。


 レイ本人はまだ余裕がある。


「むむっ」


 魔物の死骸を見下ろす。


「ちょっと少ないのだぁ」


 農民たちは震えた。


 十分多かった。


 むしろ地方軍なら壊滅案件だった。


 だが。


 レイ基準では少ないらしい。


 そして。


 その日の夕方。


 レイは当然のように、その地域最大地主の館へいた。


「のだぁ〜〜〜」


 巨大なベッドの上。


 完全にくつろいでいた。


 地主館使用人たちは遠い目をしている。


 なにせ。


 白銀の獣英雄が。


 勝手に寝転がっている。


 しかも。


 妙に馴染んでいる。


「……レイ様」


 老執事が恐る恐る言う。


「夕食の準備が」


「持ってくるのだぁ」


 レイは毛布に埋まりながら答える。


「いっぱいなのだぁ」


「はい……」


 地主一家はかなり複雑な顔をしていた。


 当然である。


 この獣人。


 確かに救世主だ。


 魔物を瞬殺した。


 物流も救った。


 畑も守った。


 だが。


 態度が野生動物すぎる。


「……本当に王族直属なのか」


 地主の息子が小声で呟く。


「そうらしい」


「信じられん」


 広間奥。


 レイはソファまで占領していた。


 しかも。


 使用人へ普通に尻尾を振っている。


「のだぁ〜〜〜」


 完全にリラックスしていた。


 理由は単純。


 仕事終わったから。


 獣人族は働いた後よく寝る。


 以上。


 その時。


 若い侍女が恐る恐る料理を運んでくる。


「し、失礼します……」


「のだっ♡」


 レイの耳がぴくっと動く。


「美味しそうなのだぁ!」


 即復活。


 単純だった。


 巨大肉料理。

 焼きパン。

 濃厚スープ。


 レイはものすごい勢いで食べ始める。


 地主一家はそれを呆然と見ていた。


「……よくそんなに入るな」


「世界最強だからだろ」


「理屈になってない」


 だが。


 館の空気は不思議だった。


 恐怖だけではない。


 安心感もある。


 なにせ。


 この獣人がいるだけで、周囲の魔物が実質消える。


 農民たちですら、少し顔色が良くなっていた。


「……明日から収穫再開できるか」


「物流も戻せるな」


「助かった」


 地主は静かに息を吐いた。


 結局。


 どれだけ中央が政治を回そうと。


 どれだけ貴族が策略を巡らせようと。


 最後に地方を救うのは。


 こういう暴力だった。


 一方。


「のだぁ〜〜〜♡」


 当の本人は。


 食後、再びベッドへ転がっていた。


 しかも。


 地主家の高級羽毛布団へ完全に埋まっている。


「ふかふかなのだぁ……」


 幸せそうだった。


 その姿を見ながら、地主夫人が小さく呟く。


「……本当に変な英雄ね」


 誰も否定しなかった。


 その夜。


 クレープ平原では久しぶりに、人々が少しだけ安心して眠っていた。


 世界最強の獣人が、地主館でぐうぐう寝ている。


 それだけで。


 少なくとも今夜は魔物が来ないと、皆わかっていたからである。

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