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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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55

 ヴェルシナ地方最大の酒場《灰熊亭》は、今夜も異常な熱気に包まれていた。


 狭い。


 暑い。


 酒臭い。


 そして。


 美女が多い。


 ルミナス王国は元々美女が多い国として有名だったが、北東地方の女たちはまた独特だった。


 雪国特有の白い肌。

 長い髪。

 冷たい目元。


 しかもこの土地は貧しい。


 だから女たちは強い。


 重い荷物も持つし、冬支度もするし、必要なら獣も捌く。


 そんな女たちが。


 今。


 一人の銀髪獣人を囲んでいた。


「のだっ♡」


 レイである。


 しかも。


 完全に調子に乗っていた。


「近う寄れなのだぁ♡」


 どやぁ。


「あーはっはっは!!美女大国最高なのだっ♡」


 尻尾ぶわぁん!!


 酒場中が揺れる。


「きゃっ♡」


「レイ様尻尾ぶつかってる!」


「また酔ってる!」


 周囲の女たちは笑っていた。


 完全に慣れている。


 レイは今、両脇に女を抱えながら椅子へふんぞり返っていた。


 しかも。


 膝の上に赤ん坊までいる。


 完全に終わっている光景だった。


「レイ様もっと食べて」


「肉切ってあげる」


「酒飲む?」


「のだっ♡」


 レイは超ご機嫌だった。


 理由。


 褒められてるから。


 そして。


 美女がいっぱいだから。


 獣人族の脳は非常にシンプルだった。


「吾輩、モテ過ぎなのだぁ♡」


 完全に満面の笑み。


 周囲の男たちは遠い目をしていた。


「……またやってる」


「最近女増えすぎだろ」


「他地方からも来てるしな」


「もう収拾つかねぇ」


 実際。


 ヴェルシナ地方はかなり危ないことになっていた。


 世界最強。

 高身長。

 英雄。

 しかも食料持ってくる。


 そんな男が定期的に現れる。


 しかも。


 妙に女へ優しい。


 結果。


 こうなる。


「レイ様ぁ」


 東部から来た女がレイの腕へ抱きつく。


「次どれくらいこっちいるの?」


「のだぁ?」


 レイは少し考えた。


「数日なのだぁ!」


「短い〜〜〜」


「吾輩忙しいのだぁ!」


 どやぁ。


「世界最強だからなのだぁ!」


 完全に調子へ乗っている。


 そして。


 酒場奥では、ヴェルシナ古参組の女たちが妙に険悪だった。


「最近外から来た女多すぎ」


「レイ様に媚びすぎ」


「うちの子にまでお菓子渡してる」


「怖いわ」


 完全に牽制し合っていた。


 だが。


 その空気すら。


 レイはほぼ理解していない。


「のだぁ〜〜〜♡」


 肉うまい。

 美女いっぱい。


 大体それしか考えてない。


 その時だった。


「レイ様」


 若い女がニヤニヤしながら聞いた。


「王都でもモテるの?」


「のだっ♡」


 レイの尻尾がぶわんっと揺れる。


「超モテるのだぁ!」


 どやぁ。


「王都の美女もいっぱいなのだぁ!」


「うわ最低」


「でもわかる」


「顔良いもんね……」


 酒場が笑いに包まれる。


 レイは完全に気分が良くなっていた。


 そして。


「うむ!」


 突然真顔になった。


「今日は吾輩、かっこいいやつを披露するのだぁ!」


「また始まった」


「酒場知識だ」


 男たちが頭を抱える。


 最近のレイは、王都酒場で聞いた“強者っぽい言動”を真似するのが趣味だった。


 そして。


 レイはゆっくり立ち上がった。


 酒場が少し静かになる。


 銀髪。

 高身長。

 しかも酔ってる。


 妙に絵になる。


 レイは外套をひらっと翻した。


「…………」


 真顔。


 低音。


「……俺を追放したこと、後悔するなよ」


 静寂。


 そして。


 レイは振り返らず歩き出した。


 数歩。


 ゆっくり。


 格好つけて。


 そのまま酒場出口へ――


 ごっ。


「のだぁ!?」


 扉へ頭ぶつけた。


 酒場大爆笑。


「ぶはははは!!」


「レイ様ぁぁ!!」


「格好つかねぇ!!」


「痛いのだぁ!!」


 レイは頭押さえてうずくまる。


 尻尾しなしな。


 だが。


 女たちは完全に楽しそうだった。


「でも好き」


「わかる」


「変なとこ可愛い」


「のだぁ!?」


 レイは真っ赤になる。


「可愛いではないのだぁ!!」


 どやぁ。


「吾輩、超絶イケメン世界最強なのだぁ!!」


「はいはい」


「すごいすごい」


「もっと飲め」


「のだっ♡」


 即復活。


 単純だった。


 その夜。


 灰熊亭は深夜まで騒がしかった。


 美女たちに囲まれ。


 赤ん坊たちに尻尾を掴まれ。


 地方女たちから本気で取り合われながら。


 白銀の獣英雄レイは、人生で最も“獣人族らしい顔”で笑っていた。

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