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王宮《白夜宮》の中央回廊は、夜になると妙に静かだった。
昼間は貴族や役人が歩き回っている場所だが、深夜近くなると足音すら減る。
その静かな回廊を。
「のだぁ〜〜〜♪」
銀髪の巨大男が上機嫌で歩いていた。
レイである。
なお。
片手にプリンを持っていた。
完全に帰宅途中だった。
その時。
「レイ殿」
近衛士官が敬礼する。
「陛下がお呼びです」
「のだぁ?」
レイがきょとんとした。
「今からなのだぁ?」
「はい」
数秒。
レイはプリンを見た。
そして。
「急ぎなのだぁ?」
「……かなり」
「むむっ」
レイは真剣に悩んだ。
プリンを食べ切るかどうか。
なお国家機密級呼び出しである。
数分後。
ちゃんと完食してから向かった。
獣人族だから。
以上。
白夜宮奥、王族私室区画。
普通の貴族ですら滅多に入れない場所だった。
そこへ通されたレイは。
「のだぁ!」
ちゃんと膝をついた。
最近かなり礼儀正しい。
獣人族基準では。
国王カルパスは書類へ目を通したまま口を開く。
「近いうちに外国使節団が来る」
「のだぁ?」
「北西同盟国だ」
レイは数秒考えた。
「難しいのだぁ」
「理解しなくていい」
カルパス王は即答した。
「お前に必要なのは一つだけだ」
静かな声。
「晩餐会へ出ろ」
「のだぁ?」
レイの耳がぴくっと動く。
「美味しいのだぁ?」
「王宮料理だ」
「のだっ♡」
即落ちだった。
カルパス王は少し頭痛を堪える。
本当に単純で助かる。
そして困る。
「ただし」
国王は続けた。
「お前には“立っていてもらう”」
「のだぁ?」
「王族の後ろだ」
レイは首を傾げた。
「なぜなのだぁ?」
数秒。
カルパス王は少しだけ考えた。
そして。
「威圧だ」
率直だった。
「外国は“強さ”を見る」
「のだぁ?」
「この国には世界最強がいる」
「王家直属だ」
「それを見せる」
レイは数秒固まった。
そして。
「のだぁ!!」
感動した。
「吾輩、飾り筋肉なのだぁ!?」
「……まあ近い」
レイの尻尾がぶわぁんっと揺れる。
完全に嬉しそうだった。
「承知しましたのだぁ!」
どやぁ。
「その日はちゃんと王族たちの後ろに立ってますのだぁ!」
カルパス王は静かに頷いた。
実際、それが目的だった。
国家外交は舐められたら終わる。
特に今の時代は。
西部は不安定。
東部は魔物被害。
南方貴族も怪しい。
だからこそ。
“この国にはまだ圧倒的暴力がある”
と見せる必要があった。
そして。
レイはその象徴としてあまりにも便利だった。
世界最強。
若い。
兵士人気が高い。
しかも。
銀髪高身長で見栄えまで良い。
外交向きすぎる。
「……陛下」
レイが真顔で聞いた。
「静かに立ってた方がいいのだぁ?」
「出来るならな」
「むむっ」
レイは真剣に考え始めた。
そして。
「……もう遅い」
低音で呟いた。
カルパス王が顔を覆う。
「それはやめろ」
「のだぁ!?」
「絶対にやめろ」
かなり本気だった。
一方。
数日後の外交晩餐準備は、王宮全体を巻き込む騒ぎになっていた。
「レイ様用の礼装は!?」
「肩幅合うものがない!!」
「また仕立て直しだ!!」
衣装係たちが半泣きである。
レイは規格外だった。
身長。
筋肉。
尻尾。
全部が面倒。
「のだぁ?」
レイ本人は鏡前でぼんやりしていた。
「なんかキラキラしてるのだぁ」
金刺繍礼装。
王家直属遊撃兵専用の正装だった。
普通の兵士には許されない。
「レイ様、本当に格好良い……」
若い侍女がぽつりと呟く。
実際。
危険だった。
銀髪。
金刺繍。
高身長。
しかも最近は剣姿まで様になってきている。
王都女性人気がさらに壊れ始めていた。
「のだっ♡」
褒められてレイの尻尾が揺れる。
完全にご機嫌。
その頃。
王族側では別の計算が進んでいた。
「外国側へ、“王家管理下”を強く印象付けろ」
カルパス王は側近へ命じる。
「レイ単独ではなく、“王家の英雄”として見せる」
「承知しました」
そこが重要だった。
もし。
レイが“自由な英雄”と認識されれば。
外国勢力が接触してくる。
金。
爵位。
婚姻。
何でも使う。
だから。
最初から見せる。
この怪物は王家所有物だと。
一方。
当の本人は。
「のだぁ〜〜〜♡」
礼装姿で鏡を見ながら。
「静かに立つ練習なのだぁ!」
真顔で“強者の立ち方”を研究していた。
なお。
使用人たちは全員、笑いを堪えるのに必死だった。




