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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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 王都キャビアでは最近、一つの奇妙な現象が起きていた。


 白銀通り。


 高級仕立屋。

 香水店。

 宝石商。


 王都でも最も華やかな一角で、女たちが妙にそわそわしているのである。


「今日レイ様戻ってるらしいわよ」


「本当!?」


「西部から昨日帰還したって」


「じゃあ屋敷前行かなきゃ……!」


 しかも。


 年齢層が広い。


 若い令嬢。

 未亡人。

 地方出身の美女。

 商家の娘。


 さらには。


 普通に貴族夫人まで混ざっていた。


 理由は単純。


 レイである。


 世界最強。

 王族直属遊撃兵。

 兵士人気最強。

 地方人気まで高い。


 そして。


 顔が良い。


 致命的に。


 高身長銀髪。

 獣人特有の鋭い顔立ち。

 しかも最近は剣まで使い始めた。


 王都女性人気が危険領域だった。


 さらに厄介なのは。


 レイ本人が“王都貴族男性にありがちな気持ち悪さ”をあまり持っていないことである。


 権力自慢を延々しない。

 難しい政治話もしない。

 暴力で女を怯えさせる趣味も薄い。


 代わりに。


「のだっ♡」


 褒めると喜ぶ。


 肉あげると懐く。


 尻尾触ると機嫌良くなる。


 完全に大型獣だった。


 だから。


 危険だった。


「レイ様って、意外と可愛いのよね……」


「わかる」


「しかも強すぎる」


「あと子供好きらしいわよ」


「ヴェルシナ地方の話聞いた?」


「半獣人の赤ちゃんいっぱいってやつ?」


 王都女性たちはかなり本気だった。


 一方。


 王都上流階級も当然動いていた。


 むしろこちらが本命だった。


 高級サロン《金鷲宮》。


 貴族夫人たちが静かに紅茶を飲んでいる。


「……正妻は厳しいでしょうね」


「ええ」


「ですが愛人枠なら」


 静かな会話。


 しかし内容は完全に政治だった。


 レイは今や“国家級資産”である。


 つまり。


 繋がれば利益が大きい。


 兵士層への影響力。

 地方人気。

 王族への接近。


 全部ついてくる。


「辺境伯家が既に動いてるそうよ」


「北方公爵家も」


「商人連中も娘を近づけてるとか」


 上流階級の女たちはよく理解していた。


 これは恋愛市場ではない。


 投資である。


 しかも。


 かなり高利回り。


「問題は」


 老貴婦人ナポレオンパイがゆっくり言う。


「レイ殿が“選ばれる”側の意識を持っていないことです」


 静かな笑いが広がる。


 その通りだった。


 普通。


 成り上がり英雄は貴族社会へ取り入りたがる。


 だがレイは違う。


「のだぁ?」


 で終わる。


 爵位。

 派閥。

 縁談。


 大体理解していない。


 だから。


 逆に厄介だった。


「下手な駆け引きが効かない」


「金もそこまで執着しない」


「しかも女慣れしてる」


「ヴェルシナ地方の件ですか」


「ええ」


 苦笑が漏れる。


 地方に子供が大量にいる。


 なのに。


 王都女性人気は落ちていない。


 むしろ上がっている。


 理由。


 世界観が違うからだ。


 この国では。


 強い男。

 稼ぐ男。

 生き残る男。


 それ自体が強烈な価値だった。


 特に今みたいな不安定な時代では。


 一方。


 当の本人は。


「のだぁあああ!?また手紙なのだぁ!?」


 屋敷で困惑していた。


 机の上には大量の封筒。


 香水臭い。


 明らかに女性からである。


「レイ様、今日だけで四十七通です」


「のだぁ!?」


 レイは目を丸くした。


「なんでなのだぁ!?」


 使用人たちは微妙な顔をする。


 理由を説明するのが難しい。


「……人気だからでは」


「のだっ♡」


 レイの尻尾が即揺れた。


 単純だった。


 だが。


 次の瞬間。


「むむっ」


 レイは真顔になる。


「人気者って忙しいのだぁ……」


 最近、少しだけ理解し始めていた。


 美女が増える。

 手紙が来る。

 お茶会呼ばれる。


 つまり。


 褒められる。


 悪くない。


 かなり悪くない。


「のだぁ〜〜〜♡」


 完全にちょっと嬉しい。


 だが。


 使用人たちは知っている。


 この獣人。


 手紙の内容をあまり読んでいない。


 だいたい、


『吾輩を褒めている』


 くらいの認識である。


 その時。


 執事が新しい封筒を持ってきた。


「こちら、北方公爵家からです」


「のだぁ?」


「ご令嬢との晩餐会への招待状かと」


「晩餐!」


 レイの目が輝く。


「美味しいのだぁ!?」


「恐らくは」


「行くのだぁ!!」


 即決。


 使用人たちは頭を抱えた。


 やはり駄目だ。


 この男。


 政治的縁談を。


 “美味しいご飯会”くらいにしか思っていない。

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