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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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5

 ルミナス王国北東部。


 雪深い地方都市ベルグラード。


 数ヶ月に及ぶ魔物被害で沈み切っていたこの町は、今日だけ妙に明るかった。


 理由は単純。


 魔物が消えたからである。


 しかも原因はたった一人。


「のだぁ〜〜〜♡」


 現在、その張本人は町の酒場で溶けていた。


 ぐでぇ〜〜〜ん。


 椅子にだらしなく座り、長い脚を投げ出し、尻尾は床でだらだら揺れている。


 銀髪。

 超高身長。

 異様に整った顔。


 そして今は完全にだらけ切っていた。


「レイ様、すごかったです〜!」


「本当に助かりました!」


「大型魔物を素手で倒すなんて……!」


「きゃ〜♡」


「のだぁ♡」


 溶けていた。


 完全に溶けていた。


 原因は明白。


 美女たちに囲まれているからである。


 しかも料理もある。


 巨大な焼き魔物肉。

 脂の乗った串焼き。

 濃いスープ。

 黒パン。


 さらに美女。


 獣人族にとって最高環境だった。


「のだぁ……♡」


 レイは頬を赤くしていた。


 尻尾もへにゃへにゃしている。


「褒められてるのだぁ……♡」


 うっとり。


「しかもお肉あるのだぁ……♡」


 とろん。


「天国なのだぁ……♡」


 完全に駄目になっていた。


 周囲の地方兵たちは遠巻きにその様子を見ていた。


「……すげぇな」


「ああ」


「数時間前まで大型魔物殴り殺してた奴と同じとは思えん」


 実際、さっきまでのレイは恐怖そのものだった。


 雪原を爆走。

 魔物を素手で粉砕。

 熊型魔物を片手で投げる。


 完全に災害。


 だが今は。


「のだぁ♡もっと褒めるのだぁ♡」


 大型犬だった。


 しかもかなりちょろい。


「レイ様って本当に綺麗な髪ですね〜」


「のだっ♡」


 尻尾ぶんぶん。


「毛並みもふわふわ〜」


「当然なのだぁ♡」


 ぶんぶんぶん。


「お肌も綺麗……」


「毎日洗ってるのだっ♡」


 ぶんぶんぶんぶん。


 風圧でテーブルの紙が飛んだ。


「きゃっ♡」


「のだぁ!?」


 レイは慌てて尻尾を押さえた。


「嬉しいと勝手に動くのだぁ!」


「かわいい〜!」


「のだぁ♡」


 さらに溶けた。


 獣人族は褒めに弱かった。


 とても弱かった。


 特に健康関連。


 毛並み。

 筋肉。

 体格。

 匂い。


 これらを褒められると異様に喜ぶ。


 理由は単純。


 本能的に「求愛成功率が高い」と認識するからである。


 つまり今のレイは本能レベルで、


(モテてるのだぁ♡)


 となっていた。


 非常に幸せそうだった。


「のだぁ〜〜〜♡」


 レイは巨大な魔物肉をもぐもぐ食べていた。


 この地方特有の香辛料が大量に使われている。


 脂も強い。


 味も濃い。


 つまりレイ好みだった。


「美味しいのだぁ……♡」


 うっとり。


「地方のお肉、偉いのだぁ……♡」


「そんなに気に入ったんですか?」


「うむ!」


 レイは真顔で頷いた。


「王都の料理は上品すぎるのだぁ!」


「あー……」


「もっとこう……」


 レイは串焼きを掲げた。


「暴力が欲しいのだぁ!」


「暴力?」


「味の暴力なのだぁ!」


 よくわからなかった。


 だが地方民には何となく伝わった。


「わかるかも」


「冬は濃い味じゃないとねぇ」


「そうなのだぁ!」


 レイは嬉しそうだった。


「脂!塩!肉!これなのだぁ!」


「獣みたい」


「獣人族なのだぁ!」


「確かに」


 酒場に笑いが起きる。


 以前なら考えられなかった光景だった。


 この町は数ヶ月ずっと暗かった。


 外に出れば魔物。

 夜になれば悲鳴。

 食料も不足。


 笑う余裕なんてなかった。


 だが今は違う。


 みんな笑っている。


 その中心にいるのは、足を投げ出して美女に囲まれている間抜けな男だった。


「レイ様って王都でも人気なんですか?」


「のだぁ?」


 レイは首を傾げた。


「知らないのだぁ」


「絶対モテますよ〜」


「のだっ♡」


 尻尾ぶわぁっ。


 嬉しすぎて膨らんだ。


「吾輩、モテるのだぁ!?」


「顔すごくいいですし」


「背高いし」


「強いし」


「優しいし」


「のだぁ♡」


 完全に液状化していた。


 椅子にだら〜っと寄りかかり、にへらぁっと笑っている。


 獣人族基準では最高に幸せな状態だった。


 ちなみに。


 本人は気づいていないが、酒場の女性陣はかなり本気でレイを見ていた。


 理由は単純。


 強い。

 顔が良い。

 しかも地方を救った英雄。


 さらに。


「のだぁ〜〜〜♡」


 妙に愛嬌がある。


 危険な大型犬みたいなものだった。


 その時。


 レイは突然真顔になった。


「……むむっ」


「どうしました?」


「静かなのだぁ」


 酒場が少し静まる。


 レイの耳がぴくぴく動く。


「……外なのだぁ」


 直後。


 遠くで鐘が鳴った。


 ガンッ!!

 ガンッ!!

 ガンッ!!


 警鐘。


 酒場の空気が凍る。


 兵士が飛び込んできた。


「魔物だ!!」


 一瞬で空気が変わる。


 女たちの顔色が青ざめる。


 だが。


「のだぁ?」


 レイだけは串焼きを咥えたままだった。


「またなのだぁ?」


「北門付近だ!!大型混じり!!」


「のだぁ〜〜……」


 レイは面倒臭そうに立ち上がった。


 美女たちが不安そうに見る。


「レイ様……」


「のだっ♡」


 レイはにかっと笑った。


「安心するのだぁ!」


 そして胸を張る。


「足臭天才イケメンレイ様がいるのだぁ!」


 次の瞬間。


 どごぉんっ!!


 酒場の窓から飛び出した。


「また窓ォ!!」


 酒場の主人が絶叫した。


 雪の夜へ飛び出したレイは、尻尾をぶんぶん振りながら笑っていた。


「のだぁあああああ!!」


 美女たちに褒められたので絶好調だった。

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