4 ベルグラード編
ルミナス王国北東部。
冬。
灰色の空。
凍った街道。
吹き荒れる雪。
そして――。
壊滅していた。
地方都市ベルグラード。
石壁は崩れ、見張り塔は半壊。
家々の窓は割れ、広場には乾いた血痕が残っている。
魔物被害。
しかもかなり酷い。
最近、この地方では異様な数の大型魔物が出現していた。
狼型。
熊型。
甲殻類型。
中には人を真似る奇怪なものまでいる。
被害は深刻だった。
農村は消え。
交易路は止まり。
兵士たちは疲弊。
地方貴族すら王都へ泣きつく始末。
そして王都が送り込んだ切り札が――。
「のだぁ〜〜〜♪」
雪道を尻尾ぶんぶん振りながら歩く男だった。
銀髪。
超高身長。
無駄に美形。
無駄にふわふわの尻尾。
そして無駄にうるさい。
レイである。
彼の後ろでは地方兵たちが死んだ目をしていた。
「……本当にこいつなのか」
「王都最強戦力って聞いたが……」
「なんであんな軽装なんだ」
レイはマントすらまともに閉めていない。
しかも片手には串焼き。
完全に観光客だった。
「のだぁ〜〜♪」
もぐもぐ。
「地方のお肉は脂が強いのだぁ〜〜♪」
「聞いてるか!?」
地方司令官ドミトルが怒鳴った。
四十代後半。
顔中傷だらけ。
疲労困憊。
数ヶ月まともに寝ていない顔だった。
「現在、北部森林地帯に大型魔物群が――」
「うむ!」
レイは串焼きを掲げた。
「吾輩が全部殴るのだぁ!」
「……は?」
「簡単なのだぁ!」
「いや待て説明を――」
「面倒なのだぁ!」
どごんっ!!
地面が砕けた。
レイが跳んだだけで雪道が陥没する。
地方兵たちが静まり返る。
「…………」
「……今の見たか?」
「石畳割れてたぞ」
「化け物だろあれ」
一方。
レイは雪原を爆走していた。
「のだぁあああああ!!!」
時速で言うなら馬より速い。
しかも本人は全然本気じゃない。
そのまま森林地帯へ突っ込む。
木々が揺れる。
魔物の臭い。
血の臭い。
そして――。
いた。
巨大な熊型魔物。
高さ四メートル超。
赤黒い毛皮。
異常発達した前脚。
普通の兵士なら数十人単位で死ぬ相手。
しかし。
「のだぁ?」
レイは首を傾げた。
「小さいのだぁ」
熊型魔物が咆哮した。
どごぉぉぉぉ!!
木々が震える。
雪が落ちる。
そして魔物は突進した。
だが。
「えっへん!」
レイは胸を張った。
「えっへん!えっへん!」
魔物が困惑した。
「足臭天才イケメンレイ様と呼びたまえぇええ!!」
完全に意味不明だった。
熊型魔物が怒り狂って前脚を振り下ろす。
直後。
ばごぉんっ!!
熊型魔物が横へ吹き飛んだ。
木々を数本へし折りながら転がっていく。
レイが殴っただけだった。
「のだぁ?」
レイは拳を見た。
「最近ちょっと筋肉ついたのだぁ?」
魔物は動かなかった。
死んでいた。
一撃。
しかもレイは半分よそ見していた。
その瞬間。
森が揺れた。
ぞろぞろぞろ。
現れる。
狼型魔物群。
十。
二十。
三十。
赤い目がレイを囲む。
普通なら絶望する光景。
だが。
「のだぁ〜〜〜♡」
レイはむしろ嬉しそうだった。
「いっぱいなのだぁ!」
尻尾ぶんぶん。
「お肉いっぱいなのだぁ!」
次の瞬間。
消えた。
いや。
速すぎて見えなかった。
どごんっ!!
ばきぃっ!!
ぐしゃぁっ!!
狼型魔物たちが吹き飛ぶ。
木にめり込む。
雪原を転がる。
骨が砕ける音。
「のだぁあああ!!」
レイは大笑いしていた。
「弱いのだぁ!弱いのだぁ!」
どかぁん!!
一匹を掴んで別の群れへ投げる。
まとめて吹き飛ぶ。
完全に災害だった。
数分後。
森は静まり返った。
雪原には魔物の死体が散乱。
その真ん中でレイは鼻歌を歌っていた。
「のだぁ〜〜〜♪」
ぺしぺし。
尻尾で毛並みを整えている。
「雪で濡れたのだぁ」
その時。
後から追いついた地方兵たちが到着した。
そして。
全員固まった。
「…………」
「……終わってる」
「もう終わってる」
「何なんだこいつ」
レイは得意げだった。
「のだっ♡」
胸を張る。
「吾輩、天才なのだぁ!」
「いやそれは認めるが」
「えっへん!」
どやぁ。
「足臭天才イケメンレイ様なのだぁ!」
「その“足臭”いる?」
「個性なのだぁ!」
地方兵たちは頭を抱えた。
だが。
その日の夜。
町は久しぶりに静かだった。
誰も襲われない。
悲鳴もない。
門番たちも怯えていない。
住民たちは恐る恐る外へ出ていた。
「あの……」
小さな少女がレイへ近づいた。
「ありがとう、お兄ちゃん……」
「のだぁ?」
レイは串焼きを食べながら首を傾げた。
「なんで感謝されてるのだぁ?」
「助けてくれたから……」
「うむ!」
レイは胸を張った。
「吾輩、お金もらってるのだぁ!」
最低である。
だが少女は笑った。
「でも強かった!」
「のだっ♡」
レイは即機嫌を良くした。
「もっと褒めるのだぁ!」
「すごかった!」
「うむうむ!」
「かっこよかった!」
「当然なのだぁ!」
「イケメン!」
「もっとなのだぁ!!」
尻尾ぶんぶん。
風圧で雪が舞う。
地方兵たちは遠くからその様子を見ていた。
「……なんか」
「ああ」
「変な奴だな」
「でも」
崩壊寸前だった町には、久しぶりに笑い声が戻っていた。
そしてレイ本人はというと。
「のだぁ〜〜〜♪」
串焼きを追加注文しながら上機嫌だった。
「地方任務最高なのだぁ!お肉美味しいのだぁ!」




