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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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45 王子の地方視察編

 王都キャビア中央宮殿。


 朝。


 巨大な謁見の間には重たい空気が漂っていた。


 赤絨毯。

 銀装飾。

 列を成す近衛兵。


 その中央で、第一王子ピロシキが不機嫌そうに腕を組んでいる。


「……本当に必要ですか?」


 静かな声だった。


 だが苛立ちは隠れていない。


 国王カルパスは玉座へ座ったまま答える。


「必要だ」


「地方視察程度で?」


「“程度”ではない」


 カルパス王の目は冷たい。


「最近、西部物流地帯の空気が悪い」


 王子は黙った。


「税負担への不満」


「地方兵士の疲弊」


「そして魔物被害」


 静かな声。


「お前は次代の王だ。顔を出す必要がある」


 それ自体は正論だった。


 王族は“見せる存在”でもある。


 特に地方が荒れ始めた時ほど、中央は姿を見せなければならない。


 だが。


 問題は別だった。


「だからといって」


 ピロシキ王子は露骨に顔をしかめる。


「あの獣人をつける必要がありますか?」


 空気が少し止まる。


 貴族たちは静かに視線を逸らした。


 その時だった。


「のだぁ?」


 入口側。


 銀髪の巨大男が首を傾げていた。


 レイである。


 なお。


 話を途中から聞いていた。


「吾輩なのだぁ?」


 空気が微妙になる。


 ピロシキ王子は露骨に嫌そうな顔をした。


 レイが嫌いなのだ。


 正確には。


 扱いづらい。


 兵士人気が高すぎる。

 地方人気も高い。

 しかも顔まで良い。


 王族からすると少し鬱陶しい存在だった。


 一方。


 レイ本人は。


「のだっ♡」


 ちょっと嬉しそう。


 呼ばれたから。


 単純だった。


 カルパス王は静かに言う。


「レイ」


「のだぁ!」


 レイがぴしっと姿勢を正す。


 ちゃんと礼儀はある。


 獣人族基準ではかなり。


「ピロシキの護衛を命じる」


「のだぁ!」


 レイは即答した。


「承知しましたのだぁ!」


 どやぁ。


 王子はさらに嫌そうになる。


「……本当に必要ですか」


「必要だ」


 カルパス王は冷静だった。


「最近、王族狙いの盗賊組織も増えている」


「魔物被害もある」


「そしてお前は――」


 一瞬。


 カルパス王の目が鋭くなる。


「まだ弱い」


 静寂。


 ピロシキ王子の顔が硬くなる。


 王族の中でも、この親子関係はあまり温かくない。


 カルパス王は現実主義者だった。


 情より国家。


 だから息子にも容赦がない。


「……承知しました」


 王子は不機嫌そうに頭を下げた。


 一方。


 レイは。


「のだぁ〜〜〜♪」


 ちょっと嬉しそうだった。


 理由。


 護衛任務。


 つまり。


 “静かに去る”を披露できる可能性がある。


 最近のマイブームである。


 その後。


 宮殿外。


 出発準備が始まっていた。


 馬車。

 護衛兵。

 荷車。


 王子視察だけあって規模は大きい。


 だが。


 兵士たちの視線はほぼ一箇所だった。


「レイ様だ……」


「マジで護衛つくのか」


「これもう移動要塞だろ」


「襲撃側かわいそう」


 若い兵士たちは完全に目が輝いていた。


 レイ本人は。


「のだぁ?」


 荷車を覗き込んでいた。


「お肉少なくないのだぁ?」


「旅ですので」


「むむっ」


 真顔。


「追加なのだぁ」


 数分後。


 兵站係が泣きそうな顔になっていた。


「干し肉が足りないぃぃ……」


 レイは旅へ出る時、とにかく食料を持つ。


 獣人族だから。


 以上。


 一方。


 ピロシキ王子は馬車内で頭を抱えていた。


「……本当にあれが王国最強なのか」


 側近が小声で答える。


「はい」


「信じがたいな」


「ですが事実です」


 側近は少し真顔になる。


「灰霧街道」


「山喰らい」


「東部物流路」


「全部、レイ殿単独で解決しています」


 王子は窓の外を見る。


 そこでは。


「のだぁ〜〜〜♪」


 レイが馬へ話しかけていた。


「いっぱい走るのだぁ!」


 馬がちょっと怯えている。


 完全に変な獣だった。


 だが。


 王子も理解している。


 この獣がいる限り。


 少なくとも“普通の危険”では死なない。


 それほど強い。


 そして。


 それが少し悔しかった。


 王族なのに。


 自分より兵士たちが尊敬しているのは、あの獣人なのだから。


「出発します!」


 号令が響く。


 馬車が動き始める。


 レイはその横を普通に歩いていた。


 なお。


 馬より速いので、本気を出すと護衛にならない。


「のだっ♡」


 尻尾ぶん。


 レイは妙に機嫌が良かった。


 理由。


 護衛任務。


 つまり。


 格好いい台詞を言う機会があるかもしれないから。


「むむっ……」


 真顔。


「……もう遅い」


 小声で練習していた。


 近くの兵士たちは必死に笑いを堪えていた。

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