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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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 オルジェフ地方。


 夜。


 雨。


 冷たい泥。


 そして。


 地方全体が静かに腐っていた。


 本来なら誰かが止めなければならなかった。


 王都。

 役人。

 兵士。

 貴族。


 だが誰も止めない。


 止める理由がないからだ。


 地方は遠い。


 貧民は安い。


 人間は替えが効く。


 それがルミナス王国の現実だった。


 そして今。


「のだぁ……」


 レイは地下牢の前で座り込んでいた。


 鎖の臭い。


 血。


 飢え。


 怯え。


 全部鼻に入ってくる。


 獣人族の嗅覚は鋭い。


 だから。


 見えなくてもわかる。


「のだぁ……」


 地下には人がいた。


 子供。

 女。

 老人。


 痩せている。


 弱っている。


 レイは静かに目を閉じた。


 獣人族は頭が悪い。


 細かい政治も知らない。


 経済も知らない。


 貧困対策なんてもっとわからない。


 でも。


 これはわかる。


「嫌な臭いなのだぁ……」


 本当に嫌だった。


 腹の底がむかむかする。


 怒りというより、本能的嫌悪だった。


 獣人族は単純だ。


 群れを飢えさせるやつ。

 弱い子供を虐めるやつ。


 そういうものを嫌う。


 理由は知らない。


 ただ嫌いなのだ。


 だから。


「のだぁ……」


 レイはゆっくり立ち上がった。


「何もせず帰るの、気分悪いのだぁ」


 静かな声だった。


 次の瞬間。


 どごぉんっ!!


 地方役所の壁が吹き飛んだ。


 悲鳴。


「ぎゃああああ!?」


「レイだ!!」


「化け物ォ!!」


 レイは歩いていた。


 静かに。


 怒鳴らない。


 笑わない。


 それが逆に怖かった。


 地方兵たちは剣を抜いた。


「止まれ!!」


「王国兵士に逆らう気か!!」


 レイは止まらない。


「のだぁ」


 兵士が斬りかかる。


 瞬間。


 ばごんっ!!


 兵士が天井へ突き刺さった。


 レイが片手で投げただけだった。


「ひっ……!」


 空気が凍る。


 世界最強。


 その意味を地方の人間たちは理解していなかった。


 いや。


 理解できるわけがなかった。


 レイはもう人間の戦力ではない。


 災害に近い。


 そのまま。


 レイは地主パンフォルテの屋敷へ向かった。


 豪邸だった。


 暖炉。

 シャンデリア。

 酒。


 地方民が飢えてる中、一人だけ太っている。


 レイはそれが嫌だった。


「ま、待て!!」


 地主が震えながら叫ぶ。


「金なら払う!!」


「のだぁ?」


 レイは首を傾げた。


「お主、ずっと金の話してるのだぁ?」


「なっ……」


 地主が後ずさる。


「人間ってお金大好きなのだぁ?」


 静かな声。


「でもぉ」


 レイは拳を握った。


「お腹空いて泣く臭いの方が嫌なのだぁ」


 次の瞬間。


 ばごぉんっ!!


 地主が壁ごと吹き飛んだ。


 死んではいない。


 だが半身が潰れていた。


 悲鳴。


「ぎっ……ぁ……!」


 レイは見下ろす。


「死ぬと楽なのだぁ」


 珍しく冷たい声だった。


「だから半分だけなのだぁ」


 地方民たちは震えていた。


 怖い。


 なのに。


 目を離せない。


 その後。


 汚職兵士たちは広場に吊るされた。


 本当に吊るされた。


 しかも。


「のだぁ」


 レイが自分でやった。


 兵士たちは泣き叫んでいた。


「やめろ!!」


「命令だったんだ!!」


「家族が!!」


 レイは静かだった。


「のだぁ?」


「地下の人たちも泣いてたのだぁ」


 それだけだった。


 密輸倉庫は燃えた。


 いや。


 半分壊れた。


 レイが殴ったから。


 奴隷商人たちは街門に埋められた。


 首だけ出して。


 雪の中。


 震えながら。


 地方はパニックだった。


「レイ様が……」


「兵士吊るした……」


「役人潰した……」


「王都直属が本気で怒ってる……」


 誰も止められない。


 なにせ。


 止める兵士がいない。


 いや。


 いたとしても無理だった。


 レイは強すぎる。


 その頃。


 レイ本人は。


「のだぁ……」


 街門の上に座っていた。


 雨。


 風。


 静かな夜。


 地方民たちは遠巻きに見ている。


 誰も近づけない。


 救世主。


 でも怖い。


 それが今のレイだった。


「のだぁ………」


 レイはぼんやり町を見下ろしていた。


「貧困を解決するのは英雄じゃないのだぁ」


 ぽつり。


 誰に言ったわけでもない。


「吾輩、魔物なら殴れるのだぁ」


 静かな声。


「でも人間は殴っても次が出るのだぁ」


 地方民たちは黙っていた。


 その通りだからだ。


 一人潰しても。


 また別の地主。

 また別の兵士。

 また別の役人。


 地方はずっとそうやって腐ってきた。


 レイは頭が良くない。


 政治もわからない。


 だけど。


 “終わってない”ことだけはわかってしまった。


「のだぁ……」


 尻尾が少しだけ揺れる。


「困ったのだぁ」


 その姿は。


 いつもの間抜けな大型犬みたいな男ではなかった。


 世界最強の獣だった。


 ただ。


 その獣は。


 人間社会の腐臭を理解してしまった。

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