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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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2

 王都中央兵舎。


 昼。


 給金日。


 兵士たちは列を作っていた。


 鎧の修理代を計算している者。

 酒代を考えている者。

 家族への仕送りを思い出している者。


 そんな中――。


「のだぁあああ!!」


 兵舎の扉が勢いよく開いた。


 全員が振り返る。


 現れたのは、銀髪の巨体。


 世界最強の男。

 獣人族最後の生き残り。

 王国最終兵器。

 そして兵士たちの頭痛の種。


 レイであった。


「お金なのだぁ!!」


 ずかずかずかずか。


 兵士たちを押し退けながら前進する。


「早く寄越せなのだぁ!!吾輩、お肉食べるのだぁ!!」


「並べ馬鹿!!」


 会計係の老人が怒鳴った。


 レイはぴたりと止まった。


「のだぁ?」


「列に並べ!」


「むむっ!」


 レイは周囲を見回した。


 兵士たちが整然と並んでいる。


「なるほどなのだぁ……」


 レイは腕を組んだ。


「人間族は狩りの前に整列する習性があるのだぁ……」


「違う」


「のだぁ?」


「順番待ちだ」


「順番待ち!?」


 レイは目を見開いた。


 衝撃だった。


「お金は並ばないと貰えないのだぁ!?」


「当たり前だろ」


「厳しい世界なのだぁ……」


 レイはしょんぼりした。


 しかし。


 数秒後にはケロッとして最後尾へ向かった。


 獣人族にしては驚異的な知能である。


 普通の獣人族なら「待つ」という概念に耐えられず暴れていた。


 獣人族とは恐ろしい種族だった。


 彼らは強い。


 とにかく強い。


 だが頭が悪すぎた。


 人類が「保存食」を開発した頃、獣人族は「全部今食べればいいのだぁ!」で滅びかけていた。


 「交易」を学ぼうとしていた頃には、「交換めんどいのだぁ!全部奪うのだぁ!」で文明との接触に失敗した。


 酒を知れば浴びるほど飲み、山菜を知れば毒草まで食べ、恋愛を知れば求愛中に崖から落ちた。


 滅んだ。


 本当に滅んだ。


 しかも最後の決め手が「詐欺師に“伝説の筋肉が生える粉”を売られて集団腹痛」という救いようのなさである。


 そんな中、レイは生き残った。


 理由は単純。


「怪しい粉はまず他人に食べさせるのだぁ!」


 獣人族基準では知性の化け物だった。


 なお人間基準だと最低である。


「のだぁ〜〜〜」


 列の最後尾で揺れているレイを見て、兵士たちはひそひそ話していた。


「なんであいつ、給金日にあんな嬉しそうなんだ」


「そりゃ嬉しいだろ」


「違うそうじゃない。あいつ毎回あのテンションだぞ」


「犬みたいだよな」


「尻尾振りそう」


 実際、今のレイはほぼ大型犬だった。


「のだぁ……お金なのだぁ……」


 にやにや。


「今日は干し肉いっぱい買うのだぁ……」


 にこにこ。


「あと蜂蜜なのだぁ……」


 うっとり。


「あと串焼きも食べるのだぁ……」


 完全に遠足前の子供だった。


 その時。


 前に並んでいた若い兵士が振り返った。


「なあレイ」


「のだぁ?」


「お前、金ってちゃんと使い方わかってるのか?」


「うむ!」


 レイは胸を張った。


「お金を渡すとお肉になるのだぁ!」


「まあ間違ってはない」


「あと綺麗なお姉さんが優しくなるのだぁ!」


「最低だなお前」


「のだっ♡」


 レイは褒められたと思った。


 実際、レイは金という概念をかなり気に入っていた。


 獣人族社会には存在しなかったからである。


 獣人族は欲しいものがあれば基本的に、


「欲しいのだぁ!」


 で終わる。


 そして殴り合いになる。


 勝った方が食べる。


 極めて単純。


 なのでレイは人間社会に来た時、感動した。


「のだぁ!?紙でお肉が食べれるのだぁ!?」


 革命だった。


 しかも人間族は殴り合わなくてもいい。


 なんて平和な文明なのだろう。


 レイは感動した。


 なお数日後には市場で値切りすぎて八百屋を泣かせていた。


「のだぁ!昨日はもっと安かったのだぁ!」


「昨日は閉店前だったからだよ!!」


「人間族、難しすぎるのだぁ!!」


 そんなレイも今や王国兵士。


 給金制度を理解している。


 これは快挙だった。


 ガルド団長など、初めてレイが自分から給金日に現れた時は本気で感動した。


「お前……金が必要だって理解したのか……!」


「のだぁ?」


「成長したな……!」


「お肉買うのだぁ!」


 泣きそうになった。


 親の気分だった。


 ちなみに翌週には給金袋ごと屋台で焼き肉に交換しようとして止められた。


 そんなこんなで列は進み――。


「次」


 ついにレイの番になった。


「のだぁ!!」


 どんっ!!


 窓口に両手を叩きつける。


 会計係の老人が露骨に嫌そうな顔をした。


「……毎回うるさいなお前」


「お金なのだぁ!!」


「わかってる」


 老人は革袋を取り出した。


 ずしりと重い。


 周囲の兵士がざわつく。


「うわ、やっぱ多いな」


「討伐報酬込みか」


「大型魔物三十体分だからな……」


 レイはきらきらした目で袋を見つめた。


「のだぁ……」


 ぷるぷる。


「いっぱい入ってるのだぁ……」


 会計係が説明する。


「基本給、討伐手当、特別危険手当、北門防衛報酬、臨時褒賞金――」


「のだぁ?」


「簡単に言うと大量だ」


「のだぁあああああ!!!!」


 レイは袋を抱きしめた。


 満面の笑み。


 兵士たちは苦笑する。


 だが次の瞬間。


 レイは真顔になった。


「……むむっ」


「どうした」


「重いのだぁ」


「当たり前だろ」


「困ったのだぁ……」


 レイは真剣に悩み始めた。


「これ全部お肉に変えたら持ち帰るの大変なのだぁ……」


「先にそこ考えろ」


「のだぁ!?」


 レイは衝撃を受けた。


「人間族は未来を予測して生きてるのだぁ!?」


「普通だ」


「賢すぎるのだぁ……」


 レイは畏怖した。


 獣人族にとって「後で困る」という概念はかなり高度だった。


 普通は困ってから考える。


 だから滅んだ。


「むむむ……」


 レイは給金袋を抱えながら考え込んだ。


 数秒後。


「決めたのだぁ!」


「なんだ」


「とりあえず串焼き食べながら考えるのだぁ!」


「お前なぁ……」


 しかしその瞬間だった。


 兵舎の外から怒鳴り声。


「大変だ!!」


 兵士が飛び込んできた。


「西街道で魔物群出現!!」


 空気が変わる。


 兵士たちが武器を掴む。


 ガルド団長も立ち上がった。


「数は!?」


「二十以上!」


「チッ……!」


 緊張。


 だが。


「のだぁ?」


 レイだけが不思議そうだった。


「二十だけなのだぁ?」


「大型混じりだぞ!」


「少ないのだぁ」


 そしてレイは。


 給金袋をぎゅっと抱きしめた。


「吾輩のお肉代を守るのだぁ!!」


「動機が終わってるなお前!!」


 次の瞬間。


 どごぉん!!


 兵舎の壁が吹き飛んだ。


 レイが突っ切ったのである。


「のだぁああああああ!!!!」


 会計係の老人が絶叫した。


「待て馬鹿!!給金袋置いてけぇ!!」


 レイは遥か彼方で叫んだ。


「嫌なのだぁあああ!!これは吾輩のお肉なのだぁああああ!!!!」


 王国最強の男は今日も元気だった。

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