表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/65

17

 王都キャビアへ続く帰還街道。


 雪。


 白い平原。


 灰色の空。


 そしてその中央を、一台の軍用荷馬車がゆっくり進んでいた。


 御者席には兵士。


 後方には荷物。


 そして。


「のだぁ〜〜〜……」


 ぐでぇぇぇぇん。


 完全に溶けた銀髪の大男が積まれていた。


 レイである。


 しかも毛布に包まれていた。


 その姿はもはや瀕死の大型犬だった。


「……本当に大丈夫なんですかレイ様」


 若い兵士が心配そうに聞く。


「のだぁ……」


 レイはとろんとした目で空を見ていた。


「吾輩、死んだのだぁ……?」


「死んでません」


「のだぁ……」


 しなしな。


 尻尾も元気がない。


 だが怪我ではない。


 疲労でもない。


 原因は。


 褒められ過ぎたからである。


 灰霧街道から帰還する途中。


 レイは各地で盛大に歓迎された。


 村。


 街道宿。


 交易所。


 小都市。


 全部。


「レイ様ぁぁぁ!!」


「救世主様ぁぁ!!」


「ありがとうございます!!」


「きゃああああ♡」


「抱いてぇぇぇ!!」


「尻尾触らせてぇぇぇ!!」


 褒め。

 歓声。

 感謝。


 しかも。


 ご飯まで出る。


 肉。

 スープ。

 蜂蜜酒。

 焼き菓子。


 獣人族にとって最高環境だった。


 そして。


 レイは獣人族だった。


 つまり。


 褒められ耐性ゼロ。


 結果。


「のだぁ……♡」


 脳が焼き切れた。


 完全に幸福過多である。


 現在のレイは“幸せすぎて機能停止した大型獣”みたいな状態だった。


「のだぁ……」


 荷馬車で揺られながら、レイはぼんやり呟く。


「お肉いっぱい食べたのだぁ……」


「はい」


「美女にいっぱい褒められたのだぁ……」


「はい」


「子供に尻尾も触られたのだぁ……」


「はい」


 兵士たちは優しかった。


 完全に介護である。


「つまり吾輩……」


 レイは真顔になった。


「死んだのだぁ?」


「違います」


「天国なのだぁ?」


「現世です」


「のだぁ……」


 納得していない顔だった。


 無理もない。


 獣人族の幸福基準はかなり単純なのだ。


・安全

・食事

・褒め

・ふかふか


 これだけで幸せ。


 そして今回。


 全部揃っていた。


 そりゃ溶ける。


 若い兵士など完全に脳を焼かれていた。


(レイ様かわいい……)


 危険だった。


 数日前まで白い怪物を真っ二つにしていた男が。


 今は。


「のだぁ……」


 毛布にくるまってへにゃへにゃしている。


 ギャップが凄い。


「レイ様、水飲みます?」


「飲むのだぁ……」


 兵士が水筒を渡す。


 レイは両手で持ってちびちび飲んだ。


 完全に弱った動物だった。


「のだぁ……」


 兵士たちはもう慣れていた。


 この男は極端なのだ。


 戦闘中。


 →災害。


 平時。


 →大型犬。


 その差が激しすぎる。


 その時。


 後方の兵士が笑った。


「でも今回、本当にすごかったですよ」


「のだぁ?」


「灰霧街道、完全制圧じゃないですか」


「うむ……」


 レイはぼんやり頷く。


「切ったのだぁ……」


「しかも剣で」


「のだぁ〜〜〜」


 兵士たちがざわつく。


「レイ様が剣使ったって、王都戻ったら絶対話題になりますよ」


「いやあの剣の持ち主絶対自慢するぞ」


「家宝だろもう」


「のだぁ?」


 レイは首を傾げた。


「ただ借りただけなのだぁ」


 その“ただ”が違うのである。


 若い兵士たちは完全に信仰状態だった。


「俺も剣貸したかった……」


「わかる……」


「触っただけで強くなりそう」


 かなり危険だった。


 一方。


 レイ本人は。


「むむっ……」


 突然真顔になった。


「どうしました?」


「困ったのだぁ」


「何かありましたか!?」


 兵士たちが緊張する。


 レイの直感は割と当たる。


 魔物察知。

 雪崩。

 敵襲。


 獣人族の勘は馬鹿にできない。


 そしてレイは。


 深刻な顔で言った。


「王都帰ったらまたお仕事なのだぁ……」


 兵士たちは静まり返った。


「…………」


「…………」


「…………」


「……それはまあ」


「嫌なのだぁ……」


 しなしな。


「吾輩、褒められながらお肉食べて生きたいのだぁ……」


「働いてください」


「のだぁ……」


 その時だった。


 前方から馬車が近づいてきた。


 豪華な馬車。


 毛皮。

 紋章。

 金装飾。


 王都貴族だった。


 兵士たちの顔色が少し変わる。


「貴族か……」


「面倒そうだな」


 実際。


 地方帰りの兵士はよく見下される。


 泥臭い。

 獣臭い。

 下品。


 そういう扱いだ。


 だが。


 向こうの馬車がレイに気づいた瞬間。


 ざわっ。


 窓のカーテンが揺れた。


「……あれ」


「まさか」


「白銀の英雄……?」


 貴族の娘たちらしき声。


 レイは。


「のだぁ?」


 毛布にくるまったまま首を傾げた。


 その瞬間。


「きゃあああああ♡」


「レイ様ぁぁぁ♡」


「本物ぉぉぉ♡」


 黄色い悲鳴。


 レイは固まった。


「のだぁ!?」


 兵士たちは笑いを堪えていた。


「レイ様人気すぎる……」


「完全に王都でも噂広まってるな」


 だが。


 レイは。


「の、のだぁ……♡」


 顔を真っ赤にしていた。


 尻尾が毛布の中でぶんぶん揺れている。


 そして数秒後。


「のだぁ……」


 ぐったり。


「また溶けた」


 兵士たちは慌てて支えた。


「レイ様ァ!?」


「しっかりしてください!!」


「のだぁ……褒められ過ぎると死ぬのだぁ……」


 獣人族最後の生き残り。


 世界最強。


 王族直属遊撃兵。


 現在、女子人気で戦闘不能だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ