15
灰霧街道。
白い霧。
雪。
そして。
異様に静まり返った森。
先ほどまで大量にいた白い影たちは、霧の奥へ消えていた。
兵士たちはまだ緊張していた。
「……逃げたのか?」
「いや、まだいる気がする」
「レイ様のおかげで怯んだだけでは……」
一方。
「むむっ……」
レイは真顔だった。
珍しく。
本当に珍しく。
考えていた。
「のだぁ……」
腕組み。
尻尾停止。
獣人族基準では完全に知性モードである。
「レイ様?」
「のだぁ?」
「どうしました?」
レイは少し考え込んでから言った。
「……今さら思ったのだぁ」
「はい」
「殴れるか試してなかったのだぁ」
兵士たちが静まり返る。
「…………」
「…………」
「…………」
「今さら!?」
「うむ!」
レイはどや顔だった。
「大事なことなのだぁ!」
なお今までやっていたこと。
・尻振りダンス
・悪口作戦
・精神攻撃
順番がおかしかった。
だが。
レイ本人はかなり真剣だった。
「むむっ」
そして。
近くにいた若い兵士の腰を見る。
「のだぁ?」
「え?」
次の瞬間。
しゅっ。
「のだっ♡」
兵士の剣が消えた。
「…………え?」
レイが持っていた。
「借りるのだぁ!」
「は、はいぃ!?」
若い兵士は真っ赤になった。
レイが。
レイが自分の剣を使っている。
脳が焼けた。
「お、おおお俺の剣……!」
「のだぁ?」
レイは剣をぶんぶん振った。
「軽いのだぁ」
「使ってるゥゥゥ!!」
若い兵士は感動で震えていた。
周囲の兵士たちもざわつく。
「すげぇ……」
「レイ様が剣を……」
「普段木の枝か素手なのに……」
実際かなり珍しかった。
レイは基本的に武器を使わない。
理由。
「重いのだぁ」
終わっている。
なので今の状況は、兵士たちからすると歴史的瞬間だった。
若い兵士など完全に涙目だった。
(家宝にする……)
本気だった。
(子供に語り継ぐ……)
危険だった。
一方。
「むむっ……」
レイは剣を構えていた。
かなり適当。
なのに妙に様になる。
顔が良すぎるせいだった。
白い霧。
雪。
銀髪。
長身。
剣。
絵になりすぎていた。
兵士たちは思わず見惚れる。
そして。
「のだぁ〜〜〜」
レイは霧の中へ歩き出した。
静か。
雪を踏む音だけ。
「レイ様……!」
「危険です!」
「のだぁ?」
レイは振り返った。
「何かいたら切るのだぁ!」
理屈が単純すぎる。
だが。
実際、それで大抵なんとかしてきた男である。
兵士たちは止められなかった。
霧が濃い。
視界が悪い。
白い。
静か。
普通なら恐怖で動けない。
だが。
レイだけは。
「のだぁ?」
きょろきょろ。
「どこなのだぁ?」
完全に散歩感覚だった。
その時。
ぬるり。
霧の奥。
白い腕。
細長い指。
異形。
兵士たちが悲鳴を飲み込む。
「レイ様後ろ!!」
だが。
レイは。
「のだっ」
振り向きざま。
ぶんっ。
剣を振った。
速すぎた。
白い影が。
ずるり。
真っ二つになった。
静寂。
「…………」
「…………」
「…………」
レイも止まった。
「のだぁ?」
白い影が地面で痙攣している。
黒い液体。
異臭。
そして。
死んでいた。
レイはしばらく見下ろしていた。
数秒後。
「……切れたのだぁ」
兵士たちがざわつく。
「効くのか!?」
「物理効くのかよ!!」
「今まで何だったんだ!!」
レイ本人もびっくりしていた。
「のだぁ……」
真顔。
「意外なのだぁ」
その感想なのか。
「もっと早く試せばよかったのだぁ……」
兵士たちは心の中で総ツッコミした。
だが。
レイはもう動いていた。
「のだぁあああ!!」
霧の中へ突撃。
白い影たちが現れる。
細長い腕。
異様な顔。
だが。
今のレイには関係なかった。
「切れるなら簡単なのだぁ!!」
ぶぉんっ!!
剣が振るわれる。
速い。
重い。
雑。
なのに異様に強い。
白い影たちが次々と両断されていく。
木ごと切れる。
雪が舞う。
霧が裂ける。
もはや嵐だった。
「のだぁああああ!!」
兵士たちは呆然としていた。
「……すげぇ」
「剣使えるんだ……」
「いや才能だけだろあれ」
実際その通りだった。
技術ではない。
筋力と反応速度がおかしいだけ。
なのに強い。
理不尽だった。
数分後。
霧の中は静まり返っていた。
白い影たちは全滅。
レイは。
「のだぁ〜〜〜」
剣を肩に担ぎながら戻ってきた。
返り血。
雪。
銀髪。
妙に格好良かった。
若い兵士は完全に脳を焼かれていた。
「俺の剣……」
うるうる。
「レイ様が使った……」
「のだぁ?」
レイは剣を返した。
「ありがとうなのだぁ!」
「は、はい!!」
兵士は震える手で受け取る。
そして。
(洗わない)
本気だった。
(絶対洗わない)
周囲の兵士たちも羨ましそうだった。
「いいなぁ……」
「レイ様の剣だぞ……」
「家宝じゃん……」
完全に宗教だった。
一方。
当のレイは。
「のだぁ〜〜〜♪」
もう別のことを考えていた。
「お腹空いたのだぁ」




