表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/65

13

 灰霧街道。


 ルミナス王国北西部。


 古くから“嫌な場所”として知られる街道だった。


 昼でも薄暗い。

 木々は黒い。

 鳥が少ない。


 そして何より。


 霧。


 白い霧が、道を這うように漂っている。


 静かだった。


 静かすぎた。


 同行していた王国兵たちは皆、無意識に声を潜めていた。


「……嫌な場所ですね」


「ああ」


「音が吸われるみたいだ」


「馬も怯えてる」


 実際、馬たちは落ち着かなかった。


 耳を伏せ。

 鼻を鳴らし。

 地面を掻いている。


 そして。


「のだぁ……」


 隊列の先頭。


 レイだけが妙に真面目な顔だった。


 銀髪。

 毛皮付き外套。

 巨大な体。


 いつものへらへら感が少ない。


 それだけで兵士たちは少し緊張していた。


(レイ様が警戒してる……)


(やっぱりヤバいのか)


(魔物か……?)


 しかし。


 当のレイ本人は。


「むむむ……」


 地面を見ていた。


 真顔。


 尻尾も止まっている。


 これはかなり珍しい。


「レイ様?」


 若い兵士が恐る恐る聞く。


「何かわかりましたか?」


「のだぁ」


 レイはしゃがみ込んだ。


 雪を触る。


 霧を見る。


 木を嗅ぐ。


「…………」


 沈黙。


 兵士たちが息を呑む。


 獣人族の感覚は鋭い。


 レイほどの化け物なら、人間にはわからない何かを感じ取っているかもしれない。


 皆、期待していた。


 そして。


 レイは立ち上がった。


「のだぁ!」


 真顔。


「わからないのだぁ!」


 兵士たちがずっこけた。


「わからないんですか!?」


「うむ!」


 どやぁ。


「全然わからないのだぁ!」


 胸を張るな。


 だがレイ本人は本当に困っていた。


「むむむ……」


 灰霧街道を見渡す。


 白い霧。


 静かな森。


 嫌な空気。


 しかし。


 原因不明。


「のだぁ……」


 レイは頭を抱えた。


「困ったのだぁ……」


 兵士たちはむしろ安心していた。


 なんだかんだでレイはいつも何とかする。


 そう思っている。


 脳が焼かれている。


 だが。


 今回のレイは違った。


「のだぁあああああ!!」


 突然叫んだ。


「何が原因か全然わからないのだぁあああ!!」


 膝から崩れ落ちる。


 雪の上。


 四つん這い。


「だいたい吾輩にこんな高度なことがわかるわけないのだぁああ!!」


 情けなかった。


 非常に情けなかった。


 だが兵士たちは。


「レイ様でもわからないなんて……」


「相当危険なんだ……」


「やはり普通じゃない……」


 全肯定だった。


 もう駄目だった。


 完全に脳を焼かれている。


「霧なんてぇえええ!!」


 レイは雪をばんばん叩いていた。


「巨大団扇でなんとかなるんじゃないのだぁああ!?!?」


 兵士たちは静まり返った。


「…………」


「…………」


「…………」


 若い兵士が恐る恐る言った。


「……団扇?」


「うむ!」


 レイは真顔だった。


「霧って煙みたいなものなのだぁ!」


「まあ……」


「つまりいっぱい扇げば消えるのだぁ!」


「理論が雑すぎる……」


 だが。


 レイ本人はかなり本気だった。


 獣人族の思考は基本的に、


「邪魔」

「殴るか吹き飛ばす」


 である。


 高度な調査など向いていない。


 なのに。


 レイは頑張っていた。


 ちゃんと調査しようとしている。


 これは獣人族基準では超知性行動だった。


「のだぁあああ……」


 レイは泣いていた。


 本当に泣いていた。


「吾輩、お馬鹿なのだぁ……」


 しょんぼり。


「王様に怒られるのだぁ……」


 尻尾もしなしな。


 大型犬みたいだった。


 だが。


 同行兵たちの脳は完全に焼かれている。


「そんなことありません!!」


「レイ様は頑張ってます!!」


「ここまで来ただけでもすごいです!!」


「霧を団扇で吹き飛ばす発想、斬新でした!!」


「のだぁ?」


 レイは顔を上げた。


「そうなのだぁ?」


「はい!!」


 若い兵士は本気だった。


 完全に信者だった。


 実際、彼らからすれば。


 レイは。


 世界最強。

 英雄。

 救世主。


 そんな存在なのだ。


 だから多少アホでも、


(深い意味があるのかもしれない)


 と思ってしまう。


 危険だった。


「……むむっ」


 レイは少し元気になった。


「つまり吾輩、まだ天才なのだぁ?」


「もちろんです!!」


「のだっ♡」


 尻尾ぶわぁん!!


 雪が吹き飛んだ。


 その時だった。


 ぴたり。


 レイの耳が止まる。


「……のだぁ?」


 空気が変わった。


 兵士たちも気づく。


 静かすぎる。


 霧が濃くなっている。


 白い。


 異様に白い。


「レイ様……」


「しっ」


 レイの目が細くなる。


 いつものへらへら感が消えた。


 兵士たちが息を呑む。


 その瞬間。


 霧の奥で。


 何かが動いた。


 人影。


 いや。


 細長い。


 異様に長い腕。


 白い。


 兵士たちが青ざめる。


「なっ……」


「なんだあれ……」


 だが。


 レイだけは。


「のだぁ?」


 首を傾げた。


「……人間なのだぁ?」


 その反応速度。


 その恐怖の薄さ。


 やはりこの男、根本的に生物として壊れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ