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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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11 灰霧街道編

 王都キャビア。


 王宮中央棟。


 玉座の間。


 重たい赤絨毯が奥まで伸び、巨大な柱には黄金装飾が施されている。


 ルミナス王国は北方国家らしく、豪華さの中にもどこか重苦しい威圧感があった。


 暖炉は巨大。

 窓は高い。

 衛兵は無表情。


 そして玉座には。


 国王カルパスが座っていた。


 五十代後半。


 白髪混じり。

 鋭い灰色の目。

 巨大な熊みたいな体格。


 典型的な北方王族だった。


 その前に。


「のだぁ!」


 どすんっ。


 レイが膝をついた。


 しかもちゃんとしていた。


 片膝。

 背筋。

 視線の位置。


 全部それっぽい。


 近衛騎士たちは少し驚いていた。


(……ちゃんとできるのか)


(意外だ)


(もっと野生動物みたいだと思ってた)


 失礼である。


 だが仕方ない。


 普段のレイは、


「のだぁ〜〜〜♪」


 とか言いながら窓を破壊している。


 ところが今は。


「王よぉ!」


 ぴしっ。


「王族直属遊撃兵レイ、参りましたのだぁ!」


 妙に礼儀正しかった。


 理由は単純。


 獣人族は“強者”への礼儀だけはかなり厳しいのである。


 強い相手に敬意を払わないと普通に殴り合いになるからだ。


 その点、レイの中では国王カルパスはかなり高評価だった。


 理由。


「いっぱいお金くれるのだぁ!」


 最低だった。


 だが獣人族基準ではかなり理性的な判断である。


 普通の獣人族なら、


「なんか偉そう」

「とりあえず戦う」


 になる。


 レイは違う。


 ちゃんと上下関係を理解している。


 これはもう神童だった。


 しかも。


「のだぁ!」


 レイは膝をついたまま動かない。


 尻尾もちゃんと静か。


 努力している。


 偉い。


 なお五秒後には暇そうに玉座の装飾を見始めた。


「のだぁ……でっかい椅子なのだぁ……」


 集中力。


 国王カルパスはそんなレイを見下ろしながら、静かにため息を吐いた。


「……相変わらずだな」


「のだっ♡」


 レイは褒められたと思った。


 尻尾が動きかける。


 しかし。


「……むむっ」


 必死に止めた。


 ぶるぶる震えている。


 近衛騎士たちはちょっと感動した。


(頑張ってる……)


(犬か……?)


 その時。


 宰相ティラミスが書類を広げた。


「ベルグラード地方の件ですが」


「うむ」


「被害地域の鎮圧完了。大型魔物群壊滅。交易路回復」


 近衛騎士たちがざわつく。


「……本当に一人で?」


「記録上はそうです」


「化け物か」


「化け物です」


 レイ本人は。


「のだぁ〜〜〜」


 全然聞いてなかった。


 天井を見ていた。


「シャンデリア大きいのだぁ……落ちたら危ないのだぁ……」


 国王カルパスはこめかみを押さえた。


「レイ」


「のだぁ?」


「褒賞は後で出る」


「のだぁっ♡」


 即反応。


 尻尾ぶわぁんっ!!


 風圧で書類が舞った。


「止めろォ!!」


 宰相が叫ぶ。


「嬉しかったのだぁ!!」


「犬か貴様!!」


 だが。


 玉座の間の空気はどこか柔らかかった。


 理由は単純。


 皆、知っているからだ。


 この男がどれだけ王国を救っているか。


 そして。


 この男がどれだけアホか。


 両方知っている。


 だから変に緊張感が続かない。


 その時。


 国王カルパスが姿勢を正した。


 空気が変わる。


「レイ」


「のだぁ!」


 レイもぴしっとした。


 こういう空気は理解できる。


 獣人族は空気より“圧”に敏感なのだ。


「新たな命令を与える」


 静寂。


 近衛騎士たちが息を呑む。


「北西部国境地帯、《灰霧街道》へ向かえ」


「のだぁ?」


「最近、交易商が消えている」


「魔物なのだぁ?」


「不明だ」


 カルパス王は目を細めた。


「だが、普通ではない」


 宰相ティラミスが続ける。


「生存者の証言によれば、“白い霧”が出るそうです」


「霧なのだぁ?」


「その後、人も馬車も消える」


 近衛騎士たちの顔色が少し変わる。


 嫌な案件だった。


 魔物ならまだいい。


 正体不明が一番危険なのだ。


 だが。


「のだぁ!」


 レイは元気だった。


「承知しましたのだぁ!」


 どやぁ。


「明日までに行く準備しますのだぁ!」


 即答。


 迷いゼロ。


 近衛騎士たちはまた少し驚いた。


 普通の兵士なら嫌がる。


 調査任務。

 未知の脅威。

 しかも国境。


 だがレイは違う。


 なぜなら。


「知らない土地なのだぁ!」


 目が輝いていた。


「美味しいご飯ありそうなのだぁ!」


 そこだった。


「あと情報収集なのだぁ!」


「また酒場か……」


 宰相が遠い目をする。


「うむ!」


 レイは胸を張った。


「最近“影のある男”の練習してるのだぁ!」


 近衛騎士たちがざわつく。


「何だそれ」


「酒場で聞いたのだぁ!」


 レイは得意げだった。


「強い男は窓際で難しい顔するらしいのだぁ!」


「また変なの覚えてる……」


 しかし。


 カルパス王は少し笑っていた。


「……好きにしろ」


「のだっ♡」


 レイは満面の笑みになった。


 そして。


 再びぴしっと膝をつく。


「王よぉ!」


 真顔。


「いっぱいお金くださいなのだぁ!」


 空気が止まった。


「…………」


「…………」


「…………」


 カルパス王は数秒黙った後。


「……追加報酬を出せ」


 宰相が頭を抱えた。


「甘すぎます陛下……」


「こいつはこれで動く」


「のだぁっ♡」


 レイは大喜びだった。


 尻尾ぶわぁん!!


 近衛騎士のマントがめくれた。


「またかァ!!」


 玉座の間に悲鳴が響く。


 だが。


 そんな騒がしい光景を見ながら、カルパス王は内心で思っていた。


(……本当に妙な男だ)


 最強。


 英雄。


 王国の切り札。


 なのに。


 礼儀だけは妙にちゃんとしている。


 しかも本人は一切計算していない。


 だからこそ。


 この男は妙に人の心へ入り込むのだった。

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