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ちょっとゴタゴタして投稿が出来ませんでした。すみません。



「お待たせしましたぁ。」


いつも通りののんびりした声と共に、ルクルはライン達の待つテーブルに到着した。


ただ、歩いてきただけだが、その後ろ姿は男たちを魅了してやまない。なぜならライン達から見ると、ルクルが近くを通ったテーブルの野郎どもは例外なくその背中に釘付けになっているからだ。息をのむ音が聞こえた気がしたのも、あながち気のせいではないだろう。


歩を進めるたびに、大胆なスリットから白磁の様な太ももが覗くのだから視線を吸い寄せるのも納得である。


しかも、今はさきほどまで、すとんと腰まで流していた黒髪を無造作に後頭部で結っている。露わになったうなじは、紫色の花の刺繍を施された藍色の薄衣と相まって、妖艶な大人の女性の色香が漂っていた。


「ルクルさん。き、綺麗ですね。」


「そうですかぁ。ありがとうございますぅ。」


ルクルはラインの後ろを通って隣の席につく。その際にも、こんな酒場には似つかわしくない甘くやわらかな香りがラインの鼻腔をくすぐった。


「おやおや、ライン君はルクルさんにぞっこんかい?顔をこれ以上ないってくらい真っ赤にして。」


「グリシーナさん!」


料理とお酒をもってきた村長の奥さん、グリシーナは、かかかと笑いながら他の給仕をしているママさん達と一緒に手際よくそれらを並べていく。


一通り行き渡ったらグリシーナも席につく。同じ席の男性陣にたいしてニヤリという笑みを浮かべ、


「どうだい?」


何に対してか、などとは言うまでもなかった。自信満々でドヤ顔を披露している。


「奥さんや、えらい氣合いの入りようじゃないか。」


「そりゃあ、素材が極上だからね。氣合いも入るっていうもんだよ。」


「奥様。さっきから独身の男性陣の目がすごい事になっていますよ。」


「かっかっか。そりゃ結構。でもまあ、そいつらのことはほっておきな。ここのテーブルにはその別嬪さんを村に連れてきた立役者がいるんだからね。」


照れてまともに顔も上げられず、かといって完全にうつむいているわけでもなく、ちらちらと隣の席を盗み見るライン。


ルクルは知ってか知らずか、ラインに優し氣な視線を送っている。


そんなルクルに対しやや挑戦的な視線をむけるグリシーナ。


「どうだい、ルクルさん。ライン君は。」


「とっても素直ないい子ですよぉ。今まで私の周りにはぁ、いなかったタイプですねぇ。」


「じゃあ、もしよかったら、しばらくその子の家でこの村にいついちゃくれないかい。」


「グリシーナさん!」


「奥さん!」


ルクルの危険性を危ぶむ村長。旦那をそっと目で制すグリシーナ。


そして、悲鳴にも似た声を上げながら、がばっと身を乗り出すライン。ルクルはそんないたいけな少年をなだめつつ笑みを絶やさずに聞き返す。


「その心はぁ、なんですぅ?」


「なに、そんな難しい話じゃないさね。ここは辺境だろう?長い目でみるとどうしても血が濃くなるのさ。だから、ルクルさんに限らず、この村に来て、もし住人と良い関係になってくれそうな人がいたら声をかけている。」


そこでグリシーナは一息つき、かわいい孫をみる目でラインを見つめる。


「……というのは、建前でね。あたしらにとって孫も同然なライン君がルクルさんにそんなに懐いている。その子は今までの境遇やお役目の重さから、年相応に笑う事も、なにか楽しむことも無くてね。村の入り口で、あんな姿を見るのは初めてだったのさ。」


「グリシーナさん……。」


「だから、ルクルさん、ライン君のところに嫁に来ないかい?」


「~~~~~~!!!!!んっ!」


ラインの声にならない悲鳴。再び身を乗り出す瞬間、ルクルはうるさいとばかりにラインの首根っこをひっつかんで引き寄せ、頭を脇に抱えた。もちろん何がとは言わないが、思いっきりあたっているし、薄衣なのでその感触はダイレクトに伝わっている。


しかも、ルクルは『ん~。』と微妙な位置調整をする感じで身じろぎする度に、その破壊力抜群の柔らかさを少年の顔面に押し付けていた。


周囲からの視線に嫉妬どころか怨嗟も混じりそうだったが、ラインはそんなことを氣にしている余裕は一切なかった。


ただでさえ、田舎特有のお節介なおばちゃんのノリで、一目惚れに近い形の憧れの人との縁談を口にされていたのだ。これだけで純情な少年の心はいっぱいいっぱいである。


そこに追い打ちをかけるように、頭を抱きかかえられてしまった。


女性特有の柔らかさ、鼻腔をくすぐる好きな人の香り。密着しているが故、全ての感覚も感情も一緒にいたい人で満たされてしまった。


思春期の少年にとっては強すぎる刺激に、とうとうラインはパンクした。


「むぎゅ~~……。」


頭を抱えられたまま、手足はだらんと力なく垂れ下がってしまった。だが、少年一人の体重、ルクルの体幹は小揺るぎもしない。


「……。」


同席している男二人はどこか憐れみを含んだ視線を向ける。本来なら羨ましいシチュエーションなのだが、なぜだろうか、代わってほしいなどという氣持ちは微塵も湧かなかった。


そんな男達のことは眼中にないのかの如く、女傑二人は正面から向き合ったままであった。


「ライン君はあと数年で成人だ。家庭を持てる。そして、結界師は国から補助金が出ているから安定して食いっぱぐれることもない。夫としても立派にやっていけるだろうし、魔力の素養が高いから代替わりするまで結界師としても問題なくやっていける。孤児だったこの子の隣にルクルさんみたいな強くて綺麗な人がいて、その血を残してくれたら……。生きた証を残してくれたら、この子にとっても村にとってもこんなにうれしいことはないさね。」


村を率いる者の妻としての打算。孫同然といっていい少年の未来を憂う切実な響きと、もしかしたらという微かな期待。


——人材の確保とぉ、村の中に優秀な遺伝子を引き入れるということが目的ですかねぇ。でもそれこそ建前ですねぇ。本音は……。


ルクルはもそりと脇に抱えたものの位置を調整する。「もぎゅ……。」という何かが聞こえた氣がするが氣にしない。


——この子への憐みですかねぇ。なんか、優しさが過ぎる氣がするんですよぉ。おそらくは、封印とやらに関わってくるんでしょうが、ありきたりなのは生贄。家庭とかぁ、子どもについても言っている所からするとぉ、封印のスパンは十数年から数十年でしょうかぁ。詳しいところは、帰ってからのお楽しみですぅ。


そこまで思考を進めたところで、ルクルは未だ動く気配がない、否、動けない少年の頭を優しく撫でる。


「いやぁ、光栄な提案なんですけどねぇ。生憎と、私は研究者で帰るところがある身なんですよぉ。仕事をほっぽっていたら、怒られますしぃ。一つのところに腰を落ち着けてしまったら、私の世界が広がらなくなってしまいますぅ。」


うんとこしょ、っとルクルはようやくラインを解放し、隣の椅子に座らせる。


「でもまあぁ、フィールドワークでここにいる間はぁ、ガイド兼お茶係として、ライン君と一緒にいますよぉ。」


バチコンと、気付けとばかりにデコピンをみまう。——あいたっ、という悲鳴と共にのけぞるライン。


「今は、それでいいですかぁ?」


「ああ、かまわないよ。」


交渉成立という所だろう。テーブルに宴会の空気が戻ってきた。


女同士の話の区切りがついたのを悟って村長がそろそろ、とカップを手に取った。


「話もついたようじゃし、改めて乾杯といこう。此度はルクル殿、あなたへの感謝の氣持ちじゃ。遠慮なく食べて飲んでほしい。」


「ありがとうございますぅ。」


「それでは、乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


村長が音頭を取り、テーブルの5人がカップを打合せ、ようやく食事が始まった。

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