3 苦労性の人
「さてさてさて、確か、集落の方向はこっちですねぇ。ひさしぶりの森の空気。んん~、りふれっしゅ~。」
ルクルは上空から確認した集落の方向へのんびりと氣持ちよさそうに歩いていく。研究室とは違った穏やかな時間。だが、そんな空氣は長いことは続かなかった。
『……ル…任。ルクル主任。聞……ますか。』
「プラティー君じゃあ、ありませんかぁ。こっちはぁ、大自然に囲まれてとても氣持ちいいですよぉ。」
『ふ…ざ…な!ク…任!あの…あと、どれだけ…変だ…か。』
「よく聞こえませ~ん。」
ノイズ交じりの通信。だが、向こうが明確な怒りを持っていることはよく伝わってくる。まあ、そんな程度ではルクルの精神は小揺るぎもしない。
プラティーももう慣れているのだろう。ブワっと怒りを吐き出すと要件を切り出した。
『……急ごしらえですけど、調整しました。これではっきり聞こえますね。』
「大丈夫ですよぉ。」
『ルクル主任……。あなたが突拍子もない事をするのはいつものことなので、まあ、この際、目をつぶるとしましょう。ですが、櫻麒麟はそこには置いておけません。宇宙進出をはたしていない文明には原則的に不干渉。今回は次元震の調査という名目であなたはまだ大丈夫ですが、櫻麒麟が万が一発見された場合、神の化身であるとか悪魔だとか、現地の信仰等に大きな影響を与える恐れがあります。』
通信で話している間にも、ルクルの所持している機器に反応がある。
「おおぉ!機動兵士内蔵次元跳躍装置のテストができますよぉ!」
『こんの……!!!ふぅ……、というわけで、櫻麒麟は強制回収します。データを精査し、次元跳躍装置のリンクについて改修を進めておきます。ルクル主任がビーコンになってくれるので、お帰りになる際は、今回のように、機体に軽微な損傷もなくスムーズな運用が可能でしょう。』
「さすがプラティー君ですぅ。頼りになりますねぇ。」
『はいはい。あと、この通信は櫻麒麟に中継してもらっているので、こちらに回収している間は連絡を取り合うことが出来なくなりますのでご留意ください。』
さすがに個人が携帯している通信機器のレベルだと次元を超えた通信は厳しい。だが、そんなことは問題にもならないという風にルクルはお氣楽なままだ。
「大丈夫ですよぉ。こっちはこっちで色々と進めておきますからぁ。」
『お願いします。それでは、くれぐれも現地への影響を与えるのは最小限にしてください。始末書が大変になりますので。』
「頑張ってくださいぃ、プラティー君」
『……!それでは。』
ルクルの持つ計器が大きく反応したかと思うとすぐに元に戻った。空間の裏側に待機していた櫻麒麟が元のドックに回収されたのだろう。
「いっちゃいましたねぇ、桜ちゃん。さてさて、氣を取り直してぇ、いきますかぁ。」
ルクルはそういうと、集落の方に向かって森の中をのんびりと進み始めた。
いつもの日常、いつもの空、そんな平穏ないつもの快晴の日に突如、ガラスをまとめて叩き割ったような甲高い悲鳴のような音が襲い掛かった。
「なんだ!?」
この村に住む少年のラインは村を守る結界の維持管理をまかされている。それゆえ、なにかしらの異常が起きたら真っ先に事態の対応に当たっている。
この異常な音に村にいる人々が空を見上げ不安げな表情を浮かべていた。
「ライン君!どうした!?」
「わかりません!結界には何も反応はありません!なにか魔物かなにかが襲ってきたわけではないようです!」
ラインは村の中を駆けていく。
不安そうにしている村人に大丈夫だと声を掛けながら、ライン自身はふと胸騒ぎを覚える。
——村を守る結界は大丈夫だけど……っ! 祠がなにか変だ!
ラインは村人を安心させるように声をかけて回っていたが、進路を、村が、いやこの国が祀っている祠の方角に変えた。
——何もないといいけど。……もしもの時は僕がこの、いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。
日常を襲った異変、そして、祠の変化。
抑えきれない胸騒ぎと共にラインは森の奥の祠を目指して走っていった。




