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11/24

11 解析

なんと、拙作にレビューが書かれました!!


とてつもなく嬉しいです!

本当にありがとうございます!

死屍累々。


食堂には酔いつぶれた男衆が、うめき声をあげたりカップを枕にしながら床に転がっていた。その中には村長とヴァッヘも混ざっている。


後片付けに動き回るママさん達。


そんな中、ルクルはその背に寝ぼけ眼のラインを背負っていた。「ルクルさんと皆さんのお酒が終わるまで起きてます!」と頑張った成果である。ただ、歩こうとしたらふらついたので問答無用でルクルが背負った形だ。最初は恥ずかしがってあーだこーだ言っていたものの、眠気と安心感からかすぐにおとなしくなっていった。


「それじゃあ、グリシーナさん。ごちそうさまでしたぁ。」


「ああ、あとは任せときな。こいつらは何かかけときゃ問題ないさね。二日酔いもルクルさんがくれた薬があれば、大丈夫だろう。」


そう、あまりの惨状にグリシーナをはじめママさん達が頭を抱えていたら、ルクルが懐から二日酔いに効く薬を朝に飲ませてやってほしいと、差し入れの申し出があったのだ。さらにルクルは料理もお酒も美味しかったと、ちょっとした心付けという名の高純度の魔石も渡した。


前者はともかく後者はあまりにも釣り合っていない——というよりこれまでの人生で見たことがないほど透き通った輝きを帯びていた——という事で、グリシーナは断ろうとしたが、「もし結界師のみなさんに何かあった時の保険になりますのでぇ、とっておいてくださいぃ。」とさらに天秤が片方に傾きかねないことを口にした。


しかし、ルクル本人が氣にしてなさそうなのと、やはり万が一の備えという事で、グリシーナ達はありがたく受け取ることに。その代わりに滞在中は遠慮なく食堂に来てほしいという事を伝え、それで手を打った形に落ち着いた。


「それではぁ、おやすみなさい。」


「ああ、おやすみ。氣をつけるんだよ。」


「ありがとうございますぅ。」


ルクルはそう言って、足取りも確かに、悠々と食堂を後にした。



食堂から直接見えないくらいまで歩くと、ルクルはボソッと《言霊》をつぶやく。


「《隠蔽》《浄化》」


その瞬間、一切見た目は変わらないが、先ほどまでお酒のためにやや紅潮していた頬が素面の状態に戻った。この状態を見ればついさっきまでお酒を飲んでいたといっても信じてもらえないだろう。本当に飲んでいた形跡がきれいさっぱり消えていた。


「ふむぅ。グリシーナさんの様子ならわざわざ村長たちを酔いつぶさなくてもライン君と一緒に帰れたかもしれませんねぇ。」


ルクルは村長たちが自分を警戒していることを分かっていた。言葉だけではない、目線の動き、呼吸のリズムなど参考にできる情報はいくらでもある。全身で警戒感を露わにしていた。


そんな者たちがどこの馬の骨ともわからない女に、村の最重要人物と言っても過言ではない子どもを任せるだろうか。


だからルクルは『酔い』というある種の状態異常を魔法の氣配を隠蔽しながら治しつつ、男衆が全員酔いつぶれるまで飲んでいたのだ。


グリシーナは先ほどのやり取りでルクルをこの村に取り込もうという方針だったから、むしろ連れていけと言うだろう。村長やヴァッヘが酔いつぶれたのでまさしくそのような状況になった。


しばし歩いていると、ラインの自宅に到着した。


ここでも家に入る前にルクルは、《言霊》を紡ぐ。


「《隠蔽》。対象を目の前の家屋に、《隠蔽》《沈黙》《幻影》《意識外》」


一切の魔法の氣配なくその力が行使される。最初の《隠蔽》は次に紡がれる言葉のために、次の言葉達はこれから家の中で起こることの一切を外に漏らさないために。


《隠蔽》により、家の中で魔術を使った何かがあったとしても外からは感知できず、《沈黙》により音も漏れない。そして、たとえ、家が崩壊したとしても《幻影》により何事もない家が投影され続ける。そしてなにより《意識外》によって、この家の存在が意識の上に上がらない。ただ、ごく普通に意識からそれていく。


幾重にも情報的な防壁を張り巡らせたあとでルクルは家の中に入っていった。


「《覚醒・極小》。ライン君、着きましたよ。」


まだ半分夢の中にいるかのように、ラインはうっすらと瞼を上げる。


「んっ。あ、ルクルさん。ありがとうございます。」


もそりと背中から降りて、ルクルの手を引いて客間に案内する。昼間、シスター服のルクルが来襲する前、大急ぎで整えていたので特に問題はない。


「ルクルさん、此方の部屋を使ってください。お昼、ルクルさんが来る前に掃除しておきました。ぼくの部屋はこっちです。」


「ありがとうございますぅ、ライン君。」


二人は部屋に荷物をおいて、寝間着に着替え、歯磨きなど最低限のことを済ませるとそれぞれの部屋に入っていく。


「おやすみなさい、ルクルさん。」


「おやすみなさいですぅ、ライン君。」


ガチャっと二人の部屋の扉が閉まる。ルクルは部屋に入るや否や、ぐわんと効果音が鳴るような勢いでラインの部屋の方に視線を向けた。


「《透視》。流石にすぐにベットに入りましたねぇ。」


ニヘヘヘ、と口角を吊り上げ、ある意味で純粋に目を輝かせた、到底純粋な子どもにはみせられない——熱意と冷たさが同居しているような、なにか大切なものから踏み外したかのような——笑顔を浮かべているルクル。


そのままの状態で待つこと数分。すぐにラインの胸は規則正しく上下するようになった。


「それではぁ、行きますかぁ。」


ルクルは自室の扉をあけ、その向こう、「《沈黙》」という《言霊》と共にラインの扉に手をかける。音もなく、事もなく、するりと中に入り、ルクルはベットの傍らに立った。


「《睡眠・深化》。……これでぇ、叩き起こそうとしない限り起きませぇん。」


ルクルは無造作にラインの頭を鷲掴みにした。そこには昼間に少年に向けた穏やかな雰囲気などかけらもなかった。


「さぁて、ナデナデするついでに色々と仕込んでいたのでぇ、色々と解析が進んでると思うんですけどねぇ。やりますかぁ。二重奏で大丈夫ですねぇ。《解析・展開》」


《言霊》を紡ぐと同時に、ラインの頭部を中心に折りたたまれた花弁が花開くように球形の魔法陣が展開される。ルクルが一旦手を放すと、それとは別に頭頂部にも円形の魔法陣が展開した。そして文字通り頭の先からつま先まで添うように手を動かすと、それに追従し円形の魔法陣もラインの全身をスキャンするように移動した。


「《出力》。」


さらに次の《言霊》を紡ぐとそれらの魔法陣から光が集まり、ルクルの頭部へ導かれ取り込まれていく。そして、目の前に手をかざすと、ホログラムのように、解析結果を示す映像が浮かび上がる。


「ふぅむ……。」


ルクルは折に触れてラインの頭を撫でていた。己を慕う純粋な少年が可愛かったからだろうか。それだけが理由か。否、たしかに一部ではあるかもしれないが全てではない。


ラインとの邂逅時、ルクルは彼から伸びる術式が村を覆う結界に繋がっているものと、祠に伸びるものの二つがあることを、その時の調査だけで分かっていた。しかし、その術式がどのような構築がされているのかはまだわからなかった。


そこで、彼女はラインの頭を撫でる際に、それらを解析するための極小の魔法陣を元にした術式を入れていた。ラインの頭部から侵入した術式は、それ自体がAIとして独自の情報処理ができるように調整され、外部の術師やライン本人に氣付かれ無いよう魔力の氣配・痕跡を消して活動出来るようにされていた。そして、あたかも自律型プログラムのように自己増殖してその活動範囲を全身に広げつつ、解析速度を上げていった。


しかし、流石にある程度時間が経過すると、魔力が足りなくなりその活動は制限される。そのため、ルクルは事あるごとに頭を撫で、魔力を補充・微調整をしつつ、ライン本人も、もしかしたらこの魔術を掛けた術者も把握しきれていない様な事まで調べ尽くせるように立ち回ってきた。


ひとえに自らの知的好奇心を満たすために。


「なるほどですぅ。村を護る結界の方は特にこれといって珍しい術式ではありませんねぇ。何人かの術者と結界とのパスを繋いで維持している。だれか一人がダメになっても残りがいれば負担は増えてもすぐに崩壊することはない、と。並列つなぎみたいなものですねぇ。」


片方は予想通りの性質を持っていた術式。みんなで大きな結界を維持しましょう、というものだ。実にわかりやすい。


問題はもう片方である。


「これはぁ、やっぱり悪趣味ですねぇ。胸にこの術式の魔法陣が描かれていますよぉ。これで祠に封印されている存在の魔力とライン君の魔力を混ぜ合わせて、拒絶反応が出ないようにしてますねぇ。ゆぅっくり、ゆぅぅっくりと。それで、最終的にそれに食べさせるときに生贄の魂ごとエネルギーに分解して、外に溢れ出ようとしてくる存在と同化・沈静化を図っているようですねぇ。」


ルクルが所属している帝国は、すでに魂の存在を確認しており、肉体が活動を停止したら魂は離れ、何処へと消え、また別の存在として生まれ変わる。いわゆる輪廻転生だ。流石にその仕組みはまだ完全に解明されたわけではないが、少なくとも肉体の「死」は魂のそれではない。


しかし、この術式は違う。


魂をエネルギーに変換してしまう。それは、魂そのものの死、存在の消滅に他ならない。


「しかもこれはぁ……、術式を組んだ術者は、よっぽど切羽詰まっていたのか、先を見通せなかったのか、どうだったのでしょうねぇ。」


封印されている存在と『同化』して、鎮めるのである。つまり、同化に使ったエネルギーの分だけ、回数を経るごとに強大になっていくことと同義だ。


そして、ラインに施されている術式と、これに繋がっている祠の存在のエネルギーを鑑みると、ある事実が浮かび上がって来ていた。


「この分だとぉ、あと数回封印を試みたらぁ、抑えきれなくなって、ボン!ですねぇ。」


全く他人事のようにルクルは評価を下す。


「この術式自体には欠陥がありますがぁ、別の種族、もしくは存在と魔力的に融合を試みる事は興味深いですよぉ。さすがに帝国だと、人間を実験台にしてやるのはハードルが高いのでぇ、データが取りにくいんですが、ここだとそんなの関係ありませんからねぇ。」


——大本にも仕込むことが出来ればぁ、過去の同化の履歴を調べることができるかもしれませんねぇ。


楽しそうに。それはもう、本当に楽しそうにルクルは笑う。現状、帝国では手に入りにくいデータを手に入れることができた。さらには、このデータを提出するだけでも、今回の件でごちゃごちゃ言ってくる輩を黙らせることが出来るだろう。


「封印の間隔は大方予想通りでしたねぇ。数十年ですからぁ、タイミングによっては、生贄役が役目を果たす前に寿命で交代ですかぁ。いえ違いますねぇ。同化に準備が必要ですからぁ、おそらく死期が近づいたら贄にされてますねぇ。ここでは生贄にされるのも、魂までも消滅するのもたいして変わりませんかぁ。」


——やれやれ、困ったものですぅ、と全く困ってないような感じでつぶやく。


実際に全く困らない。例え百数十年後に封印が崩壊し、この星が滅びようと、数ある宇宙未進出文明の一つが無くなるだけである。宇宙へと進出するまでに至った独自の技術体系を吸収・昇華出来ないのはもったいないが、必須というほどでもない。


「さてぇ、大体今調べられることは調べられましたねぇ。さらなる仕込みをして今日はおやすみしましょうかぁ。」


ルクルは、「《収納》」と《言霊》を紡ぎ、ラインに展開していた魔法陣を折りたたむようにして頭部に再びしまい込んだ。さらに頭部を鷲掴みにして「《隠蔽》《増殖》《逆探》」とさらに立て続けに《言霊》を発動させる。


「これでぇ、村の結界や祠の大本まで調べることができますねぇ。楽しみですぅ。」


ラインの頭から手を離すと、ルクルはすぐにでも踊りだしそうな氣分で踵を返す。だが、そのときにちょっとした引っ掛かりを感じる。


振り返ってみると、微かにラインの手が動き、ルクルの寝間着に引っ掛かっていた。


「————。」


ラインの口が微かに動く。


「……。」


しばし、ルクルは考える。わざとらしく、目をつぶり腕を組んでうんうんとうなるようなポーズまでとる始末だった。


そして目が開かれると、そこには先ほどまでの冷徹な研究者の顔はなく、いたずら好きな年上のお姉さんがニコォっと笑って立っていた。


「ライン君のぉ、驚いた顔がみたいですねぇ。」


そういうや否や、ルクルはラインの隣に潜り込み、そのまま頭を抱き寄せた。


「良い夢を。ライン君」


そうして、激動の一日はようやく幕を下ろした。

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