第46話 崩壊
ラルフ元帥の死を見届けて焼けた『教会』本部に現れたファーストは二人の男の挟撃を受けていた。
「何をしていたんだか……。お前もそうだ、アルチェ」
「あんたとはこれっきりだ。俺は死にたくないんでな」
「それで私の力を目当てに『ドゥクス』へ?」
「ああ」
眼前のアルチェ――サイジ元帥との問答の間、背後から刺すような重圧を受けていた。
他でもない、ロデリック教会長である。
「いつからだ?」
「気付かなかったのか?最初からだよ」
「ふむ」
ファーストは少し困った顔をしたが、しばらくして前に向き直った。
「で、いつ仕掛けてくるのかね?」
無防備にもポケットへ手を入れているファーストに対し、二人の教会騎士はそれぞれの武器を構えていた。しかし仕掛ける気配は無い。構えているだけである。
「正直相手にするのは勘弁なんだけど……」
「そうも言っていられんだろう」
「まあ……」
「呑気な」
二人の会話を聞いていたファーストはため息を吐くと反転してロデリック教会長へ仕掛けてきた。
手刀に対して火の剣で対抗するが、ファーストの手が焼けることはない。
「どんな仕組みなんだか……」
「私の断魔晶はあらゆるものに命を与える。今はこの手そのものに命を与え続けている」
「そういうこと……」
ロデリック教会長は出力を上げて再び斬りかかるが、手刀で払われたり躱されたりで決定打が与えられない。
攻撃をいなすファーストの死角からサイジ元帥の短剣が襲いかかる。しかしそれさえも叩き落とされる。
「ロデリック・ローライト、勝算は?」
「無いよりはマシってくらい。自信はないよ」
二人で猛攻を仕掛けながらそんな会話をする。
「いや実際によくやっている。互いに気を遣いながらよくこれだけ仕掛けられるものだ」
ファーストの称賛は本心からであった。
両者ともに広範囲の攻撃を得意とする者ながら、互いに当たらないようにしつつもファーストへ攻撃を仕掛けている。ファーストとて当たればタダでは済まない。
「ロデリック・ローライト、遠方から援護しろ」
「えっ」
「遠慮するな。まとめて焼き払うつもりでやれ」
サイジ元帥は腰のホルダーから黄色の宝玉を取り出した。
「離れろ。痺れるぞ」
そのまま短剣を大きく振りかぶるような構えをとると、全身に力を入れ始めた。
「……ふむ」
その構えているサイジ元帥に向かってファーストは駆け出す。
そのファーストの突撃をロデリック教会長は受け止める。
「させるか!」
「その身ごと灼かれるかね?君には痛いだろう」
「それでも!」
ロデリック教会長の剣の出力がさらに上がるのを見たファーストは後方へ飛び退いた。
突如として対象のいなくなったロデリック教会長の剣は空を裂く。
「アギドサンダー」
サイジ元帥の声が聞こえると同時に、大きな地響きが鳴り渡った。
ファーストは眼前に現れたそれに目を見開く。
筋骨隆々とした上裸の男がそこにはいた。全身に紫電を纏う巨人である。目の前に立つロデリック教会長でも足首ほどまでしか届かない。
「これは……」
「見せたことが無かったな。切り札ってやつだ」
ロデリック教会長は即座にその場から離れ、巨人がファーストに対峙する。
巨人が一歩踏み込むだけで再び地響きが鳴り渡る。
その巨体に見合わない速さで右手に握る剣を振り下ろすが、ファーストは避けていた。
「いくら巨体とはいえ、当たらなければどうということはない」
「いつまで躱せるかな」
巨人の纏っていた紫電が空気中に放出される。
それは無差別に、術者であるサイジ元帥にも放たれる。しかしサイジ元帥は避ける素振りも見せない。
『うおおおおっ!』
巨人は吼えると、剣を、紫電を、ファーストに当てるように暴れ始めた。
その一挙手一投足で大地は揺れ、ファーストは地面から逃れるように宙へと跳んだ。
「お前ならそうするよな」
跳んだファーストの前に、突如サイジ元帥が現れた。
「動けないわけではないのか」
「お前の動きくらい読める」
そのまま短剣を突き立てるがファーストはそれを叩き落とす。
その間も巨人は剣を振り回し紫電を撒き散らすが、ファーストには当たらない。
「む」
ファーストは背後から迫る殺意に気付き、その身を反転させる。
襲いかかってきたのは鳳凰――ロデリック教会長の断魔晶である。
その鳳凰の嘴にあたる部分を手で受け止める。しかしその隙に巨人が再び襲いかかってくる。
「やれるか……」
「……ロデリック・ローライト」
「何だい、サイジ元帥」
「今のうちに敗走の準備をしておけ。こいつは俺が押し留めておく」
「なっ」
明らかに押している状況であるにも関わらず、サイジ元帥は敗北だと言う。
それにはファーストの断魔晶が関係していた。
「確かに今は押しているが、奴は奴自身に命を吹き込める。さらに俺を含めて『ドゥクス』の面々は奴の断魔晶の恩恵を受けて半永久的な寿命と奴の蘇生が行える。気付かないか?こちらに『ドゥクス』が三人も来ている」
言われてロデリック教会長は周囲を見回したが、人の気配はしない。
「これも奴の断魔晶の力かもしれないが……。まあいい。仮に三人をそれぞれ一対一で相手取るとしたら、残る一人がファーストの蘇生を行える。そうすればあっという間に数的不利が生まれる。それに……」
「それに?」
「……俺もそろそろ限界だ」
見るとサイジ元帥の短剣に埋め込まれた宝玉が点滅している。
「だから先に行け。本部の生き残りも引き連れて別の支部へ」
「サイジ元帥は……」
「生き残ったら行くさ」
それはサイジ元帥が二度と戻らないことを示唆していた。
後ろで紫電を撒き散らす巨人の動きも徐々に鈍くなっている。
「……わかった」
ロデリック教会長が手を翳すと、鳳凰が手元へ戻ってきた。
そのまま振り返ることなく『教会』本部の焼け跡に向かって駆け出す。
「おや、二人で戦うのはやめたのか」
巨人の振り下ろした剣をファーストは受け止めた。
「空中に立つなよ」
「大気に命を与えれば足場くらいにはなってくれる」
そのままファーストは巨人の剣に力を込めると、その刀身が砕け散った。
「あげたものを返してもらわないとね」
「……クソが」
再び地面に降り立ったファーストはその手をサイジ元帥に振り下ろした。
結局、ロデリック教会長は生き残った『教会』本部の非戦闘員達を連れて敗走した。
比較的安全と考えたのはΣ大元帥とアラーテル支部長の守る北西大陸支部だった。転移の符術で生き残りを退避させ、最後にロデリック教会長自身も転移した。
後になって判明することだが、南東大陸支部と北東大陸支部、中央大陸本部は建物自体が破壊されており、『槍王』ラルフ・ランベル元帥と『錬武』サイジ・ジーナス元帥が死亡。
偶然にもダンダリア・グルーデン南東大陸支部長とリレ・シーノラが帰還したものの、非戦闘員の大半も喪ったことで組織としては大幅な弱体化を余儀なくされた。
一方で『ドゥクス』側は『教会』にとって最大の裏切り者であるクラックス・シーノラ元教会長もといウィンと、共に南東大陸支部の非戦闘員を殺戮したグラシェが死亡。
どちらも『教会』には大きな脅威だったが、ローが帰還したことで戦力の穴は少し塞がることとなった。
結果として『教会』という組織そのものを維持するための信頼性が大きく損なわれたことで、ファーストの目論見とはやや異なる形で『教会』は解体されることとなる。




