第47話 帰還
「結局、我々は三人の犠牲者を出してしまったな」
残念そうな口ぶりでファーストは呟く。
彼の予測をもってしても、ウィン、グラシェ、アルチェの三名の死亡は想定していなかった。
「とはいえ、ローが帰ってきたのは嬉しい誤算だ。おかえり」
両腕を広げるファーストに向かって、ローは近寄る。
「貴様は本当に私の味方なのか?」
ローの放つ殺気にファーストは悲しそうな顔をした。
Dも身構えるが、ファーストは気にせず話を続ける。
「仲間になる前の記憶を無くしたことは知っているが、そんなお前と共に歩もうと誓ったじゃないか」
記憶を奪って従えたくせに、などと思いながらアインは視線を送るが、ファーストは意に介さなかった。
「私は異世界で『ドゥクス』になった後の記憶も失った。しかしダンダリアとリレは私を気にかけてくれた。敵同士ならばそんなことはしないだろう。違うか?」
「この世界に戻るために共闘しただけだろう。実際にお前は我々の元に帰ってきた」
「貴様は信用ならん。この命を授けてくれたことには感謝するが、私は『教会』に行く」
「離反するならその命は返してもらうよ。君は私無しでは生きられないのだからね」
ローがランノーバの続命やジェイルの光房無限牢から逃れられたのはこのためである。ファーストの断魔晶の力が続く限り、ローは肉体が完全に朽ちるまで生きることができる。その肉体も何度か補修を受けており、人間と呼べる部分は少なくなっている。
「ならば一度、あのΣという者と話させろ。大剣の老人でも構わない。かつての私を知っている者のようだった」
その言葉を聞いたファーストは眉間に皺を寄せた。
「二つ条件を与えよう。Σとアラーテル・フォン・リーデンス。どちらか片方、あるいは両方を葬り去ること。そしてもう一つは、行ってきた異世界に関する情報を全て私に教えること。そうすれば君は晴れて自由の身だ」
「その言葉、本当だな?」
ローの殺気が強まる。
「ああ。それくらいの信用はしてくれ」
ローはしばらくファーストを睨みつけていたが、しばらくすると踵を返して部屋から出ていった。
「いいの?お気に入りだったんでしょ?」
「ああ。だがそろそろ潮時だろう。厄介な連中を葬れればそれだけで良い。異世界の情報もダンダリア・グルーデンを捕らえて聞き出してからローのものと照らし合わせればいい」
ファーストは答えたが、それでも不満そうな表情に変わりはなかった。
海を目指して駆けていたG.T.元帥とアイバー支部長の元に一つの連絡が届いた。
「何だ?」
「中央本部はダメらしい。連中は軒並み北西支部へ向かってるんだとよ」
「ほう」
幸いにも方角は変わらない。
実際には東へ戻った方が近いのだが、もうじき港町のチェツパに辿り着く。高めに料金を支払えば北西大陸まで連れていってくれるだろう。
「あの変な壁は北西支部にもあるのかね」
「わからん。海路で行くのが無難だろう」
簡単に話し合った結果、転移せずに海路で向かうこととなった。
「さて。北東の二人がまだ到着していないが、先に始めようと思う」
連絡を受信したことを確認したものの到着が遅いことから、その場に集った者たちで会議を開くことにした。
「私は必要ですか?」
レジェルは手を挙げる。
「ダンダリア支部長が拉致され、ユーベン副支部長も危篤。ラルフ元帥も亡き今、南東の現状を最も正確に把握しているのは君だ、レジェル支部長代理。ダンダリア支部長も同席こそしているが、君からの意見も欲しい」
「わかりました」
レジェルはその答えに納得して手を下ろした。
「まずは皆に謝ろうと思う。中央大陸本部を任されている身でありながら、その職務を全うできなかった。申し訳ない」
ロデリック教会長は頭を下げる。
その言葉に対して、咎める者は誰もいなかった。
「生き延びたんだ。気にすんじゃねえ」
「その通りだ」
「とりあえず生きてるだけでいいでしょ」
「南東の避難者たちも命を救われた。感謝する」
「……ありがとう」
ロデリック教会長は涙を拭いて顔を上げると、改めて澄ました表情で話を続けた。
「それじゃあ今後の『教会』についての展望なんだけど」
そこで全員の表情が固くなる。
「あまりにも被害が大きすぎる。維持は無理だ」
それは事実上『教会』の敗北宣言である。
彼ら『教会』は『ドゥクス』に敗れた。
「アルグール・カーティルの離反、ヴィン・ユーゼンJr.支部長の死亡、ラルフ・ランベル元帥とレリー・クルィン元帥の死亡。また戦闘員・非戦闘員問わず多くの教会員の死亡。各大陸に戦力を分散させている余裕など無くなった」
「南西大陸は既に手放しているが、中央と南東も無理だろ」
「どうやら北東も駄目みたいだ。もはや北西以外全て崩壊している」
「さらにおれが不甲斐なさすぎて教会騎士そのものへの不信感も強まっているみたいだ。申し訳ない」
「貴女のことは誰も気にしていませんよ。多分」
しかしダンダリア支部長の言うことは事実である。
各地で相次ぐ教会騎士の敗北が世間に知られることで、教会騎士は機械人形から守ってくれないのではないか?といった声が出ていた。
さらにアルグール・カーティルの離反は大きく、教会騎士の信用は大きく損なわれてしまっていた。
「ということで『教会』は解散する」
ロデリック教会長は身を乗り出して言った。
「……は?」
全員が似たような返事をした。
「じゃあ全員無職!?」
「そうだ」
「退職金は?」
「無い」
「老後はどう暮らせばいいんだよ」
「既に老人でしょう」
「で、本質は?」
「『教会』の再建だ」
矢継ぎ早に繰り出される質問にロデリック教会長は答える。
「再建ってのは何だ?」
アラーテル支部長が再び真剣な顔でロデリック教会長を見る。
「どうやら『教会』は、『ドゥクス』によって創られた組織らしい。意図的に抗争を引き起こすことで、目当ての能力の断魔晶を探すことが目的のね。だから『ドゥクス』の手から離れるんだ。奴らの息がかかっていない、『ドゥクス』に対抗するための真の組織を創って」
その提案に四人は怪訝な顔を見せる。
Σ大元帥が真っ先に手を挙げた。
「資金はどうやって調達するんですか。出資者も多くが見限るだろうし、現教会員達を食わせられるだけの金がありませんよ」
「それによ。各地で発生する機械人形への対抗策はどうするんだ。『教会』の名で駐留できないとなると、駆けつけるのが遅くなる」
ダンダリア支部長の言葉もあり、場の空気は沈黙してしまった。
しばらくの間沈黙が支配すると、アラーテル支部長が声を上げた。
「俺が行こう」
「行くってどこに?」
「『ドゥクス』の根城だ」
突破もない提案にロデリック教会長は狼狽する。
「何を言ってるんですか!?」
「事実上『教会』は壊滅した。それはつまり、目当ての人材を確保できたってことだろ?そうじゃなきゃ『教会』は存続させたままにしておくはずだ」
アラーテル支部長の言う通り、『教会』は各地の断魔晶の中から異世界転移のような力を持つものを探すためにファーストがキューロ・ナハトに設立させた組織である。
そしてイドの加入と崩廻の覚醒、『神』の居場所の手がかりを手に入れたことから『教会』は用済みとなった。
だからこそ攻勢に出たのだった。
「なら奴らが機械人形を送り込む理由はないはず。平和的に解決させられるならそれが一番だ」
アラーテル支部長はそのまま立ち上がり部屋を出た。
「俺に任せろ」




