第41話 次元
「ダメか……」
アイバー支部長の懸念通り、残る二名の教会騎士も殺害されていた。
他には非戦闘員しか存在せず、残存戦力はアイバー支部長とG.T.元帥の二名だけである。
以前モスクルスとズィーゲルが襲撃してきた際は、地下から非戦闘員を退避させていた。今回も同様に、と考えたものの地下への道には何人もの遺体が横たわっていた。
前回のように『ドゥクス』と一対一で戦えるならともかく、敵は十中八九機械人形を伴っているだろう。遺体の損傷具合からして機械人形がいることはほぼ確実である。
「死んでいるなよ、クソ野郎」
アイバー支部長は先に向かったG.T.元帥の元へと急いだ。
その頃、G.T.元帥はローブを纏った老人と相対していた。
「参ったな……。俺では勝てない」
G.T.元帥は普段こんなことを言わないのだが、今回ばかりは仕方なかった。
既に老人の胸部や眉間には撃ち抜かれた穴が存在している。にもかかわらず未だに老人は健在なのである。
「ふむ……」
しばらくすると開いた風穴は塞がり、ローブにのみ穴が残った。
「こんなものか?大したことがないな」
塞がった穴の跡をさすりながら、老人は呟いた。
「よく言うぜ。その体、本体じゃないだろ。遠隔操作で戦ってるくせにでかい口叩くんじゃねえよ」
G.T.元帥の言葉に老人は大きく目を見開いた。
老人が地面に向けて手を翳すと、地面から大振りの両刃斧が生えてきた。そのまま両手を斧の柄に置き、G.T.元帥へと向き直った。
「どうやら過小評価をしていたらしいな。その力量を評して自己紹介しておこう。私は『ドゥクス』のパラケルスス。機械人形の製造を任されている。そして今は北東支部の殲滅を任された。大人しく殺されてもらえるかね、G.T.元帥?」
しかしその言葉を最後まで聞くことなく、G.T.元帥は来た道へと踵を返して走っていた。
「お前と戦っている時間が無駄だ。いずれ本体とお手合わせ願いたいね」
「逃すと思ったか」
パラケルススが一歩踏み出すと、部屋の出口の下から岩が隆起し始めた。
しかしそれを見る前から、G.T.元帥は両手の銃を構えていた。ただしその構えは壁を撃ち抜くものではない。
「行くぞ。ミネルバ、ジャネンバ」
G.T.元帥が声をかけると、二丁の銃が剣へと変形した。
そのままの勢いで壁を切り裂き、通路へと逃げ込む。
「ならば行け、機械人形達よ」
パラケルススは控えさせていた無数の機械人形をG.T.元帥の元へと向かわせた。
これで元帥を倒せるとは考えていなかったが、少しでも疲弊してもらえればアインと共に挟撃できるだろうと考えたためである。
部屋に残ったパラケルススは顎に手を当てる。
「楽観視しすぎたか?思ったよりもやるな、『銃狼』。む?」
パラケルススが違和感を抱いた時には、既に肉体が斬られていた。
パラケルススにとっては死ではないものの、油断が過ぎたなと反省しているうちに天井が崩落して生き埋めとなった。
アイバー支部長は通路を進みながら、後方から迫る機械人形を迎撃していた。
「キリがないな」
そのまま走っていると、正面からカチャカチャとした音と共に人の気配が迫ってきた。
「アイバー」
「G.T.か。……って何引き連れていやがる!?」
「北東支部は無理だ。撤退する」
「根拠は?」
「奥に人ではない『ドゥクス』がいる。ここでは仕留められんし生き残りもいない」
「わかった」
G.T.元帥の見立てを聞いたアイバー支部長は携えた剣の刀身を撫でて構えた。
「『叢雲』無の型――次元斬」
アイバー支部長が機械人形の群れに向かって空中で袈裟斬りをすると、機械人形だけでなく通路ごと目の前の景色が斬られてズレた。
「今の感覚……。いや、確かめる余裕はないな」
アイバー支部長は機械人形ではない斬った感触を覚えたが、何を斬ったのか確認するには時間の余裕が無いため撤退することにした。
――その日、アイバー支部長の次元斬によって北東大陸支部は地図から姿を消すことになった。
「何してんのよ」
挟撃することを前提に考えていたものの、建物が崩壊することを察知したアインは早々に撤退して虚城へと帰還していた。
「まさか拠点を放棄するとは思わなかったのだ。あの二人、一筋縄ではいかないようだな」
「あんなに切り替えの良い人間じゃなかったはずなんだけど」
アインがミランダ・ベルメールとして現代の学校に通っていた際、アイバー支部長とG.T.元帥は彼女を巡って様々な争いを繰り広げた。
二人にとっては甘酸っぱい青春の記憶だが、何年も生きてきたアインにとってはさして面白いものでもなかった。
そんな彼らが共に教会騎士になったことは予想外だったが、その人格は知っているつもりだった。
欲しいものを巡って戦いバカなことをやって笑い飛ばしていた青年達の姿は面影もなく、敵と断じた者ならば旧知の仲でも刃を向けて不要と断じた物ならば即座に切り捨てる覚悟を背負っていた。
「だがこれで北東大陸支部は壊滅状態。なんとか中央の本部か北西大陸支部に追い込みたいわね」
「北西には気取られるな。アラーテル・フォン・リーデンスとΣを同時に相手取るのは面倒だ。アイバー・スンとG.T.を相手にして不意を突かれたのだ。こちらもより戦力を集めた方が賢明だろう」
パラケルススは自らの失態をおくびにも出さず、攻防へと戻っていった。
「でもまあ戦力は削げたわけだしいいわよね。面白いものも手に入ったし」
アインの手に握られていたのは、シェイン副支部長の断魔晶である短刀だった。
「ミランダは……いないか」
「崩落に巻き込まれたとも思えん。逃げられたのだろう」
北東大陸支部は既に見る影も無くなっていた。
瓦礫の上で二人は天を仰ぐ。
「どこに向かうよ」
「そりゃ中央だろう。ローライトに謝らないとな」
二人は転移の符術を取り出して宙へと放り、そのまま拡大した空間へと飛び込んだ。
しかしそのまま通り抜けて出てきてしまう。
「なぜ行けない?」
二人は転移できない理由を考え、すぐに結論を出した。
「あのクソガキか?箱の奴がいただろう」
「そいつは南東の小娘が仕留めたと聞いた。そしてその死体は中央に移送したはずだ」
「なら原因はひとつだ」
「「サイジ元帥」」
顔を見合わせて頷くと、瓦礫の中から使えそうなものを漁って素早く旅支度を終えた。
「気合いで行けば……まあ長くはかからんだろう」
「それにローライトなら上手くやるだろうが……。ともかく急ぐしかあるまい」
そうして二人は中央大陸に向けて駆け出した。




