第5話 極煌
ファーストに不意打ちを食らった時、反射的に断魔晶を構えることでそのダメージを軽減していた。その反射神経の高さは間違い無くリレの強みであり、大剣という非常に重い武器を扱う上では敵の動きを先読みするか動きを見てから瞬時に反応するかのどちらかは必要不可欠な要素でもある。
しかし衝撃の強さでは勝るはずの大剣諸共、リレは後方へ吹き飛ばされていた。
「終わりか?呆気ねえな」
「まだ……終われない……」
土煙の中から突撃し、大剣をオードへと振るう。
左からの振りかぶりは、右手で剣を持つオードにとって防御し難い一撃だった。だがその一撃すらもオードは悠々と受け止め、リレをじっくりと見据える。
「断魔晶を使え」
「えっ、でも」
「でもじゃねえ!これはてめえの力を見定めるための場だ。出し惜しみなんかせずに来いよ。てめえ如きが俺を殺せるかよ!」
オードは大剣をそのまま弾き飛ばし、距離を空けようとするリレにそのまま詰め寄る。
――ラルフ元帥の断魔晶の槍はその力を発動することで、風を中心とした力を発揮するものである。
一方でリレの断魔晶の大剣は、大剣そのものをメインとしていない。
普段の大剣の状態は断魔晶を発動していない、言わば鞘に入れたままの剣であり何の変哲もない大剣を振り回しているのと大差無い。それでも一応は断魔晶なので機械人形を斬れるが、リレの断魔晶の本質はそこではない。
ラルフ元帥の下で修行し、発動できるようになったリレの断魔晶。その名は――。
「起きろ、極煌星!」
その声と共に、リレの握っていた大剣からは刀身が消滅した。否、消滅したのではなく、数多の光の粒子となって宙を舞ったのである。
剣を交え、断魔晶を発動していないとわかっていたオードも、その姿に目を丸くした。
「行きますよ……オードさん」
刀身が消え、柄と鍔だけになった大剣だったものを振るい、光の粒子をオードへとけしかける。
その光はただ通り抜けるだけでなく縦横無尽に飛び回り、熱を帯び触れるものを切り裂く攻防一体の弾丸である。
「そんな攻撃がお前の十八番だと思うな!」
その光を見たオードは自らの右腰に提げられた片方の剣に手を伸ばす。
鞘から引き抜かれた二本目の剣はその刀身がバラバラになり、宙を舞い始めた。
「防御は頼んだぜ、ヤンガ」
大剣の刀身が消え至近距離での対抗策が欠けたリレに向かって突進したオードの周りには、先程バラバラになった二本目の剣の刀身が浮いていた。
突っ込んでくるオードに向けてリレは左手を翳し、光の粒子を突撃させる。
そのまま光の粒子はオードを襲う……はずだった。
宙を舞う刀身が環状に集まり、オードの盾となって光の粒子の行手を阻んだ。
そしてオードは低姿勢の状態からリレに向けて剣を斬り上げる。
「まだ!」
リレは手元に残った柄に左手を添え、刀身の無いままオードへと振り下ろす。
オードの剣が存在しない大剣の刀身をすり抜ける直前、光の粒子が集まって大剣の形を作り出した。さらに再び鋼の刀身を形成しオードの剣とかち合う。
「……面白いな」
振り下ろされた大剣、それは大きな破壊力を伴う暴力であるはずだが、オードはそれを易々と跳ね除ける。
その膂力の高さに驚きながらも、追撃に備えてリレは大剣を構え直す。
ところが、追撃は来なかった。あろうことかオードは剣を鞘へと収めたのである。
「こっちで相手すべきか」
「そこまでだ」
オードが未だ抜いていない両腰の二本の剣へと手を伸ばした瞬間、ロデリック教会長の声がかかった。
「オードにそこまでやらせるほどとはね」
「止めんなよローライト。やっと面白くなりそうなんだ」
「とりあえず彼の力は見られたんだからいいだろう。オードだってこれから任務だろう?」
オードは抜こうとした二本の剣から手を離していない。戦いを続けるつもりなのは明白だが、ロデリック教会長はもう終わりでいいと言う。
このままでは言い争いになると思ったリレは声をかける。
「そこまでって、俺の力を見るんじゃないんですか?」
「ああ、わかったよ。君がまだまだ甘いってことはね」
自分としては死なないように、喰らいつけるようにオードと戦っていたつもりだった。だからこそその返事に呆気に取られてしまった。
「誰がいいかな」
「マイカンでいいんじゃねえか。もう一人新人がいただろ。そいつも合わせて面倒見させりゃいい」
「いいね。採用」
いつの間にかオードは剣から手を離していた。さらに浮遊していた刀身も無くなっている。
「なんで止めたんですか。俺も、オードさんもまだ」
「お前が甘ちゃんだから止めたんだよローライトは」
先程ロデリック教会長からも言われたことだが、納得ができなかった。なぜだと自分の中で疑問が止まらない。
「さっきアルグール・カーティルによる一件の話はしたよね。まだ『教会』内部には他にも離反者、あるいは内通者がいるかもしれない。それはつまり、昨日まで肩を並べて戦った仲間を斬らざるを得ない時が来るかもしれないということだ。何より、君がこれからなるものは剣士ではなく教会騎士だ。剣士としての戦いではなく、教会騎士としての戦いを期待してたんだけどなあ」
「言われてすぐに断魔晶を発動したことと、機転を利かせて発動を切り替えたことは評価してやる」
どうやら二人はリレの甘さ――戦闘開始と同時に断魔晶を発動しなかったことを指摘しているらしい。
相手が剣士であったこともあり大剣のまま戦い始めたのだが、それは甘えなのだろうか?と未だに納得ができていない。
理解できないことはすぐに聞く、リレの幼い頃から心がけていることはここでも発揮される。
「オードさんが剣を使うから大剣のまま戦ったんです。同じ大きさの剣ならまだしも、剣の大きさは俺の方が上です。いくら手練れが相手でも何とかなると思ったんですけど……何がいけないんですか?」
結果としてリレはオードの細身の剣により二度も吹き飛ばされている。実戦では二度死んでいることと等しいが、最初に剣で挑んだことが判断ミスとは思えないのである。
そんなリレに思いもよらないことが告げられる。
「それはオードの断魔晶を見てからでも言えるのかい?」
「え、いやだって、オードさんの剣は……」
そこでリレは気付く。オードはまだ二本の剣を抜いていなかったことに。
「そう。君はオードの断魔晶を使わせることができていない」
「俺の断魔晶は最後に抜こうとしたこの一対の剣だ。ふよふよ飛んでたのは弟に託された弟の断魔晶。そしてお前と交えたこの剣は、知り合いに作ってもらったただのよく斬れる剣だ。断魔晶ですらない」
オードは自身の断魔晶を使ってすらいなかったのだ。リレの極煌星を止めたものは間違い無く断魔晶だったが、オード自身の断魔晶ではない。またリレを吹き飛ばしたのも断魔晶によるものではない。
その事実にリレは愕然とし、地面に膝をつく。
「それじゃ俺は先に上がってるわ」
「ありがとうねオード」
オードは出てきた通路へと歩を進め、そのまま姿が見えなくなった。
「これまでは元帥の庇護下にあったおかげで死に直面する場面はほとんどなかっただろうけど、これからはいつでも死ぬ可能性があるからね。頼むから死なないでくれよ、リレ君」
そう告げたロデリック教会長の声はさっきまでとは比べ物にならないほど低く、リレの心を震え上がらせた。




