表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DUX 〜Transcendent ■■■〜  作者: 衣玖
〜Raid the Knight〜
30/59

第22話 簒奪

 リレは斬られた右腕をさすり、間に割って入ったラルフ元帥をじっと見据えた。

「待たせたな、ユーベン」

「元帥……」

 ラルフ元帥は改めて槍を構え直し、優雅に茶を嗜むファーストへ向けた。

「リレを返してもらおうか」

「断るよ。育ててもらった恩はあるが、元より彼は私の息子だ」

「断魔晶から生まれているならば血の繋がりなど無かろう」

「私の断魔晶の力で得た生だ。息子と言って差し支え無いだろう?」

 ファーストはラルフ元帥へ目を向けることもなく、質問へ淡々と答えた。

「だが貴様が来たことは僥倖だ。あの時奪えなかったその首、貰い受けるぞ」

 さも自分には興味が無いという態度のファーストへ、ラルフ元帥は突きを繰り出した。

 目を閉じているファーストはそれを見ることなく最小限の動きで回避したが、槍が生み出す風によってテーブルとティーセットは全て吹き飛んだ。唯一手元のティーカップだけが無事に残っていたが、次の茶はもう無い。

「……せっかくの茶が台無しじゃないか。君の部下が淹れてくれたというのに」

「小娘の茶器など後で弁償してやる。貴様を殺すことに比べれば些事だ」

 改めて振るわれた槍を躱しながら、飲み干したティーカップを投げ捨ててファーストは今日初めてラルフ元帥を見据える。

「リレ。彼の相手を頼むよ」

「はい……」

 リレは再び構えると、ユーベンに向かって突進した。

 生身とは異なる巨躯による突進は猪を思わせる一撃だったが、ユーベンは闘気の盾でそれを受け止める。

「ラルフ元帥!こっちは抑えておきます!奴を!人類の敵を!」

「わかっておる」

 返事したラルフ元帥の目線はファーストから離れることがなかった。

 観察するよりも先に斬り捨てる。ラルフ元帥のスタンスは強敵たるファーストを前にして棄てざるを得なかったのだ。

 機械人形(ウィータ)との戦いで苦戦したことはない。身内との打ち合いでは手の内を知っている。そして異世界人を相手にしても相対した者には常に優勢であった。

 それ故に観察眼が育ってこなかった不幸はある。

 しかし、小屋でリレが襲われた際にファーストを取り逃がした後悔はずっと胸に抱えたままだった。

 だからこそラルフ元帥はファーストから目を離さず、その動きを観察していた。ポケットに入れた手がいつ出てくるか、仁王立ちする足がいつ動くか。

「来ないのかね。ラルフ・ランベルらしくもない」

「らしくないことをするのは悪いことではあるまい」

 その言葉に触発されて構えて前に出していた右脚を僅かに前進させようとした、その瞬間だった。

「悪いことだよ、それは」

 突如ゼロ距離まで接近してきたファーストの掌底打ちによって、ラルフ元帥は大きくのけ反った。

「かはっ」

「慣れないことはするものじゃない。違うかね?」

 それでもなお踏ん張り、ファーストに向かって槍を突き立てる。だがその突きはファーストに届かない。

「私は知っている。お前のその力が弛まぬ研鑽の末に得られたものだと」

 ラルフ元帥は的確に急所を狙って突きを繰り返すが、僅かな回避でその攻撃は外される。

「私とて努力せずして得た力など無い。いやあったか?あったかもしれん。だが基本的には努力で力を得てきた」

 断魔晶の力を使い、風でもファーストを斬り裂かんとするがそれすらも当たらない。過去の反省から崩廻で攻撃を放っているものの、それらは全て避けられている。

「お前の攻撃は正確無比だ。確実に私を殺そうと的確に急所を狙っている。だがそこが付け入る隙だ」

 急所を狙いつつも腕や足に向けて乱打するものの、それすらも避けられる。

「その槍捌きはまさしく『槍王』と呼ぶに相応しい。だからこそ避けるのも簡単というものだ」

 そして再び掌底撃ちを狙うファーストに対し、ラルフ元帥は渾身のカウンターを打ち込んだ。

「崩廻Ⅲ、我が槍を受けた者は誰であろうと絶命する死の槍だ。……ん?」

「ふう……。ありがとう。その一撃を待っていた」

 ファーストの掌底に槍先が当たった。否、当たっている場所は掌底よりもほんの少し手前の見えない石のようなものだった。

 透明な石を握っているように構えていたファーストは、ラルフ元帥に謝辞を述べながら拳を握りしめた。

「何を……?一体何が……?」

「私の()()()。これで受けた断魔晶の力を吸収し、自分のものにすることができる。ただし力を放てるのは一度きりで、そうするまでは元の所有者はその力を使えないのが難点だがね」

「何を言っている……?」

「お前の崩廻Ⅲは頂いた。感謝するよ、ラルフ・ランベル」

 目を大きく見開いたラルフ元帥は、後方へ飛び退き槍へと話しかける。

「起きろ!奴を、殺すんだ!おい!」

 その声に、戦っていたリレとユーベンも手を止めて目を向けてしまう。

 このことを想定できていたのはファーストだけだった。

「リレ、やることは終わった。帰ろう」

「え、あ、はい」

 困惑し愕然とするラルフ元帥を横目に、リレはファーストの後をついていく。

「待て!逃げるな!」

「よせユーベン!」

 背を向けて歩く二人に向かってユーベンが闘気の刃を投げつける。

 それに気付いたリレは回避するが、ファーストは避ける素振りもせず振り返って手を伸ばした。飛んでくる刃を人差し指と中指で掴み、そのまま力を加えると刃が砕け散った。

「逃げる?愚かな。元帥は切り札を失い、刃すらも砕かれる君の方が遥かに敗北に近いというのに。なぜ我々が逃げると?」

 その言葉には怒りが籠っていた。

「目的を果たした。であれば用はもう無い。無益な殺生はしない主義だというのに」

「無益な殺生をしないだと?ここに来て何人殺したと思っている?」

 ユーベンも語気を強めて再び刃を形成するが、ファーストからは意外な答えが返ってきた。

()()()()()()()()()()()()

「……何?」

「全員生きているよ。死にかけてるのは何人かいるかもしれないがね」

 その返事と共にファーストの後方に無数の刃が浮かび上がった。

「だがそれはそれとして君は癇に障る。ここで死ぬといい」

「闘気……!?」

「闘気が潜在型に使えないと誰が決めた?私が流布した嘘だというのに」

 ファーストの出した闘気の刃が、ユーベンに目掛けて全て射出された。

 ユーベンは闘気の盾を出して対抗しようとするものの、無数の刃の前には砕かれていく。辛うじて急所への直撃こそ避けられているものの、腕、足、脇腹が次々と抉られる。

「ぐっ」

 膝から崩れ落ちそうな痛みを堪えながらユーベンは耐えるものの、着実に死の時は迫っていた。

 ラルフ元帥ですら介入できない刃の嵐に成す術なくユーベンが討たれる、と誰もが思っていた。

「おれが来たぞ!」

 彼女が壁を破壊してファーストに殴りかかるまでは。

「待たせたなユーベン!ランベルのお爺ちゃん!」

 馬に乗ったレジェルやミアを置き去りにし、全速力で空を飛び突っ込んできたダンダリア支部長の拳がファーストを捉えた……ように見えたが、それすらもファーストは受け止めていた。

「まさか君が来てくれるとはね、ダンダリア・グルーデン。ラルフ元帥の崩廻Ⅲだけでなく、君まで奪ってみせよう」

「やってみるといいさ。敗北を知ったおれは強いぞ」

 怒りの矛先を向けられたダンダリア支部長はファーストと睨み合い、新たな戦いの火蓋が切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ