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DUX 〜Transcendent ■■■〜  作者: 衣玖
〜the side of Al-ghul〜
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Al-ghul 3.鳳翼

 アルグールが自室で準備をしていると、ズィーゲルがやって来た。

「夜中だぞ」

「夜中だから行くべきだってファーストが」

 白昼堂々本部へ殴り込みをかけようとしていたアルグールにとってはあり得ない提案だった。

「……それもそうか」

 そういえばツァンが自分を襲いにきたのも深夜だったなと思い返す。そこでひとつ疑問が浮かび上がった。

 なぜツァンは自分を襲った?

 それに気付いたアルグールはファーストのもとへ走っていった。

「てめえツァンと繋がってたのか?」

 ファーストが使っていた部屋――ヴィン支部長の私室の扉を勢いよく開け、アルグールは怒声を浴びせた。

「ああ。君の力は味方に欲しいけど敵だと厄介だからね。彼に殺しを依頼したんだけど、失敗しちゃったからこうして仲間に迎えたのさ」

 自分を殺すつもりだったと平然とファーストは言ってのける。

 そもそも最初の接触の時点で死ぬか参加に加わるかを迫ってきていたのだから、本来は死ぬ予定だったのかもしれない。

「……まあいいや。じゃあこれから本部に行ってくるが、てめぇは来ねえのか」

「ああ、私は寄らないといけない場所があるからね」

 このタイミングでリレの元へファーストが向かうことをアルグールは知る由もない。

「なら行ってくるわ。そうしたら別の支部へ行けばいいんだな?」

「順番は問わないよ」

 ファーストからの返事が最後まで聞こえる前にアルグールは部屋を出た。

 本部において特別注意しなければならない相手はロデリック教会長のみである。かつて教会騎士になりたてだった頃、力の振るい方を教わるという名目でアラーテル支部長と戦わされた。その指示をしたのがロデリック教会長であり、自分とは一度も戦おうとしなかった。そのためロデリック教会長は自分より弱いとアルグールは考えていたが、それでも少しは警戒すべきだろうとも考えていた。

 アルグールは気持ちだけを整えて転移の符術を翳した。どうせこの後血に塗れることが決まっているからこそ、服装については適当なもので済ませた。


「敷地内に教会騎士帰還の信号。これは……教会騎士第一位アルグール・カーティル氏です」

 本部へ足を踏み入れたことでその信号は本部内に伝わった。アルグールが南西大陸支部に所属していることは周知の事実だったため、本部内では連絡無しでの帰還に疑問を持った。

 その報を受けて叩き起こされたロデリック教会長は念のため戦闘準備を整えて玄関まで降りてきた。

 ここで不幸だったのは敷地内にて実戦経験を積ませようとキャンプを行っていた教会騎士とその見習い達であった。

「何なんだあんt」

 彼らを見つけては斬り殺してアルグールは本部の建物へと突き進む。

 そして玄関の扉が力強く開かれた。

「久しいな諸君!そしてさようならだ」

「残念だよアルグール・カーティル」

 断魔晶『アアターカ』を担いでいたアルグールの腹に目掛けてロデリック教会長の飛び蹴りが直撃し、そのまま外へ突き飛ばされた。

「何するんだよこの野郎」

「それはこちらの台詞だ。何をしに来た」

「これから死ぬ奴には関係無えよ!」

 ロデリック教会長は右の腰につけていた筒を取り出した。そこからは赤い光によってできた剣が生成され、振り下ろされたアルグールの刃と鍔迫り合う。

「戦えたのかお前。お飾りの教会長じゃないってことか」

「僕を誰だと思っている?」

 ロデリック教会長が剣を横薙ぎに払うと、アルグールは一旦距離をとった。

「教会騎士ならいざ知らず、断魔晶を振り回すだけのチンピラに僕が負けるわけがないだろう?」

「は?俺は教会騎士だぞ。序列第一位だぞ。それをチンピラ呼ばわりだ?」

「お前は『教会』を裏切った。ならばもう教会騎士ではない」

 アルグールを挑発するための適当な発言ではあったが、見事にそれはアルグールの頭に血を上らせることに成功したようだ。

「俺は!お前ら全員を殺すんだよ!」

 アルグールにとっての不幸は、アルグールの断魔晶『アアターカ』が崩廻にすら到達しておらず戦い方が単調だったこと。そして、相手がロデリック教会長だったことだ。

 振り下ろされた刃をロデリック教会長は軽々と躱し、再び剣を横薙ぎに払う。

「当たるかよそんなもうわっ」

 先程とは異なり刀身の光が炎と変わり、その炎がアルグールを襲った。

 教会騎士用の戦闘服は耐熱耐寒に優れており適当な刃物でも傷一つつかない特注品である。本気ではない(・・・・・・)ロデリック教会長の一撃はアルグールに傷こそつけられなかったものの、恐怖を刷り込むこととなった。

 あの炎に触れてはいけない、その上で斬り殺す必要がある。アルグールはそのように考えていたものの、マントを主体とした肉弾戦を得意としたヴィン支部長と比べると非常に戦いにくい相手であった。

「くうぅ」

 それでもアルグールは突撃しなければロデリック教会長へ傷を与えられない。恐怖を押し殺してロデリック教会長へ特攻を仕掛ける。

 そんな日和った姿勢を見逃すロデリック教会長ではない。

「起きろ。出番だぞ」

 ロデリック教会長は左の腰に着けていた同じ筒を取り外し、炎の剣を納めてから筒同士を繋げた。その繋げられた筒を空へ放ると、それぞれ繋がっていないもう片方の穴から勢いよく炎が吹き出した。

 そしてその筒を起点に、巨大な鳳の姿が創り出された。勢いよく噴き出す炎が鳳の双翼に相当することは初めて見るアルグールにとっても一目瞭然だった。

「行け」

 静かにロデリック教会長が告げると、鳳はアルグール目掛けて体当たりを敢行した。

「近接武器を捨てるとは、とんだ自殺行為だ!」

 一方でアルグールは炎の剣となっていた筒がロデリック教会長の手から離れたことを好機と判断し、鳳を無視してロデリック教会長との距離を詰めようとした。

 すると、鳳がその場で止まり、炎の翼で羽撃き始めた。無論その炎は周囲へと飛散し、本部の敷地内の草原は一瞬で火の海と化した。

 アルグールはその熱気に当てられ、後退を余儀なくされた。

「真面目に戦え!それでも教会長かよ!」

 アルグールは自分の思い通りにいかない戦いに苛つき、距離をとって戦うロデリック教会長へ罵声を浴びせる。

「戦いっていうのは怖くて嫌なものなんだよ。そんなこともわからないなら……僕がその魂に刻み込んでやる」

 ロデリック教会長は手をアルグールに向けた。それを合図に鳳は再びアルグールへと突撃する。

 アルグールは避けようとしたが、火の海と化した周囲に逃げることもできず、結果として刃で鳳を受け止める形となった。否、受け止めてなどいなかった。鳳に触れた部分から刃は溶け、やがて鳳はアルグールの身体を溶かしながら通過していった。

 ロデリック教会長は、腹から下が溶け息もできないほど気管を焼かれたアルグールへと近寄った。既に周囲の火は消えており、全てロデリック教会長の断魔晶の力だったことが窺える。

「お前は自分の力を見誤っていた」

 話しかけられたアルグールの目に光はほとんど無い。それでも構わずロデリック教会長は話を続ける。

「お前の断魔晶は自分の生命力を出力に変換し、殺した相手の生命力を自身に変換するものだ。その命を燃やすほど力を増すが、死期の近かった僕との戦いでは役に立たなかったな」

 アルグールは自分の耳に入ってきた情報に目を大きくした。しかしその目は閉じることなくついに光を失った。

「お前の奪った命の分も僕が背負ってやるから……今は眠れ」

 鳳の核となっていた筒を分離させ再び炎の剣にすると、ロデリック教会長はアルグールの遺体を焼き尽くした。


「あいつ失敗したよ」

 ラルフ元帥の小屋から戻ったファーストにズィーゲルは報告する。安全圏から二人の戦いの一部始終を見ていたのである。

「やはり無理だったか」

「わかってたようなことを言うじゃん」

「アルグール・カーティルの断魔晶は私に一度殺された時点で事実上機能していなかった。私としてはヴィン・ユーゼンJr.とレリー・クルィンに勝てた時点で予想外だったのだがね」

 ファーストは椅子に腰掛けると、目を瞑った。

「イドの崩廻覚醒の手伝いをしろ。いざとなれば私を巻き込んでも構わん」

「承知」

 ズィーゲルは返事をすると部屋から出ていった。

 そして部屋には静かに笑みを浮かべるファーストだけが残った。

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