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DUX 〜Transcendent ■■■〜  作者: 衣玖
〜the side of Al-ghul〜
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Al-ghul 1.恐怖

 ある日、任務先の機械人形(ウィータ)を殲滅し村の人々からもてなされた三人は村の宿で熟睡していた。

 当然帰りは宿のない場所で夜を明かすこともあるため、南西支部へ戻る道中のこの日は川沿いの林の中で野宿をしていた。

「見張りはどうします?」

「最初は僕が引き受けよう。次にカーティルさん、最後にジン君でどうかな?」

「真ん中かよだりぃ」

 見張りの筆頭を引き受けた教会騎士第二十六位ツァン・ジェイドを残し、教会騎士第一位アルグール・カーティルと教会騎士第十一位ヤン・ジンは寝床へついた。

 しばらくの時が経ち、ツァンはアルグールへと近付いた。

 それは見張りの交代のため――ではなかった。

 音を立てないように腕を上げ、手刀で首を落とすためにその腕を振り下ろした。しかし、その腕はアルグールの首を切断することなく、宙へと舞った。

「大層な目覚ましじゃねえか」

 先程まで横になって眠っていたアルグールはいつの間にか目の前に立ち上がっていた。その右手には両刃が鋸のようになっている赤黒い巨大な刃が握られており、ツァンの右腕は切断されていた。

「しくじったかっ」

 ツァンは即座に反転し、林の中へ逃げようとした。だがその足は次の一歩を踏み出すことなく、身体ごと地へと伏した。その身体には首がなく、数秒の間を空けてゴトッという音と共にツァンの首は地面へと転がった。

 ツァンだったものを睨みつけていると、アルグールの後ろから拍手が聞こえてきた。

「いいね。やはり君は別格だな、アルグール・カーティル」

 その拍手の主はアルグールを称えながら姿を現した。艶のある黒髪をオールバックにした男――『ドゥクス』の首魁であるファーストだ。

「てめぇ……まさか『ドゥクス』か?」

「察しが良くて助かる。そんな君に選択肢を与えよう」

 アルグールに向けて二本の指を立てたファーストは語り始めた。

「ひとつは君が我が麾下に加わることだ。必要とあらば不老不死もプレゼントしよう。もうひとつは今この場で死ぬことだ。さあどうするかね」

 アルグールは趣味で無辜の民を虐殺していた大罪人ではあったが、それと同時に思索を巡らせることに長けた男でもあった。

 何のデメリットも無く麾下に加わることなどできないだろう。恐らくは一生奴隷のような立場となるに違いない。

 ファーストは細身で長身、体格でいえばアルグールの方が有利である。仮にも教会騎士第一位であるアルグールが勝てなければ『ドゥクス』を倒すことはできない。相手がおよそ百年に亘り人類を脅かしてきた敵だとしてもここで引き下がることは教会騎士の身としてはできないことだった。

「答えはもうひとつあるぜ……。てめぇをぶっ倒す!」

 アルグールは右手に持つ刃を回転させ始めた。

 刃の手元は大口径のリングとなっており、直径から二方向に向けて刃が飛び出ている。

 それを回しているということは、アルグールにとっての狩りの始まりを意味していた。

「死に晒せ!」

 刃を回転させたままアルグールは突っ込むが、その刃は空を切った。

 ファーストはその場をほとんど動いていない。膝の動きや重心運動によって、大仰な回避行動をとらずともアルグールの刃を逃れたのだ。

「当たらなければどうということはない」

 アルグールはそれでもなお距離を詰めるが、巧みなステップによってそれらをことごとく回避される。

 アルグールにとって自身の攻撃が当たらないこと、自身が最強でないことは酷く屈辱的なことだった。ここまで攻撃を当てられずにいるのは、教会騎士になりたてだった頃に『鉄拳』Σ(シグマ)大元帥や現教会騎士第二位アラーテル・フォン・リーデンスとの稽古(という名の躾)以来だった。いずれも遥か昔の出来事であり、今となってはそのようなことは起きていない。

 ところが今目の前であらゆる攻撃が躱されている。

 我慢の限界へと達したアルグールは徐々に攻撃が大振りとなっていった。その一撃が左下から右上へ、腕を振り上げる形になった時にファーストは笑った。

 その直後、眼前のファーストの姿は消えアルグールの胸元からは鮮血に染まったファーストの右手が突き出していた。

「もう一度君に選択肢を与えよう。我が麾下に加わるか、ここで死ぬか。選びたまえ」

 アルグールは既に息を吸えなくなっていた。肺には血が溜まっていき、放置していれば死に至るであろうことは理解できていた。

「生憎と」

「前者を選んだ場合のメリットも提示しよう」

 アルグールの言葉を遮り、ファーストは話を続ける。

「君が『教会』に所属してから抑圧してきたもの。そう、殺人衝動だ。我が麾下に加わるならばこれを抑圧することはない。思う存分やってくれたまえ」

 それはアルグールにとって魅力的な提案だった。

 元々アルグールはただの殺人鬼だった。自らの潜在型断魔晶『アアターカ』はそれによって生物を殺害することによりその生物の力を七日七晩得られるという能力を持っていた。それを快楽へと変換してあらゆる人を殺害してきたという経歴を持っている。

 断魔晶による殺人は重罪であり、これを偶然にも目撃されたことで『教会』に連行されその力を機械人形(ウィータ)および『ドゥクス』のみに振るうことを条件に見逃してもらったのだ。

 しかしファーストの下へつけばその枷から解き放たれるという。

「なら……」

 アルグールの答えを聞いたファーストは満足げな顔で眠っていたヤン・ジンの首を落として『教会』南西大陸支部へと進み始めた。


「じゃあまずは南西大陸支部(ここ)を片付けようか。やってくれるね、アルグール・カーティル」

 ファーストはアルグールの背中を叩き、南西大陸支部の敷地内へと足を踏み入れさせた。

「あんたは行かねえのか」

「君が全て片付ければ君の力は格段に増幅するだろう?」

「……それもそうだな。最初は元帥でいいんだよな?」

「その方がいいだろう」

 傷病者数や死亡率が他の支部よりも高い南西大陸支部には『癒将』レリー・クルィン元帥が常駐していた。その二つ名の示す通り、レリー元帥は治癒に特化した断魔晶を崩廻Ⅲまで到達させている。最前線で戦うことが少なく潜在型断魔晶の所有者の方が多い医療班出身の元帥は珍しく、かつて在籍した『狂医』ヤェ・フリーゲン元帥以来となる二人目の元帥だった。

 事実上の医療班のトップでありレリー元帥の断魔晶『フローレンス』は死者の蘇生(・・・・・)という医療の領域を超えた力を有していた。

 ファーストが南西大陸支部の襲撃に際してレリー元帥の殺害を最優先とした理由はここにある。

「教会騎士アルグール・カーティル、戻ったぞ」

 敷地に足を踏み入れた時点でカーティル部隊のヤンとツァンが不在であることは南西大陸支部でも確認されていた。それは二名の死亡を想起させるには容易いことだった。

「カーティル、戻りましたか。あなたに怪我はありませんか?」

 迎えに出たのはターゲットであるレリー元帥だった。

「こいつは僥倖……」

 アルグール自身にも聞こえないほどの小さな声で呟いた後、右手首から血のような液体が噴出し特徴的な刃を形成した。次の瞬間にはレリー元帥の首元へ刃が迫っていた。その華奢な身体は壁まで吹き飛び激突したが、間一髪のところでレリー元帥の持つ錫杖(フローレンス)を挟み込んだことで即死を免れた。

「どうしたのです!なぜこのような」

「聞くだけ無駄です。彼は狂人ですよ」

 玄関を見下ろせるバルコニーから飛び降りてきたのは、狂人と呼ばれるアルグールに代わって南西大陸支部長を務める教会騎士第六位ヴィン・ユーゼンJr.(ジュニア)だった。

「元帥には私のバックアップを頼みます。彼にはここで死んでもらいます」

 そう言うと、ヴィン支部長はアルグールに向かって突進していった。

「てめぇも死ねや!」

 アルグールの刃がヴィン支部長に向けて振るわれると、ヴィン支部長は握った右手の甲でそれを受け止めた。

「伊達に支部長やってないさ。貴方を止めるのは私の仕事だ!」

 そう叫ぶと共に左腰のホルダーから符術を取り出すと、玄関が閃光に包まれた。

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