File15 熊尾実と熊尾光政
俺は九鬼泰照。裏社会で名を馳せる男だ。
さて、今宵も暴露屋に依頼者が訪れる。
今回の依頼者はかつて『時代を獲った男』として持て囃されていたベテラン俳優、藤代謙太だったのだ。
「まさか、貴方のようなベテランがここに来るなんてね。では、依頼内容を」
「はい。かつて私と友人を襲った挙げ句、有名な議員としてのうのうと生きている男に罰を与えてほしい」
そう語る藤代の目には、慈愛など何もない目を持っていた。
御年60歳の俳優、藤代謙太には、思い出したくもない思い出があった。
それは、40代の頃だった。
飲み仲間である友人の今別府と共にバーで飲んでいた帰りの事であった。
目の前からフラフラとした歩き方の青年がこちらに来たのだ。手には、刃渡り約25センチもありそうなサバイバルナイフが握られていた。
「ひっ…」
一瞬驚いた二人。しかし、藤代は直感で逃げなければと思い、今別府の手を掴んで逃げた。
しかし、青年は追いかけてくる。それはまるで、スプラッター映画で殺人鬼に追いかけられるような感覚だった。
そして、二人は袋小路に追い込まれた。
「まずはそっちのメガネのおっさんからだ」
メガネのおっさん。それは、自分の事をさしていた。
そして、男はこちらに駆けてきた。この瞬間、自分の目の前が暗くなった。
次に目覚めたのは病院のベットだった。
「くっ……ハッ!?ここは………」
目の前の医師が語りかける。
「目覚めたのですね。貴方は少しばかりナイフで刺されたような痕がありました。なんとか、内臓に傷はついていません」
「そうだ。今別府は、今別府はどうしたんです!?」
「お連れの方ですか?」
「そうです。友人です」
「その方は…」
「俺は無事だよ」
ベットとベットとの間のカーテンが開けられ、そこには今別府がいた。
「今別府…」
「ちょっと腹が痛いが、無事だよ」
「良かった………」
藤代が泣きそうになったが、その涙が引っ込むような事態が起きた。病室のドアが開き、そして、親子らしき二人の男が目の前に来た。父親の方は見たことがある。『日本一の、代表に』をモットーにしている党、『いちばん党』の代表、熊尾実と、高校一年生の息子、熊尾光政だった。
「藤代さん…ウチの息子がすいません!」
熊尾が平謝りをする。
「すいません」
しかし、息子はあまり誠意を感じない謝り方をしていた。
「どうか…穏便にしてもらっても……」
熊尾の出したジュラルミンケースには、何束もの札束が入っていた。
「これを貰っても、意味が無いんですよ」
「そうだ。俺は死にかけた。金を出してもな、許す気はない」
「そうですか……では……」
そう言って、二人は出た。
「……はぁ…へんな奴らだ」
藤代はその日に退院出来たものの、今別府は治療を余儀なくされた。
しかし、藤代は悲報を聞くことになる。
次の日の朝、藤代は電話の音で目が覚めた。
「はい…藤代ですが……えっ……」
藤代が聞いたのは、友人の死だった。
どうやら、看護師が今別府を起こしに来た時には、腹を何かで裂かれていたのだのか。
藤代は何もかもが考えられなかった。その影響で、一時期活動を休止する程であった。
葬式の帰り、藤代は、熊尾に声を掛けられた。
「藤代さん」
「なんだ…アンタか…」
熊尾は何も言わずに通り過ぎようとした。しかし、藤代の耳元で小声で言った。
「アンタの友人の死は俺が仕掛けた」
それだけ言うと、そのまま熊尾は過ぎ去った。
藤代は膝から崩れ落ちた。
20年後、今はもう友人の死から立ち直り、なんとか活動できているものの、熊尾親子の活躍ぶりを見ると、怒りが沸き立つのだ。
(何故逮捕もされず…のうのうと……)
熊尾実は今では一線を退いているものの、総理大臣をし、息子の光政は、いちばん党で代表をしている。その途端、藤代の怒りの炎は止まることを知らなかった。
そして、ここに来たのだ。
「お願いします…奴らを…奴らに鉄槌を……」
「わかりました。では、奴らに罰を与えましょう」
俺は二人を徹底的に調べた。
熊尾実。60歳。元総理で、今は、いちばん党の副代表をしていて、かつて、殺し屋を雇い、今別府の殺害を依頼した。
熊尾光政。36歳。いちばん党の代表で、かつて、今別府と藤代を襲ったのにも関わらず、逮捕されていない。
俺はこの二人の闇を暴露した。そして、徹底的に落ち、社会的に抹殺された。
しかし、これに対して、何者かが怒りを示した。




