4話 藁人形を崇拝する
「料理をする珍獣」としての俺のデビュー戦は、大成功に終わった。
次の日から、俺の展示スペースの前には人だかりができるようになった。
朝、俺は用意された薪を使って、手際よく火を起こし、支給された魚や肉を焼き始めると、観客たちは一斉に魔導携帯を掲げて動画を撮り始める。
おかげで食事のクオリティは劇的に向上し、お腹を壊す心配もなくなった。
(よし、第一段階はクリアだ。だが、料理するだけじゃそのうち飽きられる。鉄は熱いうちに打て、だ。一気にファン層を拡大するぞ……!)
39歳のアラフォー元社畜、佐藤創太の次なるマーケティング戦略。
それは、かつて地球のSNSで爆発的なバズを巻き起こした『オランウータンのぬいぐるみを親代わりに抱きしめて離さない子猿』の完全再現だった。
あの、見る者の涙を誘う圧倒的な「愛くるしさ」と「健気さ」。あれをこの異世界で再現すれば、一気に女性層や子供たちのハートを鷲掴みにできるはずだ。
「まずは、親代わりになる人形だな……」
俺は展示スペースの隅に集められた、焚き火用の細い木の枝を拾い集めた。そして、積み上げられた藁を一束取ってきた。
結界の向こうから観客たちが「今度は何を作るんだ?」とカメラを向ける中、俺は手際よく藁を編み、枝を骨組みにして、なんとか「人型っぽい、不気味なもこもことした塊」を作り上げた。
クオリティは低いが、脳内でオランウータンだと思えばオランウータンだ。
「よし……。ここからが役者としての本番だ」
俺はコホンと一つ咳払いをすると、全裸のまま、その藁人形を愛おしそうに胸に抱きしめた。
そして、親を求める切ない瞳を演出しながら、観客に上目遣いで同情を誘う。時折、人形の顔(らしき部分)に頬をすり寄せ、寂しげに身を震わせてみせた。
(どうだ……?)
(かわいそうだろ?)
(愛おしいだろ?)
(母を恋しがる健気なハダカザル(39歳)だぞ。さあ、同情票と『可愛い!』の歓声を俺にくれ……!)
俺は必死に、可愛い子猿になりきって渾身の演技を続けた。
だが、結界の向こう側の反応は、俺の予想とは全く異なるものだった。
「おい、見ろよ……! あいつ、自分で作った藁人形と踊り狂ってるぞ……!」
「怖い! ママ、あいつ急に人形を抱きしめてブツブツ呟きながら震え出したよ!」
「おいおい、料理ができるほど知性が高いと思ったら、やっぱり頭のネジが飛んだ野生動物だったか。」
「これはこれでめちゃくちゃ面白いな、動画撮れ!」
フラッシュの数は、昨日よりも明らかに増えていた。
だが、それは「可愛い」という感動の嵐ではなく、「自分で作った呪いの人形と謎の儀式を始めた狂気の新種」としての、好奇の眼差しだった。
数時間後、その動画は異世界のSNSで昨日の料理動画を遥かに凌ぐ勢いで大バズりを果たしていた。
『閲覧注意:不気味な人形を崇拝するハダカザルの奇行』
そんなこととはつゆ知らず、彼はカメラのシャッター音の嵐を浴びながら、心の中でニンマリとガッツポーズを決めていた。
(勝った……! 完璧にバズったぞ! これで明日からは、もっと良いベッドや、まともな服が支給されるに違いない!)
藁人形をギュッと抱きしめ、全裸のアラフォーは異世界のトップスターへの階段を(盛大に勘違いしながら)駆け上がっていくのだった。
待遇は、ベッドがアップグレードされた。そして、期待していた服のアップグレードはやっぱり無かった。




