34話 【前編】バトルマラソンを知る
獣人やエルフなどの多種族が暮らすこの世界において、スポーツという概念は地球のそれとは大きく異なっていた。
基礎的な身体能力が人間を遥かに凌駕する彼らの世界では、およそすべてのスポーツに「なんらかの格闘技や攻撃要素」がミックスされているのが当たり前だったのだ。
例えば、彼らの世界で人気の格闘ミックススポーツをいくつか挙げるなら、以下のようなものがある。
『格闘ラグビー』:ボールを持つ相手へのタックルはもちろん、スクラムの最中に繰り出されるアッパーカットやローキックが合法。フィールドは常に流血の戦場と化す。
『格闘テニス』:コート越しにラリーをするのではなく、相手めがけて時速200キロを超える剛球をブチ込み合う狂気のスポーツ。制限時間内にポケットに入れた「6つのボール」だけを使い、相手に当てた回数や肉体的ダメージの重さで勝敗がジャッジされる。10回ほどラウンドがあり、ボクシングのような判定システムが採用されていた。ごく稀に顔面にボールが直撃して「ノックアウト」が起こる。ノックアウトになればその時点で敗北だが、多くは判定で決着がつくのが特徴だ。
当然、スポーツの最高峰とされるのは純粋な「総合格闘大会」なのだが、肉体の破壊が伴うため、熱狂して観戦するのは男が大半だった(※一応、女性部門もあるがファン層は偏っている)。
またさらに、魔法や武器もなんでもありの究極の『天下一バトルフィールド』というものもあるが、過去に死者も出ている為、マニア層にしか人気がない。
しかし——
そんな過激な世界において、老若男女問わず、国中の誰もが熱狂する「国民的ナンバーワンスポーツ」が、唯一存在していた。
それこそが、『バトルマラソン』である。
文字通り、長距離のマラソンと、ガチンコの格闘技が完全に融合した究極の競技だ。いくら一撃必殺の拳を持っていても、42キロを走り切るスタミナがなく、足が遅くては話にならない。逆に、どれだけ韋駄天の如く足が速くても、進路を妨害するライバルを叩き伏せる強さがなければ、途中でボロボロにされてリタイアを余意なくされる。
もちろん、国民的スポーツとしてお茶の間に届けられるため、危険な魔法や武器の使用は一切禁止。基本は「素手による格闘」がルールだ。
また、獣人特有の鋭い牙での「噛み付き」や「急所への攻撃」、さらには「生まれ持った鋭い爪」や「特殊な体のパーツ(角や尾などによる攻撃)」の使用も厳しく禁止されている。そのため、戦い方の本質は地球の総合格闘技に非常に近い。
そして、このバトルマラソン最大の醍醐味は、『コース上で繰り広げられる、観客を魅了するスリリングな攻防戦』にある。
このレースにおいて、「並走する相手をいかに攻撃して出し抜くか」は正当なセオリーだ。特に最大の狙い所となるのは、相手の走力を奪う「足」である。走りながら隣のランナーの膝へ鋭いローキックを叩き込んだり、スライディングで足を払ったりして、相手のペースを乱し、失速させていくスピーディーなデッドヒートが展開される。
相手を完全に意識不明にする「ノックアウト」もルール上は可能だが、足を止めて殴り合うのは凄まじいタイムロスになるだけでなく、スタミナ消費という最大のリスク(大穴)を背負うため、滅多に起こらない。
「ここはあえて体力を温存して走るか」「それとも、今のうちに隣の奴の足を削っておくか」という、走るスピードと、足を削り合うタイミングの計算。抜きつ抜かれつのデッドヒートの中に、一瞬の隙を突いた鮮やかなローキックやカウンターパンチが炸裂する。
この極限のリアルなドラマ性こそが、子供からお年寄りまでを虜にする理由だった。
◇
この日は国を挙げたスポーツの日で珍しく休園日。
そんな異世界の超熱血スポーツ文化の全貌をナターシャからジェスチャー(身振り手振り)で無理やり教えられていた。
バックヤードの檻でベッドに腰かけている、ハダカザルこと佐藤創太(39歳)は、時折、首をかしげながら不思議そうな顔をしていた。
まるで奇妙なダンスを踊っているかのようなナターシャ。当然、伝わるはずが——あった!?
(なるほどな。要するに、足を引っ張り合いながら走る、ウルトラ過酷なサバイバルレースってわけか。異世界の人たちも、なかなかファンキーな遊びに熱狂してるんだなぁ……)
奇跡的にあのヘンテコな踊りで、なんと創太はほぼ完璧に理解していた!!
ナターシャはハダカザルにバトルマラソンを見せようと魔道テレビを机に置いて、ハダカザルが見れるようにセットした。同時にナターシャもバトルマラソンを楽しみにしていた。創太の近くの檻の前で椅子を置いて、一緒にテレビの画面を見つめ始める。
創太は檻の中でドワーフ特製の日本酒をチビチビと飲みながら、完全に他人事としてテレビの画面を眺めていた。
そのあまり興味が無さそうにしているハダカザルを見たナターシャは、またジェスチャーをはじめた。
(なになに?)
(オオカミみたいな大きな口?)
(トカゲのようなしっぽ?)
(ドワーフのように酒が好き?)
(ん?これはもしかして……)
「酒好きの恐竜たちが走るレースなんだね、それはすごい!!見てみたい!」
創太はめちゃめちゃ勘違いしながら興奮した。
それを見たナターシャは、渾身のジェスチャーが通じたと、これまた勘違いして、満足そうに笑みを浮かべるのだった。
お互いが勘違いしたまま、時間が迫る。
そして、『バトルマラソンが』がついに始まる!!!!
パァン!!!
国の威信をかけた、第48回『王都バトルマラソン公式戦』の号砲が鳴り響いた。




