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異世界の動物園に丸裸で展示されてるんですけど!? 〜自炊と奇行でなぜか爆バズり中! 快適スローライフですが服だけ下さい〜  作者: 海岸線の夕日
シーズン2

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32話 【前編】白馬の王子様

きらきらと輝く魔法の光の粉が舞う、美しいエルフの森。


周囲では色鮮やかな小鳥たちが、彼女の恋を祝福するように美しい声で歌い奏でていた。


遠くに見える白壁のお城を背に、純白のたてがみをなびかせた白馬がゆっくりと近づいてくる。


跨っているのは、非の打ち所がない優しき黄金の髪の王子様だ。


王子様は白馬から優雅に降り立つと、彼女の前でそっとひざまずき、まるで世界で最も価値のある宝物を見つめるような瞳で囁いた。


「さあ、共に行こう。我が愛しのナターシャ」


スッと差し出される、白く滑らかで美しい右手。


ナターシャは胸のトキメキを抑えきれず、夢見心地のまま細い指先を伸ばし、うっとりとその手を取ろうとした——


その瞬間だった。












王子の顔が、ぬるりとハダカザル(佐藤創太・39歳)のニヤケ面に変貌した。











「え……?」


困惑と恐怖でフリーズした瞬間、


その美しい世界が音を立てて崩壊し、


現実の強烈な刺激臭が彼女の嗅覚神経をダイレクトにぶち壊した。












「――っっっ!!! くっっっさぁぁぁぁぁぁっ!!! 何よこれぇっ!?」





動物園のバックヤードのソファーで気持ちよさそうにうたた寝をしていたエルフのナターシャは、ガタッと飛び起きて涙目で鼻を押さえた。


そう、すべては彼女が見ていた極上の夢から悪夢への転落劇だったのだ。


現実の世界は、地獄だった。


ドブを極限まで煮詰めたような、この世の終わりみたいな悪魔の異臭がバックヤードまで充満している。


ナターシャが展示スペースに急行すると、すでにそこは凄惨な地獄絵図と化していた。


マスク姿のトカゲ係長が、涙を流しながら「これ以上近づくな! 死ぬぞ!」と叫んで必死に規制線を張っている。


実は、この異世界の獣人やエルフは、人間の何倍も鼻が利く「匂いに超敏感な種族」だったのだ。


彼らにとって、この煙は脳の嗅覚神経を容赦なく焼き切る「国家壊滅クラスの精神汚染ガス(バイオウェポン)」そのものだった。


一体、鉄格子の向こうで何が起きているのか。


◇


――時は、数日前に遡る。


納豆の成功により発酵食への自信を深めた佐藤創太は、大好きな日本酒に合う究極のつまみとして、日本の伝統的異臭グルメ『クサヤ』を作ることを決意していた。


もちろん、本物の「くさや液」など異世界にあるはずもない。


だが、今の創太には、これまでの自炊生活で出た魚の塩水を檻の隅で数ヶ月間ひっそりと熟成させた「自家製くさや液もどき」があった。


「よし、十分に発酵してドブみたいな匂いになってるな。完璧だ」


創太はお供え物の新鮮な白身魚を開くと、その秘伝の液体に丸一日じっくりと漬け込み、岩の上で天日干しにした。


この時点で、檻の周辺にはすでに形容しがたい不穏な臭気が漂い始めていたが、本当の地獄はここからだった。


干し上がった魚を、創太は檻の中の炭火の網の上に乗せた。


ジューーーー。


熱が通った瞬間、魚の脂と共に、悪魔の異臭が爆発的な煙となって周囲にモウモウと立ち込めた。


これが、たった今ナターシャの甘い夢をホラーへと変貌させた、激臭煙の正体だったのである。


「クゥゥーーッ、これこれ! この匂いこそクサヤよ! ……ゲホッ、流石に目が痛てぇな!」


◇


これ以上は園が崩壊すると判断され、バックヤードでは大急ぎで『緊急対策会議』が招集された。


机を囲むのは、鼻を真っ赤にした園の職員の3人。


主任が重々しく口を開く。


「このままでは我が園は全滅だ。全戦力を投入し、ハダカザル様との直接交渉でこの危機を打破する。……行くぞ!」


こうして、動物園の命運を賭けた、対ハダカザル交渉の団体戦が幕を開けた。


先鋒は、園の看板でありクールビューティーのエルフ・ナターシャ。


次鋒は、自称・爬虫類界のトップインテリ・トカゲ係長。


そして大将は、強欲という名星の下に生まれたキング・オオカミ主任だ。


先鋒 ナターシャ  →  【悲劇のガマスク・シンデレラ】

次鋒 トカゲ係長  →  【自称・爬虫類界の東大王】

大将 オオカミ主任 →  【ちょび髭のガッポリキング】


◇


まずは先鋒、ガスマスクを装着したナターシャが涙目で檻の中へと突撃した。


「ハ、ハダカザル様……! お願いです、その世界を滅ぼす悪魔の煙を消してください……!」


檻の中の創太には、彼女の言葉は分からない。だが、ナターシャが鼻をあからさまに押さえて涙を流しているのを見て、すぐに察した。


(あ、これ、クサヤの匂いのことだな。みんな、匂いで迷惑してるのかな?よし、これを人質にすれば、ナターシャさんから『服』とか何かいいもん巻き上げられるんじゃねえか?)


創太の顔が、ニヤリと「悪い顔」に歪んだ。


彼は炭火の上のクサヤを箸でさらに押し付け、わざと大量の煙を発生させた。


そして、次にナターシャに向けて、不敵な笑みを浮かべながら——


ひざまずき、


スッと右手を差し出し、


「何かくれポーズ」を見せたのだ。「これを止めて欲しくば、代わりのものを差し出しな」という、絵に描いたような社畜の恐喝ジェスチャーである。


しかし――








その差し出された創太の手を見た瞬間、ナターシャの脳内に激震が走り、胸が高鳴った。



—— ゴロゴロピッシャーン——




ドックン……ドックン……(※世界がスローモーションになる壮大な心音)





(……え? ひざまずき、あの手の差し出し方、さっきの夢の中で、白馬の王子様が私に差し出してきた手と……まったく同じポーズ……!?)


夢の残像と、目の前を覆い尽くす強烈なクサヤの激臭のせいで、ナターシャの思考回路は完全にバグを起こしていた。


差し出された創太のすすまみれの黒い手が、なぜか脳内でロマンチックな文脈へと強制変換されていく。


「え……? まさかハダカザル様……私が欲しいの……!?」


一瞬、脳がバグって「以外とまんざらでもなさそう」な顔になりかけたナターシャだったが、次の瞬間、彼女の脳内に「ハダカザル(神)の妻」となった未来のビジョンが浮かび上がった。


(待って……! もし私がこの人の妻になったら、私もこの人と同じように『自作の藁の服』を強制的に着せられて、この展示スペースの檻の中で、毎日何千人もの観客に裸同然で見せものにされる生活が始まるってこと……!?)

















「無理無理無理無理無理ぃぃぃぃぃっっっ!!! 裸同然で生活なんて絶対に出来ないわよぉぉぉっ!!!」







美しきエルフとしてのプライドが、恐怖で悲鳴を上げた。


ナターシャは発狂したように頭を抱えて絶叫すると、創太の差し出した手を全力で拒絶し、四つん這いのままバックヤードへと敗走していったのだった。


檻の中に取り残された創太は、差し出した右手を虚しく見つめたまま、ポカンと呆然としていた。


「……え? 何かくれジェスチャーのつもりだったんだけど、なんかめちゃくちゃ叫んで猛ダッシュで逃げていっちゃったな。異世界のビジネスマナー、まじで難しすぎない?」


当然、創太は好きで裸で暮らしたいわけでもなく、ゆくゆくは王城の客間で暮らしたいと思っていた。しかし、ナターシャはそんな事まったく知る由もなかった。


こうして、動物園側の先鋒ナターシャは、1ミリも会話が噛み合わないまま精神を破壊され、無残な大敗北を喫したのだった。


バックヤードへ命からがら逃げ帰ってきたナターシャが、「あの男は悪魔よ……」とガタガタ震えて戦力外通告となった。


その時——


新調した伊達メガネを指先でクイクイと上げながら、次鋒のトカゲ係長が鼻で笑った。


「フフフ……奴は我ら四天王の中でも最弱……。ハダカザル様のジェスチャーごときに精神を破壊されるとは、面汚しよ……」


「係長、四天王じゃなくて三人しかいないじゃない」というナターシャの冷ややかなツッコミを丸メガネの奥でスルーし、自称・爬虫類界のトップインテリは勝ち誇る。


「まあ、単純なエルフの交渉術では神の知略に敵わぬのも無理はありません。ここはやはり、インテリなこの私が完璧なロジックを引っ提げて、大人のビジネス交渉ってやつを見せてあげましょうかねぇ」


自信に満ち溢れた足取りで、係長はモウモウと悪魔の煙が立ち込める檻の前へと歩みを進めるのだった――。


シーズン2のクライマックスに突入!


参考AI画像 夢見るナターシャシーン


挿絵(By みてみん)


参考AI画像 先鋒ナターシャシーン


挿絵(By みてみん)


参考AI画像 ナターシャ敗走シーン


挿絵(By みてみん)

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