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異世界の動物園に丸裸で展示されてるんですけど!? 〜自炊と奇行でなぜか爆バズり中! 快適スローライフですが服だけ下さい〜  作者: 海岸線の夕日
シーズン1

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21話 脱走する

前日、せっかく支給された服をわずか1日で剥ぎ取られ、再び藁のスカート一枚のハダカザルへと逆戻りした佐藤創太は、翌朝、飼育小屋のバックヤードへと続く鉄の扉の前で足を止めた。


(あれ……? カチャカチャ鳴るな。……鍵、閉まってないじゃん)


昨日の着衣騒動のドタバタのせいで、誰かが戸締まりを忘れたのだろう。


ふと、外に出たいという猛烈な欲求が創太を突き動かした。別にこの最高な環境から脱走するつもりなんてサラサラない。


ただ、毎日毎日同じ岩場と高級露天風呂の往復だ。ちょっとだけ外の空気を吸いながら、園内を散歩してみたくなっただけだった。


創太は腰の藁のスカートをカサカサと揺らしながら、しれっと開いた扉の向こうへと消えていった。


それから数十分後。朝食の特上カルビと浄化卵を抱えたナターシャが展示スペースにやってきて、トレイを落とした。


「……いない」


ハダカザル(神)の失踪。その報告を受けたオオカミ主任は、一瞬で泡を吹いてひっくり返り、バックヤードは国家崩壊レベルの大パニックに陥った。


「お、おい係長ぉぉ! 大変だ、営業停止どころか、神の損失で我が社は完全に倒産だ! もしこれが外のデモ隊や親衛隊にバレたら、俺たちは生きて王都を出られんぞ!!」


絶対に世間にバレてはならない。


パニックの極みに達した主任は、たまたま廊下を通りかかった猿族(チンパンジー獣人)の清掃スタッフの腕をガシッと掴んだ。


「頼む! 今日1日だけでいい、ハダカザルの代役をやってくれ!」


「ハァ!? 俺、あんな全裸のおっさんの代わりなんて嫌っすよ!」

「頼む! この通りだ! お前がいつも欲しがっていた、俺の愛用の『超高級・王室御用達育毛剤』を3本くれてやる! だからその立派な体毛を今すぐ剃ってくれ!!」

「……マジっすか? 3本なら、剃ります」


強力なインセンティブによって交渉は成立。猿族スタッフはバリバリと全身の毛を剃り落とし、創太のスペアの藁のスカートを腰に巻いた。


だが、毛を剃り終えた代役の姿を見て、トカゲ係長は冷や汗を流した。


「し、主任……。これ、ずいぶん筋肉ムキムキですよ? ハダカザル様はもう少し締まりのないアラフォーの体型だったはずですが……」


「気にするな! ギリギリ、ハダカザルだと言い張ればいける! おい、いいか、客に顔を見られないように、基本は後ろ姿で過ごすんだぞ!」


こうして、ボディービルダー並みにビルドアップされた偽ハダカザルが、檻へと送り出された。


開園と同時に、最前列に陣取った観客たちが、偽ハダカザルの後ろ姿を見て一斉にどよめいた。


「お、おい……見ろよ……」

「ハダカザル様、信じられないくらいビルドアップされてないか……!?」

「背筋の鬼瓦がすごい……! さすが神の肉体だ……!!」


まさかの「さらに逞しくなった神」として大絶賛。その間、バックヤードではナターシャ、主任、係長が血眼になって園内を捜索しまくっていたが、創太の姿はどこにも見つからなかった。


そして夕方、閉園間際。


「う〜ん、やっぱり俺の部屋(檻)が一番落ち着くな」園内の自販機コーナーや売店をのんきに見学して満足した創太は、何事もなかったかのようにしれっと開いた扉から展示スペースへと戻ってきた。


その瞬間。


岩場の影で、必死に後ろ姿でポーズを取っていたムキムキの偽ハダカザルと、本物の創太が、ばっぱりと正面から鉢合わせてしまった。


同じ藁のスカートを穿いた、締まりのないアラフォーのおっさんと、毛を剃り落とした筋肉モルモルの一歩手前の猿獣人。


「……え?」「あ?」


二人がお互いに指をさして硬直した、その刹那。


まだ残っていた観客が、結界の向こうからその決定的な瞬間を魔導携帯(スマホ)でバシャリと撮影した。


その夜、異世界のSNSには『【神話の具現化】ハダカザル様、ついに「分身の術」を体得。自身の影武者と無言の対話を行う』として、未曾有の大バズりを果たすのだが、檻の中の空気はそれどころではなかった。


ガチャン!!! と凄まじい音を立てて鉄格子が開き、ナターシャが血相を変えて創太の前に立ちはだかった。


彼女の翡翠色の瞳には、大粒の涙がたまっていた。丸一日、本気で創太の身を案じ、生きた心地がしなかったのだ。


ナターシャは創太の肩をガシッと掴むと、激しい怒りと、それ以上の安堵が混ざった声で、猛烈な説教を始めた。


「お前って奴は、どれだけ周囲に心配をかければ気が済むのよ! もし外の世界に出て悪い奴らに捕まったらどうするつもりだったの!? 言葉も通じないのに、行き倒れて死んじゃうかもしれないのよ!? もう、二度と勝手にいなくなったりしないで……!!」


本気で泣きながら怒ってくれる、神々しいほどに美しいエルフの美少女。


しかし、佐藤創太は、藁のスカートをカサカサと鳴らしながら、完全にキョトンとした顔でナターシャを見つめていた。


(え……? ナターシャさん、めちゃくちゃ涙目でガチギレして熱弁してくれてるけど……)


異世界の言葉は1ミリも分からない。創太はゆっくりと首を傾げると、心の中で静かに、あの有名な芸人のフレーズを呟いた。


(……ちょっと何言ってんだか分からない)


美しいエルフの、本気の説教と深い愛情(※大誤解)。それをただのノイズとして聞き流しながら、おっさんは「さて、散歩して腹も減ったし、ナターシャ魔法のTKGでも食うか」と、のんきに炊飯の準備を始めるのだった。


待遇はついに分身能力を持つ高等魔獣レベルへ。だけど、服は意地でも渡さないつもりらしい。

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