18話 丼を極める
「TKG」という名の悪魔のグルメによって、動物園の売上は過去最高を記録していた。
今までただの“家畜の餌”として檻に放り込んでいた「米」という穀物には、恐るべきポテンシャルが秘められている。
それにいち早く気づいたオオカミ主任は、ギラギラとした肉食獣人の目を輝かせ、トカゲ係長に命じた。
「おい係長! ハダカザル様が次に見せる『米の魔術』を決して見逃すな。今日からあいつの自炊を24時間体制で記録し、新しいメニューをすべて我が園の利益にするぞ!」
結界の向こうから、魔導カメラによる執拗な監視記録が始まった。
そんな大人の汚いビジネスの視線など露知らず、佐藤創太は今日も腰の藁のスカートをカサカサと鳴らしながら、マイ箸を片手に嬉々として自炊の準備を進めていた。
(醤油と味噌が手に入って、TKGもクリアした。となれば、次にアラフォーの胃袋が求めるのは……ガッツリとした『肉と米』の融合。そう、丼ものだろ!)
創太はまず、焚き火の上に鉄のボウルをかけ、油をひいた。そして、風味付けとして、異世界の薬草コーナーから見つけてきたガーリック(魔導ニンニク)を薄切りにして油でじっくりと炒める。
パチパチと小気味よい音が響く。ここから醤油を投入!
ジュワー!
周囲に強烈に食欲をそそる香ばしい匂いが立ち上った。
創太はさらに、支給されていた極上の霜降り肉の塊を取り出した。
肉の両面を強火でジューシーに焼く。
仕上げは、さっき作ったニンニク醤油ソースをステーキの上にかけた。
結界の向こうでカメラを回していたオオカミ主任の鼻が、ピクピクと激しく反応する。
「くっ……! なんだこの暴力的な匂いは……! 胃袋が、胃袋が強制的に掴まれる……!」
焼けたステーキを炊きたての白米の上に贅沢に敷き詰める。
仕上げに、トロリとした絶品のガーリック醤油ソースを肉の上から豪快に回しがけた。
ガッツリ系グルメの最高峰、「ガーリックステーキ丼」の完成である。
箸で肉をご飯ごと巻き込み、口いっぱいに頬張る創太。
「うーーーまーーーーいぞーーーーー!!」
肉の旨味とガーリックのパンチ、そして醤油ソースが染み込んだ米の三位一体。
創太は全裸(※藁のスカート)のまま、至福の表情でどんぶりを抱えてガツガツと掻き込んだ。
翌日。
創太が作っていたのは、これまた日本のサラリーマンのソウルフード「牛丼」だった。支給された牛肉(に似た魔獣の肉)とタネギを、醤油と出汁で甘辛くクタクタになるまで煮込み、それを煮汁ごとご飯の上に豪快に盛り付けた一品だ。
紅生姜の代わりに、少しピリッとする異世界の赤いハーブを添える。
「ステーキ丼に、牛丼……! どれも『ショウユ』の塩気と甘みを米に染み込ませて、肉と一緒に一気に喰らうという、とんでもない男のロマン料理だ……!」
〜〜〜
「主任! ハダカザル様、また別の『米の魔術』を始めました!」係長の報告を受け、主任が画面にかじりつく。
記録映像を見ていたオオカミ主任は、ダラダラとヨダレを流しながら机を叩いた。肉食獣人である彼にとって、この「肉丼シリーズ」は、TKG以上の衝撃だった。
「ナターシャ! すぐにこの2つのメニューを園内のレストランで販売しろ! 特に肉食の獣人や冒険者どもに大々的に売り出すんだ!」
「は、はい……(またゲテモノが増えるわ……)」
ナターシャは内心呆れつつも、最高級の肉と米、そして極東の醤油を使って、創太の「丼もの」を完全再現した。
結果は、TKGを遥かに凌ぐ歴史的大爆発(大ヒット)となった。
「米と一緒に食う肉が美味すぎる!」
「この『ショウユ』のタレが染みた飯だけで3杯はいけるぞ!」
と、特にガッツリ食べたい冒険者や若い獣人たちが毎日押し寄せ、動物園のフードコートは連日、どんぶりを掻き込むガテン系異世界人で超満員となったのである。
そんな、自分の「今日の晩飯何にしようかな」という適当なローテーションが、異世界の外食産業に「ドカ食い・ぶっかけ丼文化」という新たなジャンルを定着させているとも知らず、佐藤創太は今日も満腹の幸せの中にいた。
「ふぅ、やっぱり男のロマンは丼ものに限るな。それにしても、最近のこの園のメニュー、なんだか俺の自炊に似てきてる気がするなぁ。やっぱり、トレンドっていうのは世界共通なんだな!」
全裸のおっさんは、自分の食生活が100%盗撮されてメニュー化されているとも知らず、綺麗に空になったどんぶりを見つめ、満足そうに藁のスカートを揺らすのだった。
待遇はついに巨大外食チェーンの創業者レベルへ。だけど、服は幻のままだった。




