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異世界の動物園に丸裸で展示されてるんですけど!? 〜自炊と奇行でなぜか爆バズり中! 快適スローライフですが服だけ下さい〜  作者: 海岸線の夕日
シーズン1

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17話 生卵に挑む

極東の島国から届いた醤油と味噌によって、佐藤創太の魂は完全に蘇っていた。


ふっくら炊き上がった白米と、手元にある極上の醤油。この二つが揃ったとき、元日本のビジネスマンとして、どうしても試さずにはいられない究極のメニューがあった。


(米と醤油があるなら……やることは一つ。TKG(卵かけご飯)だろ!)


創太はさっそく、支給されていた異世界の鳥の卵を一つ手に取った。


それを炊きたての輝く真っ白なご飯の上に、殻を割って落とした。


「うーん、美しい!素晴らしい!エクセレント!」


そこへ醤油をツッと回し入れ、職人手作りのマイ箸で手際よくかき混ぜた。


「いただきます!」


(……待てよ。ここは異世界だ。卵の生食なんてして、本当に大丈夫か? 寄生虫とかサルモネラ菌とか……。いや、やってみるか!)


アラフォーの食欲は、理性の防衛線を軽々と突破した。創太は勢いよくご飯を口に掻き込んだ。







「――う、うめえええええええ!!」







濃厚な黄身のコクと、醤油の芳醇な塩気が、温かいご飯に絡みついて喉を通り抜ける。異世界に来てトップクラスの感動が創太を包み込んだ。


しかし


――数時間後。







「う、うぐぐぐ……腹が、痛え……」







創太は岩陰の新設された最高級個室水洗トイレにこもり、お腹を押さえて悶絶していた。


案の定、未洗浄の生卵は、危険だった。


アラフォーのデリケートな胃腸は一発でノックアウトされ、創太は真っ青な顔で、自作の藁のスカートをガタガタと震わせながら岩場に倒れ込んだ。


その哀れな姿を、通路からナターシャが冷ややかな翡翠色の瞳で見下ろしていた。


「……はぁ。やっぱり、ハダカザルは野蛮だわ」


(せっかく「指先の言葉(手話)」を操る高潔な神だと思って見直してあげたのに)


(家畜の餌(米)の上に、火も通していない生の卵をドロドロにぶちまけて貪り食べるなんて、お腹を壊すに決まってるじゃない。自業自得だわ)


ナターシャは完全に呆れ果て、


「バカじゃないの」


と吐き捨てるように呟いた。


だが、床にへたり込んだ創太は、ナターシャを見上げて、本当に情けなくて、切なそうな、今にも泣き出しそうな顔をした。


『お腹痛い。助けて、エルフの美人さん……』という心の声が、その涙目の表情から痛いほど伝わってくる。


「……っ」


そのあまりにも可哀想な捨て犬のような姿に、ナターシャの胸の奥がチクリと痛んだ。


「……仕方ないわね。今回だけよ」


ナターシャはため息をつくと、杖を軽く振り、創太にあらゆる病原菌や毒素を消し去る【浄化魔法(クリーン)】である。


「あれ?治った。ヒールかな?いや、これは何だか浄化魔法のような気がする」


ここが最大のチャンスとみた創太はすかさず行動した。


卵が入ったカゴをナターシャに突き出し、頭を下げた。


「え?卵にクリーンをかけろって?」


迷ったものの、あまりにも切なそうな捨て犬の表情に負け、かけてあげた。


これで卵の「生食」が完全に安全な状態になった。


翌朝、創太は、恐る恐る魔法をかけられた卵で再びTKGを試してみた。


「……痛くない! お腹が全然痛くならないぞ!」


創太は、彼女に向かって何度も拝むように手を合わせ、それから毎日、至福の顔で魔法のTKGを食べ続けた。


全裸(※藁のスカート)のおっさんが、家畜の餌に生の卵液を混ぜた不気味な黄色いドロドロを異常な美味さで貪り食う毎日。


その様子を物陰から観察していたトカゲ係長は、ピンとくるものがあった。


すぐさまオオカミ主任に報告を入れ、ナターシャを交えた「緊急3人試食会議」がバックヤードで開かれた。


机の上に置かれたのは、創太の調理を再現した、炊いた家畜の餌に生の卵とショウユを混ぜた“例のドロドロ”だ。


「な、何ですかこれは……! 私は絶対に食べませんからね!」


ナターシャはあからさまに嫌悪感を示して一歩下がった。


家畜の餌に、未知の生食卵の組み合わせ。エルフの気高き美意識からすれば、ただのグロテスクなゲテモノ料理にしか見えなかった。


しかし、強欲なオオカミ主任とトカゲ係長は、ハダカザルのこれまでのバズ実績を信じていた。二人は意を決して、スプーンでそのドロドロをすくい、口へと運んだ。






「「――う、うおおおおおおおおおおっ!?」」


二人の獣人が、ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がり、頭を抱えて悶絶した。


「な、なんだこれは……! 脳の芯まで痺れるような美味さだ!」


「生の卵の生臭さが完全に消えて、ショウユの旨味と合わさり、濃厚な高級スープのように家畜の餌に絡みついている……!」


貪り食う上司二人。


それでもナターシャは「信じられない……野蛮だわ……」と拒み続けていた。


だが、二人のあまりの絶賛ぶりと、ハダカザルのあの至福の顔が頭をよぎり、ついに好奇心に抗えなくなる。


「……ひ、一口だけよ。本当に一口だけ……」


ナターシャは震える手でスプーンを握り、覚悟を決めてその不気味な黄色いご飯を口に放り込んだ。






「――っ!?」


ナターシャの翡翠色の瞳が、カッと見開かれた。口の中に広がったのは、エルフの歴史上、一度も体験したことのない「悪魔のコクと旨味」だった。


家畜の餌だと思って見下していた穀物が、生卵の優しさに包まれて完璧な高級グルメへと昇華している。


「美味し……美味しいわ……っ! ナニコレ、止まらない……!」


ナターシャは気付けば、皿を奪い取るようにして夢中でTKGを掻き込んでいた。最後まで嫌がっていたエルフの美少女の完全敗北だった。


「これだ係長! すぐに園内のレストランで販売を始めるぞ! 商品名は『ハダカザル様の魔法の卵かけご飯(TKG)』だ!」


次の日から、動物園のメニューにTKGが登場した。最初は「家畜の餌と生卵なんてゲテモノだ」と嫌がっていた客たちも、あの気高いエルフのナターシャが夢中で食べているという噂を聞き、恐る恐る一口食べた瞬間にその虜となった。


「生卵とこの餌、こんなに美味しかったのか!」

「ショウユとの相性が最高すぎる!」


と瞬く間に口コミで広がり、温泉上がりの定番メニューとして園内で爆発的な大ヒット作となったのである。


そんな、自分の食い意地と腹痛の歴史が、異世界の新しい食文化(TKGブーム)を開拓したとも知らず、佐藤創太は今日も幸せの中にいた。


「ふぅ、やっぱり日本の朝はこれに限るな。ナターシャさん、毎日卵をピカピカにしてくれて本当にありがとう!」


創太は満足そうにつぶやくと、腰の藁のスカートをカサカサと揺らし、魔法のTKGを綺麗に完食して、マイ箸をカチリと置くのだった。


ナターシャは生食する卵には必ず浄化魔法をかけてねと注意勧告も忘れずにSNSに投稿する真面目な飼育員だった。


【注意勧告】


ハダカザル様の食べるTKGは、高度な浄化魔法による徹底した衛生管理のもとで提供されています。一般の卵を生食すると深刻な食中毒を引き起こす恐れがあるため、絶対におやめください。


by 飼育員ナターシャ


待遇はついに異世界グルメ界の革命児レベルへ。だけど、もはや一般常識かのように服はもらえないのだった。

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