13話 縄を跳ぶ
寂しさを乗り越えた創太の前に、最高の週末がやってきた。
結界の向こうから、聞き覚えのある愛らしい足音が響く。
見れば、ウサギ獣人の女の子・リーリが、学校の友達とおぼしき獣人の子供たちをたくさん引き連れて、満面の笑顔で最前列に駆け寄ってくるところだった。
子供たちはリーリから話を聞いていたのだろう。創太を見るなり、みんなで一斉に手を突き出してきた。
「じゃんけん、ぽん!」「あっち向いて、ホイ!」結界越しに繰り広げられる、言葉の要らない笑顔の応酬。
創太の胸に、かつてない達成感と温かいものが込み上げてくる。
(よし……! それじゃあ、せっかく来てくれた子供たちに、おじさんが日本のもう一つのゲームを教えてやろう!)
創太は振り返り、展示スペースの隅に転がっていた「太い頑丈なロープ」を拾い上げた。
最近、高級霜降り肉と米の食生活が充実しすぎて、39歳のアラフォーの体に少し脂肪がついてきた。
それを見かねたナターシャたちが「遊ぶための道具」としてボールやロープを差し入れてくれていたのだ。
今まで一度も使っていなかったが(笑)、今こそこれが役に立つ。
創太はロープを掴むと、結界の通路から心配そうに様子を見ていたオオカミ主任とトカゲ係長を指さした。
そして、ロープの端を放り投げ、手で『ここを持って回してくれ』と力強くジェスチャーする。
「し、主任! ハダカザル様が我々に指示を出しています!」
「うむ……。これは神聖な儀式の手伝いを命じられているに違いない。粗相のないようにするぞ!」
二人は大真面目な顔でロープの両端を持つと、創太のジェスチャーに合わせて、息を合わせてぶんぶんとロープを回し始めた。
創太はタイミングを見計らい、全裸(※腰に藁スカート)のまま、回るロープの中へと軽快に飛び込んだ。
「せーの、イチ、ニ、サン、シ……!」
アラフォーの肉体を駆使し、創太がリズミカルに大縄跳びを披露する。
それを見た子供たちは「おおおっ!」と大歓声を上げ、魔導携帯を構えて一斉に撮影を始めた。
(よし、いいぞ! サビ残で鍛えた体力を見せてやる! ……そうだ、せっかくだから彼女も巻き込むか!)
創太は縄を跳びながら、通路の影から感動した様子で見ていたナターシャに目を向けた。
そして、『ナターシャさんも中に入って! 一緒に跳ぼう!』と、笑顔で手招きのジェスチャーをする。
「えっ、わ、私……!?」
ナターシャは驚愕した。神聖なハダカザル様から、まさかの直接指名である。
「い、行きます……! 神の御前での共演、お応えしてみせますわ!」
ナターシャは意を決して、回るロープの中へと勢いよく飛び込んだ。
だが、タイミングが全く分からなかったナターシャは、創太の体に思いっきり正面衝突してしまった。
「うわっとぉ!?」
「きゃああっ!?」
絡まるロープ。
もつれ合う全裸のおっさんとエルフの美女。さらにロープが引っ張られたせいで、必死に回していたオオカミ主任とトカゲ係長まで巻き添えを食らい、4人揃って盛大にコンクリートの床へすっ転んだ。
「あははははは!」
「なんだこれ! めちゃくちゃ面白い!」
結界の向こうで、リーリと子供たちが手を叩いて大爆笑している。
床に転がった創太は、痛む腰をさすりながらも、子供たちの弾けるような笑顔を見て、ふっと目元を緩めた。
ナターシャたちも、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、どこか楽しそうに笑っている。
その後、何度も失敗を繰り返しながらも、元社畜の執念で創太がタイミングを指導した結果、だんだんと全員の息が合うようになっていった。
最終的には、ほぼ全裸のおっさん、エルフ、オオカミ、トカゲが一体となって大縄を何十回も連続で跳び続けるという、前代未聞の「ハダカザル大縄跳び披露会」が完成し、大成功のうちに幕を閉じた。
この日、SNSに投稿された動画は『【奇跡の共演】ハダカザル様、園の職員たちと謎の高速ジャンプ競技を開発。エルフの飼育員と息がピッタリすぎて尊い』として過去最高のいいね数を記録。
リーリが学校へ持ち帰った「オオナワトビ」は、じゃんけんに続く『言葉の要らない最強のチームスポーツ』として、またしても異世界の学校で爆発的な大流行を見せるのだった。
「ふぅ……、いい運動になった。これで少しは痩せるかな」
夕暮れ時、筋肉痛の体を高級露天風呂で癒やしながら、創太は満足そうにつぶやいた。子供たちの笑顔と、一緒に泥まみれになって笑ってくれたナターシャたちの顔を思い出し、檻の中がますます賑やかで愛おしい場所に思えてくるのだった。
待遇はついにレクリエーションの王様レベルへ。だけど、当然のように服はもらえない。




