10話 サウナの革命
「お湯に浸かる」という至高の癒やしを手に入れた佐藤創太だったが、アラフォーのサウナ愛好家としての魂は、これだけでは満足していなかった。
(湯船は最高だ。だが……何かが足りない。そうだ、サウナだ。サウナに入って、冷たい水風呂に飛び込み、外気浴で『整う』あの感覚……! あれをやらないと、俺の一週間は始まらないんだよ!)
異世界に隔離されてからの疲れを完全にリセットするため、創太の「サウナ開拓計画」が始まった。
まず創太は、展示スペースの隅にある頑丈な岩の隙間に目をつけた。そこを焚き火用の薪と粘土で覆い、熱が逃げないような狭い「密室(サウナ小屋)」を作り上げた。
その中に熱々に熱した石を大量に運び込み、鉄のボウルに汲んだ冷水を一気にかける。
――ジュウウウウウウウウウウッ!!
狭い空間に猛烈な熱気と蒸気が充満する。
フィンランド式サウナ(ロウリュ)の再現だった。
「クゥゥーッ、これこれ! この熱さだよ!」
全裸の創太は、自作のサウナ小屋の中でじっと汗を流した。限界まで蒸され、皮膚が真っ赤になったところで、創太は小屋から飛び出すと、露天風呂に水を溜めた水風呂の中へと、迷わずザブォン!と飛び込んだ。
「――ッハァァーーーーー!!」
一瞬で心臓が跳ね上がるような衝撃。
だが、アラフォーの熟練サウナーである創太はパニックにならない。冷水の中でじっと羽衣が出来るのを待ち、数十秒後、ゆっくりと水風呂から上がった。
そして、ふかふかの乾草ベッドに大の字になって寝転び、異世界の青空を見上げながら、深く、深く息を吐き出した。
「ふはぁ〜〜〜〜〜〜……満天の星空(※まだ昼間)が見える……。脳が、とろける……」
完全に「整った」創太の顔には、この世のすべての煩悩から解き放たれたような、恍惚の笑みが浮かんでいた。
だが、結界の向こうでこれを見ていたオオカミ主任とトカゲ係長は、恐怖のあまりガタガタと震えていた。
「お、おい係長……! あいつ、今度は何を始めたんだ!?」
「わ、分かりません主任! 自ら灼熱の蒸し風呂に引きこもり、限界まで肉体を痛めつけたかと思えば、今度は心臓麻痺を起こしかねない冷水に飛び込み、最後は死んだように白目を剥いて笑っています……!」
彼らにとって、それは「自らを極限まで追い詰める、恐るべき精神修行(あるいは自傷行為)」にしか見えなかった。
だが、水風呂から上がった創太の肌は、驚くほどツヤツヤに綺麗になり、その表情には一切のストレスが消え失せていた。
「ま、待てよ……。あんなに気持ち良さそうな顔、ただの修行なわけがない」
オオカミ主任がゴクリと唾を飲み込んだ。
「一見、狂気に見えるが、あのプロセスを経ることで、何か計り知れない『肉体のリフレッシュ効果』があるのではないか……?」
「または精神を整える効果があるとか?」
この「ハダカザルの奇妙な温冷交代浴」の動画は、瞬く間に異世界のSNSで拡散。
『【命がけ】ハダカザルの限界突破修行。終わった後の顔が完全にトんでいると話題に』
として大バズりし、異世界中の物好きな戦士や冒険者たちが「俺たちもあの境地に達してみたい!」と、こぞって真似をし始めるのだった。
そして、このハダカザルの狂気(※サウナ)の真の恐ろしさと快感を、のちに主任と係長が身をもって知ることになるのだが……そして園内の風呂施設にも導入されることとなる。
待遇はついにプロサウナーレベルへ。だけど、心は整うのに、なぜか服だけは整うことはなかった。




