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第14話 紅蓮の獅子

帝国暦1281年、春。黒血平原。


戦いの火蓋は、朝日が昇った直後に切られた。


三万の反乱軍と四万五千の帝国正規軍が、広大な平原で激突した。

叫び声、金属の激突音、馬のいななき、魔力の爆発音が大地を震わせた。

血の臭いが風に乗って広がり、黒血平原は再びその名に相応しい地獄と化した。


ヴェルナ・ド・ルシフェルは最前線に立っていた。

赤いビキニアーマーが朝日に輝き、黒マントが風になびく。長剣を手に、彼女は獣のように敵陣へ突入した。


「道を開けぇぇぇ!」


一振りごとに敵兵の首が飛び、血飛沫が弧を描いた。

彼女の周囲に黒い翼のような魔力オーラが広がり、近づく者を次々と薙ぎ払う。


反乱軍兵士たちはその姿に勇気を得て、怒涛のように前進した。

エリックはヴェルナのすぐ後方を守りながら剣を振るっていた。

彼の動きは機械的で、心ここにあらずだった。

ミリアーナの影が、常に頭の中にあった。


帝国軍の本陣、丘の上。

ミリアーナは黒い指揮官用の鎧を纏い、静かに戦況を見つめていた。

彼女の隣には、紅蓮の髪をなびかせた巨躯の女武人が立っていた。


ディアドラ・フォン・ローエングラム。

紅蓮の獅子と呼ばれる七剣の一人。 

二十九歳。

筋肉質の逞しい体躯に赤と黒の重騎兵甲冑を纏い、巨大な戦斧を肩に担いでいた。


「ミリアーナ。俺が行くぜ。

あの娘、ヴェルナを俺が止めてやる」 


ディアドラの声は豪快だったが、瞳には複雑な感情が宿っていた。

かつて酒を酌み交わし、笑い合った相手。

アカデミー時代、ヴェルナを「可愛い弟分」と呼んで可愛がっていた女武人だった。 

ミリアーナは静かに頷いた。


「お願い、ディアドラ。

でも、殺さないで。

生け捕りにしてほしいの」


「わかってるよ」 


ディアドラは戦斧を握り直し、愛馬に跨った。

彼女は単騎で帝国軍の陣列を突破し、反乱軍の前線へと突進した。


「ヴェルナァァァ!」


大地を揺るすような咆哮が響いた。

赤い長髪を振り乱したディアドラが、巨大な戦斧を振り上げてヴェルナの前に躍り出た。

周囲の兵士たちが、恐れと興奮でどよめいた。

ヴェルナは馬を止め、長剣を構えた。

赤い瞳が、かつての仲間を捉える。


「ディアドラ」


「久しぶりだな、ヴェルナ!

お前、随分と強くなったじゃねえか!」


ディアドラは豪快に笑い、戦斧を振り下ろした。

重く、速く、獅子の咆哮を伴う一撃だった。

ヴェルナは馬から飛び降り、横に跳んで回避。地面が大きく抉れる。

彼女は即座に反撃し、長剣を斜め上に斬り上げた。


二人の激突が始まった。

戦斧と長剣が激しくぶつかり合い、火花が散った。

ディアドラの力は圧倒的で、ヴェルナの体を後退させる。

しかしヴェルナの剣技は鋭く、ディアドラの肩甲を掠め、血を流させた。


「お前は本当にミリアーナを殺す気か!?」


ディアドラが叫びながら戦斧を横薙ぎにした。

ヴェルナは身を低くして回避し、剣を突き出した。


「当然だ! あいつが俺を裏切ったんだ!

お前もだ。

あの時、俺を信じてくれなかったな!」


二人の剣戟は、周囲の兵士たちを巻き込みながら激しさを増した。

ディアドラの戦斧がヴェルナの左腕を深く切り裂き、血が噴き出した。

ヴェルナの反撃がディアドラの太ももを裂き、赤い血が地面を染めた。


「くそっ、お前は昔のままだ。

猪突猛進だな!」


「うるさい! 

お前こそ、相変わらず力任せだ!」


二人は笑いながら戦っていた。

それは憎しみの笑いではなく、懐かしい友との再会のような、歪んだ笑いだった。

ディアドラは戦斧を大きく振りかぶり、魔力を集中させた。


「紅蓮獅子咆哮斬!」


巨大な赤いオーラが戦斧に宿り、ヴェルナに向かって放たれた。

ヴェルナは黒い翼のオーラを最大限に展開し、剣で正面から受け止めた。


爆音が響き、二人は同時に後ろへ吹き飛ばされた。

地面に大穴が開き、土煙が上がる。

ヴェルナは立ち上がり、息を荒げた。


「ディアドラ、お前は強かった。

でも、俺は止まらない」


ディアドラもゆっくりと立ち上がった。

彼女の肩から血が流れ、豪快な笑顔が少し寂しげに歪んだ。


「ヴェルナ、お前は笑えなくなっちまったんだな。

昔はもっと、明るい奴だったのに」


その言葉が、ヴェルナの胸を深く刺した。

彼女は歯を食いしばり、剣を構え直した。


「笑うのはミリアーナの首を掴んでからだ!」


二人は再び激突した。

戦斧と長剣が何度もぶつかり合い、血と汗が飛び散る。

周囲の兵士たちは二人の戦いに圧倒され、思わず足を止めていた。

ディアドラの戦斧がヴェルナの胸元を掠め、ビキニアーマーが裂けた。

白い肌に赤い線が走る。

ヴェルナの剣がディアドラの側腹を深く抉った。


「ぐああっ!」


ディアドラが膝をついた瞬間、ヴェルナは剣を振り上げた。

しかし、その刹那


「ヴェルナ! やめろ!」


エリックが叫びながら駆け寄ってきた。

彼は二人の間に割って入り、ヴェルナの剣を押し止めた。

ヴェルナは驚いて目を丸くした。


「エリック?」

ディアドラは苦笑しながら立ち上がり、後退した。


「へへ、お前いい男見つけたな、ヴェルナ。

今日はここまでだ。また会おうぜ」


彼女は帝国軍の陣地へ引き揚げていった。

その背中は、どこか寂しげに見えた。


戦いの後、ヴェルナはエリックに詰め寄った。


「なぜ止めた? あいつは敵だぞ!」


エリックは目を伏せた。


「昔の仲間だったから、だろうな」


ヴェルナは彼を抱きしめ、静かに言った。


「もう、誰も信じられない。

お前以外は……」


エリックはヴェルナを抱き返しながら、胸の中で激しく苦しんだ。

ミリアーナの顔が、脳裏に浮かぶ。

黒血平原の戦いは、まだ始まったばかりだった。 


紅蓮の獅子との激闘は、ヴェルナの心に新たな傷を刻み、

エリックの罪悪感をさらに深めた。

紅蓮の獅子ディアドラとの一騎打ちは、過去の友情と現在の憎しみの狭間で揺れる激闘となった。

ヴェルナの復讐心はますます強まり、エリックの裏切りは静かに進行していく。

黒血平原の決戦は、さらなる血と悲劇を予感させていた

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