ふたり
シリウスは防衛魔術を得意とする家系に生まれた嫡男の設定です。
全身を硬化させることで、生身の人間ではなしえない、物体を破壊したり切り裂いたりすることが可能です。
また、彼の耳につけているイヤリングには家紋が刻まれており、昔シャティにかっこいいと褒められた十代のころからずっと身に着けています。(^▽^)/
シリウス様はブローシュ家の庭をシャティ様の乗る車いすを押しながら進んでいく。
「久しぶりのいい天気だな。」
「ええ、そうですね。」
少し進んでいくと花に囲まれたガゼボ(庭にある小休憩できる屋根付きの建物)にたどり着いた。
シャティ様付のメイドがふたりのうしろから籠をもって現れる。
ガゼボに設置されたテーブルに籠の中身を広げると、中にはふたりが好物のハムのサンドイッチが入っていた。
「いつもありがとう。」
シャティ様はメイドにお礼をいうと、メイドはにっこり微笑んでそのまま屋敷のほうへと戻っていった。
「さっきアンドレアスから聞いた。最近体調があまりよくないんだって?」
シリウス様はシャティ様の片手を取って彼女のことを真っすぐに見つめる。
「兄さまったら・・・。心配しすぎよ、大丈夫。少し寝つきがよくないだけだから。」
「いいや、心配させてくれ。未来の奥さんに何かあったら大変だ。」
にっこりとほほ笑むシリウス様。
たいしてシャティ様は少し笑っただけでうつむいてしまった。
「どうした?」
「ああ・・・あなたには嘘が付けないみたい。」
「やっぱり何かあったのか?」
「・・・このあいだ、お医者様から言われたの。
わたし、体内の魔術回路が機能しなくなってきているって。」
その言葉に、一瞬シリウスの表情が固まった。
代々魔術師の家系に生まれた者にとって、魔術が使えなくなるということは一族にとって大きな痛手である。仮にその家の末裔がたった一人しかおらず、その一人が魔術回路の機能不全により最悪お家が衰退することもあった。
魔術回路は長い時間魔術が使われないと壊死する。また、年を取ると歩けなくなるのと同じように時がたつとすこしずつ魔術が使えなくなることは珍しくなかったが、まだ年若い彼女にはあまりにも絶望的な状態であった。
「アンドレアスは知っているのか?お父上は?」
「家族の誰にもまだ言っていないわ・・・。あなたにも、言わないと決めていたのに・・・。
じゃないとあなたと・・・。」
(一緒にはなれない・・・。)
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
何も言わず、シリウス様はその大きな体でシャティ様の細い体をそっと抱き寄せた。
十数年前、はじめて俺はシャティと出会った。
親同士が決めた婚約相手。当の本人に会うこともなく話はいつの間にか決まっていたのを覚えている。
初めてであったのは、花が咲き誇るブローシュ家のまさにこの庭だった。
初めて訪れた他人の屋敷のあまりに広い庭、すっかり迷路のように迷ってしまっていると肩をトントンとたたかれる。
振り向くと、緑色の大きな瞳をした少女が不思議そうにこちらを見つめていた。
そういえば、あのころの彼女はきれいなその髪をまだ長く伸ばしていたっけ。
『あなた、だあれ?どこから来たの?』
『・・・君、この屋敷の子か?悪いんだがサンルームはどっち?』
すると彼女は、ぱあっと嬉しそうな表情をして俺の腕をつかむと、そのまま咲き誇る花々の間をぐんぐんと進んでいった。
サンルームには両家の当主と夫人らが話し合っている。
『あら、シリウス。あなたいつの間にシャティ様と知り合ったの?』
サンルームに入るなり、母が俺の腕をつかんでいた少女と俺の顔を交互に見る。
(この子が、シャティ・・・。)
そのあと、一緒に庭を散策したり子犬を追いかけて遊んだりした。ただ、親同士の話が長くなりしびれを切らした俺たちは、いつの間にかサンルームの隅っこで仲良く横たわり眠ってしまった。
今思えば、あのころからすでに心の許せる関係ができていたのだと思う。
数年後、知り合いの屋敷のパーティで再び再会をする。
その時の彼女は、初めて会った時よりも快活で、美しくなっていた。
久しぶりに会ったせいなのか、彼女を見ると胸が熱くなり、このころから彼女のことを異性として意識し始めていたのかもしれない。
『ねえ、シリウス様。最近犬のスーが6匹も赤ちゃんを産んだのよ!すっごくかわいいからシリウス様にも見てほしいわ。ぜひまた近いうちにうちに遊びにいらしてね。』
『わかった、きっと遊びにいくよ。』
パーティが終わるとブローシュ家が一足先に屋敷に戻るというので、両親とともに見送ったのを覚えている。その時のシャティは、絶対また屋敷に来てねと何度もこちらを振り返りながら連呼していた。
だが次の日の早朝、両親が思いがけない知らせを耳にする。
『昨晩、ブローシュ家の夫人が亡くなったそうだ・・・。』
『そんな!ちょうど昨日は一緒に話をしたばかりなのに。いったい何があったの・・・。』
『馬車が突然横転した衝撃で、橋から落ち頭を打ったそうだ。・・・即死だったと。』
『そ、そんな・・・。まだお若いのに・・・。』
たまたま厠から自室へ戻る途中で、耳にしてしまった俺はいてもたってもいられず二人のいる部屋に飛び込む。
『・・・シリウス!!起きていたの・・・。』
『母様、父様!!他の人たちは無事だったの?どうなの!?』
父は暗い表情で俺の目を見ようとはしない。
『運悪くシャティ様が事故に巻き込まれて。・・・今も意識不明の重体だそうだ。』
その言葉を聞いた瞬間、体中の血の気が引いていく感覚が伝わってきた。
花の精のようにかろやかに庭先をかけていた彼女。
あのころの姿を見ることは、もう一生ないだろう。
だが、今この腕の中で肩をふるわせながら声を押し殺し泣く彼女に、声をかけることができない自分が情けない。
ただただ、心の中でこれ以上彼女の身に不幸が起こらないようにと祈りながら、抱きしめることしかできなかった。




