炎と水
「高慢と偏見」という作品が大好きです。
キーラ・ナイトレイ(ふつくしすぎる・・・)が主演のバージョンは、
もう何十回も見返しては毎回泣かされています。
紆余曲折ありながらハッピーエンド・・・そんな素敵な物語をいつか書いてみたいです!(o^―^o)ニコ
「一体何の騒ぎだ?・・・ジェームズ。」
ジェームズの後から部屋に入ってきたのは、なんとクローヴィス様と彼専属の執事サムだった。
暗い部屋にいると溶け込んでしまいそうな漆黒の短い髪に、アンドレアス様と同じ緑色の瞳だが切れ長の目をもつクローヴィス様は、華やかさがある兄とは対照的にどこか冷たい印象がある。
「クローヴィス様!騒ぎを起こしてしまい大変申し訳ありません・・・。これは・・・その。」
すると、何も言わずにしかめっ面のままクローヴィス様はずかずかと部屋に入ってくる。
そしてイシュバンの顔を一瞥し、床に落ちているメディア様の日記を見つけた。
「おい、なぜこの日記がお前の部屋にあるんだ?
これはあの部屋にしまったはずだろ。・・・メイ。」
ぎくり、とメイは肩を震わせゆっくりとクローヴィスを仰ぎ見る。
眉間にしわが寄り、見下すようなその表情から明らかにクローヴィス様は怒りをあらわにしていた。
「・・・申し訳ありません!!確かにメディア様のお部屋にしまってあったものでございます。
ただ、この新しく入ったイシュバンが日記の内容を知りたいとのことで、昨日わたくしジェームズからアンドレアス様にその承諾を頂いた次第でございます。」
「・・・兄上が。・・・この日記の存在を知っているのか?」
「え?・・・ええ、はい。わたくしがアンドレアス様に日記の表紙を直接お見せした際、少々驚いてらっしゃいましたがそのあと快く承諾していただきましたので、存在は知っていたかと・・・。」
イシュバンは、クローヴィス様がジェームズの返答にいささか困惑している様子を見逃さなかった。
「あの・・・。この日記は一体何なのでしょうか?読み進めると発動する魔力が込められているようなのですが・・・。」
「・・・!?」
クローヴィスは突然血相変えて日記を乱暴に手に取ると、もう片腕でイシュバンの胸倉をつかみそのまま廊下を引きずりながら自室へ戻っていった。
「うぐっ・・・!ぐえっ・・・。は、はなしてくだ・・・さいっ!クローヴィス様っ・・・!!」
「黙れ!部屋につくまで何も話すな!!」
イシュバンはクローヴィス様に引っ張られるまま、長く暗い廊下を歩かされる。
やっとの思いでクローヴィス様の部屋にたどり着くと、執事のサムが静かに外から部屋の扉を閉めて出ていってしまった。
初対面にもかかわらず、イシュバンは怒りで爆発しそうなクローヴィス様と二人だけで部屋に閉じ込められるはめになった。
(・・・なんて力だ・・・。途中息ができなかったぞ。)
むせるイシュバンを横目に、クローヴィス様は棚をごそごそといじっている。
木箱のようなものを取り出すと、床にしりもちをついているイシュバンに近づいてきた。
「顔をあげろ。」
イシュバンは今度はぶたれると思い、両目をぎゅっと強くつむる。
ピタッ
「・・・????」
頬に感じたのは痛みではなく、ひんやりとした感覚。
イシュバンは目をゆっくり開けると、片膝をついてクローヴィス様がすす汚れた自分の顔を湿布で手当していた。
「くろー・・・ゔぃす様・・・?」
間抜けな顔でイシュバンはクローヴィス様を見つめる。
「だまれ。口の傷が広がるぞ。」
「・・・あいてっ!!!」
気が付かぬうちに炎に当たってしまった箇所が今になって痛み出した。
「…………………………」
クローヴィス様は両手を傷の上を多い隠すように置くと、何かを小さく呟く。
とたんに黄色い光が両手からゆっくり発光し始めると、カーテンで閉め切っているはずの部屋の空気がクローヴィス様を中心に回転し始めた。
そして、空気中にたゆたう小さな水一粒一粒が肌に吸い寄せられていくような感覚。
その不思議な光景にイシュバンは部屋中を見渡す。
ふとクローヴィス様に視線を戻すと、一瞬知らない女性の顔に見えた気がして目をこすった。
「済んだぞ。」
目を開けると、部屋の空気はまた動きを止めていた。もちろん、クローヴィス様の顔もさっきのしかめっ面のままだ。
気が付けば先ほどの痛みや熱がほとんど引いている。
「あ、ありがとうございます。今のは医療魔術の一つですよね?ボク初めて間近で見ました・・。」
イシュバンの少し高揚した言葉に反応はなかったが、薬剤などが入っていた木箱を棚に戻してから先ほどの日記を手に持ってまた戻ってきた。
「おまえ、なぜこの日記に興味をもつ?」
クローヴィス様の声色は、どこかそのあとの返答を恐れている様子だ。
「えっと・・・ただ、ジェームズさんやメイからアイラ様が花好きだと知って、日記に書かれている内容をもっと読み進めれば外へ興味を持つきっかけになってもらえるだろうかと思っただけで・・・。」
クローヴィス様は眉をひそめ日記をじっと見つめる。
「勉強熱心なことは悪くはない。だが、この日記を読むことだけは俺が絶対に許さない。
たとえ兄上が許したとしても、だ。・・・いいな。」
「わ、わかりました。でもいったい誰がこんな魔法をかけたのでしょうか?
ボクが言うのも変ですが、状況が違えば大惨事になっているところでした。」
クローヴィス様は何も言わず後ろを向き、日記をテーブルにおいた。
そして先ほどの話し声よりも明らかに低く、重い口調で呟く。
「俺だ。・・・俺がこの日記に炎の魔術式を書き込んだ。」




