ダリアの花
物語の中で魔法を使うときの表現って難しいですね・・・
あんまり必殺技みたいにしたくもないし、悩みどころです。
イシュバンはさっそくジェームズのもとへ行き、外出の許可を得た。するとジェームズも用事があるとのことで、一緒に馬車に乗ることになる。
「ああ、それはメディア様の日記帳だな。・・・やれやれ、メイのやつ。特に価値がないからといって部屋から持ち出したな。にしても、君文字が読めたのだな。大したものだ。」
「とんでもありません。
前にも話したように、宿屋で働いていた時お客さんの名前とかを覚えるのに一緒に文字をちょっとだけ覚えただけですよ。でも、これやっぱり持ってこない方がよかったでしょうか・・・?」
「いや、いい。メディア様の花に関する知識はわたしたち従者も目を見張るものだったからな。色々興味深い話が書かれているだろうよ。元の場所に戻してくれるのであれば、今日のように持ち出してもいいだろう。」
そうして、2人は諸用を終えてから日記に書かれていた花屋に寄った。
店には実際に、季節外れにもかかわらずちゃんとダリアの花が売られている。
屋敷に戻るとジェームズと一緒に花束をアイラ様のもとへ届けた。
部屋の前で声をかける。
「アイラ様。新人の従者からご挨拶をさせていただきたいと思いまして、伺いました。少しよろしいでしょうか?」
中からは何も音が聞こえない。
「・・・寝てらっしゃるのですか?」
「まあ、いつもこんな感じだな。少し顔を出して今日はすぐに引き返そう。」
扉を開けると中は窓からの光だけが差し込み、薄暗かった。
しかし、目が慣れると大きなベッドの上でアイラ様らしき人影が動くのが見える。
「・・・何の用。ジェームズ。」
窓際で見かけた、ウェーブがかった長い銀髪に赤い目の美少女がこちらをにらむ。
「こちらの少年イシュバンと申しまして、数週間前に屋敷に来たばかりですのでご挨拶に伺いました。雑用全般をやってくれています。歳もお嬢様とほぼ同じですし、何かあればお話し相手にでも呼んでいただいて結構です。」
イシュバンはぺこりとお辞儀をする。
「へえ~、そう。歳のわりにずいぶんひょろっとしていて弱そうだこと。」
「見た目はそうかもしれませんが、文字も読めますしなかなか面白い子ですよ。」
するとアイラ様はベッドから這い出てこちらに近づいてきた。
イシュバンの目の前に立つと、同じくらいの背恰好だった。
彼女はじっくりとイシュバンの周りを歩きながら観察をする。
次の瞬間、イシュバンは腕を引っ張られて無理やりアイラ様と向き直った。
「・・・あなた・・・。」
アイラ様は目を大きく見開いて彼の瞳の中をのぞき込もうとする。
近くで見ると長いまつげまでも銀色に光っていた。
「アイラ様・・・。ち、近いです・・・。」
「アイラ様、そんなに見つめたらさすがにイシュバンも照れてしまいますよ。気に入られましたか?」
はっと我に帰ったアイラ様はイシュバンから花束を抜き取り、ふいっとそっぽを向いてまたベッドにもぐりこんでしまう。
「まあ、たまにだったら相手してあげるわ。」
アイラ様は花束に顔をうずめながらそう言った。
「久しぶりにお嬢様の機嫌がよくなったようだ。恩にきるよイシュバン。」
「えへへ・・・喜んでいただけて良かったです。」
2人は仕事場へともどる途中、イシュバンは立ち止まり抱えていた日記をじっと見つめた。
「どうかしたかね?」
「・・・あの、馬車では元に戻せば日記を使用してもいいとおっしゃってましたが、少しの間この日記を自室で読んでも構わないでしょうか?」
「ほう。それはどうして?」
「・・・その、少し植物に興味がわきまして。今日みたいにアイラ様に何かできることが書かれているかもしれないので、読み込んでみたいのです。」
「なるほど。勉強熱心なのはいいことだ。だが、一度私からアンドレアス様に確認してみよう。承諾を頂いたらまた君に伝える。」
「ありがとうございます!」
日記をジェームズに預けると、再び2人は廊下を歩き始める。
その晩、イシュバンはアンドレアス様から承諾をいただいた例の日記を自室の机で開いていた。
ページをめくるたびに、書かれているのはやはり植物の観察日記などがメインだったが、ところどころインクの染みがあった。
イシュバンは何か思い立って、指でそのインクの染みをなぞりながらページをめくり続ける。
すると、突然ノートから白い煙がゆっくりと出始めた。
「しまった・・・!」
瞬く間に炎が上がり、イシュバンの背丈を超えそうなほど勢いはどんどん増している。
「バタン!!」
イシュバンの扉が突然開いたかと思うと、メイがぼさぼさの髪の毛に寝間着姿で駆け込んできた。
「うぉりゃああああああああ!」
手に持っていた何かを炎めがけて放り投げる。
イシュバンは目に細かいものが入るのを感じて思わず顔をそむけた。
しばらくメイはブーツで踏んだりして炎と格闘していると、少しずつ炎が小さくなりイシュバンがえいやっとノートを閉じると炎はすっかり消えてしまった。
メイとイシュバンはへなへなとその場に倒れこむ。
「・・・あいた!?」
イシュバンの頭上にげんこつが飛んできた。
「この大馬鹿!!!火遊びなんかしてこの屋敷を家事にするつもりか!?」
顔がいつのまにか黒く汚れているメイが、ものすごい剣幕でイシュバンの胸倉をつかみ片腕はもう一度殴りかかろうとばかりにわなわなと震えていた。
ノートを一瞥すると周囲には暖炉からとってきただろう灰がまかれている。
さっきメイがとっさの判断で炎を消すのに思いついたのだった。
「ほ、ほんとうにごめんよ・・・それにありがとう。
でも、さっきのはボクが発火したわけじゃない!これは魔法だよ!」
「・・・は、はああ?魔法って、あんたいいかげんにしなさいよ・・・!」
「ほんとうだってば!ほらみて、このノート。どこにも燃えた跡なんてないだろ?」
拾い上げたノートをメイに突き出してみせた。
確かに、どのページにも焼け跡らしきものは見当たらない。
「・・・そうだとして、なんでこんななんてことない日記に魔法をかける必要があるのよ。」
「なんてことない日記でも、ある人にとっては他人が読むと炎を出すよう仕組む必要があったんだよ・・・。」
「・・・あんた、それメディア様のことをいってんの?」
「・・・さあね。」
すると、大きな音に慌ててジェームズも部屋へ駆けこんできた。
「おい、いったい何があった!?」
「お騒がせしてすみません。・・・メディア様の日記が突然燃え始めたんです。」
「な、なに!?」




