赤目
赤い目ってなんか神秘的でいいですよね・・・(^▽^)/
イシュバンは朝から晩までよく働いた。
主に、執事長のジェームズに指示されたことを。
例えば、手紙を郵便局まで持っていく、執事やメイドらから頼まれた買出し、アンドレアス様の犬の散歩などがあった。
一日中屋敷内を走り回り、夜ベッドに横たわるとすぐに睡魔に襲われ死んだように眠り続ける日々が数週間続いた。
ある日、イシュバンはいつものようにアンドレアス様の犬を庭園で散歩させていると、人の気配がして上を見上げる。
屋敷の最上階はメイドらの屋根裏部屋だが、そのすぐ下の階の一つの窓だけカーテンが揺れていた。
じっと目を凝らすと、人影が見える。
イシュバンが働き始めてすぐに、ブローシュ家についてジェームズから色々と教えられていた。
この家には6人の兄弟がいる。
現当主であるブローシュ子爵が病で長らく床に臥せっており、代わりに長男である26歳のアンドレアス様が屋敷を管理していた。
次男、クローヴィス様は名門学校に通う17歳。
長女、シャティ様は幼いころ事故に遭い車いす生活をしている、21歳。
すでに嫁ぎ先が決まっていて屋敷で花嫁修業をしている。
三男、エド様は動植物がお好きな15歳。
次女、ミラ様は剣術に秀でており男勝りな性格、19歳。
そして、末っ子がアイラ様13歳。彼女は上の兄弟たちとは異母兄弟だった。
窓際の人影がいなくなると、イシュバンは犬とともにまた歩み始めた。
(おそらく今のは末っ子のアイラ様だろうな。)
ちらりと見えた銀髪と、遠くからでもはっきりわかる赤い目。
見た目が他と違うことから、アイラ様の母親は街の人から見世物にされないよう隠し育ててきた。だがそのせいで、母親が亡くなった後も彼女は引きこもりになってしまったと、ジェームズは悲しい顔をして説明してくれた。
その際、こんなことも言われたのを思い出す。
『イシュバン、君はいくつだい?』
『おそらく13か14だと思います。ちゃんと数えたことがないので正確じゃないかもしれませんが。』
『アイラ様も13歳なんだが、同い年のご友人が一人もいなくてね。同じ名家のご令嬢と交流する機会はいくらでもあったんだが、亡きお母上による幼いころの教育方針が正直あまりよくなかったと思うんだ。可哀そうなお人だよ・・・。』
(同い年か・・・。アイラ様が外に出られるお手伝いが何か出来れば・・・。)
翌日、イシュバンはジェームズにアイラ様が少しでも外に出られるように何かできないかと相談をしてみると、喜んで手伝うといってくれた。
まず、アイラ様が好きなダリアの花束を、新しく屋敷で働くことになった挨拶も込めて渡そうと考えた。
ただ時期が悪く、どこにもダリアが咲いていないことに気が付いたのだ。
「・・・どうしよう。どこの花屋をさがしてもダリアの花が見つからないや。」
頭を抱えて唸っていると、部屋の掃除を終えたメイドのメイと目が合った。
「・・・何か唸ってるかと思ったら、アンドレアス様の犬じゃなかったのね。」
相変わらず、イシュバンに対して冷たい態度をとるメイ。
新入りの分際で、ジェームズとアンドレアス様に気に入られているイシュバンのことを気に入らない様子だった。
「・・・うるさくてごめんなさい。ただ、ちょっと考えごとをしていて。」
「何?執事長からのお使い?」
「その、花を探してるんだ。」
「はなあ?」
するとメイはめんどくさそうな表情をしながら、ついてこいとだけ言ってずかずかと廊下を歩いて行った。
たどり着いたのは家具のすべてに白い布がかけられた一つの部屋だった。
この部屋だけ、あまり手入れはされていないようで空中に埃が舞っている。
「・・・えっと。ここは?」
「アイラ様の母上、メディア様が使用していた部屋。メディア様は花がお好きで、ロンドン中の花屋や腕のいい庭師のことをよく書き留めていたのを思い出しただけ。・・・ああ、あったあった。」
そういって引き出しの中にあった古いノートをイシュバンの目の前に突き出す。
「え!?ボクが扱ってもいいものなんですか?」
「別に構わないと思うけど?
この部屋に残ってるものは、そう価値のあるものじゃないから放っておかれているって聞いたことがあるし。」
(・・・本当かよ。)
「・・・何?その顔。」
「なんでもありませ~ん・・・」
「それに、メディア様嫌われてたから。
だって、ご主人様と奥様の間に子供がたくさんいるにもかかわらず、堂々と愛人関係になって身ごもったからね。・・・ってこれ執事長から言っちゃいけないって口止めされてたんだった・・・」
(・・・聞いちゃったよもう)
「今のは忘れなさい!いいわね!?」
「・・・は~い。」
手に入れたノートを開くとびっしりと文字が書き込まれていた。
そこには特にダリアの花に関して、自分で育てた観察日記やメイが言っていたように花屋のことまで細かく記録されていた。
ただページを進めていくうちに、イシュバンは違和感を感じ始める。
(この文字の羅列、どこかで見覚えが・・・)




