ある少年
初投稿です。気ままに創作できたらと思います。
十▲世紀、イギリス・・・ロンドン。
石畳の道を小雨が打ち付ける夜。
街は静まり返っていた。
そこへ、ボロボロの帽子を深くかぶり、すす汚れた顔の少年がとぼとぼと歩く。
家がないのか、あてもなく歩いているといつの間にか大きな屋敷にたどり着いた。
この屋敷だけ、何か不思議な空気を放ち人を近づけない雰囲気が漂っていた。
「ぐううう・・・」
少年のお腹が虚しく鳴り響く。
「ドンドンドン!!・・・ドンドンドン!!」
屋敷の裏口をたたく音が聞こえてきた。
「・・・こんな時間に一体何なのよ・・・。」
しらんぷりを決め込む屋敷のメイド。
そこへ白髭の凛々しい執事長がやってくる。
「こら、メイ。裏口からの客だからといってそんな態度は失礼ですよ。」
そういって裏口の扉を開ける。
そこには雨に濡れて小さく震える12~13歳ほどの少年がこちらを見上げていた。
「何用でしょうか?」
執事長はたずねる。
「・・・あ、あの。ボク、お腹がすいていて・・・。
何か食べ物をいただけませんか?朝から何も食べていないんです・・・。」
「物乞いじゃない。追い返しましょう執事長。このご時世、こんなの相手にしてたら埒があきませんよ。」
メイはあからさまに嫌そうな表情をして、そのまま自室へ戻ろうとした。
「メイ。そこのパンと温かい牛乳をもってくるんだ。」
「・・・嘘でしょう執事長。食べ物をあげるんですか??ご主人様に怒られ・・・」
執事長は振り返ってじろりとメイを睨むと、彼女は慌てた様子でパンと牛乳を準備し始めた。
「お入りなさい。」
言われるままに、少年は中へと入る。
キッチンはきれいに磨かれ、ロウソクの灯りできらきらと光っていた。
近くのテーブルに腰かけるよう促されると、すぐにメイがパンと牛乳を少年の目の前に差し出した。
「あ、ありがとうございます。」
「ふんっ!」
そういって、早々にメイはエプロンを脱ぎながらキッチンを出ていった。
無我夢中でパンと牛乳をかきこむとあっという間になくなる。
執事長は穏やかな声でたずねる。
「君、名前は?」
少年は顔を上げた。
「イシュバン・・・イシュバンと言います。」
「そうか。イシュバン、君はどこから来たんだね?」
「えっと・・・海のほう?」
「それなら相当歩いてきたんじゃないかい?今日休むところは?」
「ありません・・・」
執事長はじっと少年の顔を見てから立ち上がった。
「少し待っていなさい。」
執事長は屋敷の螺旋階段を上がっていくと突き当りの大きなドアの前に立ち止まった。
「アンドレアス様、少々よろしいでしょうか。」
中から入れ、と声が聞こえる。
静かに扉を開けて入ると、金色の長髪に緑色の瞳の青年が机に向かって読書をしていた。
「ジェームズ、どうした?」
「実は、さきほど孤児と思われる少年が裏口をたずねてきまして。勝手ながら食べ物を分けました。」
「そうか、最近多いな。・・・だがそれがどうかしたのか?」
「その少年と少し話しただけなのですが、今日寝泊まりするところもないそうでして・・・」
「なるほど・・・。いいだろう、お前がよければ自室へ案内してやりなさい。一晩ぐらいは大目に見よう。」
「・・・アンドレアス様、そこで提案なのですが。彼を雇うのはどうでしょうか?」
「何?急にどうしたんだ、ジェームズ。」
「長年雑用係で働いていた子供が故郷に帰ってしまい、恥ずかしながら今屋敷の仕事が思うように進んでおりません。一人でも代わりになるものがいると非常に助かりますし、今キッチンに来ている少年はどこか落ち着いた印象を受けます。丁寧な話し方も、アンドレアス様もお気に召すのではないかと思いまして。」
「そうか・・・。お前がそれだけいうのは珍しいな。わかった、明日朝食前にその子供をここに連れてきてくれ。わたしが直接見て判断する。」
キッチンにジェームズが戻ってくると、少年はテーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。
ジェームズは少年の顔を濡れたタオルで拭ってやると、彼を背負って片手にロウソク立てを持ち、ゆっくりと屋根裏へと向かった。
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翌朝、ジェームズにゆすり起こされたイシュバンは身だしなみを整えたあと、すぐに大きな部屋の前へやってきた。
「失礼いたします。」
ジェームズのあとをついて部屋に入ると、アンドレアスがローブ姿で椅子に座っていた。
「ほう・・・君がイシュバンかい。なかなか賢そうな顔立ちをしているね。」
緊張した面持ちではい、とイシュバンは答える。
「君、生まれは?」
「えっと・・・正確な地名はボクもよく知らないのですが、海沿いの小さな村です。」
「そうか、あまり君の話し方に地方独特のなまりがないけれど、どこで覚えたんだ?」
「少しの間、宿屋で働かせてもらっていた時にロンドンからのお客さんの話し方を真似して覚えたんです。話した時の響きがきれいだったから・・・。」
すると、アンドレアスはイシュバンに近づき全身をじっくりと観察し始めた。
それが終わると、ふふっとほほ笑んでイシュバンの頭を軽くなで始める。
「いいだろう。」
すると、突然イシュバンの視界が白く光って見えなくなった。
だが次の瞬間、きれいな制服に身を包むイシュバンがそこに現れた。
それを見たジェームズは安堵の表情でイシュバンを連れて部屋を出る。
「これでもう寝食に悩まなくて良くなるぞ、イシュバン。その代わり少々忙しくなるがやれるかね?」
「・・・はいっ!!」
その日からイシュバンはイギリスの名家、ブローシュ家に仕えることとなる。
ブローシュ家は国内でも歴史ある、魔術師の血統を受け継ぐ家であった。




